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メーガンさんにくすぶる盗作疑惑、「家族を壊してばかり」の声も… キャサリン妃は写真集と動画で“攻め”に転換
メーガンさんにくすぶる盗作疑惑、「家族を壊してばかり」の声も… キャサリン妃は写真集と動画で“攻め”に転換 2018年7月、テニス・ウィンブルドン選手権を観戦するメーガンさん(右)とキャサリン妃 (c)朝日新聞社 (左から)メーガンさんが6月に出す児童書『ザ・ベンチ』/5月7日にキャサリン妃が出版した『HOLD STILL:A Portrait of Our Nation in 2020』  英王室のキャサリン妃とメーガンさんが同時期に本を出版する。何かと比較される2人だが、さっそく英国でさまざまな反応が出ている。AERA 2021年5月24日号の記事を紹介する。 *  *  *  4月17日、99歳で逝去したエディンバラ公フィリップ殿下の葬儀が営まれた。葬儀後のキャサリン妃(39)の振る舞いに注目が集まった。礼拝堂から出て歩き始めると、妃はふとヘンリー王子(36)に言葉をかけた。2人の会話にウィリアム王子(38)が加わると、妃は歩みを遅らせて、後ろのソフィー妃に合流した。おかげで確執のさなかにある兄と弟は、顔を合わせて話す機会を得たのだ。キャサリン妃のさりげない心遣いは、「ピースメーカー(平和をもたらそうとする人。仲裁人)」と絶賛された。夫は弟と口も利かない状態がこのまま続くことを本当は望んでいないと推測、場を作ったのだ。「家族をつなぐキャサリン妃。それに比べメーガンさんは家族を壊してばかり」と英国の人びとはメディアにコメントを寄せた。  メーガンさん(39)は妊娠中で葬儀を欠席したが、フィリップ殿下に花輪を贈った。それには花の説明が添えられていた。殿下の母国ギリシャの国花アカンサスを加えたなど、詳細にわたった。葬儀には親戚などから合計九つの花輪が手向けられたが、公表したのはメーガンさんだけだった。しかも、フローリストをウィロー・クロスリーさんと明かし、結婚式後の披露宴もアーチー君(2)の洗礼式も彼女に依頼したと書き添えた。「メーガンさんは、注目を奪いたくないと言っていたはず。それなら静かにしていて」と批判された。 ■父の日に綴った詩  父の日に向け6月8日に、メーガンさんは児童書『ザ・ベンチ』を出すと5月4日に発表。表紙にはベンチが描かれ、一部公開されたページには、帰還した赤毛の兵士が、男の子を抱き上げる姿が描かれている。家の窓辺に立つ女性はその光景に涙を流している。メーガンさんは、アーチー君が生まれた年の父の日にヘンリー王子に向けて綴った自作の詩がもとになると話した。「父と子の絆を描いた心温まる一冊で、世代を超えて読まれるに違いない」と発売元は力を込める。  しかし、すぐに「盗作ではないか」との声が上がった。英国の児童作家コーリン・アーヴェリスさんが2018年に出した『The Boy on the Bench(原題)』とそっくりだという。表紙には、父親と男の子がベンチに座る姿が見られる。ベンチを舞台に父親と子どもの絆を描いていて、類似点は多い。メーガンさんは、王室にまだいた19年に雑誌「ヴォーグ」(英国版)のゲストエディターとして表紙のデザインを任された。発売されると、オーストラリアで16年に出版された書籍の表紙とうり二つと指摘された。ともに、何人もの女性の顔が並ぶ図柄だった。 ■表紙に公爵夫人の称号  さらに、20年10月に行われた経済誌「フォーチュン」主催のバーチャルサミットで、メーガンさんは、「“ユーザー”という言葉で利用者を意味するのは、SNSと薬物中毒です」と話した。これは、ネットフリックスで配信されているドキュメンタリー映画「監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影」で引用された専門家の言葉と同じと言われた。このように過去に盗作疑惑が何回か浮上しているため、今回も「またか」という視線を投げられたのだった。  しかし、出版発表の翌日にアーヴェリスさんが「説明と公開された抜粋を読みましたが、同じ物語ではなくテーマも違う。類似点は見当たらない」と全面否定。彼女の素早いきっぱりとした反応に、「よほどトラブルに巻き込まれたくなかったに違いない」と言われている。とはいえ、父親と息子の絆やベンチと似た題材がそろっていることから、盗作を疑う声はくすぶっているようだ。  さらに、メーガンさんは表紙に著者として、「メーガン、サセックス公爵夫人」と明記した。王室の評判を落とす発言を連発して離脱の正当性を訴えたメーガンさんが、結婚の際にエリザベス女王(95)から授与された称号を誇らしげに著書に記す。メディアは、女王が弁護士を通して、出版社に称号を削除するように申し入れたと報じた。 ■コロナ禍で撮影の写真  これを受けて英国のデイリーエクスプレス紙が緊急アンケートを実施。約2万8千人の回答者の98%が「称号を使用するべきではない」とした。「使っても構わない」は2%に満たず、残りは「わからない」だった。  さらに、絵本のテーマは父と子の絆であるが、メーガンさんは実生活では父親トーマスさんとの交流を断っている。自宅から車で1時間余りの距離とされているが、アーチー君もヘンリー王子もトーマスさんに会っていない。さらにチャールズ皇太子とヘンリー王子の仲は改善していない。王子はオプラ・ウィンフリーさんのインタビュー番組で、「父と兄は王室にとらわれている」と言い放ち、「電話に出てくれない」「経済的援助を打ち切った」と父をなじった。父子はフィリップ殿下の葬儀で言葉は交わしたものの、和解のニュースはない。実生活では父との絆が築けていない王子夫妻。絵本について「説得力に欠ける」との声が英国では多い。  一方、キャサリン妃も5月7日に、本を出版した。英国の最初のロックダウンから1年が経ったところで、妃はナショナル・ポートレート・ギャラリー(国立肖像画美術館)と共同で、写真集『HOLD STILL(ホールド スティル):A Portrait of Our Nation in 2020』を発売した。コロナ禍で撮影された写真を一般募集したところ、全国から3万点以上の作品が寄せられた。妃などが審査して100点を選びだした。パンデミックのもと、厳しい暮らしを余儀なくされた人びとの喜怒哀楽を生々しくとらえた力作ぞろい。本の売り上げは、メンタルヘルスの慈善団体と国立肖像画美術館に寄付される。 ■生の姿をもっと見せる  5月6日のアマゾンのベストセラーチャートによると、予約数で『HOLD STILL』は5位で、『ザ・ベンチ』は24位だった。『ザ・ベンチ』は発売の1カ月ほど前だが、12.99ポンド(約2千円)から価格が下がり、すでに9.99ポンド(約1550円)に落ちた。  ウィリアム王子とキャサリン妃は5月5日、ユーチューバーデビューをした。「遅れたけれど、やらないよりはまし」とユーモアを込めてチャンネルを開設。ただ、王子は始めに「発言には気を付けないとね」と妃に話しかけた。これはヘンリー王子夫妻を意識したものと受け取られている。ウィンフリーさんのインタビューでは、何げなく発した言葉がヘンリー王子夫妻に曲解されたり誤解されてリークされたりした例が見られた。王子の言葉に、妃が「わかっているわ」と間髪を入れず返すなど、息はぴったり。第1弾は、これまでの公務の様子などをダイジェストにして25秒でまとめた。  キャサリン妃とメーガンさんの出版合戦に加えて、ウィリアム王子夫妻がユーチューブチャンネルをこのタイミングで開設した意味は大きい。このところヘンリー王子夫妻に押され気味だった夫妻は、自分たちの生の姿をもっと見せていこうとしている。「守り」から「攻め」への姿勢とも言える転換である。ヘンリー王子は、自由を求めて王室から離脱。ウィリアム王子夫妻にとっては、一家の幸せな様子を打ち出していくことが最も強力な反撃のはずだ。もとよりロイヤルとしての制約はあるが、積極的に王室のイメージ回復に努めたい。それは、国民との親しみを願う夫妻の気持ちに沿っているし王室の近代化にも通じる。エリザベス女王は大幅に公務を減らし、チャールズ皇太子夫妻は不人気のままだ。今後の英王室は自然にウィリアム王子夫妻の肩にかかってくる。今春、結婚10周年を迎えた2人に、覚悟はすでにできているのだろう。(ジャーナリスト・多賀幹子) ※AERA 2021年5月24日号
小室さん問題にゆれる天皇家 宮内庁が拒むワクチン接種の公表と交差する宮家の思い
小室さん問題にゆれる天皇家 宮内庁が拒むワクチン接種の公表と交差する宮家の思い 歓談する天皇、皇后両陛下と長女愛子さま、上皇ご夫妻、秋篠宮ご一家(c)朝日新聞社(宮内庁提供)  自治体の首長など公の立場にある人のワクチンの優先接種の是非。見苦しい言い訳をした首長には一般の人から疑いのまなざしが注がれる一方で、職務や責務を果たすために理由を堂々と説明した場合には多くの理解が得られている。「皇族」方の接種状況はどうなっているのだろうか。 「今のところ公表の予定はない」  宮内庁の西村泰彦長官は、5月13日の定例会見でも皇室の方々への新型コロナウイルスワクチンの接種状況を公表しないと言い切っている。「個人情報」にあたるという理由だ。    天皇は憲法に定められた通り、日本の象徴でもあり、国際親善の場においては、元首の扱いだ。天皇陛下は61歳、と皇后雅子さまは57歳。4月から接種が始まった65歳以上には数年届かないが、感染すれば影響は大きい。「皇室枠」はあるのか。  宮内庁にたずねると、「優先接種」はないという。 「国が定めた接種年齢に従って接種するので、優先して受けることはありません」  高齢化が進む皇室。18方いる皇室メンバーのうち、4月から接種が始まった65歳以上には、7方が該当する。最高齢となる三笠宮妃百合子さま(97)を筆頭に、上皇さま(87)と美智子さま(86)、常陸宮さま(85)と華子さま(80)、高円宮妃久子さま(67)、寛仁親王妃信子さま(66)がいる。この7方は、世間でも接種の対象年齢だ。    一般には、居住する自治体の通知を受け取って予約を取る。  両陛下の赤坂御所と皇族方の宮邸がある赤坂御用地と上皇ご夫妻が住む仙洞仮御所は、港区にある。常陸宮ご夫妻が住む宮邸は、渋谷区にある。  これらの自治体が皇族方に、接種の通知を出すのだろうか。 「いえ、天皇陛下や皇族方は住民票がないので、自治体から通知はきません。厚労省や内閣府など関係機関と連携を取って行います」   ワクチンを打つ場所に決まりはあるのか。 「皇居にある宮内庁病院で接種するのか、お住いの御所や宮邸になるのかは、関係機関がご本人と相談して決めることになります」  だが冒頭で触れたように、すでに接種したのかどうかは、「個人情報」にあたるとして宮内庁は、公表しないと繰り返している。  皇室の公務は、オンラインが中心となり感染症対策も取られてはいる。しかし、公務でかかわる相手や、側近や身の回りのお世話をする女官や侍従、職員を含めると、外部との接触を100%遮断して生活するわけにはいかない。  緊急事態宣言前の4月には、両陛下も千代田区の憲法記念館に足を運び、「みどりの式典」に出席しているし、秋篠宮家の眞子さまも勤務先に出勤している。  重症化リスクの高い皇族方もおり、接種の状況が国民にとって関心の高い事柄であるのは間違いない。  かたくなに公表を拒む宮内庁の態度に首をかしげるのは、元宮内庁職員の山下晋司氏も同じだ。  「これまで、天皇や皇族方の健康に関することは、個人情報であっても、国民の大きな関心事の場合は公表してきたはずです。今回、公表しない理由が個人情報というだけでは苦しいのではないでしょうか」  平成の天皇陛下が前立腺がんや心臓のバイパス手術をした際は、皇室医務主幹らが記者会見を開き詳細に経過を公表した。感染症が猛威をふるったときも同じだ。2009年には、天皇陛下や皇族方が新型の豚インフルエンザワクチンの接種を受けたこと、2013年には、皇太子であったいまの天皇陛下がインフルエンザを発症した際にも、投薬や予防接種の状況を公表している。  立憲民主党の大西健介議員は、4月の衆院内閣委員会で皇室へのワクチン接種の状況について質問している。質問を出した理由について、こう話す。 「公開せずに隠すほうが、よほどあれこれと憶測を呼んでしまう。明らかにするほうが、よほどいい。菅義偉総理も訪米を控えて感染症対策を万全にするために、2回接種したことを公表しています。日本国の象徴と定められた天皇陛下が、接種したことで批判が沸き起こるとは考え難い」  海外の王室も明らかにすることで、混乱をさけている。英王室は、これまで王室メンバーの医療問題を公表してこなかった。しかし、エリザベス女王やチャールズ皇太子などは、「世間の憶測を打ち消すため」に、接種したことを明らかにしている。  逆に、隠すことで信頼を失墜させたのはスペイン王室だ。国内ではワクチンの接種対象になっていなかった50代の王女2人が、中東でひそかに接種を受けていたことが報じられ、王室への反発を招いている。  先の山下氏は、皇室が公表しない背景についてこう分析する。  「ワクチン接種は皇室の方々全員に関わることですが、個人情報のため、公表するためにはご本人の同意が必要です。おそらく、『公表するべき』というお考えの方と『公表する必要はない』というお考えの方がおられて、皇室としての整合性がとれないのではないでしょうか」  宮内庁で要職を経験した人物は、ほとんど外出なさらず感染リスクが極めて低い皇族方の場合、体調によっては接種しないというご判断もあるだろう、と話す。  一方で、別の宮内庁OBは、公表に二の足を踏む宮内庁サイドの心情をこうおもんばかる。 「とくにいまは眞子さまと小室さんの結婚問題で皇室への国民感情が厳しい。役所としても、ワクチン情報ひとつとっても神経をとがらせているのは確かです」  仮に、接種しないという判断をした場合は、「副作用をおそれているのかもしれない」という疑心暗鬼の声が飛び交う可能性もある。逆に、接種のタイミングによっては、「まだ国民の何割しか済ませていないのに」という批判が出るかもしれない。 「個人情報という国民が理解しやすい言葉を掲げて押し通したい、という役所の心境も理解できます」(前出のOB)   悩み深き令和の皇室――が、しばらく続きそうだ。(AERAdot.編集部 永井貴子)
「菅政権は終わり…」二階幹事長ら自民党重鎮は泥試合、官邸でもワクチン接種で”裸の王様” 
「菅政権は終わり…」二階幹事長ら自民党重鎮は泥試合、官邸でもワクチン接種で”裸の王様”  緊急事態宣言の延長などの会見で頭を下げる菅義偉首相(C)朝日新聞社 右から岸田文雄政調会長、二階俊博幹事長、加藤勝信総務会長、甘利明選対委員長(2019年当時)  元法相の河井克行被告と妻で参院議員だった案里氏(自民党離党後、失職)が逮捕・起訴された公職選挙法違反事件に絡み、自民党本部が河井陣営に支出した1億5千万円を巡って、二階俊博幹事長と当時の選対委員長・甘利明氏、当時の政調会長・岸田文雄氏が泥仕合を繰り広げている。  2019年7月の参院広島選挙区で河井被告は妻の案里氏を当選させるため、地元の地方議員ら2900万円をばらまき、公職選挙法違反(買収)に問われ、懲役4年が求刑されている。党本部が河井夫妻へ送った1億5千万円がその原資になったのではないかと、自民党内が紛糾しているのだ。  この問題を再燃させたのは、自民党広島県連会長でもある岸田氏が5月12日、疑問を呈したことだった。 「話題になりました1億5000万円の使途の話。これは総裁も幹事長も、書類が揃ったならばしっかり説明をするということを従来からおっしゃっていた。河井氏の裁判も6月には結審するということでありますので、ぜひそのタイミングで、書類等もしっかり確認した上で、説明責任を果たしてもらいたいということを幹事長に直接、申し上げた」  問題の解明を求める要望書を二階幹事長に提出し、説明責任を果たすように訴えたのだ。だが、それを受けて二階幹事長は17日の会見で「1億5000万のその問題の支出については、私は関与していない」と発言。  二階氏の側近、林幹雄幹事長代理が「当時の甘利選対委員長が担当していた。二階幹事長は細かいことはよく分からないと思う」と補足すると、騒ぎはさらに拡がった。  すると、18日に甘利氏は「1ミリも関わっていない」「支出について、自民党から給付された事実も知らない」と全面的に否定。党幹部の間で、責任をなすり合う騒ぎが勃発した。  克行被告の裁判で、案里氏の参院選で広島県全戸へのチラシの郵送や電話作戦で約1億円以上のカネを使ったことがわかっている。2900万円の原資を克行被告は裁判で「自分のカネ」と主張し、案里氏自身が買収に使ったとされる150万円は「タンス預金」と説明した。しかし、2人からも、検察からもその裏付けとなるものは裁判で明かされていない。  案里氏の150万円のタンス預金はあり得るだろうが、克行被告が用意したという2900万円については自民党内でも憶測を呼んだ。