グーグル元社員が考案「気が散らないiPhone」って?
※写真はイメージです (GettyImages)
ニールセンデジタルの調べ(2018年12月)によると、日本人がスマホを見ている時間は、1日平均3時間超という。平均でこんなにも長いのかと驚かれる人もいるかもしれないが、グーグルで最速仕事術「スプリント(デザインスプリント)」を生み出し、世界のビジネスパーソンの働き方に革命を起こしてきたジェイク・ナップは、新著『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』において、人が毎日それくらいスマホを見てしまうのは当然のことだと言う。
なぜならいま世界では、スマホのアプリ開発会社から、ネットフリックスまで天才エンジニアたちが、世の人々の「1分、1秒」の注意を奪うため、日夜しのぎを削っているからだ。
もはや人間の意志の力では、アプリや動画、ゲーム等の「注意泥棒」に抗することは不可能に近いという。しかし、テクノロジー企業に奪われているこうした時間を減らすことができれば、もっと充実を感じられることや、もっとリラックスできることにたっぷりと時間を割くことができる。では、どうすればいいのか。同書からその秘訣を紹介したい。
●iPhoneから「気を散らすもの」を消してしまう
僕らが時間と注意を取り戻すために実行した戦術のなかで、おそらくいちばん単純でいちばん強力なものは、スマホからSNSや動画、ゲーム、メールなどの気を散らすアプリを削除して「気が散らないiPhone」をつくることだろう。
僕らは2人とも2012年からこの「気が散らないiPhone」を使っているが、アプリのない日々をただ耐えしのぐのではなく、すばらしい時間をすごしている。よい仕事をし、毎日を満喫している。
もっとも、こんなやり方をしていることを知られると、おかしなやつだと思われることも多い。なぜ、僕らはただスマホをガラケーに変えてお金を節約しないのか?
つまり、こういうことだ。気を散らせるアプリを全部取り除いても、スマホはやっぱり魔法のデバイスなのだ。
マップからカーナビ、ミュージック、ポッドキャスト、カレンダー、カメラまで、時間を奪わずに生活の質を高めてくれるアプリはたくさんある。
それに白状すると、僕らはスマホに惚れ込んでいる。僕らは時間オタクというだけじゃない、ガジェットオタクでもあるのだ。本書の共著者JZは2007年に初代iPhoneを買うために行列したし、ジェイクはその10年後、iPhone Xを発表当日に予約するために真夜中まで起きていた。僕らはスマホを愛している──たんに全部の機能をいつもは使いたくないというだけだ。
気が散らないiPhoneを使うと、現代のテクノロジーを満喫しつつ、いまより(少しだけ)単純だった時代、ときたまプラグを引き抜いて集中を保つことができた時代に、時計の針を戻すことができる。
もちろん、気が散らないiPhoneは万人向けじゃない。SNSもブラウザもメールもないスマホなんてどうかしていると思う人もいるだろうし、僕らより自制心が強い人がいることも認める。
ポケットからスマホを取り出したいという強烈な衝動に悩まされない人や、メールやニュースフィードに振り回されず、しっかりコントロールできている人もいるだろう。
とはいえ、どんな人も指先1つで情報をたえず更新することに、多少の認知コストを払ってはいるはずだ。
僕らほどあからさまな注意散漫の問題を抱えていない人も、スマホのデフォルトを変更すれば、さらに集中しやすくなる可能性が高い。
だから、すでにスマホをコントロールできているという人も、短い実験のつもりで、気が散らないiPhoneを試してほしい。使い続けなくても、ふだん無意識に受け入れてしまっている習慣を見直す機会にはなる。
これから、iPhoneを「気が散らないiPhone」に変えるやり方を簡単に説明しよう。
●ステップ1:「ソーシャル系アプリ」を削除する
最初にフェイスブック、インスタグラム、ツイッターなど(この本が書かれたあとで発明されたものも含む)を削除する。大丈夫、あとで気が変わったらごく簡単に再インストールできる。
