横浜創英中学・高校校長 工藤勇一(くどう・ゆういち、右):1960年、山形県生まれ。公立中学で教育改革を実行し、退職後の2020年4月から現職。内閣府「規制改革推進会議」の専門委員などを務める(写真:本人提供)/芸人 キンタロー。(きんたろー。):1981年、愛知県生まれ。会社員を経て、得意のものまね芸を生かしてお笑いの道へ。社交ダンス講師の資格も持つ。2児の母(撮影/大野洋介)

キンタロー。:私は、生まれたばかりの我が子が小さくてふにゃふにゃで、ついつい過保護になりがちでしたが、人間を育てるために自分に何ができるだろうと考え、モンテッソーリ教育のアシスタント講習を受けたことがあります。すごく勉強になったのは、いかに自分の子どもを信頼するかということです。

 動物の赤ちゃんは脳が形成された状態で生まれてくるので、すぐに立ち上がることができますが、人間の子どもは生まれてからも精神的胎児として扱い、親が自律を促していく必要があります。そのためには親が介入するのではなく、観察し、見守ることが大切だと。すごく反省して、どうしても危険が及びそうな時以外は、見守るというマインドに修正しました。

工藤:それは、素晴らしい気づきですね。大人が介入を続けていくと、思春期にはその介入がうっとうしくなる感情が出てきますが、主体性を失ってしまった子どもは自分のために何かやってほしいと期待することからやっぱり逃げられない。そして、うまくいかないことが起こるたびに人や環境のせいにするんですよ。

キンタロー。:そうですね。

工藤:欧米では、生まれ持った主体性を失わないような教育が主流です。例えば、人間関係のトラブルが起きた時も大人はできるだけ関わらない。「嫌だ」と言ったり、泣いている相手の姿を見てびっくりしたりしながら子ども同士で、上手に遊ぶためにどうすればいいかを考え、折り合いをつけていくんです。

 一方の日本は、対立をすごく嫌います。何かあれば必ず親や先生が来てくれるから、当事者意識が育ちません。主体性もないから子どもたちはグループになりがちです。

衝突から学ぶことも

キンタロー。:高校生の時、カナダに留学しました。ある時、ひとりの生徒が転校生をロッカーの前に呼び出してケンカを始めたんです。女の子同士ですが、「都会から来て調子乗るな」「田舎者が何言ってんだ」とまさに取っ組み合い状態で、さらに周囲は「Fight! Fight!」と声をかけながら見ている。勝ち負けがつき、すっきりした2人が仲良くなったのを見た時、本当に驚きました。

 日本のいじめは陰湿です。「無視しよう」と書いた手紙をこそこそ回して、周囲を巻き込みながらじわじわ追い詰めていくんです。でもカナダはシンプルにA対B。気に入らなければ、自分の意思でケンカし、摩擦を収めていく。子育てをしていると、お友達とのいざこざはない方がいいと思いがちでしたが、衝突から学ぶこともあるので、今はケンカも子どもに委ねたいと思っています。

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