克行被告の元秘書はこう証言する。 「克行被告は、とても細かい性格です。1円のカネでも納得しないと支出を許しません。裁判では自宅金庫に2900万円を保管していたと証言していたが、絶対ないと思う。もしあれば検察は、裁判で金庫の写真など証拠として出しているはず。銀行口座にも、そんな大きなカネはなかったんじゃないか。買収のカネは、どういう形かは別にして、自民党から出ているとしか思えませんよ」  自民党は以前から克行被告の事件で資料が検察に押収されているので、1億5千万円の使途が報告ができないとしていた。だが、克行被告の判決は6月18日に言い渡される予定だ。裁判が終わり押収品の返還があれば、その言い訳も通用しない。元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士はこう指摘する。 「克行被告、案里氏の裁判を細かく見てゆくと、問題の2900万円すべてか、どうかは別にして、自民党からの1億5千万円が含まれていたのはまず間違いない。すでに自民党や克行被告が1億5千万円の支出を認めているので、これは表のカネだ。二階氏か甘利氏か、もしくは当時、自民党総裁だった安倍晋三前首相なのか。この3人うちの誰かが指示しないと河井夫妻には大金が渡ることはなかったはず。自民党本部は買収に使われることを知っていて1億5千万円を出した可能性もある」  自民党の閣僚経験者も1億5千万円問題の危険性についてこう危惧する。 「二階幹事長、岸田元政調会長、甘利元選対委員長と重鎮たちが言い争うのは、それだけ自民党にとって克行被告の1億5千万円がヤバイという認めているようなもの。現在の総裁は菅首相なので、ビシッと言えばいい。しかし、その菅首相は当時、官房長官として先頭に立って案里氏の応援で広島入りし、パンケーキまで一緒に食べた仲。知らん顔するしかない。コロナで支持率低下の菅政権に1億5千万円の問題が再燃したら、もう終わりだろうね」     菅首相は緊急事態宣言を5月末まで延長するなどしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を押さえられず、朝日新聞社の全国世論調査(15、16日電話)では内閣支持率は33%(前回4月は40%)まで急落。昨年9月の発足以来、最低タイとなり、危険水域となっている。自民党だけでなく、官邸でも菅首相は”裸の王様”状態という。 「安倍政権の官邸とは異なり、議論することはなく、菅首相は悪い意味で何でも自分で決めています。ワクチン接種でも西村経済再生担当相、田村厚生労働相は『専門家の方ばかり見ている』と日頃から首相に怒られて萎縮していますし、河野ワクチン担当相は唯我独尊。岸防衛相、武田総務相など船頭を増やした結果、スタンドプレーや主導権争い、足の引っ張り合いを生んでいます。とりわけワクチンに関しては、『高齢者7月末接種完了』『大規模接種センターでの1万人接種』など菅首相の独善的かつ現場無視の指示で、完全に混迷状態で関係閣僚は翻弄され、さすがに疲弊しています。『とにかくワクチンを打て』と日々、追い立てられれば、求心力が低下するのは必然です。首相自身、周囲のスタッフを含めて信用していないから忠誠心や士気も低下します。まさに”裸の王様”と思います」(政府関係者)  菅政権は正念場を迎えている。(今西憲之 AERAdot.取材班)
美しい引き際とは 吉永小百合も悩んだ過去、白鵬にとっての不幸は…?
美しい引き際とは 吉永小百合も悩んだ過去、白鵬にとっての不幸は…? 左から、官邸を後にする小泉純一郎元首相、今場所も姿は見えない白鵬、引退公演の時の山口百恵さん (c)朝日新聞社 主な著名人の引き際 (週刊朝日2021年5月28日号より)  9日から始まった大相撲夏場所にも、白鵬の姿は見えない。今や、横綱の休場が話題にもならないほどになっている。晩節を汚しても地位に恋々とする人、潔く辞める人、死に物狂いで再起を目指す人……。引き際にこそ、人生観が表れる。 *  *  * 「40歳を過ぎた頃、女優を続けるべきかどうか悩んでいました」  以前、記者が吉永小百合にインタビューしたとき、彼女はそう答えた。  田中絹代の半生を描く「映画女優」(1987年)で田中役を演じるにあたって、引き際について考えたという。 <私は、原節子さんが42歳で引退なさったことを知っていました。人気の高いとき、まるで天照大神が天の岩戸に隠れるように。そういう引き方もあるんですね。  田中絹代さんは「楢山節考」で、ご自分の健康な歯を抜いておばあさんの役をなさるなど、女優としての魂をずっと持ち続けました。  どちらの生き方も素晴らしい>(本誌2018年2月23日号)  さて、最近で引き際が気になる人といえば、白鵬だろう。  昨年の春場所で通算44度目の優勝を果たしたが、それ以降、一度として15日間の土俵をまっとうした場所はない。この1年間、春場所までの5場所(昨年夏場所は中止)の成績は、12勝4敗59休。鶴竜は今年の春場所11日目に引退したが、白鵬はそれでも土俵を割らない。  横綱を「かわいそう」と評するのは、『男の引き際』という著書があるジャーナリストの黒井克行さんだ。 「引き際を間違わせてしまうのは、未練と独善です。特にアスリートの場合は若い頃から一筋で生きているので、その世界の居心地が良すぎる一方で、他の世界に出るのが怖い。そのためパフォーマンスが落ちても、『ここで引退したら後悔する』と未練を持ちます。加えて白鵬はライバルがいなかったので、自分は強いんだ、特別なんだという独善に陥りました。これは不幸なことです」  そう解説する黒井さんは、幸せな例として千代の富士を挙げた。  千代の富士は、ちょうど30年前の1991年夏場所の初日に、当時18歳だった貴花田(後の横綱・貴乃花)と対戦。完敗した。2日目こそ勝ったが、3日目の貴闘力戦に敗れると、潔く引退を表明。会見では「体力の限界……」と発した。 「貴花田に負けて新旧交代を実感し、自身の限界を納得することができたからです」(黒井さん)  白鵬に限界を納得させるだけの力士がいないことが、本人にとっても角界にとっても不幸なことなのだ。  スポーツ選手が引退をちゅうちょする理由が未練ならば、政財界の大立者が粘るのは独善によるところが大きいだろう。  田中角栄元首相は76年にロッキード事件で逮捕され、83年の一審、87年の二審で有罪判決が出ても議員辞職はしなかった。 「もし逮捕後に潔く辞めていれば、ロッキードの田中ではなく、日中国交を正常化した歴史的宰相として記憶に残ったでしょうに」(黒井さん)  田中氏に鈴をつけようとした人物がいた。当時の首相・中曽根康弘氏は<国を救い、党を救い、内閣を救うために>議員バッジを外すよう頼む手紙をしたためた。  しかし、中曽根氏も、自分の時は潔く、とはいかなかった。自民党は2000年の総選挙から比例区での73歳定年制を導入し、当時の小泉純一郎首相に引退を勧告された。中曽根氏は最終的には従ったものの、「政治的テロだ」と強く抵抗した。  このとき中曽根氏に会って引導を渡す役目を負ったのが、安倍晋三幹事長(当時)だった。  小泉氏が潔く総理も議員も辞めたのに対し、安倍氏は森友、加計、桜を見る会……など、問題が多発しても総理の座に居座り続けた。人生いろいろ、引き際いろいろといったところだ。  独善の塊のようなトランプ前米大統領は、選挙に敗れても負けを認めなかった。ホワイトハウス前での抗議集会で演説し、支持者たちの連邦議会議事堂への乱入を誘発したのは記憶に新しい。  最近の日本の政治家でいえば、逮捕・起訴後も辞職しなかった河井克行・案里夫妻。報酬が払われ続けてしまった。  経営者に目を転じると、ワンマンで鳴らすスズキの鈴木修会長が粘り腰を発揮した。最初に社長の座に就いたのは1978年。以後、40年余りにわたって君臨。来月ようやく退任するが、後継者育成がなされていないことを危惧する声が多い。  とはいえ、必ずしも潔く辞めることが素晴らしいというわけではない。前述の黒井さんは、サッカーの三浦知良の姿勢を褒める。 「カズが戦力としてどこまで機能しているかは疑問ですが、50歳を過ぎてもなおしっかりとトレーニングを積んで、試合に備えています。その姿勢を知っているだけに、チームもファンも納得して支持するんです」  同様に尊敬されるアスリートとして、野茂英雄が挙げられる。メジャー球団から契約を打ち切られた後、ベネズエラの球団やマイナー球団で投げ続け、40歳になる年にメジャーで3試合に登板して投手生命をまっとうした。また、スキージャンプの葛西紀明は、2014~15シーズンのワールドカップルカ大会で最年長優勝を飾り、48歳の現在も現役で活躍中だ。  冒頭で紹介した吉永小百合も葛藤したあげく、<映画と一緒に自然に年を重ねていけたら>(同前)と、女優を続けることを決意。それから30年以上も主役を張っている。  引き際に正解はないが、その人の人生観は垣間見えるのである。(本誌・菊地武顕) ※週刊朝日  2021年5月28日号
「紀州のドン・ファン」元妻を詐欺で再逮捕 裁判開始まで1年以上かかる理由 
「紀州のドン・ファン」元妻を詐欺で再逮捕 裁判開始まで1年以上かかる理由  逮捕・起訴された須藤早貴容疑者(C)朝日新聞社  2018年5月、和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さん(当時77)が急性覚せい剤中毒で怪死した事件で、和歌山地検は逮捕された元妻の須藤早貴被告を5月19日、殺人と覚せい剤取締法違反容疑で起訴した。  和歌山県警は同日、札幌市在住の60代男性から16年1月、1170万円をだまし取ったとして詐欺容疑で再逮捕した。  野崎さんより55歳も年下の須藤容疑者は、事件の約3カ月前となる18年2月に結婚。その後は毎月、100万円の「お手当」をもらい、ほとんど東京で一人暮らしをしていた。だが、野崎さんが急死した当時(18年5月24日前後)は一緒に和歌山の自宅で過ごし、第一発見者でもあったので、事件当初から疑惑の目が向けられていた。 「野崎さんの遺体の状況、事件現場から外部からの侵入の様子はなかった。野崎さんが大好きな瓶ビールを2000本などを鑑定したが覚せい剤は検出されなかった。そうなれば、須藤容疑者か、お手伝いさんのどちらかしかいない。お手伝いさんから徹底的に事情聴取をして周辺も調べた結果、絶対に犯人ではないことがわかった。野崎さんを覚せい剤で殺害できたのは須藤容疑者しかいない、という消去法で逮捕、起訴に至った」(捜査関係者)  当初から和歌山県警は須藤容疑者を最重要人物とみていたが、逮捕、起訴まで3年近くがかかった。和歌山県警の捜査が大きく展開したのは、須藤容疑者と覚せい剤の「接点」だった。  和歌山県警は野崎さんの死因が急性覚せい剤中毒と特定されてから全国の警察などに須藤容疑者と覚せい剤で接点のある人物はいないかと、照会をかけてきた。それが今年になって「ヒット」したことで事件が進展したという。  須藤容疑者に和歌山県内で覚せい剤を売り渡した密売人グループを特定。密売人グループと須藤容疑者の携帯電話の位置情報やSNSの履歴が一致したという。  また、須藤容疑者は自身のスマートフォンからは覚せい剤の入手や殺害方法などを検索していた履歴が残っており、「外堀」は埋められていった。しかし、須藤容疑者の犯行を目撃した人物は誰もいない。犯行を事前にほのめかすような証言、証拠もない。  須藤容疑者の裁判は殺人容疑なので一般市民も加わる、裁判員裁判だ。 須藤容疑者は一貫して否認を続けており、自白調書もない。それをどう和歌山地検が立証できるかが、ポイントだ。 「ありとあらゆるケースを想定して、荒唐無稽な主張をしても、絶対に大丈夫なように捜査を積み重ねてきた」(前出の捜査関係者)  和歌山地検は起訴状で須藤容疑者の単独犯だとしている。須藤容疑者が野崎さんに覚せい剤を摂取させた方法も「何らかの方法」としか記されていない。覚せい剤で野崎さんを殺害できるという知識を、須藤容疑者がネットで検索するだけで把握できたのか。須藤容疑者は野崎さんが急死した2か月後には、2つの会社を引き継ぎ、社長となって会社から約3800万円を自身に送金させている。当時23歳だった須藤容疑者が一人でそこまで考えて、実際に犯行を実行できるのか。疑問は尽きない。  元東京地検特捜部検事の落合洋司弁護士は、裁判で立証してきた経験からこう語る。 「私が担当ならまず、野崎さんの身近な人の証言や毛髪鑑定、臓器などの鑑定で覚せい剤を常習的に使用していないという裏付けを指示します。次にお手伝いさんが絶対にシロだという捜査をし、確定させる。また、裁判員裁判ですから須藤容疑者が殺害に至った、誰もが納得できる動機が不可欠。おそらく野崎さんのカネでしょうから、銀行口座、クレジットカード、普段のカネ使いなどそちらも徹底的に洗う。消去法で須藤容疑者しか犯行に及ぶことができないという立証を積み重ねます。須藤容疑者が法廷でとんでもない主張をしかねませんから、その対応も必要です。すべてが揃ったので、殺人容疑で起訴できたと思います。ただ、物証や目撃証言がない密室の事件。最後は裁判官と裁判員が警察、検察の証拠をどう評価するかですね」  一方でジャーナリストの大谷昭宏氏は起訴についてこう疑問視する。 「和歌山県警が何か隠し玉を持っているとみていました。しかし起訴になっても隠し玉はない。世間を大きく騒がせた事件なので、どうして犯人を逮捕できないんだという、世論に和歌山県警が押されて、立件にしてしまったのではないかという気がします。須藤容疑者は否認と報じられている。これから証拠が開示されますが、その中で覚せい剤を入手したこと動かせない事実があるか。覚せい剤の所持は認めるが、入手は野崎さんの指示だったなどと、2人しか知りえないことを主張するかもしれない。裁判員、裁判所を納得させるだけの立証を検察ができるのか、疑問です」  逮捕後、弁護士の選任まで時間がかかったとされる須藤容疑者。現在は、和歌山県内の国選弁護人がついているという。裁判員裁判がはじまるまで1年以上はかかるとみられる難解事件は今後、どう展開するのか? (今西憲之) ※須藤容疑者が再逮捕されたことにより、加筆しました。
瀬戸内寂聴 不倫相手の死に際に駆け付けるも…待ち受けていた現実
瀬戸内寂聴 不倫相手の死に際に駆け付けるも…待ち受けていた現実 瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。単行本「往復書簡 老親友のナイショ文」(朝日新聞出版、税込み1760円)が発売中。 横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)  半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。 *  *  * ■横尾忠則「好奇心がある間は一人前ではないです」  セトウチさんへ  先週、「これから先の人生が楽しみです」と書きました。これから先といえば死しかないのに、その死が楽しみか、と言われそうですが、ハイ、その死もひっくるめて楽しいんじゃないかと思うようになりました。  やはり、年と共に身体のハンディの個所が増えていきます。この前まで出きていたことが、今日はもう出きなくなったりします。そんな時、無理して抵抗しないようにしました。加齢と共に、その時々に応じた自然体に従えば別に驚くことも恐怖することもないということに気づき始めたのです。この前にも言ったかな? 言ったか言わなかったかということも忘れて、同じことを何度も反復します。だから、よく「さっき聞いた、聞いた」と言われます。そんな時は「何回でも言うたるわ」と言えばいいんです。その内、同じ絵を何枚も描くようなことが起こるかもしれません。もう起こってます。同じ絵を描いて、相手をあきれさせればいいんです。そうなると立派なコンセプチュアルアート(観念芸術)になって思わぬ高い評価を受けるかも知れません。  キリコはほぼ一生の間、同じ「イタリア広場」を描き続けました。モネも同じモチーフを何枚も何枚も描いて、今日の観念芸術の先駆者みたいに言われています。この2人は別に肉体的なハンディがあって、同じモチーフばかり描いていたわけではありません。探究心の追求の努力をしたのです。でも僕が同じ絵ばかり描くのは肉体的自然体によって、そうするわけですから、探究心や努力とは無縁です。  探究心、努力、そんなシンドイことには全く興味ないです。探究心や努力はまだ自己に拘わり過ぎです。そんなもん捨てればいいんです。あゝシンドー、もう飽きた、止めた、でいいんです。森鴎外は「諦念の文学」なんて言われたそーじゃないですか。つまり書くことに飽きたわけでしょ。書くのを諦めた結果、「寒山拾得」みたいな文学を生んだわけです。あの小説の登場人物そのものが、寒山拾得という、まあいい加減な人物を登場させて、小説の最後にはこの2人を小説の外に放り出して「空」なる世界に溶け込まして、鴎外センセは「わしゃしらん」と、無責任な小説を書いて、世評の「諦念の思想」だかなんだかにサービスするわけで、書くことに飽きたり、諦めたりした人間でないと書けない小説です。