それとはまた別の日の、日曜日。沼袋を目指して歩いていたら目の端っこに、植え込みに座り込む男性が映った。ん? スタスタと近寄って、「おじさん、ダイジョブですか?」と聞いてみた。顔を上げた男性は、「歩けなくなりました」と答える。「お水飲みます?」と聞くと「はい」と言うので、「コンビニで買ってくるから、待っててください」と言って小走りに踏み出すと、私の背中に向けて男性が、「おにぎりを1つ買ってください」と、思ったより元気な声で言う。「わかりました」と叫んで、コンビニでおにぎりや水を買って渡した。それから隣に座って話を聞けば、救急車で運ばれた病院から出て来ちゃったことが分かった。どうしたらいい?

「つくろい」の小林さんに電話を入れて相談すると、病院へ連れて行ってほしいと言われて正直なとこ、面倒に思った。とはいえ、置き去りには出来ない。なんとかお連れすると、事情がちょっと違った。宿直医なのか若い男性が「何も問題ないって、さっき言ったでしょう」と、冷たくあしらう。「座り込んでいたから、診てやってよ~」と私が言うと、医師らしき人はちょっと困った顔をした。だけど私自身もこれ以上はどうしたらいいか分からず、「じゃ!」と帰ろうとしたら、「帰りのタクシー代を千円貸してください」と男性がまた私の背中に言うから、振り向いて千円を渡し、ひとり沼袋に向かった。

 そして翌日、「つくろい」の小林さんが男性の家を訪問するという。生活困窮者支援というと公園での炊き出しが思い浮かぶだろうけど、「つくろい」の支援は家を失くした方などをシェルターにまず保護し、生活保護利用につないでアパートに転宅を出来るよう手伝う。人が生きる基本には住まいがあり、住まいは人権、という考え方だ。その後もアパートにぽつんと孤独にならないよう、訪問を続ける。小林さんが「この方も訪問リストに加えてほしいか聞きに行く」と言うから、「一緒に行ってもいい?」と私も同行することにした。

 前日に男性から聞いた「マンション」の住所に着くと、そこはこぢんまりとしたアパートで、残念ながら留守だった。仕方なく手紙をドアに挟み、帰ろうとするとアパートの横の木に小さな花が咲いているのを小林さんが見つけ、「わぁ、夏みかんの花。香りがいいよ、ほら」と言う。私も嗅いで、「癒やされる~!」とおよそ癒やされている風ではない叫びをあげた。

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