5人きょうだいの長男と妻は両親と同居して家業を引き継ぎ、亡くなるまで介護もした。当然、実家はそのまま長男が住むつもりでいた。だが、葬儀が終わり半年以上たってから、
「実家も含めて、法定相続分どおりきっちり平等に分けてくれ」
と弟らが主張し、調停へ持ち込まれた。
長男らは数年間の介護の苦労を主張したが、証拠不十分とされ、100万円程度の上乗せしか認められなかった。結局、実家の裏庭の一部を売却して弟らに現金を支払い、自分は実家を受け継ぐことで決着した。この調停には3年もかかった──。
民法では、介護や看護などで「特別の寄与」をした相続人には、法定相続分より多く受け取ることを認めている。この上乗せ分を「寄与分」といい、相続人同士が話し合って決める。もしこじれたら、家裁に持ち込まれて介護負担度などを基に決まる。
だが、寄与分を主張しても、調停や審判で納得のいく額が認められることは少ないという。前出の事例でも、長男の寄与分は100万円程度だった。実は、寄与分を明確に定める基準はない。民法では家族間の協力と扶養義務が定められているので、こうした協力義務を超えて寄与したことを証明できるかどうかが重要といえる。外岡さんは言う。
「(事例に挙げた)長男夫婦は介護の寄与分を主張しましたが、それを証明するものがなかなか出てきませんでした。出せたのはデイサービス施設とのやりとりぐらい。この場合、親が遺言書を残して長男に家を与えるとか、生前に名義変更をするなどの手段がありました。介護する側も、タクシー代などの交通費や身の回りの世話代などのレシートを控えるとか、介護日誌やメールなど介護記録を残すべきでした」
寄与分が認められるには、日々の記録が大切となる。ただ、毎日細かく記録することは決して簡単ではない。
一方、民法(相続法)が改正され、昨年7月からは長男の妻など法律上の相続人以外の親族でも相続人に対して金銭の請求ができるようになった。