しっかりかむために必要なものといえば、歯です。「8020運動」の成果で80歳でも歯が20本以上残っている人は半数を超えましたが、「歯が残っているからといって、よくかめるとは限らないのです」と、志賀歯科医師は言います。
「日本人は歯周病が進んでも歯を残したがる傾向がありますが、グラグラした歯では十分な咀嚼はできません。総入れ歯にしている人のほうが、かむ力が強い場合もあります。歯の数より大切なのは、本当にかめているかどうかなのです」
また、抜歯後に義歯を入れることを考えても、歯周病で抜かざるを得なくなった歯を残しておくのはおすすめできないそうです。
「抜くべき歯を残していると、その周囲の歯槽骨(歯を支えるあごの骨)がやせてしまうので、入れ歯やインプラントの装着が難しくなる可能性もあるのです」
■咀嚼能力検査でかめているか判断を
自分が「本当にかめているか」は気づきにくいものですが、サインはあります(注意ポイント参照)。ひとつひとつは些細なことに感じられますが、これらが咀嚼力低下の始まりなのです。
客観的に自分の咀嚼力を知りたいなら、歯科医院で「咀嚼能力検査」をしてもらうことも可能です。検査は簡単なもので、グルコース(糖の一種)を含んだグミゼリーを20秒間かみ続けたあと、10ミリリットルの水を口にふくんで吐き出します。その水の中に含まれるグルコースの量によって、かむ力が測定できるのです。
「咀嚼力を調べてみると、かみ合わせが正しく調整されている場合、高齢でも入れ歯でも、うまくかめていることが多いものです」(志賀歯科医師)
■脳の血流を増やすのは、正しい姿勢と食べる喜び
認知症の予防には「よくかむこと」が大切ですが、具体的に食べ物や食べ方で工夫できることはあるのでしょうか。
「まずは『おいしい』と思って食べることです」と、志賀歯科医師は言います。上のグラフを見てください。グミゼリーの苦味が増すほどに、脳の血流量が減っていることがわかります。
「かむことで脳の血流は増えますが、同じようにかんでいても『おいしい』と思ってかんでいるときと、『まずい』と感じているときでは、脳の活性度が違うのです」