こうして05年、文京区・本郷に「黒味噌ラーメン 初代けいすけ」をオープンした。「すみれ」「彩未」など札幌味噌ラーメンが好きだった竹田さんは、味噌で勝負すると決めていた。居酒屋でコンセプトにしていた「炭」の世界観を合わせ、「黒味噌ラーメン」を仕上げた。当時味噌ラーメンの専門店は都内にはそれほど多くなく、10席のカウンターは毎日開店と同時に埋まったという。
しかし、人気は長くは続かなかった。開店1カ月で閑古鳥が鳴き始めたのである。オープン当時1日170~180食出ていたのが、たちまち30~40食になってしまった。
「単品勝負の怖さです。居酒屋やフレンチは、単品ではなくいろんな料理で総合的に評価されますが、ラーメンは単品で評価されます。80点ぐらいのラーメンだったら、お客さんは、2度目は来ないんです」(竹田さん)
その後ラーメンを改良し、ラーメン評論家・大崎裕史さんのラジオに出演したことをきっかけに少しずつお客さんが増え、取材も来るようになった。行列ができるようになってからは、味を落とさないよう徹底的に改良を重ねた。
竹田さんはその後、あふれるアイデアで数々の店をオープンし、成功させてきた。ラーメンの経歴だけではないからこそのアイデアが思い付くのだという。
「“他にないもの”を個性にして頑張ってきましたね。怖かったですが、若さで乗り切ってきました。トレンドや流行を作っては、その店を閉めて新しくするということをずっとやってきました。『けいすけは次は何をやるんだ?』と注目が集まるのが楽しかったですね」(竹田さん)
「中川會」の女将・陽子さんのお気に入りは、東急プラザ銀座内にある「ふぐだし潮 八代目けいすけ」のふぐだし潮らーめんだ。
「ふぐだしのラーメンだけでもおいしいのに、締めにふぐ茶漬けまで食べられる。銀座で特別な時間を味わえる素敵なお店ですね。けいすけさんはラーメンを以前よりワンランク上の食事にしています。ラーメンを丁寧に食べようとさせることはすごいことだと思います。次々にいろんなラーメンにチャレンジし、成功に導いていて素晴らしいと思っています」(陽子さん)
竹田さんは「中川會」こそラーメン店のあるべき姿だと言う。
「古くからのラーメン屋の良さを体現しているお店だと思っています。『中川會』こそがラーメン屋のあるべき姿です。それをノスタルジックなラーメンではなく、つけ麺でやり遂げていることも時代だなと思いますね」(竹田さん)
夫婦経営の店から多店舗経営の店まで、ラーメン店にもいろいろな姿がある。それぞれが刺激を受けながらラーメン業界を発展させているのだ。(ラーメンライター・井手隊長)
○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて19年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho
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