国立がん研究センターの「がん統計」によると、15歳未満のがんである「小児がん」と診断される子どもは年間2千~2500人。「子ども約7500人に1人の割合」と聞くとピンとこないが、15歳未満人口が約105万人の神奈川県の場合、年間約140人という計算になる。決して、他人事でも珍しい病気でもなく、内訳は白血病が3割強で最も多く、次に脳腫瘍が約2割。リンパ腫、胚細胞腫瘍、神経芽腫と続く。現在は、医療技術の進歩により、7~8割が治癒できるようになっているという。

「疲れた」と言えない

 だが、治癒のためには、半年から1年程度の非常に長い入院治療が必要になる。退院後も度々検査などでの通院と入院が必要だ。院内学級や病棟保育など、子どもに特化した療養支援体制が整っていたり、近くに家族向けの宿泊施設を完備している病院は全国を見渡しても、ごくわずか。多くの病院が、付き添う時間帯にバラつきはあるものの、親の付き添いを必須としていて、親の全面的なサポートが必要になるのが現状だ。

NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」では飲食店のお弁当を届ける事業も展開。この日は東京・銀座の「天ぷら やす田」が調理指導した(写真:NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」提供)

 病児を育てる家族を支援するNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」理事長の光原ゆきさん(50)は、

「医療が進み、小児がんは治る病気になる一方で、ケアをする親は“透明人間”のまま。子どもが第一なのはもちろんなので、親自身も『疲れた』と声をあげづらく、ましてやその余裕もない状況が何十年も続いています」

 と指摘する。

「親は重要な戦力」

 光原さんは14年、先天性疾患のあった次女を生後11カ月で亡くした経験がある。長女も出産直後から入院が必要だったため、2人の看病で計六つの病院を渡り歩き、ずっと付き添ってきた。

「どの病院でも、親は重要な戦力とみなされていました。看護師1人で10人近くの子どもたちをケアしているケースが多く、泣いていても放置されていたり、脱水症状が見逃されていたり。病院に対する怒りというよりは、スタッフがあまりに大変そうなので、親がサポートするのもやむなし、という感覚でした。その状況は今も、ほとんど変わっていません」(光原さん)

 けれど、それでは子どもが治る前に家族が倒れてしまう。光原さんは「せめて美味しい食事を」と、14年に同NPOの前身となる団体を立ち上げると、国立成育医療研究センターに隣接する家族滞在施設で食事作りを始めたほか、聖路加国際病院などに手作りのお弁当を届けるサービスをスタートさせた。ある病院から「衛生面の不安があり、受け入れが難しい」と言われ、野菜不足を補う缶詰も独自開発した。付き添い生活に必要なレトルト食品やマスクなどの日用品の無償提供も続けている。

 入院中は、きょうだいへのサポートも悩みの種だ。

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