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 30年以上にわたり、1万組を超えるふたごを調査し、人間の行動に遺伝がどのように影響するかを研究してきた安藤寿康さん最新刊『教育は遺伝に勝てるか?』では、5組の一卵性双生児の事例を取り上げた。まったく同じ遺伝子を持つ2人は、それぞれ独立した人格でありながら、まるで遺伝子に導かれるように、類似した人生経験を選び取る。遺伝とは何なのか? 子育てにおいて重視すべきこととは? 安藤さんに話を聞いた。

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なぜ今「子育て・教育と遺伝」なのか

「講演会にいくと、『子どもの適性(遺伝的素質)をどうやって見極めればいいでしょう』と必ず聞かれるのですが、それが一番困る質問なんです」

 安藤さんはにこやかに答える。安藤さんの研究は子育てに正解を与えるものではない。それなのに注目が集まるのは、人間の能力やパーソナリティーに対する遺伝の影響が十分に語られてこなかったからだ。

 安藤さんは「双生児法」という手法で、人間の行動への遺伝の影響を研究している。ざっくり説明すると、遺伝子と家庭環境のどちらも共有する一卵性双生児と、遺伝子は同じではないが家庭環境を共有する二卵性双生児、両方のふたごをたくさん集めて、知能やパーソナリティーについて比較する。一卵性のほうが二卵性よりも類似の度合いが大きければ、遺伝がかかわっていると判断できる。一卵性も二卵性もどちらも同じくらい類似していれば、それは遺伝ではなく、環境によるものと推察できる。

 安藤さんによれば、一卵性双生児がよく似たライフコースをたどるケースはめずらしくない。同じ職業に就いているとか、同じ時期に同じ病気をしているといった逸話には事欠かない。

 研究によって明らかになったのは、「あらゆる能力には遺伝がある」ということだった。

 例えば、知能には4割から7割弱が遺伝の影響がある。大人になるほど遺伝の割合が増える。学業成績は、学年や科目によるが、1割強から5割強が遺伝で説明できる。知能に比べれば、学業成績のほうが環境の影響が大きい。ただ国や年齢によっても割合は異なり、イギリスでは子どもの時は知能より学業成績の遺伝率の方が大きいという報告もある。

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教育を語る時に、遺伝のことを誰も語らなかった理由