新型コロナでスーパーは一定間隔で行列、英国、フランス、スペイン、韓国のそれぞれの事情
「手指の消毒剤が入荷したらしい」と聞いてロンドン中心部のドラッグストアに行列する人たち=3月10日(C)朝日新聞社
店舗が一斉休業しているパリのシャンゼリゼ通り=3月18日(C)朝日新聞社
ソウルで若者が集う弘大にあるカラオケボックス。店の前には店内を消毒していることを示す表示が出ている=3月11日(C)朝日新聞社
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「ロックダウン」(都市封鎖)の可能性を示唆した東京都の小池百合子知事。欧州などでは外出禁止令が出されている国もある。海外在住者らにそれぞれの事情を聴いた。
チャールズ皇太子やジョンソン首相も感染した英国。3月23日に原則外出禁止が発表された。ロンドン在住のライター・高野裕子さんは言う。
「買い物は食品か薬(などの生活必需品)以外はだめで、お店はほとんど閉まっています。在宅勤務はすでに広がっており、現在はほぼ誰もオフィスに行っていません」
公共の場で3人以上集まったり、結婚式など行事を開いたりすることも禁止。違反したら、警察が罰金を科したり解散命令を出したりするという。公共施設も閉鎖され、電車は運行しているものの本数が減らされている。
「町を歩いていると、必ず警官に質問されるようです。1時間以内だったら自宅付近でジョギングや散歩はOK。ただし、家族以外の人との集まりは禁止です」
困るのは買い物だ。スーパーに行くと、誰もが買いだめするので、必要なものがなかなか手に入らないという。
「今は高齢者らを守るため、スーパー開店後1時間は70歳以上の人などを優先。普通の人はその後に入れますが、2メートル間隔の列を作って外で待たなければなりません。入っても何が買えるのか……」
17日に全土で外出禁止令が出されたスペイン。バルセロナで豆腐店を営む清水建宇さんは、こう伝える。
「(14日から)警戒事態宣言が出ているので、オフィス、レストラン、バル、飲食店は休み。外出するには証明書が原則必要になります。スーパーなど食品店、病院、薬局、銀行などへ行くのは認められています。店内での飲食はだめでも、食べものを持ち帰れる店はOKです」
清水さんによると、バルセロナがあるカタルーニャ州政府の危機感は強く、23日からすべての州民に外出証明書の携行を求めることにした。
「報道によると、政府が警戒事態宣言で『不要不急の外出はやめて』と要請したのに、行楽地へ遊びに行く市民が多く、混雑する海岸までありました。20日だけで1万人が職務質問され、数百人が罰金を科せられたそうです。これに怒った州政府が厳格化に踏み切ったと言われています」
その外出証明書はA4サイズで、ダウンロードして入手できる。
「『食品の購入』『職場への通勤』『銀行』などのチェック項目に記入し、納税者番号を記入して署名します。『旅行』だけは目的地の住所・郵便番号まで書かねばなりません。私もダウンロードして印刷し、ポケットに入れて店に行っています」
清水さんは店の営業を続けているが、客は通常時の2割まで落ち込んだという。小規模店では店内に入れる客は2人まで。行列は1・5メートル間隔で並ぶなど様々な条件がある。
「飲食店など年間60万ユーロ(約7200万円)以下の売り上げ規模が小さな店は、休む代わりに従業員の給与は政府が保証してくれます。うちの店とか、バルなどが対象になります」
毎日午後8時になると、各地で拍手が湧き起こる。
「これはコロナと戦う医療関係者へのエールで、連帯感を持って危機を乗り切ろうという意志です。10分ぐらい続いていますね。コロナ禍がいつ終息するのか分かりませんが、さまざまな面で社会が変わるのでは。そのうちの一つが、この拍手に象徴される『市民の連帯の強まり』ではないでしょうか。そんなことも考えています」
