優秀だけど何かヘン? 東大卒の“困ったさん”たち
「頭がいい=仕事ができる」とは限らない? (※写真はイメージ)
日本の学歴社会の頂点に君臨してきた「東大法学部」。政財官に人脈を伸ばし、国を支えてきたえたエリートたちの母体だ。良くも悪くもスタイルを変えてこなかった「象牙の塔」にも、時代の激変の波は押し寄せる。偏差値序列社会は終わるのか。かつて「砂漠」と称された東大法学部はいま、脱皮の時を迎えている。AERA 2017年3月27日号では、東大法学部を大特集。
基本スペックは「ずば抜けた頭脳」。それだけに、いろんな意味で周囲とは違う人。それがトーダイさん。あなたのそばにも、いるかも。
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「あなたのまわりの東大法学部卒について聞かせてください」。アエラネットでの呼びかけに答えてくれたのは45人。20代から60代までと幅広かったが、全体を通して多かったのが「とにかく頭がいい」「記憶力が抜群」。そして「どこかズレている」「プライドが高い」という声。
「すごくできる人とまったく使いものにならない人の両極端」(56歳・女性)
「立派な人も多いが、対人スキルが著しく不足している人も」(49歳・女性)
という言葉からも分かるようにちょっと変な人が多い。
とはいえそんな中でも、頭脳も人柄も「超人的」というトーダイさんもいるらしい。なんとも羨ましい限りじゃないか。さっそく編集部に寄せられた「目撃情報」を紹介したい。
「中学・高校の後輩。毎年クラス委員に選ばれるほど優等生で友人も多い。何にでも積極的で前向き」(39歳・女性)
「事務処理能力は高く、つまらない仕事も淡々とこなす」(47歳・男性)
●有能・無能も規格外
頭脳も性格もピッカピカ。こ、これでイケメン、イケ女なら……。恋に落ちちゃう。
友人の夫が東大法学部卒だという55歳の女性もベタ褒めだ。
「とにかくポジティブ。仕事以外のネットワークもすごくて、健康な体づくり、オペラ鑑賞、神社巡り……いくつものコミュニティーに参加。SNSでつながる友人は約3千人。相談事にも嫌な顔ひとつせず、知識や情報は惜しみなく与える。何かを『引き寄せる人』ですね」
こんな神様みたいな人いるんですねえ。奥様が羨ましい。そして昼夜を問わずによく働く。
「すごいキャパを持った官僚の友人が何人かいる。月150時間を超える残業もザラ。日曜夜の飲み会の後、日付が変わる前に、そのまま霞が関へ出勤していった」(25歳・男性)
もちろん、「頭がいい=仕事ができる」とは限らない。
旧財閥系企業の秘書室に勤務していたという67歳の女性の話。
「役員は東大の法・経済学部卒で占められていたが、それで経営が順風満帆だったかといえば、さにあらず。日本有数の技術を持ちながら解散に追い込まれ、不採算部門を整理するにも決断ができず。連日会議で『何とかしろ』と叱責するばかり」
欠点を自覚しながら、開き直る暴れん坊もいる。
「私の上司ですよ。『東大法学部は勉強は好きだがコミュ障が多い。ワタシもコミュ障だ! 判断力にもコミュニケーションにも全く自信がないから、よろしく!』って。どうしたらいいんですかね……」(37歳・男性)
……。ここまでくると、もはや言葉が出ない。「使えない」のも困る。
「一度にたくさん処理できない。一つのことにかかわっていると、目の前で電話が鳴っても気づかないほどで、使いものにならなかった」(66歳・女性)
「アメリカに赴任しても、英語もろくに話せない東大法学部卒がいました。アメリカ人からは相手にされず、現地のエリート大卒には及びもつかない。結局、日本人同士集まって受験の思い出話ばかりしていた」(年齢不明・女性)
●愛すべき変人さんも
海外まで行って受験の思い出話って……。もちろん、困った人ばかりではない。浮世離れした言動で周囲を困惑させつつも頼りになる、愛すべきトーダイさんもいる。
「娘の塾の担任。あらゆる教科を教え、志望書作成・面接練習など全てをやりこなす頼れる存在。ただ、かなり偏ったご趣味のゲームオタク。遊んでいないせいか、高校生の好きなスポーツや芸能情報は全く知らない」(54歳・女性)
「さる弁護士。本を読めば一発で全て頭に入り、司法試験も学生時代に合格。しかし、この人のいる打ち合わせに『大桶』で寿司を出すと、他人の遠慮もお構いなしに、ウニとイクラを全部食べちゃう」(67歳・女性)
「身近にいます! 父です。頭が良すぎて変人。だけど、56歳になっても努力を惜しまず、いつも勉強してます。ゴルフしない。お酒飲まない。よく、ピーポーピーポーって言いながら廊下を小走りしてる」(25歳・女性)
ピーポー父さん。腹巻きしてそう(イメージ)。
「いつも夕食は自宅近くの老人福祉施設併設の食堂でとるという知人。高齢者に親近感があったりするのかなあと思ったら
『あそこで食べるのが一番、栄養バランスがとれていて、安いから』。そして銭湯が安らぎ。『節約してないのになぜかお金が貯まる』そうです……」(46歳・女性)
そ、そりゃあよかった……。
●転身するときも大胆
変人ならではの発想が、キャリアを広げるケースもある。59歳の男性の知人は、
「東大卒業後、アメリカの大学で医学博士号・心理学博士号を取得。経営コンサルとして名だたる大企業の指導にあたり、多くのビジネス書を上梓」
そんなスーパーエリートが、ある時突然仏門に入り、東京・八王子のマンションに寺を開山したのだとか。
「奥様が難病にかかったのがきっかけだったようです。治療法が確立されておらず『人智が及ばない領域かもしれない』『どんな奇跡にもかならず因果はあるが、因がわからなくても果が出ればそれでよし!』と思って帰依したとか」
今は大学で学んだ心理学と仏教のいいとこ取りをしてコンサルにあたっているという。
言いたい放題というのも何なので、最後に当事者の声も。
「何かにつけて東大東大って、もうウンザリです。東大なんて勉強すれば誰でも入れるのに」(42歳・男性)
……。やっぱり「トーダイ税」と思って言われといてください。(ライター・浅野裕見子)
【トーダイさんの4分類】
<学歴武装系>
学歴が最大の武器かつアイデンティティー。常に「大学どこですか?」の質問に臨戦態勢。必殺技は受験時の苦労話。辟易させるものの、攻撃力は弱い
<イラっとくる系>
マルチタスクが苦手。うまくいかないと「発注の仕方が悪い」と、なぜか周囲サゲ。「使えない」などと思われていようとは夢にも思わない。酒乱傾向強し
<ハイパーオタク系>
趣味は多彩。行動原理の自分基準感はハンパない。理解不能な言動も少なくないが、基本的に愛されキャラ。タモリ倶楽部に呼ばれるのが夢。平地でも転ぶ
<神ってる系>
知識量はスパコン並み。判断・洞察・行動力あり。人に優しく、謙虚。嫉妬心さえ引き寄せない。高いIT親和性。もはや、神。もしや、ヘンタ……(以下略)
※AERA 2017年3月27日号
AERA
2017/03/22 11:30