神奈川県立こども医療センターで小児がん診療に携わる医療スタッフが運営する支援チームの「ちあふぁみ!」が、入院する子どもの家族にアンケートをしたところ、目立ったのは「病院の近くできょうだいを預かってくれる施設がほしい」「きょうだいと大学生ボランティアらが一緒に遊んでくれるとうれしい」といった意見だった。医師の栁町昌克さんは、
「小児がんは重篤な疾患であり、その入院生活は長期にわたり大変です。疲れ切ってベッドに突っ伏すお母さんやお父さんをたくさん見てきました。きょうだいのサポートまで手が回らないと悩む家族の皆さんに、何かできないかとずっと考えてきた」
と話す。
出費が家計を圧迫
20年8月、同じ想いを抱える同僚で医師の横須賀とも子さん、看護師の岡部卓也さんとともに「ちあふぁみ!」を立ち上げた。寄付を募り、きょうだい児への絵本のプレゼントを続けているほか、長期宿泊を余儀なくされている家族への補助金や検査の自費部分を援助したり。その活動は地元企業にも少しずつ伝わり、昨年は家具メーカー「オカムラ」(横浜市)から病室で使える勉強机とイスの提供を受けた。
「『家族の支援』という観点が広まっていくことで、長期入院する子どももその家族も笑顔になる。今後も現状を知ってもらうことが重要だと感じています」(横須賀さん)
子どもが小児がんをはじめとする長期入院が必要な病気になった時、親が直面する問題で無視できないのが、経済的な負担だ。
前出の「キープ・ママ・スマイリング」が22年11~12月に実施した「入院中の子ども(0~17歳)に付き添う家族の生活実態調査2022」(有効回答数3643人)によると、付き添い中に経済的な不安を感じている人は全体の7割にのぼった。「冷蔵庫や簡易ベッド、洗濯機。全て使うたびにそれぞれ数百円かかる」「病院への交通費だけで毎月5万円の負担」「親の食費がかさむ」──。積み重なっていく出費が家計をじわじわと圧迫していくのだ。
また、短期の入院であれば有休や看護休暇で対応できても、長期化した場合に仕事をやめざるをえなかった人は318人(8.7%)にのぼり、転職した人は43人(1.2%)いた。中には、生活保護を申請する人もいるという。子どもの入院により、家族全員の生活と描いていた未来が大きく変わってしまうのだ。
「仕事をやめるしかないのか、と思った時、不安はマックスに達し、絶望に追いやられるような感覚がありました。怖かったです」
と話すのは、大手広告会社・電通で働く田中浩章さん(47)だ。21年2月、当時4歳だった長男(7)が39度の高熱を出した後、鼻血が止まらなくなった。かかりつけ医で血液検査をしたところ、血小板が異常に少なくなっていて、2カ月過ぎても改善しない。総合病院での検査を経て、同年6月、大学病院で原因不明の再生不良性貧血と診断された。