■求められる医療変わる
野中さんは葛藤した。
「後期研修は少なくとも3、4年ある。一か八かで就職先を決めて自分に合わなかった場合を考えると、いろいろな病院を見たかった。でも、県外への移動後に課せられることになる自宅待機の期間を最小限にしようと思うと、難しかったんです」
野中さんはいまの病院でも学べることはあると考え、このまま1年間働くことにした。来年度、就職活動を再開する予定だ。
医療ガバナンス研究所の上昌広理事長はこう話す。
「成長が期待できる大切な時期に、大学や病院がその芽を摘むような対応をしていないか、教育や研修を受けられる環境か、きちんと考えるべきです」
もし、希望の病院に進めなかったとしても、「悲観する必要はない」と上理事長は言う。医師はある意味「職人」であり、研鑽(けんさん)を積む場の選び方は、「大学受験と違い、人気病院や有名病院が正解とは限らない」からだ。今後、求められる医療は変わるという。
「かつて花形だったがん手術より、高齢社会のニーズやコロナ禍のような不測の事態に対応することが求められる。それには総合的な教養が必要です。幅広く活躍できる地方で働くことが経験になるはずです」(上理事長)
(ライター・井上有紀子)
※AERA 2021年1月25日号より抜粋