まあ一種の悟りを得た人でないと、こーいう小説は描けません。  絵も同じで、描く意欲があるとまだダメですね。僕もいい加減に描くことに飽きているんですが、まだほんの少し好奇心が残っているんです。好奇心がある間はまだ一人前ではないです。僕の好奇心は、飽きた、あゝ描きたくないなあ、という気持ちで描きながら、イヤイヤ描いた絵って、どんな絵になるやろ。というそんな絵を見てみたいと思って描いているんですが、この見たいという気持ちがすでに好奇心なんです。このことに無関心になって、初めて画家になれるんですがそれを見てみたいという好奇心があるので、「諦念の絵画」とは言えません。僕のこれからの人生の楽しみというのは、この好奇心抜きで、ただ描くために描いているという境地になることです。ほな、サイナラ。 ■瀬戸内寂聴「今更、後悔も懺悔もありません」  ヨコオさん  今年もはや、四月が終わりましたね。  月日のたつのが何と速くなったこと!  つまり、死への速さが、刻々速度を増している、ということです。こうなると、死ぬことには全く怖れも、脅えも、ありません。  お釈迦様は、亡くなる前に、従者のアーナンダに、 「自分の体は、こわれた部分を革ひもでつなぎとめて、やっと形を保っている車のようなものだ。」  と、おっしゃったそうですが、お釈迦様でなくたって、百歳近くになった人間は、だれしもが、そんなふうに思うでしょう。  私も、毎日、毎朝、つくづくそう思って、今日も生きているのかと、まずはあくびがでてきます。好きなことをし尽くして、今更、後悔も懺悔もありません。人間がもともと、いい加減なので、百年も長生きした間には、みっともないことも、人間としてしてはならないことも、あれこれしてしまいましたが、その罰を、死んだらたっぷり受けるのかと思うと、ちょっと死に対してひるむものがあります。  が、やってしまったことは、今更後悔しても間に合いません。  五十一歳で出家して、唯一、自慢だった長い髪を、ばっさり切り取ってしまいましたが、それも馴れたら、毎朝、一番安いかみそりで、自分の頭をバリバリ剃ってしまうと、さっぱりして。ヘアスタイルで毎朝、悩むこともなく、これが自分に一番似合ったヘアスタイルだったのだと満足しています。  尚更、セックスなどは、出家後きれいさっぱりお別れして、何の悩みもありません。  不倫も有髪の頃にあれこれ致しましたが、妻でない立場で、よその亭主と仲良くするくらいバカなことはないと、経験者としては、つくづく書き残しておくべきかと思っています。  自分の死ぬときは、たとえ締め切り最中でも、必ず枕頭に来てくれと、しつこく言われてたので、まさに締め切りの真っ最中に、京都から、わざわざ東京まで出かけたのに、いまわの際になって、本人の目の探しもとめたのは、長い間連れ添った正式の女房だけでありました。  ま、それが当然というものでしょう。  不倫などは、いっぺんくらい経験するのも面白いかもしれないけれど、こうはやってしまっては、するのがバカみたいだから、しないに限ります。  身の上相談をするのも、寂庵では、無料でずいぶん受けてきましたが、いっしょに考えて、いい答えが出るような相談は、めったにありません。  ただ、人に、聞いてもらうことで、その悩みを、客観視出来るので、ふっと自分で答えに出逢うことがあるのです。  すると、何であんなことにあれ程悩んだのかと、自分自身でバカらしくなって、悩みがすっと抜け落ちてしまいます。  一生が百年もの長さになった以上、すべてに時間をかけてゆっくり考えれば、身の上相談など、自分自身で考えて、答えをだすのにしくものはありません。  何より、「タダ」ですみますから。  ヨコオさんには、身の上相談は来ないでしょう。  アラ、来る?  どんなのか教えて! ※週刊朝日  2021年5月21日号
「中学受験させたいが、低学年から塾に入れるのは可哀想」 悩む母親へのアドバイスは?
「中学受験させたいが、低学年から塾に入れるのは可哀想」 悩む母親へのアドバイスは? 「論語パパ」こと山口謠司先生 ※写真はイメージです(写真/GettyImages)  NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主役である実業家・渋沢栄一が信奉していたことで、いまふたたび「論語」が注目されている。論語は、2500年前の思想家・孔子の教えをまとめた書物で、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、企業経営だけでなく、迷える現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられている。現代の親の悩みに対する処方箋として、「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、孔子の格言を選んで答える本連載。今回は、「中学受験をさせたいが、低学年から塾に入れるのは可哀想」と悩む母親へアドバイスを送る。 *    *  * 【相談者:8歳の息子を持つ40代の母親】  小学2年生(8歳)の息子を持つ40代の母親です。息子は、東京都心の公立小学校に通っていますが、中学受験の勉強を始める時期について悩んでいます。私たちは中学受験が盛んな地域に住んでおり、近所にある大手塾の小学2年生クラスはすでに満席。入塾はキャンセル待ち状態です。夫も私も中学受験経験者で、昔は小5からの通塾でも間に合ったため、「低学年のうちは遊ぶことが大事」と考え、放課後は地域の学童保育で遊ばせているのですが、そんな男子はクラスで3、4人と少数派。正直、焦っています。  周りの母親たちは、「生まれる前から中学受験を考えていた。学習の下地をきちんと作っておかないと、5、6年生になって『受験したい』と言いだしてから塾へ通うのでは遅い」と言います。今から受験を意識させるのは可哀想ですが、学力をつけてほしいため、時代の波に乗るべきでしょうか。子育ての軸がぶれる私にアドバイスをください。 【論語パパが選んだ言葉は?】 ・「知者は惑わず、仁者は憂(うれ)えず、勇者は懼(おそ)れず」(子罕第九) ・「君子は無能を病(なや)みとす」(衛霊公第十五) 【現代語訳】 ・「物事を判断できる賢い人は迷わない、他人の幸せを考えられる人は心配しない、勇気がある人はおそれない」 ・「立派な人は、自分に能力がないことを気に病む」 【解説】  お答えします。孔子なら、こう言うと思います。 「知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず」(子罕第九) 「物事を判断できる賢い人は迷わない、他人の幸せを考えられる人は心配しない、勇気がある人はおそれない。この三つの心が大切だ」という意味です。  相談者さんは、中学受験という高い山を前に、教育方針がぶれてしまっているようですが、まず、小学2年生である息子さんには「知」「仁」「勇」の三つを教えるべきだと、私は思います。 「知」「仁」「勇」は、孔子の孫・子思が書いたとされる『中庸』という本の中で、「人が体得すべき三つの徳」と、記されています。「正しい知的判断をし、他人を自分の肉親のように大切に思い、勇気を持って行動することで、人生の難局に対処しなさい」と、祖父である孔子は子思に教えたというのです。『中庸』は、儒教の四書のひとつで、江戸時代には、今の小学2年生くらいで教わる本でした。ちょうど息子さんの年ごろですね。  中学受験のための勉強は、志望校に合格するためだけのものではありません。相談者さんは、お子さんに中学受験させることをすでに決めているようですから、ぜひ受験を「知」「仁」「勇」を身につけるためのステップととらえて準備されるのはいかがでしょうか。 「正しい知的判断」「他者との共存」「勇気ある行動力」は、人生のあらゆる場面での「人の意図のくみ取り方」、すなわち「場の空気の読み方」と無関係ではありません。こうした「読む力」は、超難関中学の国語の試験で問われる「読解力」にかなり近いのです。  論理的思考は、数学や理科の勉強を通して養うことができますが、筆者や出題者の意図をくむような深い「読解力」は、「知」「仁」「勇」の三つの総合的な力が求められます。 「知」という漢字は、「矢」に「口」と書きますが、矢を射って的の真ん中に当てるように、きちんと言葉で核心を伝える力です。「仁」は、人や物との関係を大切にする心です。論理では説明できない、他者との関係を読み解く力と言っても過言ではないでしょう。また、「勇」は、「マ」が「人」を表し、「突き通す」という意味の「用」と「力」で成り立っており、これは、「人が困難を突き抜けていく力」を表します。あきらめずにどんな問題でも解く「勇気」がなければなりませんね。  低学年のうちから塾に入らなくとも、日常生活の範囲で、他人と関わり合いながら、「知」「仁」「勇」の力を伸ばし、蓄えることができるのではないでしょうか。そのためには相談者さんのおっしゃる通り「友達と遊ぶこと」は大切です。遊びにも「知」「仁」「勇」をもって工夫することが求められるからです。   悩ましいのは、ご自分の受験時代との違いですね。  時代は、どんどん変化していきます。望ましいことではありませんが、少子化のなか、今後、ますます格差は拡大していくことでしょう。それは高い学歴を持った人が、高収入、高い地位を得るという意味ではありません。競争社会では、柔軟で深い思考力と、判断力、そしてあきらめない勇気を持った人が勝つ可能性が高い、ということです。その傾向は、30年前に比べて強くなっていることは、教育の現場にいて強く感じます。  孔子は、「君子は無能を病(なや)みとす」(衛霊公第十五)とも言っています。  文字通り「立派な人は、自分に能力がないことを気に病む」という意味です。中学受験は、合格するために必要な「能」を養うひとつのチャンスともいえます。記憶力だけに頼るのではなく、「物事をいかに考えるか」を学ぶ機会だからです。入試で課される国語、算数、理科、社会の4教科は、生きるための基本の能力だと思えば、将来の職業をも展望した道が見えてくると思います。「知」「仁」「勇」を発揮するためにも「能」を磨くことは、重要です。  相談者さんは、周りに後れをとったことに焦っていますね。でもまずは、低学年の小学生にもわかるやさしい言葉で、「知」「仁」「勇」とは何か。そしてそれらを身につけるためにどう過ごすべきか、ぜひ息子さんと話し合ってみてください。親子で納得できる答えがみつかることを願っています。 【まとめ】 中学受験を、「人が体得すべき『知』『仁』『勇』を身につけるためのステップ」ととらえてみては。「知」「仁」「勇」を発揮するためにも「能」を磨くことは大切 山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ  0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。
小室さん問題で痛感した「お相手の重要性」 愛子さまに3人、佳子さまに5人の「候補者リスト」
小室さん問題で痛感した「お相手の重要性」 愛子さまに3人、佳子さまに5人の「候補者リスト」 眞子さまと婚約内定者の小室圭さん(c)朝日新聞社  秋篠宮家の長女・眞子さま(29)と小室圭さんの結婚問題。これだけ世間を騒がせていれば、お年頃の女性皇族のお相手に注目が集まるのは必然だ。旧皇族をお相手に望む声がふき出し始めた。 >>【秋篠宮家への苦情殺到の裏でささやかれ始めた愛子さまの「旧皇族の結婚お相手リスト」】から続く *  *  *  最近、宮内庁の職員は疲弊し切っている。連日、国民の「意見」が電話で殺到しているからだ。職員のひとりは、こう話す。 「秋篠宮家を支える皇嗣職への苦情ばかりだ」  秋篠宮家の長女・眞子さまと小室圭さんの結婚問題。皇室の将来を揺るがしかねないほど、批判の声は強くなっている。  それでなくとも皇室の存続は、深刻な問題だ。皇室は、悠仁さま誕生まで41年間、男子が誕生しなかった。その間、何度も皇統の危機が叫ばれてきた。  男系による皇統維持を主張する保守層が主張してきたのが、1947年に皇籍離脱した「旧皇族の復帰」案だ。  保守派が立てた復帰の筋道は、いくつかある。以下の3つの案だ。 (1)  旧皇族やその男系男子子孫を皇族に戻す案 (2)  現女性皇族との結婚させる形で皇族にむかえる方法 (3)  旧皇族の子孫を迎え入れて現皇族が養子縁組する案  昭和天皇の皇女、照宮成子内親王と厚盛王の間に、子どもにも恵まれた東久邇宮(ひがしくにのみや)家は、「血が濃い」として、たびたびあがる名前だ。それでも長年、勤め人として生計を立て、世間一般とかわらぬ暮らしを送ってきた人をいきなり「皇族」に戻すのは、国民の抵抗がある、との声は強く、(1)や(3)の案に現実味はないとみられる。  男系派も納得するのが、(2)の結婚案である。  女性皇族が適齢期になるにつれて、「お相手候補」の形で旧皇族の復帰論が語られる機会は増えてくる。たとえば三笠宮家の故・寛仁親王だ。長女の彬子さま(39)自身は望んでいなかったものの、娘の結婚相手に旧宮家の男性を――と口にしていたのは有名な話だ。       眞子さまや佳子さまも、放っておいてはもらえなかった。  2014年5月。宮内庁が、高円宮家の次女、典子さんと出雲大社の千家国麿さんの婚約が内定して間もないころ、永田周辺や男系論者の間で、こんな話しが飛び交った。 「水面下で、秋篠宮家の内親王と旧皇族とのご結婚の可能性が探られている」 「秋篠宮家の紀子さまも、否定的ではないようだ」  具体的な動きはつかめず、うわさは立ち消えになった。だが2年後、天皇の退位問題で、ふたたび「女性宮家創設」問題が浮上した。2012年、野田内閣のもとで検討されたが、「女系天皇につながりかねない」と保守層の猛反発を受けた案である。  このときも、「男系男子による皇統の維持」を主張する安倍政権は、反対の姿勢をみせていた。だが、次第にこんな考えを漏らすようになった。 「旧皇族の男系の男性と結婚する女性皇族がいたら、宮家を創設してもいい」         結果として、議論は天皇の退位に限定され、「女性宮家創設」が進展することはなかった。しかし、首相周辺は保守系の学者らに、旧皇族につながる男系男子に関する情報の整理を依頼しはじめたという。  男系男子による皇統の維持を主張する保守層は、自民党の支持者でもある。神社庁の関係者は、こう話す。 「将来、女系につながりかねない女性宮家の創設は、認められない。しかし、女性皇族が男系男子につながる旧皇族との結婚に相手を限定すれば、男系は維持される。それならば、女性宮家を認めてもいい」  ある研究者は、旧皇族や歴代天皇と男系でつながる旧華族のなかから、愛子さまや眞子さま、佳子さまと年の近い男系男子をピックアップしたことがある。  5歳の年齢差で区切っても、愛子さまの「お相手」で3人、眞子さまで5人、佳子さまで4人ほどが該当した。 「あくまで資料として作っただけです。政治や皇室に影響させるつもりはない。いまの時代に、ご本人の意思に反して、結婚など成立するものでは、ありませんから」(先の研究者)   眞子さまの結婚問題で、保守層からはこんな声が漏れ始めている。 「皇室から民間に出る女性皇族だからといって、お相手が誰でもいいわけではない。ご本人の意思にゆだねた結果が、前代未聞のスキャンダルにまみれたのだ」  1947年5月の新憲法施行で華族制度は廃止され、日本に階級制度はなくなった。だが、皇室のメンバーは、生まれながらにして住居や生活費が保障される「特別なご身位」にある一方で、戸籍も住民票を持たず、選挙権もなければ、公的医療保険が適用されることもない。 「平等や資本主義社会のなかで、皇室だけが前時代の身分制度の枠に閉じ込められたままだ。それでも皇室は、国民に寄り添い、人びとの精神的な拠りどころとなるべく支えて来られた」(前出の研究者)   別の元宮内庁関係者は、皇族が生身の人間であることを主張し過ぎてしまえば、もはや皇室制度は維持できないと感じている。 「眞子さまの結婚問題が象徴的です。秋篠宮ご夫妻も、親の立場にたてば、好きな相手と幸せな結婚をして欲しいとお考えでしょう。愛子さまの結婚のお相手を旧皇族にーという話も長年皇室を支持してきた保守層の希望に過ぎない。現実的ではないと理解はしている。しかし、愛子さまが、伝統によってたつ皇室を守る最後の砦だと思いつめてしまうほど、彼らのなかで令和の皇室への失望は大きいのです」  皇室や世界の王室のメンバーは、生身の人間として幸せをつかみながら、同時に国民の拠りどころであり続けようと、その人生を歩んでいる。   令和の天皇陛下は、皇太子の時代から、新しい皇室のあり方を模索し続けてきたと言われている。令和の皇室は、眞子さまをはじめ、佳子さまや愛子さまの結婚に、どのような判断を示すのだろうか。 (AERAdot.編集部 永井貴子)
武田鉄矢 妻に言われた「家に金八はいらない!」嫌われない”老いの極意”とは?
