「通常のケアをしている人と、ユマニチュードの上手な人では、目を合わせている時間や距離、姿勢が明らかに違うことがわかってきました。20~30センチの距離で、相手と顔の方向をなるべくあわせていくのが、ユマニチュードに習熟した人の特徴です」(中澤准教授)

 もちろん、これらはよいケアの必要条件となりえても十分条件ではないが、介護者にとって大いに参考になる結果だろう。

 ユマニチュードに注目し、分析を行っているのは中澤准教授だけではない。昨年10月、科学技術振興機構(JST)が推進するチーム型研究「クレスト」に採択されて予算がつき、京都大学のほか東京医療センターや静岡大学、九州大学など複数のグループが5年半をかけ、ケアの科学的根拠を研究中だ。

 このプロジェクトで、AIベンチャー「エクサウィザーズ」取締役でエンジニアの坂根裕さんは分析とコーチングAIの開発を進めている。複雑な要素が絡み合う「ケア」こそAIで広がる可能性があると考え、認定インストラクターの資格を取った。

「日本でのユマニチュードは、指導する側の人材育成が追いついていません。ケアの全体をデータ化して、ユマニチュードを見える化し、どう指導すればいいかといった教育にも生かしたいと考えています」(坂根さん)

 開発中のAIはアイコンタクトや被介護者との距離を計測するほか、動画を見た指導者側がポイントを書き込める仕様を予定している。指導データを集積すれば、遠隔地でのAIコーチングも可能になるという。

 本田医師は言う。

「ユマニチュードというケアを広めていくと同時に、その質を担保していくことが重要だと考えています。研究者たちの協力を得てAIを上手く活用すれば、より多くの人によいケアを質を保って届けることができるはずです」

(編集部・澤志保)

AERA 2018年11月12日号

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