それでも感染者の増加が止まらないスペイン。28日にはサンチェス首相がテレビ演説で、不要不急の経済活動をやめ、労働者は2週間自宅待機するように呼びかけた。
フランス文学者の海老坂武さんは、感染が拡大する前の2月下旬からパリに滞在している。
「私がパリに来た時は、誰一人マスクなどしていませんでした。すでにフランスで感染者が出ていた3月上旬になっても、どこかアジアの病という雰囲気でした。3月6日にマクロン大統領夫妻はのんびり芝居を見ていたし、11日にもパリ中心部の広場で『3・11』の追悼集会が開かれ、人々はハグをして握手をしていました」
雰囲気が変わったのは12日。マクロン大統領が「この100年で最大の公衆衛生の危機だ」とテレビ演説してからだという。17日から全土で外出禁止令が実施された。
「食料の確保や在宅勤務が不可能な場合の通勤などで外出する時には、『移動証明書』に自宅の出発時間、目的地を記載して携帯しなければいけません。さもないと135ユーロ(約1万6千円)の罰金が課されます。フランス人は言うことを聞かなかったのでしょう。罰金も当初は38ユーロ(約4500円)でしたが、1日で135ユーロに変わりました」
スーパーや食料店は開いており、特に品切れもない。ただ、人影はまばらで、見かけるのはジョギングなど運動をしている人だけだという。1時間程度の運動は移動証明書携帯のうえで許可されている。
「パリの街は静かですが、不満と不安、怒りが渦巻いています。先日は2階の窓からワーと怒鳴る人の声が聞こえました。相当、頭に来ているのでしょう。かと思えば窓から大音響でモーツァルトの曲と歌声が流れてきました」
閉塞(へいそく)感をなんとかしようとする動きも出てきたという。
「街では夜8時になると、人々が窓やベランダに出て、食前酒と称してアパートの上下左右や向かいの部屋の住人と乾杯をするんです。これはコロナウイルスと闘う医療関係者に『ありがとう』と感謝を口にする場でもあります」
連日、新聞記事の8割はコロナウイルス関連の記事で埋まっている。その報道によると、マスクが手に入らないことへの不満が国内で高まっているという。
「フランスでは政府がマスクを管理しており、一般の人は処方箋(せん)がないと購入すらできない。政府は、マスクは病人以外は感染を防止する効果はないと主張してきました。しかし、アジアの国をみると、みんなマスクをしている。おまけに感染者も死者も欧州より少ないじゃないか、という批判の声が高まり始めたそうです。マスクの効果は医療関係者の間でも議論が分かれています」
パリは、フランスでも感染が集中している地域の一つ。富裕層は地方の別荘に避難している、との話も出ているという。
「僕も4月中旬に帰国する予定なのですが、どうなるかわからないですね」
韓国では、ライターの田中将介さんによると、ピリピリとした雰囲気だという。
「ホテル、病院、レストラン、至るところに消毒用のハンドジェルが置いてあります。見渡せば、ほぼ全員がマスクをしていて、皆が口をそろえて『マスクをしていないと皆んなにみられるよ』と言うくらいです」
駅のホームでは、日本語でも「感染に気をつけてください」というアナウンスがずっと流れているという。出生年度によってマスクを薬局で買える日が限定され、田中さんも薬局が大行列になっているのを見た。
「韓国の美容クリニックは、コロナ問題でお客さんが来ないでとても困っています。韓国に住んでいる日本人に激安のキャンペーンを打ったり、韓国人に対してマーケティングを強めたりしています。あらゆる業界で、週3日勤務になったり、仕事場に来なくていい(実質解雇)と言われたりなどしています。仕事に困った人たちが職を探し回っています」
韓国語がわからない田中さん。それでも、カフェなどで韓国人同士の会話に耳を澄ませると、『コロナ』という単語がたくさん聞こえてくるという。(本誌取材班)
※週刊朝日オンライン限定記事
週刊朝日
2020/03/31 15:43