武田鉄矢 妻に言われた「家に金八はいらない!」嫌われない”老いの極意”とは? たけだ・てつや/1949(昭和24)年、福岡県生まれ。(写真/加藤夏子) 1974年、「母に捧げるバラード」が1年足らずで100万枚を売る大ヒットを記録していた時に朝日新聞に掲載された記事。当時25歳の武田さんの長髪にヒゲというスタイルを思い出した人もいるだろう。(写真/朝日新聞社) 「贈る言葉」「幸せの黄色いハンカチ」「3年B組金八先生」と音楽から映画、ドラマまで、知らない人はいないほど幅広く活躍する武田鉄矢さん。現在発売中の朝日脳活マガジン『ハレやか6月号』では、芸能界随一の勉強家でもある武田さんに「老い」への思いを伺いました。 *  *  *  60歳を境に、いい年寄り、値打ちのある年寄りになりたいという野望が芽生えてきました。私の考えるいい年寄りとは、アニメの「日本昔ばなし」に出てくるおじいさんとおばあさんです。「このおじいさんは絶対に人をだましたりしないだろう」「このおばあさんが握ったおにぎりは絶対においしいに違いない」と思えるような人たちです。  でも、年を重ねれば誰もがいい年寄りになれるわけではありません。少しでも油断しようものなら、鶴もスズメも寄ってこない、扱いにくい年寄りになってしまうから、やっかいです。  私の故郷、博多には「博多祇園山笠」という伝統的なお祭りがあります。山車(だし)をかいて(肩に担いで)市内を走り抜け、その速さを競うという勇猛なお祭りで、各町内には長老と呼ばれるトップがおります。その下に取締や衛生、総務などそれぞれ役職を与えられた人がおり、町一番の元気もんが赤手拭(※)といった感じで組織されています。    長老は町内でも尊敬されるいい年寄りです。長老が亡くなると、次の山笠の練習では山車をかいた若い衆が長老の家の前で足を止め、山笠を揺らしながら「博多祝い唄」を大合唱。故人を送ります。そしていい年寄りは、故郷の土にかえっていく。なんとも粋な風習じゃないですか。    私は、そんな故郷の博多を家出同然で飛び出して、芸能の世界に入ったのは24歳のころです。海援隊というフォークバンドのグループを組んで紅白歌合戦にも出場しました。「3年B組金八先生」などドラマでもヒット作にも恵まれ、この年になっても、芸能活動を続けています。    ろうそくに灯(とも)した火のように小さなラッキーチャンスからはじまって、「いつ吹き消されても文句はいえないぞ」という覚悟で歩んできた芸能人生です。 ■夫婦は2回結婚することで生涯添い遂げられる    50歳のころ、自分が「わからぬこと」をそのままにせず、大学ノートに書き留めていくということをはじめました。拙著『老いと学びの極意』のなかでも触れていますが、「分数の割り算は、なぜ割るほうの分子と分母をひっくり返すのか?」といった小学4年生のころに感じた疑問から始まって、夫婦仲に至るまで、わからぬことを知ったかぶりせずに解を求めていこうというものです。    大学ノートにコツコツと書く作業は、夜空に星を描くのと似ています。いくつもの星が描かれ、60歳のころになると柄杓(ひしゃく)や白鳥、子熊の形に連なって星座が見えはじめるようになりました。    奥さんとの関係も60歳くらいまでは、正直言ってハラワタが煮えくり返るような感情を持ったことが何度もありました(笑)。ところが「彼女の主張にも一理ある」と、少しずつ思えるようになりました。    30歳のときに「金八先生」のドラマが始まって、すっかり役に入り込んでいた私は、家でも「金八」を演じてしまっていたんです。家でテレビを見ながら、「アラブ問題について考えてみよう!」とか、教師口調で言われたら彼女もたまったものではありませんよ(笑)。「母に捧げるバラード」のヒット以降は、家計的に苦しい時期も続き、ようやく収入が安定したと思ったら、今度は家に金八がやってきたわけですから。    ある日、とうとう爆発して「うるさい!」って怒鳴られました。そこで私も反省すればよかったのですが、「なんて失礼な!」と感情的になり大げんか。そんなことがしばしば起こりました。    とある心理学の本に、「1回だけの結婚では、本当の夫婦にはなれない」といったニュアンスのことが書かれていました。同じ人と2回結婚しなければ、一生添い遂げることはできないという意味です。私たちもようやく数年前に2回目の結婚を果たしました。もちろん、1回目のように式を挙げお祝いをするわけではなく、2回目は静かで穏やかな、ちょっとした瞬間です。    それは、老後について2人で話し合っていたとき。 「この先、お互いに年を重ねていくけど、あまり先のことを考えすぎないようにしよう」。そう私が提案すると、彼女はうなずいて同意してくれました。年をとってから、あまり先のことばかり考えてしまうと不安になる。これは誰だって同じです。だから、「今見えているところだけを目標にして生きていこう」と話をして、お互いに握手を交わしました。    この瞬間こそが、まさに私たち夫婦にとっての2回目の結婚だったと思っています。 ■コロナ禍に新しいこと3つに挑戦してみた    62歳のときに心臓の大動脈弁を置き換える大手術をして以来、食事の健康管理は奥さんの指導に従って、食物繊維が豊富な玄米や野菜などが中心です。たまにたんぱく質もとりたいと思って、「私よりも10歳以上年上の加山雄三さんは肉ばっかり食べているぞ」と、抵抗を試みるも「あなたとは内臓のつくりが違うから」とピシャリ。    頭の健康のためには、本を読んだり、物を書いたり、あとはクイズ番組を見たり、脳トレなんかもけっこうやっています。    あと効果的なのは、“すぐ動く”こと。奥さんから「もうパジャマに着替えたほうがいいんじゃない?」と言われたら、面倒くさがらずパッと手足を動かして着替える。脳や筋肉の瞬発力を保つのは、老化防止にも良いと自分を納得させています。    65歳から合気道を始め、月謝の払いもよかったおかげで(笑い)、3段に昇進しました。ただ、コロナ禍で道場が休みになってしまったため、3つの運動に挑戦しました。1つは足腰の鍛錬に縄跳びを1日100回。2つ目は、膝を柔らかく動かすためにけん玉。けん玉もずいぶん上達しました。  3つ目はスティックボードといって、スケートボードのような板の前後に1つずつの車輪がついたもの。これは合気道にも必要な丹田が鍛えられます。イルカの立ち泳ぎのように腰を振って前に進むんですが、これがなかなか難しいんです。    過去にこだわらず、自分の考えにも固執しない。そしてあまり先のことばかり考えずに、今できることをやってみる。そんな一つひとつの積み重ねが、いい年寄りに成長していくコツではないでしょうか。 ※赤手拭(あかてのごい):赤一色で染められた山笠の役職を表す手拭い。若手を統率する役目。 (構成・文/山下 隆) たけだ・てつや/1949(昭和24)年、福岡県生まれ。大学在学中から海援隊として音楽で活躍。「母に捧げるバラード」「贈る言葉」など大ヒット曲を生み出す。俳優としても映画「幸せの黄色いハンカチ」で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞するなど才能を発揮。主演ドラマ「3年B組金八先生」は、日本の学園ドラマの金字塔とも呼ばれる。漫画『お~い!竜馬』(小学館)の原作を担当するなど、著書も多数。古希を超えても第一線で活躍し続ける秘訣をつづった『老いと学びの極意団塊世代の人生ノート』(文春新書)発売中。
マリッジブルーや遠方赴任でくっついたり離れたり 人生も「かみ合わせ」の歯科医師夫婦
マリッジブルーや遠方赴任でくっついたり離れたり 人生も「かみ合わせ」の歯科医師夫婦  AERAの連載「はたらく夫婦カンケイ」では、ある共働き夫婦の出会いから結婚までの道のり、結婚後の家計や家事分担など、それぞれの視点から見た夫婦の関係を紹介します。2021年5月17日号では、歯科医師の大久保宗治さん・涼子さん夫婦について取り上げました。*  *  *夫、妻とも30歳で結婚。夫婦二人暮らし。【出会いは?】大学1年のときに夫が「自転車競技部」をつくり、妻を勧誘。夫の猛アタックで交際がスタート。ロードバイクは共通の趣味となり琵琶湖1周サイクリングも完走。【結婚までの道のりは?】妻は卒業後すぐに結婚を考えていたが夫のマリッジブルーでいったん白紙に。3カ月後に復縁するも勤務地が離れたことで再び別れ、半年後に復縁。2019年にタイミングが合い結婚。【家事や家計の分担は?】掃除や洗濯機回しは妻、洗濯物干しや食器洗いは夫など、できる限り分業している。特に料理は妻が献立を決め夫が料理することも多い。家計は一緒。夫:大久保宗治 [32]歯科医師おおくぼ・むねはる◆1988年、三重県四日市市生まれ。2015年に愛知学院大学歯学部卒業後、数々の医院を経て、19年から「塚本歯科医院」(愛知県稲沢市)に勤務。入れ歯治療に力を注ぎ、入れ歯についてのセミナーも運営する 彼女の第一印象は「アクティブな子やなぁ」。いまもロードバイクで150キロは走りますからね。結婚まで2回、くっついたり離れたりしたけれど、やっぱり一緒にいて楽しいんです。疲れて家に帰っても、彼女の気さくな性格に癒やされています。 歯科治療と一口にいっても分野でかなり道は違います。僕は物づくりが好きで最初から「入れ歯」に興味があった。何もないところに歯を作ったり、食べられなかった人が食べられるようになったりするのを見るのが喜びです。彼女が最近「矯正」に道を見いだしたことをうれしく思っています。自分の歯に特別なケアはしていません。歯磨きを洗面所ではなくリビングでゆっくりやるくらい。半年前には虫歯になってしまい、彼女に治療してもらいました(笑)。  いずれは二人で開業を考えています。それに歯科医の世界も患者さんや歯科技工士など「人とのつながり」が重要。セミナーなどを通して、人と人をつなげるような活動もしたいと思っているんです。妻:大久保涼子 [32]歯科医師おおくぼ・りょうこ◆1988年、大阪府羽曳野市生まれ。2015年に愛知学院大学歯学部卒業後、数々の医院を経て、20年から「名古屋矯正歯科診療所」(愛知県名古屋市)に勤務。子どもの歯の生え替わり時期の咬合誘導や、大人の矯正治療など、歯科矯正に力を入れている 彼の第一印象は「勉強を教えてくれそう」。実際に物理の勉強を教えてもらいました。学生時代ずっと一緒だったので卒業後は自然に結婚するものと思っていたのですが、彼が「ちょっと待って」と(笑)。出会いから10年でようやくタイミングが合いました。 私の専門は「矯正治療」です。現代人は昔に比べて顎が小さくなっていますが、歯の大きさは原始時代から変わらない。いまの子どもは乳歯が生え替わるときに顎を広げて矯正をしないと、歯並びが悪くなってしまうことが多いのです。矯正には学生時代から興味を持っていたのですが、昨年、希望していた専門の歯科医院に勤務することができ、ようやく道が決まりました。 同業でも分野が違うので仕事での衝突もなく、家でもお互いの歯は自己管理。私は電動歯ブラシ派でゆすぎにマウスウォッシュを使っています。 歯科医師は残業も多く、なかなかハードな仕事です。いまはいったん技術取得に専念し、3年後くらいには子育てもしたいと考えています。※AERA 2021年5月17日号
「韓流ドラマ」が「嫌韓率」高い中高年の男性層に大ブームのなぜ?
