お金も時間もかけて一人で親の介護をしたのに、相続した財産は何もしなかった他のきょうだいと均等に──。介護と遺産相続をめぐり、もともとは同じ屋根の下で暮らしてきた家族が、骨肉の争いをする事例が後を絶たない。トラブルを未然に防ぐにはどうしたらいいのか、専門家に聞いた。
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経済アナリストの森永卓郎さんは2011年までの11年間、妻が中心となって父親の世話をした。最初の7年間は自宅で一緒に暮らし、脳出血で倒れた後の4年間は介護に明け暮れた。そのうち1年3カ月は在宅介護。残りは父親が入った病院や高齢者施設に妻が通った。
「父は靴下も自分でははけないようなフルサポートが必要な人でしたし、(2番目に重い)要介護度4の在宅介護って地獄なんです。不眠不休の介護でした」
デイサービス(通所介護)で入浴をしていた父親が、家で入りたいと言って聞かないときは、夫婦で入浴介助をした。
「半身不随の大人の体はとてつもなく重い。浴槽から担ぎ出すのはめちゃめちゃ大変でした。経済的にも、半分はわが家の負担。介護にかかったお金は1千万円ぐらいですが、人件費を加算したら、数千万円のお金がかかっていたと思います」
それでも、遺産は弟と均等に分けた。
「『折半というのは、あまりにもひどいんじゃないの?』というのは一応言いました。『でも、兄貴は稼いでいるからいいじゃん』って、それで終わったんです。妻も『不公平だと思うけれど、お金は要らない』と。もともとトカイナカで暮らしていますし、生活費もそんなにかかりません。もめてまでお金がほしいとは思いませんでした」
トラブルを避けることを優先した森永さん。仮に家庭裁判所の調停に持ち込んだとしても、介護の貢献度が認められ、より多く相続できたとは必ずしも言えない。
「裁判では証明する手立てというのが限られていて、勝とうとしても勝ちづらいのです」
こう話すのは、介護・福祉分野に詳しい法律事務所「おかげさま」代表弁護士の外岡潤さんだ。数年前の事例を紹介してくれた。