
記録のためではない大谷のプレー 7月末以降に盗塁数がぐっと伸びた理由
敵地ではあったものの、大記録の達成に観衆はスタンディングオベーション。歓声は鳴りやまず、大谷はベンチから出て、手を上げて応えた(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
現地時間19日、ドジャースの大谷翔平選手が50本塁打・50盗塁の「50-50」を達成。
どれほどの偉業なのか、その異次元ぶりを識者が解説する。AERA2024年9月30日号より。
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米大リーグ・ドジャースの大谷翔平がまた、見る者の常識を塗り替えた。前人未到のシーズン50本塁打・50盗塁「50-50」を達成した。
達成の仕方もド派手だった。48本塁打49盗塁で迎えた現地時間19日のマーリンズ戦、初回に三盗を決めて50盗塁とすると、4打席目からまさかの3打席連続本塁打。終わってみれば6打数6安打10打点2盗塁の大暴れの活躍だった。MLB日本語公式サイト「MLB.jp」編集長の村田洋輔さんは興奮を隠さない。
「『40-40』を劇的なサヨナラ満塁本塁打で達成したとき、もうあれを超えるものはないだろうと思っていました。それが『50-50』を達成した試合で、米大リーグ史上初の1試合3本塁打で複数盗塁。さらに史上初めて1試合に10打点を挙げて、かつ盗塁を成功させた選手にもなったんです。同じ時代に生まれてよかったと思います」
「50-50」達成の試合で数々の記録まで打ち立ててしまうところに大谷の常人ならざるすごさがある。さらに自身初の1試合3本塁打、加えてこの試合の勝利でチームをプレーオフ出場に導いた。
「現地公式サイトの報道では、大記録達成などすべての要素を踏まえ、『米大リーグ史上ナンバーワンのパフォーマンス』と評されています。この試合にはまさにパワーとスピードを両立した今季の大谷選手が凝縮されていました」(村田さん)
50-20は過去4度だけ
「50-50」はどれほどの偉業なのか。「開幕前にはまったく想定していなかった」と話す大リーグ評論家の福島良一さんがこう解説する。
「1988年にホセ・カンセコ選手が史上初の『40-40』を達成して大きな脚光を浴びましたが、90年代以降の筋肉を増強するステロイド時代、2010年代以降のフライボール革命を経て、本塁打ばかりが注目される時代が続きました」
そこで米大リーグは昨季、ピッチクロックの導入やベースのサイズ拡大などといったルール改正を行い、パワーとスピードのバランスの是正を図った。
「それにともなって盗塁数は増加しました。実際に『40-70』を記録する選手も現れましたが、それでも『50-50』は頭にありませんでした。大谷選手のこれまでのシーズン最多盗塁数は26でしたし、マックスで50本塁打30盗塁が期待できる数字だろうと。異次元の活躍です」
七回に左翼席へ飛び込む2打席連発の50号を放った大谷。"確信歩き"とともに雄たけびをあげた(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
AERA 2024年9月30日号より
その異次元ぶりは過去の記録と比べるとより一層際立つ。村田さんによれば、これまで50本塁打以上を放ち盗塁が最も多かったのは、1955年のウィリー・メイズと2007年のアレックス・ロドリゲスで24盗塁。大谷の盗塁は群を抜いて多い。
「これまでシーズン50本塁打到達者は、大谷選手を除いて31人。49度達成されていますが、同時に20盗塁が記録されたのは4度だけ。パワーヒッターには基本的に盗塁の役割は求められていないんです。これまでまったく存在していなかった域に大谷選手はいるのです」
あくまでチームの勝利
今季を振り返ってみれば、超大型契約での強豪・ドジャースへの移籍、妻・真美子さんとの結婚と吉報から始まり、右ひじの手術の影響で打者専念になることから打撃成績はどこまで伸びるのかとも期待された。そこに、長年通訳を務めてきた水原一平氏の違法賭博、不正送金事件が起きた。誰もが大谷のメンタル面を心配しただろう。
「今季開幕から1号本塁打まで9試合を要したこともあって、さすがの大谷選手でも精神的な影響があるのではないかと私も心配でした。ただ、昨季と同じように6月から調子を急激に上げ始めて、三冠王も狙えるんじゃないかというほどの好調さ。精神面の日本人離れした強さに脱帽しました」(福島さん)
例年通り、安定して本塁打を量産し、開幕前後の騒動もどこへやら、周囲は大記録達成に向けて騒がしくなっていったが、大谷は記録のためにプレーしているわけではない。あくまでチームの勝利に貢献する。それを裏付けるような時期があったと村田さんは分析する。
「7月末以降、打撃の状態がよくなく打率も落ちていく時期がありましたが、時を同じくして盗塁数がぐっと伸びたんです。打てないなりにチームの勝利やプレーオフ進出という目標のために何ができるか。自身がやるべきことを積み重ねた先に『50-50』があったのだと思います」
とはいえ、記録達成の試合後のインタビューで大谷は「早く決めたいというのがあった。一生忘れられない日になる」と語った。前人未到の道なき道を行く大谷だが、シーズンはまだ続き、「55-55」すら射程圏内。そして、その先には大谷が初めて臨むポストシーズンが待っている。ファンの楽しみはまだまだ尽きない。(編集部・秦 正理)
第1打席に二塁打を放つと早速三盗を決め、50盗塁の大台に乗せた
※AERA 2024年9月30日号