「韓流ドラマ」が「嫌韓率」高い中高年の男性層に大ブームのなぜ? 韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』に主演したソン・ジュンギ(GettyImages)  新型コロナウイルスの感染防止対策で「ステイホーム」の生活様式が定着する中、韓国ドラマ、映画が大ブームになっている。  映画「パラサイト 半地下の家族」が米アカデミー賞で最高の栄誉である「作品賞」など計4賞を受賞して日本でも高く評価されると、米動画配信大手ネットフリックスを通じて配信されたテレビドラマ「愛の不時着」、「梨泰院クラス」も社会現象になるほどの人気だ。40代の男性もコロナ禍の巣ごもり生活で「韓国ドラマ」にハマった視聴者だ。 「これまでは韓国ドラマに全然興味がなかったんです。むしろ日本製品の不買運動とかで、韓国に対して良いイメージがなかった。でも妻と愛の不時着を見たらハマってしまって。想像できないストーリー、俳優の演技力、スケールの大きさで、大げさでなく生きているうちにこの作品に出会えてよかったと思いました。その後も梨泰院クラス、スタートアップ、バガボンドなどを見て、今は『ヴィンチェンツォ』を見ています。韓国ドラマが夜の楽しみとして我が家で定着しましたね」  Netflixで放映中の『ヴィンチェンツォ』はソン・ジュンギがイタリアン・マフィア役で主演し、悪を悪で処断するというドラマ。共演の2PMのテギョンも熱演し、韓国でも大ヒットした。 韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』で熱演した2PMのテギョン(GettyImages)  かつても韓国のエンタメがブームになった時期があったが、今回大きく違うのは老若男女幅広い年齢層を巻き込んでいることだ。日本で初めて本格的な韓流ブームが訪れたのは03~04年に放送されたドラマ「冬のソナタ」がきっかけだった。この時はヨン様の愛称で知られるぺ・ヨンジュンが中高年層の女性に絶大な人気を誇った。  第2次ブームは今から10年前。少女時代、KARA、BIGBANG、2PMなど韓国の人気アイドルグループが次々と日本で活動するようになり、若者を中心に支持を集める。そして、第3次ブームと呼ばれるのが16、17年ごろ。世界的人気を誇るBTSやTWICEなどK―POPアーティストが若者世代の心をつかんだ。 『愛の不時着』に主演したヒョンビンとソン・イエジン(GettyImages)  ただ、韓国ブームに嫌悪感を示す人も少なくなかった。背景には改善しない日韓関係にある。18年以降、韓国大法院(最高裁判所)が日本企業に元徴用工への賠償を命じた判決、自衛隊機に対する韓国艦船のレーダー照射などで関係が険悪になり、日本政府が19年7月に始めた韓国向けの輸出管理強化措置に韓国社会が反発。日本製品の不買運動や日本への旅行自粛などを呼びかけるデモが韓国各地で起こり、日韓関係は「戦後最悪」と呼ばれた。  現在も両国の間に緊張した雰囲気が流れる。ただエンターテイメントの世界に国境はない。過去の3回の韓国ブームと違い、今回は「嫌韓」の割合が多かった男性の中高年層で韓国ドラマ、映画の支持を集めているのが大きな特徴だ。  日韓のサブカルチャーに精通している雑誌編集者はその理由を語る。 「韓国は国自体の市場が大きくないので、世界を意識したマーケティング戦略を展開しています。アイドル出身の女優も基本をみっちり身に付けないとドラマに出演できない。俳優陣の実力が非常に高水準だと思います。また、日本のドラマではあまり触れられない外国人労働者、性差別といった社会問題も積極的に発信して、視聴者の関心を引きつけている。韓国ドラマは人間味あふれるキャラクターが多くて視聴者も感情移入しやすい。熱量の凄さは一昔前の日本のドラマに似ていると言われています」。 韓国のドラマを手掛ける脚本家やスタッフは日本のドラマ、映画のファンが多いという。互いに刺激を受けて切磋琢磨することで、良質な作品がこれからも生み出される。「韓国が嫌いだから愛の不時着を見ない」という思考はもったいない。偏見を持たず新しい世界に触れることで、韓国に対する見方が変わるかもしれない。(中町清)
手取り月収50万円役員の妻が「生活費のため」に借金を重ねたワケ
手取り月収50万円役員の妻が「生活費のため」に借金を重ねたワケ 写真はイメージ(GettyImages) ■極端に少ない生活費で思い悩む妻も…夫婦間のお金の管理で起こる深刻な問題  夫婦別々で家計管理をしている方は、共働きの家庭を中心によく見られますが、中には片働きの夫婦でも、夫婦別々に家計管理をしていることがあります。夫の収入の一部を日々の生活費として妻に渡し、それ以外を夫が管理するというようなやり方です。  お金の流れを共有しながら家計管理ができれば、この方法でもお金をためながら充実した生活を送ることは可能なのです。しかし、お互いの支出内容の共有が正しくできていなければ、お金を配分するバランスが悪くなってしまうこともあり得ます。  中には、夫が自由に使えるお金が減ることを嫌がる、妻のお金の使い方が信頼できないといった理由で、妻が管理する生活費が極端に少ない家庭もあります。その場合、妻が極端に我慢を強いられる暮らしをしていたり、夫に隠れて借金を作ってしまったりすることも珍しくありません。  そうした中である日、何かしらの形で夫に知られてしまったり、請求額を返済する見込みが立たなくなったりして妻は思い悩み、私たちのようなファイナンシャルプランナーの元に相談に来ます。  ですが、相談しようと動き始める頃には、債務整理が必要な状態であることも多く、結果的に夫婦仲が壊れてしまうご夫婦もいらっしゃいます。 ■手取り月収50万円の夫妻には生活費8万円しか渡さず…  会社役員のMさん(48歳)のご家庭は、専業主婦の妻(45歳)と小学5年生、小学3年生のお子さんの4人暮らしです。Mさんは手取り月収が50万円ほどありますが、妻に生活費として8万円を渡し、それ以外は自分で管理をするという夫婦別財布の家計管理をしています。  生活費に8万円は少ないのではと思うのですが、Mさんとしては住宅ローンや生命保険料、水道光熱費など月1回程度の各種支払いは自分がしているし、「妻は浪費の傾向があるから」これでよいと考えているようです。   Mさんが妻に浪費の傾向があると感じているのは、過去にクレジットカードの家族カードで5万円ほどの気になる請求があったから。妻に聞くと、子どもや妻のコート類を購入するのに必要だったとのこと。しかしMさんから見ると、当時使っていた物もそう傷んでいないように思えたため、浪費だと思ったそうです。そのときから、毎月10万円渡していた生活費を8万円に減らしました。  それからというもの、ただでさえ不足がちだった生活費は完全に足りなくなり、妻は自分の独身時代からの貯金を取り崩し、生活費に充ててきたといいます。しかし、やがて貯金も底をつき、今度は自分名義のクレジットカードを作って生活費に充てるようになりました。  支払いの当てがあるわけではありませんでしたが、夫に働きたいとも言いにくく、生活費をやりくりしていければ何とかなると、一時しのぎ的な考えで利用し始めたのです。  妻は夫に何度か「8万円で暮らすのは難しい」ことを伝えてきましたが、多いとムダ使いをする、節約を意識しろと言われ、追加の生活費をもらうこともできません。一度クレジットカードを利用し始めると生活がずいぶん楽になったように感じ、借りては返すを繰り返す暮らしになっていきました。学校の集金があればキャッシングを利用することもありました。 ■妻は借金をするほどに追い詰められた“経済的DV”といえるケースも  気が付いたときには、利用上限額いっぱいまでクレジットカードを使っていました。私が支出の状況を見たところ、食費など節約ができると思える部分は多少ありましたが、極端に多いわけではありません。本当にやむを得ず、クレジットカードを利用していたと思えるのです。  ご自分で支払うことができなければ、法律家の下で債務整理をすることを考えるのですが、Mさんの家庭には十分な収入があります。収入と支出の全体を見て、今後の返済が可能なのか検討すべきなのですが、妻は夫に話しにくいようです。  結局、妻には借り入れがあることだけを夫に伝え、その解決のためにと私のところに一緒に連れてきてもらいました。Mさんははじめ、妻のしたことにかなり憤慨していましたが、今までの状況を数字も用いながら客観的に伝えていくと、がっくりと落ち込んだ様子に一転しました。自分が正しいと思ってやっていた生活費の制限が、妻と子どもたちの生活を苦しくさせた揚げ句、借金まで作らせてしまっていたことを理解したのです。  稼ぎのある夫は、自分の稼いだお金を大切に使いたいという思いもあるせいか、妻へ渡す生活費が極端に少ないというケースが時々見られます。経済的DVと言えるのではないか、と思えるほどです。  これもまた、お金の使い方について適切な共有ができておらず、互いの価値観に信頼を置ける関係性を作れていないことが原因の一つであると思えます。  家計管理はどのような形でもいいので、ご夫婦間でお金の話ができる風通しの良い状況を作りましょう。それが問題を起こさない、しかもお金がたまる上手な家計管理の方法なのです。(横山光昭:家計再生コンサルタント)
天龍源一郎が語る“相撲中継と巡業” 無観客相撲で天龍がNHKへ新たな実況解説を提言!
天龍源一郎が語る“相撲中継と巡業” 無観客相撲で天龍がNHKへ新たな実況解説を提言! 天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ(撮影/写真部・掛祥葉子) もちろんアサヒスーパードライで乾杯!(天龍源一郎公式インスタグラム(@tenryu_genichiro)より)天龍プロジェクト「SURVIVE THE REVOLITION Vol.2」5月12日(水)開催!【開催日時】2021年5月12日(水)OPEN18:30/GONG19:00【会場】東京・新木場1stRING (東京都江東区新木場1-6-24)【チケット料金】(前売りチケット)※当日券は500円UP/特別リングサイド…6,000円/指定席…5,000円/LIVE配信、選手応援特典付き配信チケットのお買い求めはこちらから→https://tenryuproject.zaiko.io/  50年に及ぶ格闘人生を終え、ようやく手にした「何もしない毎日」に喜んでいたのも束の間、突然患った大病を乗り越えてカムバックした天龍源一郎さん。人生の節目の70歳を超えたいま、天龍さんが伝えたいことは? 今回は「相撲中継と巡業」をテーマに、飄々と明るくつれづれに語ります。 *  *  *  最近、ようやく花粉が落ち着いてきたね。俺はプロレスのアメリカ修行時代にテキサスにいて、その頃から「春になるとやたらとくしゃみが出るなぁ」と思っていたんだ。  それからずっと春になっても「鼻がムズムズするだけ」と言っていたけど、最近になって周りから「それが花粉症だ!」と指摘されてようやく認めるようになった。俺が花粉症になった原因は絶対にテキサスのコロコロ転がっているダンブルウィードとファンクスの家の草だ!(笑)。  さて、いよいよ今日から相撲は五月場所が始まる。また何日かは無観客になっているけど、この後はお客さんを入れてくれるのかな? まあ、力士にとってみれば、とにかく勝たなきゃ番付が上がらないし、観客の有無はあまり関係ないと思うけどね。相撲取りって、目の前の勝負に没頭するもんでね。それでも取組前は「張り手が来るんだろうな……」、「耳の鼓膜が破れたら嫌だな……」という負の思いが駆け巡るのも正直なところだ。  いやあ、現役の頃を思い出すね。次、自分の取り組みだなっていうときが一番ドキドキしてきてね、汗が脇の下からまわしのところにまで流れて、控えで立っている時に、立っている足型が汗でつくんだ。ドキドキしているのと気持ちがグッと入るので、足の裏からも汗が出る。控えから力士が出ると、その人の足跡がキレイに残っているくらい緊張しているのが分かるんだ。俺らのときには大鵬さんでも同じようなもんだったよ。  特に自分より格上の力士と対戦するときは顕著だ。でも、相撲って、手をついたり、ちょっとでも土俵から出たら負けだから「相手が横綱でも、もしかしたら勇み足で勝つかもしれない。足を滑らせて勝てるかもしれない」って思って、そこでようやく「エイ! やってやろう!」と、ようやく肝が据わって立ち上がるんだ。絶対に勝てないと思っている相撲取りはいない。  力士はそれほどの緊張感の中で相撲を取っているんだから、NHKの大相撲中継も無観客だったらブースで解説しないで客席に出てきて、力士に声が聞こえるくらいの位置で解説をすればいいと思うんだよ。お互い緊張感を持ってね。解説者の「あぁ。いまのダメですね」とかやり取りが力士に聞こえれば、変な相撲は取れないし、解説者も変なこと言えないって頑張るよ! 聞こえるところで解説者の北の富士さんに「頑張ってほしいですね」なんて言われれば、力士も「あ、俺の事頑張れって言っていた」って励みになる。  現役の力士は、解説でいろいろ言われるのは「うるせえなぁ」と思うところだけど、北の富士さんに褒められると喜ぶ力士は今でも多いだろう。こんな人はなかなかいないよ。いろいろ言っても、語り口の柔らかさでみんな味方にしちゃう。俺も見習いたいもんだね(笑)。   こんな状況だから地方巡業もなかなかできないね。相撲甚句や初っ切りが見られるのも、巡業の楽しみのひとつなんだけどね……。相撲甚句は各部屋で歌の上手いやつを若者頭が推薦される。500~600人いる力士から6人くらいだから、よっぽど声がいいとか、プロ並みに歌が上手いというやつらがやるもんなんだよ。相撲甚句はエリート部隊だ。  でも、今の若いお客さんは「後妻」とか「間男」なんていう言葉にピンと来ないから、昔は拍手が出るところで無かったりとか、俺が聞いていてまどろっこしく感じる部分もある。「親子は一世、夫婦は二世、主従は三世、間男はヨセ、ヨセ(四世)」といっても通じなかったりね。昔はこぶしがきいてる歌いまわしに喜んで拍手をくれたもんだけど、今はちょっと違うのかな? 落語も古典をやるにしても、マクラに新しいいまどきのことをしゃべったりしてるから、相撲甚句も新しいことを入れないといけない時期なのかな。なかなか難しいね。  そういう面で初っ切りは新しいことをどんどん取り入れているよね。さらに、相撲甚句は6~7人いるが、初っ切りはたった2人だから、よほどセンスのあるやつじゃないとできない。臨機応変に立ち回って、プロレス技を取り入れたりしてね。時代に合わせてお客さんに飽きさせずに楽しませる。これは、センスがいるし、ちゃんとしていないと無理だよ。俺は相撲甚句や初っ切りをやりたいなんて、そんなこと思う余裕もなかったからね。地方巡業を心待ちにしているファンも多いだろうし、相撲の本場所も早くお客さんの前でできるようになるといいね。  まあ、俺はどっちにしろ退院したばかりでおとなしくしてなきゃいけないんで、五月場所は家で観戦だ。こんな時期だから相撲だけじゃなくて、ゴールデンウイークも旅行に行きたくても行けない人が多かっただろう。そういう時の旅番組はいいね。家で座ってるだけで、世界中に行った気になれる。  そんな旅番組を見ていると、昔、俺もテレビの収録で女房とスペインに行ったことを思い出すよ。トランジットでソ連に2~3時間滞在したりしてね。まだロシアがソ連だった時代だ(笑)。その時の俺は、海外といえばアメリカしか知らなかったし、国境越えのフライトを体験したことがなかったから、国境越えの乗り換え便があるのは刺激的だったよ。ヨーロッパは当然、アメリカと文化とは街も建物も食べ物も、すべてが違って楽しかったね。  そうそう、スペインで闘牛場に行ったらなぜか東スポの記者も来ていて、カメラを構えて「天龍さん、ちょっと牛にちょっかい出してください」なんて言ってきたよ。ふざけるな!(笑)。結局、その記者も車に乗せて、女房と3人で山岳地帯をず~っと走り回ったことを今でも覚えている。小高い丘が連なっている風景を見て3人で「寝っ転がっている馬場さんの背骨みたいだな」なんて言いながらね(笑)。またこんな旅行が普通にできる日が戻ってくるまで、みなさん頑張りましょう! (構成・高橋ダイスケ) 天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。
51歳・4人家族で貯金3000万の男性、今すぐ退職しても家計は大丈夫?
