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バレエ、フィギュアスケート…過度な減量が選手生命を奪いかねない理由
山本佳奈 山本佳奈
バレエ、フィギュアスケート…過度な減量が選手生命を奪いかねない理由
米国の調査によると、バレエを学ぶ女子学生239人の52.3%が、疲労骨折や骨折、腱鞘炎の経験があることがわかった(写真:getty images) ◯山本佳奈(やまもと・かな) 1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)  日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回はスポーツ選手などの過度な減量について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。 *  *  *  華やかなイルミネーションに包まれ、街はすっかりクリスマスモード。クリスマスをテーマにしたバレエ「くるみ割り人形」は、この時期にたくさん上演されます。わたしも、毎年欠かさず見に行く演目の一つです。  バレエは、筋力、強さ、持久力、柔軟性、敏捷性を必要とする舞台舞踊。そのために、厳しいトレーニングが欠かせず、細く締まった体格を維持しなければなりません。  余談ですが、バレエ好きが高じてレッスンに通うようになった私。軽やかに飛んだり回転したりしているように見えますが、想像以上にハードです。バレエの先生は、引き締まった体型でスタイル抜群。もちろん、バレリーナは皆すらっとしていて、骨折しないかしら、と心配になってしまいます。   実は、バレエに限らず、審美系のスポーツである新体操やフィギュアスケート、持久系のスポーツである長距離など多くの競技で、女性選手は減量をしているといいます。厳しいスポーツの世界で戦う上で、痩せ体型となることが競技パフォーマンスをあげるために有利であるとされがちであることや、審美を気にするあまり、食事摂取量を減らしてしまうことが原因です。  しかしながら、過度な減量は選手生命を奪いかねません。継続的に激しいトレーニングを行う女性は、利用可能なエネルギーが不足する(low energy availability: 利用可能エネルギー不足)リスクがあります。運動によるエネルギー消費量が、食事によるエネルギー摂取量を上回った状態です。中には、極端な食事制限や、食事を摂取した後に嘔吐するなど、摂食障害を引き起こしているケースもあります。  この状態が続くと、女性ホルモンや骨代謝に異常をきたします。エネルギー不足が続くと、脳から女性ホルモンの分泌が低下し、排卵がなくなる無月経に陥ります。無月経が長く続き、女性ホルモンの量が少なくなってしまうと、骨密度は低い状態にとどまってしまうことになり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を引き起こしてしまうのです。low energy availability、無月経、骨粗鬆症は、女性アスリートの「三主徴」と呼ばれています。  2016年5月11日の米国の地方紙において、女性アスリートの健康に関する記事が大きく取り上げられていました。ダイエットによる貧血、月経周期の乱れ、骨密度の低下の3つの問題が、女性アスリートの健康に大きな影響を与えているのだと。米国における女性アスリートの健康についての問題意識の大きさが伺えます。  新聞で取り上げられていたこれらの問題について、バレエダンサーにおける報告もたくさんあります。  2011年、米国の調査によると、バレエを学ぶ女子学生239人の52.3%が、疲労骨折や骨折、腱鞘炎の経験があること、そして断食29.3%、嘔吐9.6%、下剤の使用4.2%などによって体重の制御を行なっており、食の行動が乱れていることがわかりました。  また、2005年のセルビア・モンテメグロの研究者らが、女性のバレエダンサー30名と運動をしていない女性30名を比較検討したところ、バレエダンサーの半数は痩せ(BMIが18.5未満)であることがわかりました。また、バレエダンサーの20%が無月経であり、10%は稀発月経(月経周期が39日以上)であることもわかったのです。  少し古い報告ですが、1987年、国立および地域のバレエ団の成人のバレエダンサー55人を対象とした調査によると、なんと56%のダンサーの生理が遅れており、19%は無月経。さらに、バレエダンサーの3分の1が、拒食症または過食症といった食事に関する問題を抱えていることもわかりました。  さらに、2015年、ニュージーランドのマッセー大学が、オークランド在住の13歳から18歳の女性の若手のバレエダンサー47名を対象に行った調査によると、13名(28.3%)がフェリチンの値が20μg/L未満であり、そのうち4名が鉄欠乏状態(フェリチン値12μg/L未満、ヘモグロビン12.0mg/dl以上)、1名が鉄欠乏性貧血(フェリチン値12μg/L未満、ヘモグロビン12.0mg/dl未満)でした。