撮影/写真映像部・馬場岳人
撮影/写真映像部・馬場岳人

 沼袋で良かったですか?

「はい。生活保護で1人世帯の家賃扶助の上限が、東京では5万3700円。沼袋ならマンションみたいな所も借りられたりします。駅前のN不動産のおかげですが」

 N不動産? 気になって訪ねたら、社長さんが話に応じてくれ、「私がここを始めた20年前、この地域は留学生が多かったんです。そこからおじいちゃん、おばあちゃん、次は福祉の方と、だんだんお客さんが広がりました。みなさん、いい人だなぁって純粋にそう感じています」と言う。そして、「お知り合いがお知り合いを呼んでくれた感じですかねぇ」とゆっくり、感慨深げに、生活保護を使う人たちに寄り添うことを話してくれた。フリーランスの私自身、家探しにはいつも苦労する。頂いた名刺を大事にしまった。

 で、稲葉さんの沼袋談に戻る。

「入居する方は当初、新宿や池袋の路上で長く暮らしていた高齢男性が多かったんで、『つくろい』の屋上にあがって、『あっちが新宿で都庁があって、あちらが池袋でサンシャインがあって』と案内をすると安心してもらえましたね」

 沼袋はちょうどいい場所にある。こんな話をしてる間にもカフェにはお弁当を求める人が続々来て、「オムレツって何が入ってるんですか? 卵?」なんて小林さんに聞いてるから、ついつい笑う。

 そして、「つくろい東京ファンド」という名前について聞いた。

「セーフティネットが整備されてきてもほころびがまだあちこちにあって、それをつくろうという意味と、ファンド(基金)には、スタッフがそれぞれアイディアを出し、その時々のニーズに合った活動をしようという意味なんです」

 それを聞いて、事務所で話をしたスタッフの佐々木大志郎さんと、大澤優真さんを思い出す。コロナ禍にあって最初の緊急事態宣言が出された頃、休業となったネットカフェから人が路上にあふれ出て、その支援に「つくろい」はてんてこまいだったが、貧困の形も多様化してきたと二人は話す。

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