51歳・4人家族で貯金3000万の男性、今すぐ退職しても家計は大丈夫? 写真はイメージ(GettyImages) ■51歳、今すぐにでも退職したい、家計は大丈夫?  今回は51歳男性、Tさんからのご相談です。Tさんは妻と2人の息子の4人暮らし。20代の頃から早期リタイアを目指し、不労所得の強化を15年間行ってきたとのこと。今すぐにでも退職したいが家計は大丈夫かというお悩みです。 【家族構成とそれぞれの年齢】 ・Tさん 51歳 ・妻 51歳 ・長男 社会人 ・次男 大学3年生 ・Tさんの母親 80歳(年金収入:300万円で別世帯) 【世帯収入(月額または年額)】 <月間収入>合計138万円   ・Tさん(手取り):70万円(ボーナス込)   ・妻(手取り):28万円(ボーナス込)   ・不動産収入(手取り):40万円(都心築古区分マンション3件=築49年【店舗:神宮前】、築42年【住居:赤坂】、築42年【住居:赤坂】 【世帯支出】 <年間支出>合計1080万円   ・生活費/900万円    ローン返済:なし    固定資産税:25万円    特記すべき支出:自動車税(年30万円:6台所有)、車修理代等車関連(年50万~150万円以上:その年による)、ゴルフ代(年100万円)   ・子ども関連/180万円(大学授業料等) 【貯蓄】 <年間貯蓄>360万円 ※自動車関連費やゴルフ代で、支出が大幅超過したときは、年間貯蓄を使用 ※そのため、60歳までにこれから積み上げられる金融資産は、2500万円くらいに留まるかもしれない 【資産】 <金融資産>3100万円(内訳:預金3000万円、株式100万円) <不動産評価額>1億1000万円   ・自宅:6000万円(築20年:60坪・土地路線価評価額のみ・二世帯住宅で母親と同居)   ・投資用不動産:5000万円(上記3物件:利回りネット10%で評価) 【投資額】 なし 【その他】 <退職金>2500万円(Tさん本人、定年まで勤め上げた場合の予想額)、妻はなし <公的年金>350万円(満額支払った場合で、65歳からの受け取り予想額)   ・Tさん:230万円(公務員)   ・妻:120万円(会社員) <給与収入予想> ・Tさん:60歳までは現行の収入が期待できる。その後希望すれば65歳まで額面600万円くらいの収入が期待できる ・妻:65歳まで現行の収入が期待できる <不動産収入予想> ・店舗物件: 35平米の軽飲食店舗(賃料月額33万円) ・住居物件: 20平米のワンルーム(月額賃料12万円と11万円) ・賃料収入はこの15年間、特に変わらず。地域特性から築年経過とともに下がるといった傾向はなく、どちらかというと景気に大きく左右され、上下動する 【Tさんの具体的なお悩み】  とにかく働くことが嫌いです。辞めても生活できることなら、今すぐにでも退職したいです。20代の頃から早期リタイアだけを夢見ていました。そのため、不労所得の強化をこの15年図ってきました。  50代になり、具体的に実行できる素地は整ってきたのですが、不動産収入は、物件の寿命までしか当てにできませんし、趣味の車とゴルフを賄うほどの収入がない状態のリタイア後の生活に、耐えられるかどうかも分かりません。  さらに最近は、私に引っ張られて妻まで働きたくないと言い出しました。また、コロナ禍で長男の就職先の経営は大丈夫なのか、次男に至ってはそもそも就職して自立できるのかなど不安要素は尽きません。現在の収入・資産状況を踏まえ、どのように判断していけばよいのかご教示ください。 ■Tさん一家の家計は使途不明金まみれで危険?  今回は、働くことが嫌いな50代男性、Tさんからのご相談です。20代の頃から早期リタイアを目指し、不労所得の強化を15年間行ってきたとのこと。早速、早期リタイアが可能かどうかを見ていきましょう。  Tさん一家は、現在夫婦共に51歳。2人の息子は長男が社会人、次男が大学3年生です。月間の収支を確認すると、収入はTさんが手取り70万円、奥様が28万円、不動産収入が40万円です。この収入には夫婦共にボーナスも含まれており、月間合計が138万円です。年間では138万円×12カ月=1656万円になります。   Tさんは家計簿のような細かい支出を考えるのが昔から性に合わないとのことで、家計簿代わりに家計のバランスシートを作成して家計管理を行っています。  少々話がそれますが、家計管理に関しては必ずしも細かな支出まで把握する必要はありません。また家計簿を必ずつけなければならないわけでもありません。使途不明金があまりなく、毎月きちっと貯蓄(資産形成を含む)ができてさえいれば何ら問題ないのです。  では、話をTさん一家の支出に戻しましょう。年間支出は生活費の900万円と、お子さんの大学の授業料等を含む教育費180万円を合わせた1080万円です。  なお、生活費には固定資産税や自動車税、ゴルフ代などが含まれています。貯蓄は年間360万円と記載があります。しかし、年間収入1656万円から支出1080万円を差し引くと本来は576万円の貯蓄ができるはずです。相談文に記載されている貯蓄は360万円ですから、216万円の使途不明金があることになります。  改めて相談文の貯蓄の欄を見ると、「自動車関連費やゴルフ代で支出が大幅に超過すると、年間貯蓄を使用」と書かれています。さらに、「60歳までにこれから積み上げられる金融資産は、2500万円くらいに留まるかもしれない」とも書かれています。  Tさんは現在51歳です。記載通り年間360万円を貯蓄した場合は、60歳までの9年間では360万円×9年=3240万円の貯蓄ができるはずです。さらに、本来であれば大学3年生の次男が卒業して以降は教育費180万円が浮くはずなので、追加で180万円×8年間=1440万円の貯蓄も可能でしょう。  それが、もし2500万円の貯金に留まった場合は、3240万円+1440万円−2500万円=2180万円を使ってしまったという計算になります。これも使途不明金として計上しましょう。  先ほども触れたように、貯蓄が想定どおり年間360万円の場合でも、使途不明金が216万円ある状態でした。9年分では216万円×9年=1944万円ですね。つまり、9年間の使途不明金は2180万円+1944万円=4124万円にまで膨れ上がる計算になります。これだけの巨額のお金がダダ洩れ状態で使われてしまう可能性があります。  金銭に余裕があるのであれば、今のような家計管理でも構いません。しかし、ご希望通り早期リタイアをしたいのであれば、決して看過できる金額ではありません。  苦言を呈するようですが、早期リタイアを行うのであれば家計管理の観点からぜひ改めていただきたいと思います。早期リタイアをいつするべきか?そして、不動産を手放すベストなタイミングはいつなのか?三つのケースに分けて確認していきましょう。 ■ケース(1)Tさんが52歳でリタイア 【52歳以降のTさんの収支など】 ・年間収入額:480万円(不動産収入のみ)→700万円(年金込み、65歳以降) ・年間支出額:900万円(生活費+教育費、52~54歳まで)→800万円(生活費のみ、55歳以降) ・年間貯蓄額:360万円  最初に、1年後、52歳でTさんが早期リタイアした場合を考えてみましょう。記載の通り1年間で360万円の貯蓄ができるとすれば、1年後には現在保有する金融資産3100万円が3460万円に増えます。  相談文には「退職金が2500万円」と記載がありますが、早期退職をするので少なめに見積もって1800万円としましょう。金融資産3100万円と合計すると、早期退職時に4900万円を保有していることになります。  また、奥様も働きたくないと思っている旨が記載されています。そのため、今回は奥様も同時に退職すると仮定して、退職後の収入は480万円(不動産収入のみ)とします。  一方、1年後の支出項目は、大学3年生の次男が卒業して教育費の支払いが終了しているので、生活費の900万円だけになります。2人の息子は社会人ですが、独立(家から出る)するのは便宜上、Tさんが55歳の時に2人同時とします。  早期リタイア後3年間の年間支出は900万円、年間収入は480万円とすれば、赤字額は420万円となります。つまり、55歳までに420万円×3年間=1260万円の金融資産を取り崩すことになります。そのため、55歳時点での金融資産の残りは、4900万円−1260万円=3640万円になります。  55歳以降は同居中の息子が独立するので、生活費を800万円に減額できると仮定します。年間収入は480万円(不動産収入のみ)とすれば、年間の赤字は320万円です。60歳までの5年間の赤字は、年額320万円×5年間=1600万円になります。  この赤字額を55歳時点の金融資産額から差し引くと3640万円−1600万円=2040万円となります。年金の受給は65歳からと仮定すると、もう5年間、前述の赤字額が続きます。つまり、さらに1600万円を金融資産から取り崩す計算です。すると、65歳時点の金融資産額は、2040万円−1600万円=440万円になります  ただし、Tさんは車を6台所有しています。もし6台全ての車を買い替えれば、65歳を迎える前に金融資産が底を尽く可能性があります。反対に早いうちに保有台数を6台から減らしていけば、金融資産は440万円より増えていることになるでしょう。  さらに、65歳より先の試算をしてみましょう。Tさんは65歳から年金を受け取ることになりますが、早期退職で納付した年金額が少なくなるため、受け取れる年間の年金額は、Tさんが記載していた350万円から2割減の280万円とします。  不動産収入が480万円あるので、収入は280万円+480万円=760万円です。手取額で700万円とします。支出は55歳以降から変わらず800万円とすると、毎年100万円の赤字が出ます。  Tさんが65歳時点で持っている金融資産は440万円ですから、4年強で底を尽くことになります。早期退職の実現は厳しいと言わざるを得ません。 ■ケース(2)52歳でリタイア+60歳時点で投資用不動産を売却 【60歳以降のTさんの収支など】 ・年間収入額:無収入(60~64歳)→280万円(年金、65歳以降) ・年間支出額:800万円(生活費のみ)  ここまでの試算では、65歳まで不動産収入がある形で試算しましたが、次に、ケース(1)の前提を踏襲しつつ、60歳時点で投資用不動産を売却した場合を考えてみましょう。  毎月の不動産収入がなくなるため60歳から無収入となり、年間収支は800万円の赤字となります。5年間で4000万円の赤字です。仮に投資用不動産の売却額を記載の評価額通りで5000万円とすれば、1000万円が金融資産にプラスされ、65歳時点の金融資産額はケース(1)の試算結果である440万円と足し合わせて1440万円になります。  また、Tさんが65歳から受け取る年金額はケース(1)と同じく、2割減の280万円とします。  不動産を売却している場合、65歳以降の年間収入は年金の280万円だけです。手取額は245万円として考えましょう。支出は変わらず800万円とすると、赤字額は555万円です。65歳時点の金融資産は1440万円なので3年も持たずに底を尽くことになります。  パターン(1)(2)では、今回は来年52歳で退職をする形で試算しましたが、現状の生活スタイルでは来年での早期リタイアは難しいといわざるを得ません。  では、本当に早期リタイアはできないのか?といえば、そうではありません。生活費(支出)を見直せば可能です。試しに2年後、53歳で早期退職するパターンを試算してみましょう。 ケース(3)53歳でリタイア+60歳時点で投資用不動産を売却 【53歳以降のTさんの収支など】 ・年間収入額:400万円(不動産収入、53~69歳)→無収入(60~64歳)→245万円(年金、65歳~) ・年間支出額:800万円(53~54歳)→700万円(55~56歳)→600万円(57~59歳)→500万円(60歳~) ・年間貯蓄額:500万円(52歳の1年間)→700万円(53歳の1年間)  現在、Tさん一家の年間の貯蓄額は360万円ですが、使途不明金が216万円あると述べました。これを支出ではなく貯蓄に振り向ける方向で考えてみましょう。また、大学3年生である次男の教育費180万円の支払いは残り1年です。  そこで、これから1年目は500万円、2年目は教育費が浮いた分をプラスした上で少し頑張り、700万円の貯蓄を目標にしてみてください。2年間で1200万円をためるイメージです。  すると、53歳時点の金融資産は3100万円+1200万円=4300万円になります。退職金は52歳で早期退職した場合よりも微増させて1850万円とします。すると、53歳時の金融資産は6150万円になります。  次に、53歳以降の支出を考えましょう。次男の教育費が無くなるため、年間の支出は900万円になります。しかし、早期退職を実現したいのであれば生活費の減額に努めましょう。  とはいえ、急激に生活費を減額するとストレスが溜まるでしょうから、現在の51歳時点で900万円あった年間支出を2~3年おきに100万円ずつ減額していきましょう。53歳で800万円(=100万円の減額)、55歳で700万円(=200万円の減額)、57歳で600万円(=300万円の減額)、60歳で500万円(=400万円の減額)を目指すようにします。 「9年間で400万円の減額」と聞くと厳しいと感じるかもしれませんが、余裕ある老後の支出は月34万円(生命保険文化センター調べ)といわれています。  Tさんの場合は生活費を400万円減額したとしても残りはまだ500万円、月額に換算すれば約42万円弱もあるのです。  では、生活費の減額を前提に60歳までの9年間の収支を試算しましょう。甘い想定かもしれませんが、不動産収入の480万円は60歳まで継続すると仮定します。健康保険や国民年金の支払いが発生するので手取額は400万円とします。  53~54歳の支出目標は800万円なので、年間の赤字は、800万円−400万円=400万円。2年間で800万円の赤字です。55~56歳の赤字は(700万円−400万円)×2年間=600万円、57~59歳の3年間は(600万円−400万円)×3年間=600万円です。合計で2000万円の取り崩しとなり、60歳時点の金融資産額は6150万円−2000万円=4150万円になります。  さらにここで、60歳時点で投資用不動産を売却した場合を考えましょう。ケース(3)の投資用不動産の売却額は、評価額の1割減の4500万円とします。すると、金融資産額は4150万円+4500万円=8650万円になります。  一方、年金の受け取りが始まる65歳までは年間の赤字が500万円、5年間で2500万円の取り崩しになりますので6150万円になります。  65歳からは年金が支払われますが、早期退職しているので支給額280万円、手取額は245万円とすれば、年間支出が500万円ですので赤字は255万円、金融資産額は6150万円あることから約24年、約89歳まで持つ試算になります。  厳しいと感じるプランかもしれません。しかし、記載した例のように生活費をダウンサイジングすることができれば、2年後の早期リタイアも可能かと思います。  何を削減するかはTさん次第ですが、「働きたくない」という希望を叶えるならば、現在の生活費のダウンサイジングは必須です。今回の試算はあくまでも一例ですので、参考にしてご自身でシミュレーションするとよいでしょう。頑張れば、早期リタイアは決して絵空事ではありません。 (ファイナンシャルプランナー 深野康彦)
「徳川秀忠」安定の手腕 律儀すぎると酷評された三男が、なぜ将軍職を継げたのか?
