コロナ禍で医学生にとって大切な病院の見学がままならない。県外から戻ると自宅待機など制限される場合も多く、就活の大きな壁になっている。AERA 2021年1月25日号から。
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「これでは県外での就職はできない。人生が変わってしまう」
長崎大学医学部6年の武田亮さん(仮名)は青ざめた。昨年7月、メールで送られた大学からの文書にこうあったからだ。
<当面の間、長崎県内外のいずれにおいても病院見学やマッチング訪問を禁止する>
6月中旬から、大学は医学生に対して、事実上、就職活動を許可しない旨の通知を出していた。臨床実習に行く病院で、感染を広げないためだという。
医学生は臨床実習の傍ら、就職を希望する病院に見学に行く。一般的には5年生ごろから見学を始め、6年生の8月に5、6病院を受験。就職が決まれば、翌春から研修医になる。
■就職先決められない
病院見学では1~2日、カンファレンスや診察に立ち会い、研修医として働く先輩と直接話すことができる。職場の実際の雰囲気を知る貴重な機会だ。参加時期は自由とはいえ、受け入れてもらえるのは平日。大学の授業や臨床実習を休むか、長期休暇を利用して行くことになる。
「6年の春休みに行こうと思っていたら、コロナで病院側が見学を中止していた。選考の直前にある夏休みが、最後のチャンスだったんです」(武田さん)
医師免許を取っても、就職先が決まらなければ働けない。学生たちが大学に掛け合ったからか、選考が迫った7月下旬、通達の文言が変わり、事実上、県外に出ることが許された。
「試験まで2週間ほどでしたが、急いで病院にアポを取って、滑り込みで見学し、受験ができました。でも、希望する病院の選考に間に合わなかった同級生もいます」(同)
全日本医学生自治会連合(医学連)書記長で信州大学医学部5年の伊東元親さん(24)は、コロナ禍の就活事情をこう話す。
「大学からの通知で、就職を希望する病院に見学や受験に行けない、または行きづらくて悩んでいるという医学生の声が、医学連に寄せられています」