日本では子どものことが心配でつい過保護になってしまう親は少なくないだろう。一方、欧米では主体性を失わないような教育が主流だという。「子どもの自律」の重要性について、学校改革を進める横浜創英中学・高校校長の工藤勇一さんとキンタロー。さんが語り合った。AERA 2023年11月20日号より。
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キンタロー。:よろしくお願いします。いま3歳と1歳の子どもを育てているので、校長先生とお話しできることを楽しみにしてきました。
工藤勇一(以下、工藤):よろしくお願いします。僕は大学卒業後、出身地の山形県内の公立中学校の教員になりました。5年後に東京都の教員採用試験を受け、それ以降は都内で教壇に立ち、2014年から校長を務めた千代田区立麹町中学では、宿題や定期テストを廃止するなどの教育改革を進めました。ずっと大事にしてきたのは「子どもの自律」です。
僕が考える「自律」とは大きく言って二つです。一つは主体性、二つめは当事者意識です。
キンタロー。:なるほど、そうなんですね。主体性とは、具体的にどんなものですか?
工藤:「自分事」にできるかどうか、ですね。人間は、生まれた時はみんな主体的です。寝返りしてハイハイして、つかまり立ちして歩き出します。教えなくても、でっぱりがあったら押してみたり、物が落ちていたら口に入れたりしますよね。大人が余計なことをしなければ、子どもはずっと自分のやりたいことをやりながら主体的に生きていくわけです。小学生くらいで「うちの子は自分から何もできないんです」と言うお母さんがいますが、それは基本的には後天的だということです。そして親や周囲の大人たちが、子どもによかれと思って「ああしなさい、こうしなさい」と言えば言うほど当事者意識は失われていきます。例えば、子どもの公園デビュー。砂場にいる子にお母さんが声をかけるんです。「一緒に遊ばせてくれる?」と。
キンタロー。:ああ、お母さんが言っちゃうんですよね。
親は介入せずに見守る
工藤:すると、その遊んでいる子のお母さんが「どうぞ」と言って、我が子に「スコップを貸してあげたら?」と言う。貸してもらったら、お母さんが「ありがとう」と言って、子どもに「ありがとう、は?」と促す。取り合いになったりすると「代わりばんこね」と介入する。幼稚園や保育園でも同じようなことが行われています。