「徳川秀忠」安定の手腕 律儀すぎると酷評された三男が、なぜ将軍職を継げたのか? 徳川秀忠の再建開始から400年を迎えた大阪城(c)朝日新聞社  150年におよぶ戦乱の世に終止符を打ち、慶長8年(1603)、幕府を開いた徳川家康。そして、父・家康がつけた道筋を愚直なまでに継承した二代・秀忠。武断政治を進め幕府の支配をさらに強化した三代・家光。週刊朝日ムック『歴史道 vol. 14』では、「徳川300年の泰平」と謳われた時代の礎はいかにして築かれたのかを特集。ここでは「秀忠」を解き明かす。 *  *  *  秀忠は天正七年(1579)四月七日、家康の三男として生まれた。  同年九月十五日に、長男信康が切腹することになるが、同二年生まれの次男秀康は跡継ぎにならなかった。その背景には、秀康の母お万( 小督局)が、正室築山殿に幼少の頃から侍女として仕えていた人物だったことがある。築山殿の不興を避けるため、重臣の本多忠勝を頼り、城外で出産したことから、家康とは後になってから対面することになった。このような事情から、秀忠が生まれながらに家康の後継者と位置付けられたのである。  同十七年に秀吉が諸大名に妻子上洛令を出した際、家康は、秀忠を上洛させることにする。小牧・長久手の戦いの後、次男秀康を秀吉の養子としていたものの、次女督姫を、同十一年に秀吉と敵対する北条氏直に嫁がせていたこともあり、家康は、嫡子の秀忠を上洛させ、秀吉への服属姿勢を示さなければならなかったのだ。秀吉は秀忠の上洛を喜び、徳川家の正当な跡継ぎと認め、秀吉の養女小姫(織田信雄の娘)と縁組させた。ただし小田原攻めの後、家康に関東が、織田信雄にそれまでの家康の領地が与えられた際に、信雄が固辞し隠居に追い込まれたため、小姫とは破談となった。  その後、文禄二年(1593)に、側室・淀殿との間に秀頼が誕生し、秀吉は豊臣家の安泰のため、より力を尽くすようになる。同四年には、甥の関白秀次を自害させ、諸大名からは秀頼を中心として補佐するように起請文を取り、「御掟」「御掟追加」を発布した。そして今度は、淀殿の妹お江を秀忠に嫁がせたのである。  つまり秀忠は、秀吉にとって、徳川家対策のキーパーソンだったのである。  一方、父である家康は、秀忠をどのように見ていたのだろうか。次のような逸話が残されている(「台徳院殿御実紀」)。  ある時家康は、本多正信を召して次のように言った。「秀忠はあまりにも律義にすぎる。人は律義だけではいけない」。  そこで、正信は秀忠にこのことを伝え、「殿も時には嘘をおっしゃったらよいのです」と申し上げた。すると、秀忠は笑って、「父君の御空言は、いくらでも買う者がいる。私は、何事もなしとげたことがないので、嘘をついても買う者がない」と述べたとのこと。  家康のように、時にはハッタリをきかすような大胆なふるまいをすることは自分には不向きだ、というのだろう。謹厳実直な姿は、時代劇などに描かれる秀忠のイメージそのものである。  そんな秀忠は、慶長十年(1605)に二代将軍となる。しかし、同十二年に駿府に移った家康が、相変わらず大きな権力を持ち続けた。秀忠には本多正信が付属し、家康側には、正信の子・正純がおり、秀忠に家康の方針が本多父子を通して伝えられ、それを将軍として秀忠が実行するという、二元政治というより家康の大御所政治が行われたのである。  つまり、家康が元和二年(1616)に亡くなるまでに起こった大坂の陣や、武家諸法度、禁中并公家中諸法度の制定などは、家康が深く関わっていた。  ちなみに秀忠から家光の代替わりも、同様であった。三代家光が将軍宣下を受けるのが、元和九年(1623)七月二十七日のこと。しかし、その後も秀忠は大御所として実権を握り続け、事実上の代替わりは、寛永九年(1632)正月二十四日に秀忠が亡くなった時である。家康は大御所時代に駿府に居たが、秀忠の場合は江戸城西丸だった。大御所として将軍に及ぼす影響力は、家康大御所時代よりも勝っていたともいえるだろう。まだ戦国の雰囲気が色濃く残る時代、その代替わりに慎重を極めたゆえの方策だったと考えられる。 ◎監修・文 福留真紀/1973年東京都生まれ。東京女子大学文理学部卒業。お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。博士(人文科学)。長崎大学准教授などを経て、東京工業大学准教授。著書に『名門譜代大名・酒井忠挙の奮闘』(文藝春秋)、『名門水野家の復活』(新潮社)など ※週刊朝日ムック『歴史道 vol. 14』から抜粋
森友問題「赤木ファイル」国が存在を明らかに 自死した赤木俊夫さんの妻「黒塗りで出ないことを期待」
森友問題「赤木ファイル」国が存在を明らかに 自死した赤木俊夫さんの妻「黒塗りで出ないことを期待」 自死した近畿財務局職員・赤木俊夫さん(雅子さん提供) 昨年8月、近畿財務局情報公開訴訟の第1回口頭弁論を終え、記者会見で赤木俊夫さんの写真について話す妻の雅子さん(c)朝日新聞社 「新しいステージに上がれたような気がして、とてもうれしい気持ちでいます」  いわゆる「森友問題」をめぐって自死した財務省近畿財務局の元職員・赤木俊夫さん(当時54)の妻・雅子さん(50)が6日、AERA編集部の取材に今の心境をこう語った。  俊夫さんは森友問題に関わる公文書の改ざんを命じられた一人。その過程を書き残したとされる文書「赤木ファイル」の存在を、国がついに認めた。  森友問題は、大阪府豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に約8億円も値引きして売却されたことに端を発する。この土地に開校を予定していた小学校の名誉校長に安倍晋三前首相の妻・昭恵氏が就任していたことがわかり、巨額の値引きに安倍氏の関与が疑われた。 ■「違法行為」への苦しみ  2017年2月、安倍氏は国会で「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」と答弁した。この直後から、国と学園側との事前の価格交渉をうかがわせる記述や昭恵氏の名前が公文書から削除されたり改ざんされたりするなど、前代未聞の問題が起きた。 「僕の契約相手は国民です」と生前常々語っていた俊夫さんにとって、決裁文書の改ざんという違法行為に手を染めることは筆舌に尽くしがたい苦しみだった。自責の念にかられて苦しんだ上、俊夫さんは18年3月、自死した。  夫の死の真相を知りたい――。  雅子さんは、昨年3月18日、国と当時の財務省理財局長・佐川宣寿氏に計約1億1千万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴した。訴訟で焦点となったのが、俊夫さんが生前、文書改ざんの経緯を詳細に記したとされる「赤木ファイル」だ。  雅子さんは「赤木ファイル」の存在について、俊夫さんの元上司から2回、聞いていた。この元上司は雅子さん宅を弔問に訪れた際、「パラッとだけ見たんです。メッチャきれいに整理してあるなと。全部書いてあるやんと。どこがどうで何がどういう本省の指示かって」と生々しく語っていた。しかも元上司は「赤木ファイルは検察に提出している」と証言した。  だが裁判で国側は、「(ファイルは)裁判の争いに関係せず、存否を回答する必要がない」と主張。その存在すら明らかにしなかったのだ。 ■「黒塗りで出ないことを」  そこで雅子さんは今年2月8日、ファイルの文書提出命令を国に出すよう大阪地裁に申し立てた。3月22日、同地裁であった進行協議で、国はファイルについて「探索中」と回答。地裁は5月6日までに文書で回答するよう求めていた。国は、もはや存否の回答は避けられないと判断したとみられる。  雅子さんは言う。 「赤木ファイルが提出されることは、二度と決裁文書の改ざんが行われず、二度と夫と同じような目に遭う国家公務員が出てこないようにするためにも、とても意味があると思います」  赤木ファイルには一体何が書かれているのか。国が認めたことによる今後の焦点は、どの範囲まで開示されるかだ。開示によって、改ざんに至った経緯や詳しい指示系統が明らかになる可能性がある。雅子さんは言う。 「まず黒塗りで出てこないことを期待したい。全部を明らかにしてほしいです」 (文/AERA編集部・野村昌二) ※AERAオンライン限定記事
「雑誌アカをフォローする理由なし」専門家に指摘され…AERAのSNS改良どうすれば?
「雑誌アカをフォローする理由なし」専門家に指摘され…AERAのSNS改良どうすれば? 「雑誌のアカウントはフォローする理由がない」とズバット言われました…(GettyImages) ホットリンクCMO 飯高悠太さん(34)/広告代理店、制作会社、スタートアップ企業などでウェブサービスやメディアを立ち上げる。2019年1月に同社に入社し、同4月に執行役員CMOに就任。著書に『僕らはSNSでモノを買う』など/Twitter:@yutaiitaka(写真:本人提供)  今号の「インフルエンサー」特集は、まさにAERAにこそ必要な視点。というわけで、足元のSNSを改良すべく専門家のもとへ。 見つめなければいけないのは、もっと根本的な課題だった。 AERA 2021年5月3日-5月10日合併号から。 *  *  *  受話器越しでも、鼻息の荒さが伝わってくる。 「今の時代、ただ雑誌を作ってるだけじゃだめだね。もちろんそれは前からわかっていたんだけど、どうやって届けるかを考えないと」  興奮気味に話すのは、本誌の女性副編集長だ。そんなこと「中の人」の私は、ずーーーっと前から気づいていたんですけど……。  この女性副編集長、最近、子育て教育誌のSNSチームにも加わり、インスタグラムの配信でライバーデビュー。読者からの質問にリアルタイムで答えたり、誌面の感想に「いいね」を押したりして、楽しんでいる。夢中になりすぎて、「スマホばっかり」と小学生の娘に叱られているそうだ。 「最初は大変なんだろうなと思ったけど、楽しい。何より作ったものがちゃんと届いてる感じがする。今回の特集、せっかくの機会だから、AERAのSNSアカウントもどうしたらもっと読者に届くか、改良してみようよ!」  AERA編集部が使っているSNSは、全部で三つある。ツイッターにフェイスブック、そしてインスタグラムとSNSの王道中の王道だ。ツイッターに関しては、2009年6月に開設した、いわば古参でもある。  古参といっても、うまく活用できているわけではない。ツイッターの公式マーク申請のタイミングを逃したのか、いまだに青いバッジはついていない。 ■フォローする理由なし  AERAの「中の人」になって、約2年。エゴサーチをしてAERAに言及した投稿に「いいね」を押したり、もらったリプライに返事をしてみたり。ああでもないこうでもないと試行錯誤してきた。エンゲージメントは2倍になったが、もっとコミュニケーションをとりたい!  かくして、アエラのSNS改造計画が始まった。門をたたいたのは、SNSマーケティング支援を手掛ける「ホットリンク」。  ツイッターやインスタグラム、2ちゃんねるなどの掲示板の投稿を解析し、それをもとに企業やサービスに合った活用法を提案する。同社が支援するアカウントを見ると、フォロワーが何十万を超える企業がごろごろいて、がぜんやる気がわいてくる。  AERAもそうなれるんでしょうか。 「そもそも、読者は雑誌のアカウントをフォローする理由がないんです」  そうバッサリと指摘するのは、同社CMOの飯高悠太さんだ。優しい声色で、何十万人というフォロワーに目がくらんだ筆者に現実を突きつける。 「メディアの情報を公式SNSでわざわざ取得する理由がないんです。AERAを読みたければ、雑誌を買えばいいじゃないですか」 ■公式より「個」を立てる  近年、SNSは細分化が進んでいる。好きなアイドルファン同士でつながる「オタクアカ」に、就活の悩みを書く「就活アカ」。人によってさまざまだが、画面の向こうにいる誰かとのコミュニケーションが目的であることも多い。それゆえ、友達同士の会話に、企業が入る余地はほとんどないという。  そこで、飯高さんが提案するのが、「個」を立てること。 「ホットリンクもそうで、社名を聞いてもピンとこない人が多い。だから、僕たちは社内メンバーのアカウント基盤を作っています。SNSにいるメンバーを通して、社員同士の関係性や会社の魅力が人間らしい形で伝わっていくんです。記者にファンができれば、その人の記事を読むために雑誌を手に取りたくなりますよ」(飯高さん)  ツイッターで筆者個人のフォローリストを確認すると、思った以上に「人」ばかりだった。仕事で使うメディア関連のアカウントを除いて、企業の公式は「じゃがりこ」ぐらい。ホットリンクの存在を知ったのも、同社社員のツイートだった。  編集部にも、ツイッターを活用する記者が何人かいる。ただ、取材依頼を送るために使っている人が多いようで。記事は饒舌に書いても、どうやらSNSでは口下手らしい。 「個」を立てるからといって、公式がいらないかといえば、そういうわけでもないという。飯高さんはこう続ける。 「一緒に企画を考えようと読者に投げかけたり、表紙で見たい人を教えてもらったりとコミュニケーションをとってみてください。反応がなかったらと気にする方もいますが、タイムラインは1日もあれば流れていきます。積み重ねのないところに反応はありません」  コミュニケーションという部分で、SNS運用に悩む人がハマりやすい失敗がある。ウェブサイトを更新する感覚で、一方的なお知らせに終始してしまうケース。ユーザーが入る余地を残さないのは、SNSではご法度なのだ。  ここまで聞いて、我が身を振り返る。時間がなかったり、疲れていたりすると、つい「お知らせ」になりがちなんだよなー。もらったアドバイスを反芻すればするほど、過去の投稿が走馬灯のように流れていく。あるインフルエンサーは、1枚の写真を投稿するのに5、6時間かけるって言ってたっけ。忙しいって言ってやらないうちは、本気で改善するつもりがないってことだよなあ。 「でもでもだって」を脱ぎ捨てて、できそうなことを考える。 「アエラの表紙は17時に解禁します」「どんな表紙だと思いますか?」「大黒柱妻って知っていますか?」「レストランに行くときにグルメサイトのスコアは気になりますか?」  今週号の記事をざっと見ても、質問が次々に浮かんでくる。SNSは発信するものだとばかり思っていたが、相手を知ることでもあるのだとハッとした。 ■いいねよりリツイート  この双方向の関係性に横やりを入れるのが、数の概念だ。 「企業は自分たちの投稿に反応数を持たせようと投稿内容を考えたり、コミュニケーション手段としてリプライをしたりします。悪いことではありませんが、ユーザーにとっては自分の投稿に反応があることが何よりうれしいんです。だから、自社商品のことを書いている投稿はリツイートやリポストするのがおすすめです」(飯高さん)  ツイッターでのいいねやリプライも「挨拶」にはなるが、その瞬間だけで終わってしまう。だがリツイートであれば、それを見たフォロワーが反応するたびに通知が届き、その都度アカウント(商品)を意識してもらうきっかけになる。  飯高さんがサポートした菓子メーカー「シャトレーゼ」も、これらを実践し、支援開始から約1年でリツイートを含む口コミが8倍になったという。飯高さんは言う。 「ツイッターのユーザーを分析すると、全体の65%が50人以下の関係性のなかで使っています。この50人のなかで流行をつくることを考えるんです。アプリを『ホーム』表示で使っていればツイートが時系列に並ぶことはないため、リツイートが大量に表示されて見づらくなることはありません。1時間に1回のように決めて、リツイートしてみてください」 (編集部・「中の人」) ※AERA 2021年5月3日-5月10日合併号より抜粋
中性的でサイコパスな鬼・魘夢 人の「弱み」に付け込む鬼が超えられなかった「人間の強さ」