バレエダンサーは、鉄欠乏状態のリスクに晒されていることが報告されたのです。  実は、痩せの問題は、アスリートに限りません。スペインやイスラエル、ベルギーやイタリア、チリなどの国々では、痩せすぎのモデルをファッションショーに出演させることを法律で禁止しています。  2017年5月には、ファッションの中心地であるパリでも、極端に痩せているモデルの活動を禁止する法律が施行されました。フランスではスリムなモデルに憧れるあまり、多くの女性が拒食症に陥っています。法律の施行は、そんな現状改善を促すことが目的だと言います。  日本はどうでしょうか。日常生活において、ダイエットの広告に目に触れないなんてことはありません。実は、第二次世界大戦以降、日本人女性の痩せが問題視されています。2002年以降、若年女性の摂取エネルギーは終戦後すぐの都市部の平均摂取エネルギーを下回っています。ランセットに掲載された、1975年から2014年までの世界200カ国の成人におけるBMIを調べた調査によると、痩せの日本人女性は、1975年の440万人から2014年の570万人に増加していたことがわかりました。  アスリートだけでなく、現在の日本人女性にとって痩せることは大変関心が高いと言わざるを得ません。けれども、減量やダイエットに歯止めがきかなくなり、摂食障害、月経不順や無月経、さらには骨粗鬆症まで引き起こしてしまうことになりかねません。綺麗になりたいと思い減量すると、将来にまで影響を与えてしまうということを、どうか忘れないでくださいね。 ◯山本佳奈(やまもと・かな) 1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
dot. 2018/12/19 07:00
初代クイーン世代女子の“怨念”がブーム再燃の原動力
初代クイーン世代女子の“怨念”がブーム再燃の原動力
11月24日、フレディの命日にシンコーミュージックのビルで緊急開催された追悼イベントで、参列者に配布された記念ポストカード(撮影/品田裕美)  世代も性別も超えて絶賛されている映画「ボヘミアン・ラプソディ」。1975年の初来日のころに熱狂した初代クイーン世代の女性ファンらは、彼らからどのようなパワーを受け取ったのか。 *  *  *  初代クイーン世代の中心は60年代生まれ。その多くが高卒か短大卒での就職を勧められる少女時代を過ごした。理由は「嫁のもらい手がなくなるから」。  社会人になる前後の86年には男女雇用機会均等法が施行されたものの、現実は厳しかった。私(角田)は2009年のAERAで均等法第1世代のその後を追ったことがある。総合職として入社した、時代のトップランナーだった彼女たちが、40歳を過ぎて正社員として勤続している例はわずかだった。04年版男女共同参画白書でも、均等法第1世代を対象にした調査で「女性の回答者が少なかったのは、今も働き続けている女性が少ないため」と推測されている。  一方で、サブカルの世界では彼女たちの影響力は生き続けた。いまや大御所の少女漫画家、萩尾望都や大島弓子、青池保子、山岸凉子らが出版社の編集者にストーリーを理解されず、苦労したころから熱中し、支えたのもこの世代の少女たちだ。ナンシー関や中尊寺ゆつこらを輩出し、竹の子族やDCブランド、女子大生ブームも作った。 「オンナコドモのもの」とさげすまれたものを一途に愛し、置かれた場所で生きることを大切にした。それが私たちの闘い方だった。一回り上の「団塊」が声高に真っ向から社会と闘い、敗れていくのを目の当たりにした世代。時は流れ、「普通のおばさん」になったけれど、時代の面白さに敏感で、社会へ影響を与え続けてきたのだ。  79年のクイーン来日公演に熱狂し、「ボヘミアン・ラプソディ」を九州の地元のシネコンで観た竹本貴美子さん(57)は話す。 「観客の多くはスーパーで見かける風のおばさんや白髪交じりのおじさんで、生活に疲れた感が満載。でも昔は私みたいなロック少年少女だったはず。観終わったときは劇場が温かい雰囲気になっていて語り合いたかった。みんな、頑張ろうって。映画にはクイーンをよみがえらせて、青春時代に連れ戻してくれてありがとうっていう気持ちです」  映画は、世代も性別も超えて絶賛する声が多い。元「ミュージック・ライフ」編集長の東郷かおる子さん(70)は「名画かどうかは分からないけれど、いい映画であることは確か。あれだけの観客を動員しているんだから」と言う。  ドキュメンタリーとは違う、この高揚感は歌舞伎の忠臣蔵にも似ている。史実がベースだが現実とは異なる物語の世界。だが、伝わってくる感情は本物だ。  晩年のフレディは病に侵されながら、命の限りを音楽に捧げた。