病院を就業場所に
当時、田中さんは大阪勤務で家族とともに大阪で暮らしていたが、長男の入院先は小児の専門医がいる名古屋市内の病院に決めた。妻が付き添い、田中さんは病院の近くに家賃3万2千円のアパートを借りて、食事を届けたり、洗濯物を受け取ったりしながら、1年半に及んだ入院治療生活を支えたという。
コロナ禍でもあり、リモートワークが可能だったことに救われていたが、家族の入院を理由にした有給休暇は年間最大20日間。貯蓄もどんどん減っていく。意を決して、五十嵐博社長(当時)のメールアドレスに制度改革を訴える70秒の動画メッセージを送った。返信はすぐに届き、その日のうちに社内で制度改革の検討が始まったという。
今年1月、電通は配偶者・パートナーの3親等内相当の親族の介護や介助をするにあたり、就業場所に「病院やホスピス等」を指定できる画期的な制度を新設した。田中さんは言う。
「本当にありがたいことです。働く場所があるということは、親の心を支えている」
前出の光原さんは、電通の取り組みを、
「収入の多い少ないに関係なく、誰もが収入が『減る』ことに恐怖を感じます。働くことは、個人の重要なアイデンティティーでもあり、それが保障されることはとても重要なことです」
と評価し、こう話す。
「子どもが病気になった時、親が安心して向き合える社会になってほしい」
子どもが小児がんなどの長期入院が必要な病気になったら──。
誰もが当事者になる問題として、親を取り巻く現状を知り、サポート体制を整えていく時にきていることは間違いない。(編集部・古田真梨子)
※AERA 2024年2月19日号