面倒くさいことを避けてきた結果、事態が悪化して、切羽詰まった末に、うつになったというのが現状に近いのである。

 では、うつ状態でもないのに、「面倒くさい」という場合、どういうことが起きているのだろうか。しかも、そうした状態が慢性的に続くことも念頭におかねばならない。

浮かび上がる三つのファクター

 そうした中で、今日よく出会うものとして、浮かび上がってくるのが、次に述べる三つのファクターの関与である。

 一つは、完璧で理想的な自分や華々しい人生を望み、それ以外の不完全な自分や平凡な人生なら、生きるに値しないと考えてしまう傾向だ。完璧な理想にとらわれ、自分が特別でなければ満足できない傾向は、「自己愛性」と呼ばれる。つまり、自己愛性が強まった状態では、現実が意のままにならないとき、すべてのことが無意味で、面倒に思えて、せっかくの能力や才能を生かすこともなく、無為に暮らす場合もある。求めるレベルが高すぎるため、手近なところで自分をほどほどに生かすということでは満足できない。華々しいこと以外は、面倒くさく感じてしまうのだ。

 もう一つは、生まれてきたことや自分が存在すること自体に意味や価値を見出すことができず、虚しさや絶望に陥ってしまう傾向だ。自己否定を抱え、自分は誰からも愛されないと思い、自己破壊的な行動をとってしまう傾向は、「境界性」と呼ばれるが、境界性が強まった状態では、能力やチャンスや成功に恵まれている場合でさえ、空虚感や生きることへの違和感がぬぐえず、何もかもが面倒になり投げ出してしまいたくなる。

 自己愛性や境界性も、非常に現代的な問題であるが、もう一つ急増しているものがある。

 それは、生きることに伴う苦痛や面倒ごとから逃れようとする傾向で、もっとも本来的な意味で、「面倒くさい」心理が病理の根本にある状態だ。人の世の煩わしさから逃れたいという願望をもち、現実の課題を避けようとする傾向を「回避性」という。

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