中性的でサイコパスな鬼・魘夢 人の「弱み」に付け込む鬼が超えられなかった「人間の強さ」 右上が魘夢(画像はコミックス0巻のカバーより)  興行収入400億円が目前となっている『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。この異例の大ヒットは、炎柱・煉獄杏寿郎の魅力が大きいとされる。しかし、映画中盤部分までの、敵側のメインキャラクターである魘夢の不思議な存在感と“異能”の力も観客をひきつけた。魘夢との戦闘によって浮かび上がるのは、人間の「強さ」と「弱さ」にまつわる普遍性だったからだ。今回は魘夢という「鬼」の不気味な魅力と特性を改めて考察する。【※ネタバレ注意】以下の内容には、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』および既刊のコミックスのネタバレが含まれます。 *  *  * ■惨殺された「下弦の鬼」たち 『鬼滅の刃』では、鬼の始祖・鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)が、彼の配下でとくに実力があると認めた者を「上弦・下弦の鬼」と呼んでいる。  しかし、主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)は、その仲間・我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)と嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)とともに、那田蜘蛛山で「下弦の鬼」累(るい)たちを撃破した。鬼殺隊「柱」冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)・胡蝶しのぶ(こちょう・しのぶ)の援護は要したが、経験の浅い炭治郎たちが「下弦の鬼」を退けたのは、めざましい躍進だった。  この「累・敗北」の報を受けた鬼舞辻無惨の怒りは想像以上にすさまじく、「弱さ」を理由に、下弦の弐(2)・参(3)・肆(4)・陸(6)を惨殺する。アニメ視聴者から「パワハラ会議」とすら呼ばれた、この残酷なシーンは大きなインパクトを残した。だがその中で「下弦の壱」魘夢(えんむ)だけは、唯一、生き延びることに成功する。 ■魘夢が無惨に殺害されなかった理由 <私は夢見心地で御座います 貴方様直々に 手を下して戴けること 他の鬼たちの断末魔を聞けて楽しかった 幸せでした 人の不幸や苦しみを見るのが大好きなので 夢に見る程好きなので>(魘夢/6巻・第52話「冷酷無情」)  ほかの「下弦」たちの言葉をことごとく遮り、手を下した無惨が、魘夢の言葉だけは終わりまで耳を貸した。無惨が喜んだのは、魘夢が示す「苦痛への陶酔性」だった。人が不幸になり、悲痛な表情をして苦しむほどに喜びを感じるという、ゆがんだ性格をしている。  一見、小ぎれいで中性的なルックスからは想像もできないほど、魘夢はその内面におぞましい狂気をかかえる。そこが無惨に「生かしておいても面白い」存在だと認められたのだろう。 ■魘夢が体現する「悪の魅力」  どんな鬼たちもひれ伏させる無惨のカリスマ性は、以下の3つの要素に集約される。ひとつめは、死すべき運命に翻弄される人間に、「不老不死」に限りなく近い肉体を与えること。ふたつめは、無惨の絶対的なパワーが、彼に対する「恐怖心」と「畏れ(おそれ)」をかき立てること。そして最後は、人間の心の奥底にある、他者を傷つけたいという「加虐性(サディズム)」と、傷つけれらたい「被虐性(マゾヒズム)」の両方を刺激し、鬼として実行させることだ。  暴力、苦痛、犠牲、服従、血、そして「美」が、退廃的な「悪」の世界観を構築する。このようなサイコパスな気質は、「上弦の鬼」である童磨や玉壺にも通じるものがあり、いずれも「美」に関するキーワードとともにエピソードが挿入される。 『鬼滅の刃・公式ファンブック2』には、魘夢が初めて無惨と遭遇した際に、生きたまま「はらわた」を喰われたにもかかわらず、魘夢が無惨を賛美した話が紹介されており、いかにも悪魔的だ。 ■魘夢の特殊能力  鬼が使う異能の力は「血鬼術」(けっきじゅつ)と呼ばれる。魘夢の血鬼術は、自在に相手に「夢」を見せ、混乱している間に「精神の核」を破壊するというものだ。 <どんなに強い鬼狩りだって関係ない 人間の原動力は 心だ精神だ “精神の核”を破壊すればいいんだよ そうすれば生きる屍だ 殺すのも簡単>(魘夢/7巻・第55話「無限夢列車」)  この魘夢の分析によると、人間の強さとは「精神の強さ」にほかならない。つまり、この無限列車編での戦闘の勝敗は、「精神力」によって決されるということだ。魘夢は、「夢」の力を使って、鬼殺隊隊士たちの心に揺さぶりをかけようとする。  魘夢の「夢」には、あらがいがたい魅力がある。鬼にされた妹・禰豆子(ねずこ)を人間に戻すという、確固とした意思を持っている炭治郎ですら、魘夢が見せた「幸せな夢」に心が揺らぎ、「ここに居たいなぁ ずっと」と涙を流す。炭治郎は、なんとか現実世界に帰ることを決意するが、その決断には、胸をえぐるような悲しみと相当の覚悟を必要とした。 「夢」は心の産物。願いも恐れもすべて、いったん無意識下に沈殿し、「夢」という形になって、われわれの目の前に広がる。現実に存在する「信じたくない事実」から目を背けていると、「夢」はとつぜん膨張し、私たちを飲み込んでしまう。  映画の中で魘夢は、列車本体と融合し、体を大きく膨らませ、無数のうごめく触手を出現させる。「巨大化する魘夢の肉」の映像によって、私たち人間の願いが「グロテスクに肥大化」することが、巧みに表現されている。 ■「夢」という虚構を欲しない煉獄杏寿郎  炭治郎以外にも、この「肥大化した夢」にとらわれなかった登場人物がいる。炎柱・煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)だ。魘夢の血鬼術によって彼が見た「夢」は、現実とかけ離れた内容ではなかった。  最初に見たのは、煉獄なら簡単に実現できるような内容だった。それは人を助けること、若き後輩剣士たちを導くことだった。次に見たのは、自分が実際に経験した過去。亡き母からの教え、父からの苦言、父の苦悩を拭い去ることができない自分の無力さへの絶望、幼い弟への愛。これらは決して「心地よい感情」だけを生んでくれるわけではない。 <頑張ろう!頑張って生きて行こう!寂しくとも!>(煉獄杏寿郎/7巻・第55話「無限夢列車」)   煉獄杏寿郎は寂しい。現実の苦しみも悩みもつらさもすべてを胸に抱えたまま、煉獄杏寿郎は戦い続ける。「夢」という虚構には決して負けない。  魘夢は、自分を危険にさらさないために、一般の人間の「弱さ」を利用する卑劣な戦法をとった。それに対して煉獄は、すべての「か弱き人々」を助けるために、最前線に身を起き、傷つくこともいとわない。夢と現実、弱者への対応が、対照的に表現されている。 ■魘夢という「鬼」が象徴するもの  この世のことわりを全て受け止めている人間は、どっぷりと「夢」に逃避することはない。炭治郎と煉獄は、魘夢にとっては、極めて相性の悪い敵だった。 「本当は幸せな夢を見せた後で悪夢を見せてやるのが好きなんだ」という魘夢は、人間の願望をのぞき見し、幸せな夢・不幸な夢を作り出す。生きている人間の数だけ、「夢」があり、現実から逃げた者、現実から目を背けた者は、鬼・魘夢の犠牲となる。 「この世」は、苦しみに満ちている。魘夢が利用したのは、「夢」から目覚めたくないと思う、人間の「弱い」心だった。しかし、炭治郎たちは、強い精神力で「夢」への誘惑を完全に断ち切る。そして、彼らは、戦いに「命をかける」理由を、悲しい過去を、美しい覚悟を、具象化する「夢」を通じて、われわれに見せてくれたのだった。  自ら夢に溺れた魘夢は、最後には、現実でやり残したことを、ひとつひとつ後悔し続けた。自分の体を醜く巨大化させることを選択した時点で、魘夢は意識世界と無意識世界を自在にはねまわる「軽やかさ」を失ってしまっていた。魘夢の「虚構の夢」の果てには、いったい何が残ったのだろうか。魘夢との戦いは、はかない生を懸命に生きてこそ、「夢」も真の美しさを取り戻すことを、われわれに教えてくれる。 ◎植朗子(うえ・あきこ) 1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。
ゾッとする中年男性のSNSマウンティング 「リアルな世界ではもう勝ち目がないから」
ゾッとする中年男性のSNSマウンティング 「リアルな世界ではもう勝ち目がないから」 ※写真はイメージです (GettyImages)  文芸評論家の斎藤美奈子氏が数多の本から「名言」、時には「奇言」を紹介する。今回は、『日本が壊れる前に』(中村淳彦・藤井達夫、亜紀書房、1540円)をとりあげる。 コロナがなければ、中年男性が死ぬはずだった *  *  *  新型コロナウイルス感染症の流行からすでに1年。先が見えない状況の中、生活困窮者や自殺者は増え続けている。 『日本が壊れる前に』の副題は「『貧困』の現場から見えるネオリベの構造」。ともに団塊ジュニア世代に属するノンフィクションライターの中村淳彦と政治学者の藤井達夫が日本社会の危うさを語り合った対談だ。 <コロナ禍がこれだけ大きな打撃になったのは、この社会のもっとも脆弱な部分を突いてきたからでしょう>(藤井)という認識の下、特に「脆弱」とされるのは中年男性だ。 <中年男性に危機を覚えたのは、介護現場に参入する中年男性が、ずば抜けて「使えない」ということでした>(中村)  この20年、介護職はポスト工業化で失職した人の受け皿として機能してきた。ところが母や妻などにケアされる一方だった中年男性はケア労働の現場では<本当に役に立たない>(同)。  ネオリベ社会は厳しい競争社会である。問題が多いのは事実だが、若者たちはすでにネオリベモードに舵を切っている。ところが40代後半を迎えた団塊ジュニア以上の世代は昭和的メンタルを引きずっていて潰しが利かない。ゆえに企業は女性や若者しか雇わなくなり<これからは団塊ジュニア男性の貧困が起きてくる>(藤井)。  ゾッとするのは中年男性の貧困は社会問題化するとの指摘である。<彼らが発生源となってSNSも荒れまくっている>(中村)。彼らがSNSでマウンティングやバッシングに励むのは<リアルな世界ではもう勝ち目はない。だからSNSで戦っているのでしょう>(藤井)。  風俗で働く女子大生の増加など、女性の貧困はコロナ前から限界に達していた。一方、<中年男性ってこんなにポンコツなのか>(中村)と評される人々こそが次なる貧困のターゲット。この章のタイトルは<コロナがなければ、中年男性が死ぬはずだった>。200万人の団塊ジュニア世代は必読だろう。 ※週刊朝日  2021年5月7-14日合併号
奇跡のアラフィフ・石田ゆり子の秘めたる“性格イケメン”ぶり
奇跡のアラフィフ・石田ゆり子の秘めたる“性格イケメン”ぶり 石田ゆり子(C)朝日新聞社  10代でデビューして以降、長年にわたって女優として活躍する石田ゆり子(51)。昨年は、映画「望み」「サイレント・トーキョー」に出演。5月には映画「いのちの停車場」の公開が控え、1月に放送された人気ドラマの続編「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!」(TBS系)では、相変わらずの美貌が話題になった。自身のインスタグラムのフォロワー数は250万人を超えるなど、高い人気をキープしている。  愛らしいルックスを保ち続け“奇跡のアラフィフ”と称される石田。インスタグラムでは肩肘を張らない優しい表情が垣間見え、そんな癒やされ要素が多いところが幅広い世代の男女から支持される理由だろう。 「ほんわか系という印象がある石田さんですが、そんなイメージとは裏腹に意外とかっこよさを感じる言動もあります。例えば、紀行番組『アナザースカイ』(日本テレビ系)に出演した際、フランスのパリで服や靴などいろんなモノを買い込んだときのこと。『物欲の塊だということがバレて恥ずかしい』と言いつつも、『お金って紙だから』『紙がいっぱい残ってるか経験があるか。(自分は)経験に換えていきたい』と持論を展開。これにSNS上では、『お金への考え方を変えてくれる』と称賛の声が上がりました。また、昨年放送されたバラエティー番組では『寝られなかったことない?』という質問に、『ないです』と即答。夜に眠れなかったことは2回くらいしかなく、うち1回はキムチの食べすぎで目がランランとして眠れなかったと明かしていました」(テレビ情報誌の編集者)  自分の意見をはっきりと伝える姿、裏表のなさそうな性格も好感度が高い要因だろう。  以前、「天海祐希・石田ゆり子のスナックあけぼの橋」(フジテレビ系、2019年10月16日放送)では、ゲスト出演した大東駿介が石田の男前エピソードを明かしていた。  何でも、撮影現場である俳優が次のシーンについて「このセリフ違うんじゃないか」と監督と話し合い始めたとか。15分ほど続き、俳優がヒートアップして前触れなく石田に「どう思います?」と聞いてきたという。これに石田は「そこそんなに重要?」と答えると、場がスムーズに収まったそうだ。 「美的.com」(2019年9月28日配信)では、絵画や家具、食器にも興味があり、自分の力で自分の世界を作っている作家や職人が好きだと明かしていたことも。そんなところを見ると、石田自身も一本芯の通った気質なのかもしれない。 「年を重ねても若々しい石田ですが、3月に行われた新CM発表会で、そのピュアさを保つ秘訣を聞かれた際に『ストレスをためないこと。そのために運動すること。きちんと眠ること。正しい栄養を取ること。この3本柱を守るようにしています』と答えていました。複雑なセオリーではなく、そんなシンプルな考え方も支持を集めているのだと思います」(同) ■政治批判で賛否が渦巻くことも  一方、「まっすぐなところはいいのですが、少し心配になることも……」と言うのは女性週刊誌の芸能担当記者だ。 「芸能人がSNSで政治に言及することが増えた昨今。石田も昨年3月に自身のインスタで、『こういうとき大切なのは自分の言葉でちゃんと国民と向き合うリーダーなんだろうなぁと思ってしまう』と記し、昨年11月には菅首相が国民に呼びかけたマスク会食について、『マスクしながらの会食って…そんなことするくらいなら黙って食べます!』とつづっていました。これらに対してSNS上では、『マスク会食に怒ってもしょうがない』『そんなに言うなら自分がやって』など、珍しく手厳しい声も見受けられました。石田に限らず、政治が絡んだ発言は手厳しい指摘を向けられることがあります。外見も内面も魅力的なぶん、そうした発言で大きく炎上しなければいいですが」  そんな懸念があるのも、世間の感心の高さの裏返しかもしれない。ドラマウオッチャーの中村裕一氏は、そんな石田の魅力ついてこう分析する。 「不倫に走る妻を演じて話題になったドラマ『不機嫌な果実』(1997年)から25年近くたちますが、どんなタイプの役もきちんと演じ、彼女がいるだけで作品が引き締まる貴重な女優です。ドラマや映画の宣伝でバラエティーなどに出演してもヘンにこびることもなく、逆に気取ったり偉そうにしたりすることもありません。そこからも、1人の人間として周りに左右されない自分の価値観をしっかり持っていることがうかがえます。そんな彼女に対してよく言われる“癒やし効果”も、周りが勝手に言っているだけで、本人的にはただ自分らしくありたいだけなのだと思います。ある意味、達観しているというか、華やかな世界に執着していない、良い意味での“悟り感”の持ち主なのでしょう。見ているだけで心が安らぐ、弥勒菩薩のような人なのだと思います」  見た目は柔らかい雰囲気かつ、しっかりと自分の意見を持ち強く生きる姿は、多くの人を惹きつけて離さない。まさに、女優として盤石のポジションを築いていると言ってもいいだろう。(丸山ひろし)

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