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 医師が主人公、あるいは医療現場を舞台にした医療ドラマや医療漫画は数多くあれども、なぜか皮膚科医が主人公のものは存在しない……。それを寂しく思っていた現役皮膚科医で近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が、実際に原作となるストーリー製作にチャレンジします。前回「皮膚科医が主人公の漫画やドラマがない……ならばと、現役皮膚科医がストーリー作りに挑戦してみた!」の続きのストーリーをお届けします。

【写真】『コウノドリ』のモデルになった医師

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(以下、フィクションの小説。承前)

■訪問診療の高齢男性の体にできた謎の発疹

 友愛会病院に戻る車の中で、ぼくは今日見た80代男性、加藤誠一さんの体幹にできた謎の発疹について考えを巡らせていた。

 苦し紛れにオイラックスという塗り薬を処方したものの、来週までに治っている可能性は極めて低い。患者の息子である加藤誠の”圧”に負けて、当たり障りのないかゆみ止めを処方して逃げたようなものだった。このまま病気がわからなければ、皮膚の一部を切りとって病理所見を診る生検検査に進むしかない。しかし、生検をするには麻酔が必要だ。あれほど神経質な息子の前で、皮膚に針を刺し、しかも2針か3針も縫合することは可能だろうか? 万が一、ぼくらが帰った後に出血するようなことがあれば、加藤の怒りがとんでもないことになることは想像に難くない。

「誠一さんのこと考えているんですか?」

 遠藤の優しい声が響き、ぼくはアルコール消毒の匂いがツンとする車の中に意識を戻した。それにしても、遠藤は空気を読むのがはやい。

「そうなんです。見たことない発疹だったので」

「珍しい病気なんですね」

「ぼくが知らないだけかもしれません。大学病院に戻ったら調べてみます」

 そう言ったものの実際はどう調べていいかわからない状況であった。紫斑と紅斑と鱗屑(ふけ)が混じった皮膚病なんてごまんとある。

「誠一さんの息子さん、ずいぶん性格が変わってしまったんですよね」

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