一方、「脱ステロイド」と名のついた療法については、注意喚起をしています。湿疹がひどいときにステロイド外用薬をやめると、急速に悪化することが多いからです。脱ステロイドに傾倒している人として、「1990年代、ステロイド外用薬の副作用についての誤解が広がった際、子どもだった世代の方ということがあります」と矢上医師は言います。

「その人たちが親になり、子どもに脱ステロイドをすすめていることがあります。子どもの症状がひどくなり、慌てた他の家族が連れてくるケースを経験しています。このようなことを防ぐためにも、主治医と患者側との信頼関係が重要と考えています」(矢上医師)

内服薬や注射剤で重症のアトピー性皮膚炎が改善することも

 矢上医師によれば、アトピー性皮膚炎の治療法は確立していますが、外用薬の塗り方や生活面での指導などを含め、治療への取り組み方には医師間で差があります。

「このため、現在、かかっている医師の治療に不安や疑問を感じる場合は、思い切って医療機関をかえてみることをすすめます」

 医師や医療機関を選ぶ際には、アトピー性皮膚炎の治療に取り組んでいる全国の医療機関や専門医が掲載されている「アレルギーポータル」(https://allergyportal.jp/facility/)が参考になります。

重症・長期化するアトピー性皮膚炎患者への治療薬

 専門医のいる医療機関では、ステロイド外用薬のほか内服薬や注射剤による全身療法、スキンケアや生活指導までを丁寧におこなっています。

「とくに全身療法は効果的で、なかなかよくならなかった患者さんが寛解を維持できるようになりました。高校2年生の女の子はハウスダストやダニアレルギーのある重症のアトピー性皮膚炎で、家に閉じこもりがちでしたが、注射剤の生物学的製剤(デュピルマブ)を始めたところ症状がきれいに改善。幼少期以来、初めて友人の家に遊びに行くことができました。『部活も続けることができる』と喜んでいました」(矢上医師)

 冒頭に紹介した健二さんも、この注射剤を使用しています。

「治療の選択肢は広がっていますから、あとは本人の治したい気持ちが重要。時間はかかっても、『ここに来てよかった』と思ってもらえるよう、サポートしていきたいと思います」(同)

(文/狩生聖子)

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