NHK大河ドラマ「青天を衝け」の主役である実業家・渋沢栄一が信奉していたことで、いまふたたび「論語」が注目されている。論語は、2500年前の思想家・孔子の教えをまとめた書物で、生き方の指針となる言葉の宝庫だ。「仁(=思いやり)」を理想の道徳とし、企業経営だけでなく、迷える現代の子育てにも役立つ言葉がたくさんちりばめられている。現代の親の悩みに対する処方箋として、「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、孔子の格言を選んで答える本連載。今回は、「中学受験をさせたいが、低学年から塾に入れるのは可哀想」と悩む母親へアドバイスを送る。

※写真はイメージです(写真/GettyImages)
※写真はイメージです(写真/GettyImages)

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【相談者:8歳の息子を持つ40代の母親】
 小学2年生(8歳)の息子を持つ40代の母親です。息子は、東京都心の公立小学校に通っていますが、中学受験の勉強を始める時期について悩んでいます。私たちは中学受験が盛んな地域に住んでおり、近所にある大手塾の小学2年生クラスはすでに満席。入塾はキャンセル待ち状態です。夫も私も中学受験経験者で、昔は小5からの通塾でも間に合ったため、「低学年のうちは遊ぶことが大事」と考え、放課後は地域の学童保育で遊ばせているのですが、そんな男子はクラスで3、4人と少数派。正直、焦っています。

 周りの母親たちは、「生まれる前から中学受験を考えていた。学習の下地をきちんと作っておかないと、5、6年生になって『受験したい』と言いだしてから塾へ通うのでは遅い」と言います。今から受験を意識させるのは可哀想ですが、学力をつけてほしいため、時代の波に乗るべきでしょうか。子育ての軸がぶれる私にアドバイスをください。

【論語パパが選んだ言葉は?】
・「知者は惑わず、仁者は憂(うれ)えず、勇者は懼(おそ)れず」(子罕第九)
・「君子は無能を病(なや)みとす」(衛霊公第十五)

【現代語訳】
・「物事を判断できる賢い人は迷わない、他人の幸せを考えられる人は心配しない、勇気がある人はおそれない」

・「立派な人は、自分に能力がないことを気に病む」

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山口謠司
山口謠司

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。平成国際大学新学部設置準備室学術顧問。大東文化大学名誉教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。ラジオパーソナリティ、イラストレーター、書家としても活動。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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