前回のケア記録時には、吉海さんはまだユマニチュードを学んでいなかった。別室に戻り、吉海さんを指導したユマニチュード認定インストラクターの安武澄夫さん(33)と共に、前回と今回のケア動画を見比べる。

 安武さんが言う。

「前回は目を合わせず部屋に入り、声をかけて眠っている女性を起こし、すぐに口腔ケアをしましたよね」

「口をきつく結んで、なかなか開けてくれませんでした。今日はご挨拶した時、笑ってくれてうれしいですね」(吉海さん) 

 ケアを受ける女性の反応の違いは、その場に居合わせた誰もが実感している。では、具体的にケアの何が違ったのか。原土井病院では、実証実験に賛同した入院者の協力を得て、24人の介護福祉士および看護師による十数人の入院者の複数回に及ぶケアデータを記録する予定だ。

 このデータ分析を担当するのが、京都大学の中澤篤志准教授だ。中澤准教授は、これまで発達障害児の視線を測る研究を行ってきた。

「『ユマニチュード』が視線をうまく使うと聞いて興味を持ち、現場を見せてもらったんです。アイコンタクトが重要な役割を果たしていると感じました」

 そこでAIと画像解析の技術を使って計測することにした。習熟者はどの距離と角度で、どれだけの時間、目を合わせているのか。中澤准教授は2015年、カメラ付きメガネを作り、ケアを受ける相手と目が合っているかを検出するハードとソフトを開発。以来、協力を得られた介護現場に導入してきた。

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