写真家・西野壮平さんの作品展「線をなぞる"tracing lines"」が東京・品川のキヤノンギャラリー Sで1月20日から開催される。西野さんに聞いた。
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これまで西野さんはさまざまな場所を旅して、その「道中」を作品化してきた。
「ぼくの作品は、旅の道中で撮影したたくさんの写真のなかから、1枚では完結しないたくさんの写真を張り合わせて見せる『コラージュ』という表現方法をとっています」と、説明する。
まず、旅先で思い浮かんだスケッチなどを基にして数メートル四方の大きな板に下絵を描き、その上に小さな写真を「旅の記憶を1枚に封じ込める感じで」張っていく。写真の数はときには1万枚を超え、作業は数カ月間におよぶという。張り合わせを終えた時点で、専門家に複写してもらい、作品を完成させる。
■横幅8メートルの写真絵図
西野さんの作品は、東京やニューヨークなど、国内外の大都市を写した「Diorama Map(ジオラママップ)」が有名だが、今回の写真展のテーマは、「水」という。
「山から海にいたるまで、水がどのように変化していくのか、それを訪ねるような旅を始めた」のは5年ほど前。
その発端となった作品が「IL PO」で、イタリアでもっとも長いポー川を2017年に訪れた(「IL」はイタリア語で、英語の「THE」の意味)。
「フランス国境に近いアルプスの山から水がしたたり落ちるところから撮影して、そこから約650キロ、川沿いを移動しながら、いろいろな街を訪れ、いろいろな人と出会い、いろいろな物語を聞き、アドリア海まで旅をしました」
会場に展示される作品は横幅8メートルもあり、遠目に見ると、写真絵図のよう。うねうねと蛇行した川の流れには素朴な温かみがあり、ユーモアを感じさせる。
しかし、作品に近づくと、その印象はがらりと変わる。硬派なイメージの写真がびっしりと並び、昔のグラフ雑誌のフォトルポルタージュを見るような思いがする。
ごつごつとした岩山を流れ下る雪どけ水、チェーンソーで切り倒された木々、畑で農作業をする人々、鉄道の巨大な操車場、水力発電所と思われる巨大はパイプ、川をさかのぼる運搬船などなど。