店を出て、さらにぶらつく。目に入ったのは、一軒の古書店。そういえば以前、「つくろい」のシェルターに仮住まいする本好きな男性が入院することになって、ここで2~3冊見つくろって送ったっけ。久しぶりに店先の棚をのぞき込む。1冊選び、ぎっしり両棚に本が並ぶ店内に入って奥に座る女性に渡すと、280円と書いてあったのに「100円でいいです」と言うから、ありがたく100円を支払う。それから「ここらはみんな、拡張工事でお店がなくなっちゃうんですかね」と聞くと、「どうでしょうか、そうそう簡単にみなさん、建て替えるとは思えないですけど」と言う。敷地が狭くなるとか、営業上の問題が大きい。「そうですよねぇ」と少しホッとして答えながら棚を見回すと、哲学書や、タイトルだけでは何の本か判断しかねる学術書がぎっしり並ぶ。すると女性が「うちはそれとは別におしまいにするかもしれません」と言う。どうして?

「ここは夫がやっていたんですが、去年の暮れに亡くなったんです」

 ええーっ、なんてことだろう。「これだけの本があって、もったいないです」と答えて、また棚をぐるり見回した。

「でも、お客さんに本のことを聞かれても私は分からなくて、もうしわけない。大学の先生や、その生徒さんたちが多くいらして、夫はその方たちと話し込んでました」

 ああ、そうか。でも……。

「そこにある椅子、そこにみなさん、腰掛けて話されていたんです」

 言われて初めて椅子に気がついた。小さな木製のスツール。その脇には古いこけしがいくつも並ぶ。「本の買い取りに行くと、『いっしょに持って行ってほしい』と預かって、いつの間にか増えました」

 以前に文庫を買ったときに見かけた、亡くなった店主の姿を思い出し、「これといったものがない」町での、お客さんたちとの濃密であったろう本を巡る時間を思う。でも、女性もまたおしゃべり好きで、あれこれ思い出を語ってくれる。そうやってお客さんと、もうしばらくここで思い出語りをしてくれやしませんかね。

「また来ます」

 そう言って、店を出た。

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