佐藤優・伊藤賀一『いっきに学び直す 教養としての西洋哲学・思想』(朝日新聞出版)>>書籍の詳細はこちら

「人を見た目で判断する」元祖はこの人

佐藤:アリストテレスに従うと、顔が大きいとか頭が大きいのは、基本的にそれだけで高貴な印で、筋骨隆々なのは生まれながらの奴隷ってことになるんです(笑)。だから「人を見た目で判断する」という現代的な流行の元祖はアリストテレスです。プラトンは内面を重視した人ですから。アリストテレスには今でいう自然科学の実験という発想はなかったんです。岩波文庫に入っているような大きな作品以外で、例えば、「小便と糞の違いについての研究」というのがあります。糞は時間が経つとにおいが減少するのに、小便はなぜいっそう臭くなるのか。

 あと、「好色な人間はなぜハゲているのか」という命題があります。人間の体の中には体液と熱が流れていて、好色な人間は下半身に熱が溜まりやすい。その結果、頭が冷える。頭が冷えることは毛髪にとってよくない。そうしたことから「好色な人間はハゲる」。ですから、好色イコール禿頭という、今でいう偏見につながるような小品がアリストテレスにはある。全集を読んでいて面白いなと思ったところです。

伊藤:なるほど(笑)。

哲学史に現れないローマ法

佐藤:ヘレニズムを考える場合、なぜヘレニズムが必要なのかというと、ヨーロッパができる一つの柱がヘレニズムだからです。もう一つ、「宗教と中世思想」で出てくるのがヘブライズム、そして、ギリシア哲学と宗教の間にもう一つ出てくるのがラティニズムです。ローマは建設とか法律とか、実用知において非常に優れていたけれど、哲学的に見るものはなかった。だから、ローマ神話はあるけども、ローマ哲学はないですね。

 でも、あえて言うとローマ法とかローマ建築の中に哲学は埋め込まれているわけです。特にローマ法のような法的な体系です。例えば契約においては、「合意は拘束する」という原則があります。別に合意したと言ったって守らなくても構わないわけです。しかし「合意は拘束する」と言われたら、破ったらいけない基本的ルールだと思われている。

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常識の多くはローマ法から?