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沼袋にある「つくろい東京ファンド」に戻ると、わいわいとにぎやかだ。専従スタッフは基本5人いて、ほかに経理のユミさんやボランティアの人たちがいる。コロナ禍になって大忙しで、新たに専従スタッフとなった村田結さんに、男性に会った話をする。
「立派なマンションに住んでるって言ってたんだけどね」
「男性はそういう方が多いです。自分が困ってることを伝えるのが苦手な方も多く、昔はこんなだったんだぞと大きく言ったり、鬱っぽく、怒りっぽくなる人もいます」
「そういうのを聞いてあげるの?面倒にならない?」
「基本的に興味がありますから」
30代初め、若い村田さんがどうしてそう出来るんだろ?
「小学校からピアノを始めて音楽が好きだったんですけど、精神的に具合が悪くなって、行くところがなくなっちゃったんです。18歳でした。それで、テレビで見たホスピスで傾聴ボランティアを始めました。人生の残り時間を好きなように過ごさせてくれるそこで、昔社長さんだった方が自分には『氷結』のロング缶を、私にはお菓子を買ってくれ、『昔は愛人が何人もいて、当時は高かった携帯をみんなに持たせてさぁ』とか話してくれるんです。私はふむふむ聞いてました。みんな往生なことがあっても一生懸命に、好きなように生きてるんだなぁと思って、私も自分の好きなことをやろうと、あきらめていた音楽をまたやることにしました」
小柄な村田さんが「つくろい」が支援するお年寄りの背中にソッと手を添えるように病院に連れて行ったり、外国の人の荷物を運ぶのを手伝っていたりする姿を、沼袋でよく見かける。その姿も「これ」だよなぁ。村田さんの音楽、今度ゆっくり聞いてみたい。
それから外に出て、駅前にある100均に寄る。靴を洗うたわしを買って、気になってたことを、レジを打つ男性に聞いてみた。
「ここって、もしかしなくても、おじさんが経営してるんですか?」
いきなり尋ねる変な人だ、私。でも男性はためらいなく答える。