ジェーン・スー
ジェーン・スー「女にはお金で解決できる悩みがある」を実感した夜
ジェーン・スー。東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMC。著書に、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』『生きるとか死ぬとか父親とか』『これでもいいのだ』、対談集に『私がオバさんになったよ』『女に生まれてモヤってる!』
こんな時こそ欲しい「癒やし」。でも外出自粛のなか、それはかなわない……それならせめて、文章で癒やされてほしい! コラムニスト・作詞家のジェーン・スーさんの最新刊『揉まれて、ゆるんで、癒されて』(朝日文庫)から、ちょっとスッキリした気分になれるエッセイをお届け。仕事でイライラ、凹んだ気持ちを回復するために訪れたネイルサロン。女性がお金を使って癒される効能を考えます。
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仕事、仕事、また仕事。今日はそのうちのひとつでムカッとくることがあって、かなりイラッとしました。早々にスカッとしたい気分です。
こういう時、私の自尊心はたいてい底を突いています。「ムカッ」も「イラッ」も、不当に扱われたと感じたときに起こりやすい感情だからです。そして、心のどこかで「ああいう扱いを受けるということは、私にはあまり価値がないのかも」と思ってしまう。このままの状態を放置しておくと、ほどなくして怒りは消沈に変わり「どうせ私なんか……」と卑屈モードで固定されてしまいます。よろしくない。大変よろしくない。
とは言え、明日もフツーに仕事。無謀なことをしてストレスを発散するわけにもいきません。スカッとしながら自尊心も回復できる、なにか良い方法はないものでしょうか。
あ、そうだ。ペディキュアに行こう!
突然ひらめき、私は広尾の老舗ネイルサロンに電話を掛けました。ここに行けば、大丈夫。運良く当日の予約が取れ、私は店へと急ぎました。
十数年前、一世一代の失恋をした時にも、私はこのサロンにいました。ほとほと弱っていた私に、ネイリストさんは優しく微笑みながらこう言いました。
「女には、お金で解決できない悩みなんてないんですよ」
彼女なりのジョークだったと思います。しかし、手足の指をうやうやしく手入れしてもらったあと、私の心は少しだけ、しかし確実に上向いていました。わかりやすく大切にされるのって、凹んでいるときには特に功を奏します。
最近ではリーズナブルなジェルネイルが定番となりましたが、私はネイルポリッシュでペディキュアをしてもらうのが大好きです。時間はジェルネイルの2倍かかるけれど、物理的に動けない時間を長く作る分、気持ちがゆったりと落ち着いてくるから。
ネイリストさんと近況報告をしながら足浴をしたら、専用の器具で丁寧に爪を切ってもらいます。自分ではなかなかできない甘皮の処理をお任せし、かかとは肥厚した角質を削ってすべすべに。この時点で、私の硬くなった心もだいぶ柔らかく変化しています。
足の爪は普段の生活で人目に付かないので、大胆に色で遊びましょう。10本の指すべての爪を違う色にしたり、黒や紺など手の爪に施すには少し勇気のいる色を選んだり。Pinterestのカラーチャートを見ながら、好みの配色を選ぶ楽しさと言ったら! 100以上あるネイルポリッシュを見ているだけで、心が明るく泡立ってきます。
色を決めたら、あとはネイリストさんが美しく仕上げてくれるのを待つだけ。ネイルが乾くまでは、ふくらはぎをオイルマッサージしてもらいましょう。今日は肩首のマッサージまで付けました。これ以上の贅沢はありません。これ以上、人に優しく扱ってもらえることもそうそうないよ。
乾かす時間まで含めて2時間たっぷり。オプションも付けたので、お値段は15000円弱。大満足です。だって、私の心は確実に上向きになったのだから。
すべてとは言いませんが、女にはお金で解決できる悩みがある。それを再認識した夜でした。
dot.
2020/05/15 17:00