●ステップ2:「その他の無限の泉アプリ」を削除する
ゲーム、ニュースアプリ、YouTubeのようなストリーミング動画アプリなど、おもしろいコンテンツを無限に供給してくるアプリ(本書では、すべてひっくるめて「無限の泉」と呼んでいる)を全部削除する。あなたがとりつかれたように更新してしまうアプリや、知らないうちに時間を無駄にしているアプリはすべて削除する。
●ステップ3:「メールアカウント」を削除する
メールは魅力的な「無限の泉」であり、世の「多忙をよしとする風潮」の象徴でもある。それに外出中スマホできちんとした返事を書くのは大変だから(時間的制約があるし、タッチスクリーンで文字を入力するのはわずらわしい)、気苦労の種になることも多い。遅れを取らないようにスマホでメールをチェックしているのに、遅れを取っていることを確認するだけで終わっている。スマホからメール機能を取り除けば、かなりのストレスも一緒に取り除ける。
メールアカウントはたいていデバイスに深く組み込まれているから、メール機能を無効にするだけでなく、スマホの設定からメールアカウントも削除してしまおう。
脅すような警告が表示されるかもしれない(「本当にメールアカウントを削除していいですか?」)が、ひるんではいけない。気が変わったときのために、必要なアカウント情報を記録しておけば大丈夫〔訳注:大事なメールや連絡先等がなくなると困る方は、それらの保存もおすすめします〕。
●ステップ4:「ウェブブラウザ」を無効にする
最後に、気を散らすものの万能選手こと、ウェブブラウザを無効にする。このためには、たぶん設定に分け入って機能をオフ(機能制限)にする必要があるだろう。
●ステップ5:「それ以外のすべて」を残す
先にも言ったが、スマホのアプリには、すばらしいものがたくさんある。僕らを注意散漫の渦に引き込まずに、生活をまちがいなく便利にしてくれるアプリだ。
たとえばマップのアプリには無限のコンテンツが含まれているが、適当に選んだ都市の地図をいますぐ眺めたいという衝動に駆られる人はそんなにいない。スポティファイやアップルミュージックなどの音楽ストリーミングアプリも、比較的害は少ない。楽曲やポッドキャストは無限にあるが、突然、ビートルズの曲を全部聴き倒したいという強迫観念に襲われることはそうないだろう。ウーバーやカレンダー、天気、旅行などのアプリも同じだ。
要は、ツールアプリと、使いたくてうずうずしないアプリは残しておく。
●24時間、トライしてみる
「気が散らないiPhone」は実験として試すこともできる。一生使い続けることを誓う必要はない。24時間、1週間、1ヵ月でいいからやってみよう。
メールやブラウザがどうしても必要になるときもあるだろう。そういう状況になったら、用事に必要なアプリを一時的に有効にすればいい。肝心なのは、スマホに使われるのではなく、主体的に使うこと。そして用事が終わったら、その機能を「オフ」に戻そう。
気が散らないiPhoneを、あなたもきっと気に入ると思う。始めたばかりの読者もこう言っている。
「機能を減らしたスマホを1週間使っているが、最高の気分だ。もっと不便かと思っていたが、そうでもなかった」
別の読者は、気が散らないiPhoneの使用前・使用後のスマホ利用時間をアプリで追跡して驚いたそうだ。
「メールとサファリを無効にしてから、スマホに向かう時間が1日2時間半かそれ以上減った」
これはかなりすごいことだ。簡単な変更のおかげで毎日1、2時間も取り戻せるなんて!
気が散らないiPhoneの何よりも大きな見返りは、主体性を取り戻せることだ。無意識に受け入れてしまっているデフォルトを変えさえすれば、スマホはあなたのしもべになる。本来そうあるべきなのだ。
(本原稿は、『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』<ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社>からの抜粋です)
●僕らは何者で、これはいかなる本か?
