伊藤賀一氏(写真:朝日新聞出版写真映像部・東川哲也)

 あとは、ヒトラーのホロコーストを例に出したり、中世のペストの話をしたりして、ユダヤ教徒がなぜ弾圧されているのかということを教えるようにしています。ユダヤのほうが衛生面で厳しく、清潔だったからペストに感染する人が少なくて、「あいつらが毒をばらまいている」という話になった……といった説明から入らないと、なかなか高校生でもユダヤ教については興味が持たれません。

佐藤:私はユダヤ教を教えるとき、まずこう言います。ユダヤ教・キリスト教・イスラム教が同じ神だとみんな習ってきたんだけど、本当にそうなのかな? ユダヤ教とキリスト教はそもそも、「ヤハウェ」という呼び方も含めて一緒だ。イスラム教は「アッラー」という。しかしそれぞれの神様は本当に同じなのだろうか? もし同じだとすれば、なぜ人間観がこんなに違うのか? 人間はどうやってできたか、みんな知ってる? イスラム教では汚い水によって人間ができたんだ。汚い水、つまり精液でできたんだ。それに対して、ユダヤ教とキリスト教では、神が創ったんだ――。

 こんなふうに人間観の違い、原罪観の違いを考えさせるために、ここから始めます。キリスト教は生まれながらに原罪を負っている。それに対してイスラム教では人間はまっさらで、「最後の審判」によって決まる。これまでやってきた良いことと悪いことを天秤にかけて、ちょっとでも良いことが多ければ天国に行けるし、ちょっとでも悪いことが多ければ「ゲヘナ」という地獄で火の中に投げ込まれる。イスラム教徒はリアリティーをもって「火の中に投げ込まれる」と思う。だからイスラム教徒と結婚した場合、火葬ができない。もし火葬すると、近隣のムスリムたちが集まってきて、「なぜゲヘナに入れられなければならないんだ」と大騒動になる――こんな話をします。違う宗教であっても神様が一緒なら人間観は近づくはずなのに、なぜこんなにも人間観が離れているのか。こうした問いはとても有効だと思います。

暮らしとモノ班 for promotion
もうすぐ2024年パリ五輪開幕!応援は大画面で。BRAVIA、REGZA…Amzonテレビ売れ筋ランキング
次のページ
中世は猫にとっては受難の時代