岡田尊司『生きるのが面倒くさい人』(朝日新書)
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 新米の頃は、いろいろ失敗もあったと聞く。部品の一つ一つが大きくて、しかも途方もなく高価だ。これでいけると思って電源を入れたら、その瞬間部品が壊れてしまうということも起きる。部品一つが何千万、何億もするものもある。それが、一瞬で黒焦げだ。肝を冷やすことが何度もあったそうだが、そういう経験を積みながら、一人前になっていく。しかし、自分のミスで、何千万円もの損を出してしまったと知って、呑気に笑っていられる人は少ないだろう。失敗するのが怖くなって、仕事が続けられなくなってしまうこともあるだろう。実際、仕事自体も過酷で、長時間の残業は当たり前、もたもたしていると、ペンチが飛んでくる。弟と同期で入った社員は、十人に一人も残っていないという。社会に出ると、桁違いのプレッシャーにさらされるということは間違いない。

 働かなくても暮らして行けたらとか、就職しない生き方はないかということを考えたことがおありの人は少なくないのではないか。また、いずれ働かねばならないにしても、それを少しでも先延ばしにしたい。作家の井上靖もそういう心境だったようだ。九大を中途でやめ、京大に移ったときのことを、次のように回想している。「特に勉強したいと思うものもなかったが、京都という土地にも魅力があったし、親のすねをかじる年限をふやし、社会へ出るのを更に三年ほど向うへ押しやることにも魅力があった」(『青春放浪』)と。

人に頼るのが面倒くさい

 社会で生きていく上で、重要なスキルの一つは、人に頼ったり、助けを求めたりするということだ。ところが、何事も面倒くさい人にとって、人に頼るのはひときわ面倒くさい。人に助けを求めることは、自分でやる以上に、面倒だと感じてしまう。

 人に頼ったり相談したりするためには、人と顔を合わせて話をしなければならない。まず、それが面倒くさい。さらに、自分の弱みをさらけ出し、内情を話さないといけない。これがまた、面倒くさい。

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何事も面倒くさい人にとって、この世は面倒くさいことだらけ?