僕らはジェイクとJZだ。イーロン・マスクのようなロケット開発をしている大富豪でもないし、ティム・フェリスのようなハンサムな教養人でも、シェリル・サンドバーグのような天才的経営者でもない。
時間管理法の本といえば超人が書くものか、超人について書かれたものと決まっているが、この本には超人はいっさい登場しない。僕らは読者のみなさんと同じ、ストレスにやられたり気が散ったりする、あやまちを犯しがちなふつうの人間だ。
僕らがちょっと変わった視点をもっているのは、長年テクノロジー業界でGmailやYouTube、グーグル・ハングアウトなどのプロダクトの構築に関わってきたプロダクトデザイナーだからだ。
僕らはデザイナーとして、抽象的なアイデア(「メールが自動的に振り分けられたらよくないか?」など)を現実世界の解決策(Gmailのプライオリティボックスなど)に変える仕事をしてきた。そのために、テクノロジーが生活のなかでどういう位置づけにあり、生活をどう変えているのかを理解する必要があった。
この経験をとおして、スマホやラップトップ、テレビなどにあふれている便利なサービスはなぜこんなに魅力的なのか、こうしたテクノロジーに主導権を奪われないようにするにはどうしたらいいかについて、僕らなりの考えをもつようになった。
●時間は「デザイン」できる
そうして数年前、僕らは時間という目に見えないものを「デザイン」できることに気がついた。でもその気づきをテクノロジーや事業機会として開拓するより先に、僕らの人生のいちばん意味のあるプロジェクトやいちばん大事な人たちとの時間にあてはめることにした。
毎日、自分にとっていちばん大事なことのために、少しだけ時間をつくろうとした。多忙こそ正しいとみなす世の風潮を見直し、やることリストと予定表をデザインし直した。無意識に受け入れているあらゆる習慣を見直し、テクノロジーを利用する時間と方法をデザインし直した。
僕らの意志力には限りがあるから、どのデザインも簡単に実行できるものでなくてはならなかった。また約束を全部断るわけにはいかないから、制約条件のなかで動いた。実験と失敗、成功を重ね、やがて答えにたどりついた。
本書では、僕らが編み出した原則と戦術を紹介しつつ、僕らの犯したヒューマンエラーや、オタクっぽい解決策についても語ろうと思う。
ジェイク・ナップ(Jake Knapp)
著術家、IDEO客員研究員。グーグルで、あらゆる仕事を最速化する仕事術「スプリント(デザインスプリント)」を生み出し、Gmailの改良に生かすなど大きく貢献。その後GV(旧グーグル・ベンチャーズ)のデザインパートナーとして、スプリントをスラックやウーバー、23andMeなどで150回以上にわたり実行し、プロダクト構築を助ける。2017年より現職。現在もレゴ、ニューヨーク・タイムズなどにスプリントをコーチングしている。スプリントは世界中に広まり、国連や大英博物館を含む多くの企業や組織が事業戦略として活用している。著書に世界的ベストセラー『SPRINT 最速仕事術』(ジョン・ゼラツキー、ブレイデン・コウィッツと共著、ダイヤモンド社)がある。
ジョン・ゼラツキー(John Zeratsky)
YouTube、グーグルなどのテクノロジー企業で、デザイナーとして「時間」を再設計するミッションに没頭してきた。GVのデザインパートナーを経て、現在は「ウォール・ストリート・ジャーナル」「タイム」「ハーバード・ビジネス・レビュー」「WIRED」他で執筆。ハーバード大学、IDEOなどの舞台に100回以上にわたって登壇するなど、スピーカーとしても活躍している。
櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
翻訳家。京都大学経済学部経済学科卒、大手都市銀行在籍中にオックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書に『SPRINT最速仕事術』『第五の権力』『0ベース思考』(以上、ダイヤモンド社)、『NETFLIXの最強人事戦略』(光文社)、『選択の科学』『CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見』(以上、文藝春秋)、『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』(日本経済新聞出版社)などがある。
ダイヤモンド・オンライン
2019/07/16 18:05