自己愛性や境界性については、論じられることも多いが、まだ十分知られていないのが回避性の問題である。

 生きるのが面倒くさい状態を考える場合、死んでしまいたいというほど切羽詰まってはいないが、せっかくの人生を、生きながら降りてしまっているような生き方をしてしまう。

 実際、そういう人が増えている。まさにそうした状態と関係が深いのも、回避性である。

 本書で中心的に取り上げるのも、回避性が強まった「回避性パーソナリティ障害」という状態についてである。

 回避性パーソナリティ障害は、自分への自信のなさや人から馬鹿にされるのではないかという恐れのために、社会とかかわることや親密な対人関係を避けることを特徴とする状態である。

回避性パーソナリティ障害の診断基準

 アメリカ精神医学会の診断基準、DSM-IV及びDSM-5における回避性パーソナリティ障害の診断基準は、次に掲げるとおり、七つの診断項目のうち四項目以上当てはまることが要件となっている。

 これ以外に、診断のためには、パーソナリティ障害の全般的診断基準を満たすことが必要になる。

 パーソナリティ障害の全般的診断基準としては、(1)その人の考え方、感じ方、対人関係のもち方、行動の仕方(これらは、パーソナリティ・スタイルとも呼ばれる)が、その人の所属する文化から著しく偏っていること、(2)パーソナリティ・スタイルが柔軟性を欠き、プライベートな生活だけでなく社会生活全般にも浸透していること、(3)そのため、実際の生活に著しい支障や苦痛を生じていること、(4)青年期または成人期早期より始まり、持続していること、(5)ほかの精神疾患や薬物、身体的疾患などの影響では説明できないこと、が挙げられている。

 DSMのような操作的な診断基準の問題点は、四項目以上に該当すれば、「障害」として診断し、三項目しか該当しなければ、「健常」とみなすという機械的な処理のもつ限界である。

 三項目と四項目の違いは紙一重でしかない。それで、障害か健常かを区分けされたら、たまったものではない。障害か健常かという区別にこだわるよりも、むしろ、一つの傾向、特性をもった状態として理解した方がよいだろう。

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七つの診断項目