「はい、そうですよ」

 やっぱり。

「仕入れ問屋があって、そこから自分で仕入れてます」

 へ~、と思ったらお客さんが来て会話はおしまい。ここは沼袋の人気店。小さな店内にすきまなく物が並び、「沼袋のドンキ」と勝手に呼んでいる。ないものは、ない(はずだ)。ないと思って「あります?」と尋ねると、たいてい出てくる。「ドラえもんいます?」と聞いたら、出てきそうな勢いだ。

 沼袋にはもう一軒、人気の店がある。Sという床屋で、格安カットの昭和版といったところ。何がどう昭和かって、店構えもだけど、切ってくれる理容師さん3人が88歳を筆頭に皆、後期高齢者だ。私も行くたび長老88歳に切ってもらうけど、一時期ちょっと疲れてるかな?と見え、左右のバランスが悪かったり、短く切りすぎて、「ちょっとちょっと」と私があたふた止めた。「なのに何故、行く?」と友達に聞かれるが、長老も元気が戻れば大丈夫。左右の長さもしつこいほど(笑)チェックして、「何かあったら、いつでも直すから」って言う。

 店には用もない近所のおじさんがおしゃべりをしに来ていたり、「長崎で原爆に遭った」話なども聞かせてくれる。どうしても短く切りたがりなのは、「おねえさん(←私のこと)切ってると、娘を子どもの頃に切ってたのを思い出すの」って言う。娘は私とさほど年が変わらなく、子どもの頃は短く刈り上げていたらしい。それを聞いたら、まぁ、短くても伸びるよね~って思っている。長老の口癖は「若くなりたい」で、若くなったら何するの?と聞くと、「仕事をしたい」と言う。それなら、私もずっと切ってもらわなきゃ。

 さて、「つくろい東京ファンド」が営む「カフェ潮の路」ではコロナ禍になってお弁当を配布/販売している。そこにエプロンをつけて立つ代表の稲葉剛さんになんで沼袋なんですか?を聞いた。

「2013年の末にビルのオーナーさんからワンフロア丸々、安価で貸して下さる申し出を受けました。当時はホームレス状態の人が都内で生活保護申請をすると、大人数の相部屋の施設が紹介され、いじめられたり、お金をたかられ、また路上に戻ってしまう負のサイクルが続いてました。そこで個室型のシェルターを沼袋に開設し、その運営のために『つくろい』を立ち上げたんです」

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