「車に戻ればあると思います」

「取ってきてください。サンプルを取って病院にもどって検査をします」

 すべてが繋がった気がした。先週、どうして病気がわからなかったのか。加藤がどうしてあんなにも頑なに父の状況について質問に答えなかったのか。

「工藤くん、加藤誠一さんの病気なんだかわかった?」

 友愛会病院に戻ると院長の鈴木はニコニコと話しかけながらこちらに近づいてきた。遠藤と違い、鈴木は全く空気を読まない。

 ぼくは加藤家から持ち帰ったセロハンテープをスライドグラスにのせ、KOH液をたらし顕微鏡で覗いた。予想通り、数珠状のつながった糸状菌が角層の合間にはっきりと確認できた。

「白癬菌はいました。でもそれだけでは加藤さんの病気は説明がつきません」

「なるほど、そうなるとかぶれも合併してたのかな?」

 鈴木はするどい。水虫(白癬菌)で合併が多いのはかぶれ(接触皮膚炎)だ。これは白癬の感染でジュクジュクになった皮膚に抗真菌剤を塗ることでかぶれが起きやすくなるためだ。

「うーん、鈴木先生のこれまでの処方をみると抗真菌剤も出してないですし、かぶれは考えにくいんじゃないでしょうか?」

「じゃあ、なんなんだろう?」

「先生、この写真を見てくれますか?」

 ぼくは加藤を説得して撮影した大腿部の紫斑が写った写真を鈴木に見せた。

 鈴木の表情が一瞬曇る。

 往診道具の片付けを行いながら話を聞いていた遠藤が話に加わる。

「では、なんの病気でしょうか?」

「前回診断がつかなかったのは、真菌感染と何かが合併していたためです。ひとつひとつ皮疹を分解して考えれば答えは簡単でした。遠藤さんが新しい発疹を見つけてくれたおかげで、もう一つの原因がわかりました」

 ここでぼくは一息つく。

「これは、虐待です」

(エピローグへ)

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