死期が迫るなかでビデオに収録された、おそらく最後のインタビューをこう結んでいる。 「僕にとって一番大切なことは幸せでいること。自分で犯した過ちは自分で償うしかないんだ。自分らしく生きるまでさ。残された年月をできるだけ生き生きと楽しく過ごそうと思う」  クイーンの黄金期を知らない世代が映画に涙し、ライブに胸躍らせているのは素直にうれしい。美形の若きロジャー・テイラーにときめき、似顔絵を描いたり、写真を集めたりする女性たちは昔の私たちにそっくりだ。  このブームはいずれ去る。それでもいいのだ。クイーンは人の心の奥底で生きる力を与えてくれる。少女のころ、周りに理解されなくても、愛し続けた私たちに、彼らの音楽がずっと寄り添ってくれていたように。(ライター・角田奈穂子[フィルモアイースト]) ※AERA 2018年12月17日号より抜粋
AERA 2018/12/15 17:00
年の瀬に「羽子板」が縁起ものとして売られる理由
鈴子 鈴子
年の瀬に「羽子板」が縁起ものとして売られる理由
浅草寺で授与される「縁起小判」 歳の市(羽子板市)時の仲見世通り 羽子板市が立つ浅草寺の境内 今も歌舞伎の演目の板が並ぶ  日本人に特に人気のある観音さまは、正式には観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)あるいは観自在菩薩(かんじざいぼさつ)という名を持つ。一度は耳にしたことがあるだろう有名な経典・般若心経(はんにゃしんぎょう)の冒頭に登場する仏さまである。  菩薩さまである以上、釈迦(仏教の開祖)の修行中のある時の姿を映したものだが、日本に鎮座する仏像のほとんどは女性的な肢体を備え、しなやかで優しげな様子は見るものを魅了する。現在日本に存在するお寺のほとんどが、境内のどこかに観音さまを祭っていると言ってもよいだろう。仏にはそれぞれ、その日に参拝すると特別のご利益があるとされる「縁日」があるが、これほど人気のある観音の縁日だけに、毎月18日は、よく知られる日となっている。 ●正月用品を扱う年の市と観音さま  京都の清水寺(千手観音)、滋賀・石山寺(如意輪観音)、東京・護国寺(如意輪観音)など有名どころの毎月の縁日は多くの参拝者を集めるが、12月の18日は特に「納め観音」と呼ばれ、ひときわ大きな催事となる。  東京・浅草寺の本尊は聖観音菩薩で、12月の観音縁日に合わせて、すでに江戸初期には多くの店が並ぶ市が立っていた。年末の正月用品を売る市は「年の市」と呼ばれ、全国各地で行われていくのだが、浅草のものはひときわ賑わいをみせ、江戸初期頃から、羽子板が多く扱われるようになり、これが今の「羽子板市」へと続いている。  羽子板がこの時期に売られるのは、もちろんこれが魔除け・厄除けの正月の縁起物として考えられていたためである。 ●羽子板が縁起ものとなるわけ  羽子板が女子の厄除けと考えられていたのは、羽根が害虫(特に蚊)を食べるトンボの姿に似ていることから、「悪い虫がつかない」ことを意味するとか、羽の玉に使われている木、「無患子(むくろじ)」の漢字が、“子が患わない”ことを指すといった縁起担ぎからである。  余談だが、日本では古来、前にしか飛ばないトンボは、“常に前進する”勝ち虫として武将たちにも縁起が良いとして兜や陣羽織などの装飾にも用いられている。加賀の前田利家の兜につけられた前立ては有名である一方、西欧ではトンボは不吉な虫として扱われていたというから、文化が育んできた歴史は興味深い。 ●ひいきの役者の羽子板を競って購入  また、節分の折にも紹介したが、羽根についている黒い豆は「魔滅(まめ)」につながるために魔除けとして、また「忠実(まめ)であること」への戒めにも通じている。  正月に用意するおせち料理とともに、正月を迎えるにあたっての日本人の心の持ちようが込められた風習だ。  今年、浅草の「歳の市」(羽子板市)は18日を挟んで12月17日~19日の3日間行われる。羽子板の露店だけでなく、境内には各種の店が並び毎年30万人以上の人出で賑わう。近年では、その年話題となった人や出来事をあしらった変わり羽子板も話題となるが、江戸時代から続く歌舞伎役者の顔を模したきらびやかな板が今も人気を誇っている。  江戸時代の中期頃の役者ブームの頃には、羽子板の売れ行きで、役者の人気や舞台の当たり具合を推し量っていたのだとか。今も昔も、タレントグッズの売れ行きは人気のバロメーターである。  さて、この日に合わせて浅草寺では、日頃は置かれていない恵比寿と大黒の姿が描かれた「恵比寿大黒天御影」や「縁起小判」が授与されている。平成最後の「納め観音」では、どんな羽子板が出揃うのだろうか。
神社仏閣
dot. 2018/12/15 07:00
53歳、相撲女子がスタンプラリーを初体験 子どもたちよ「大人はずるいものなんだ」
53歳、相撲女子がスタンプラリーを初体験 子どもたちよ「大人はずるいものなんだ」
新宿三丁目駅で、ジオのスタンプをゲット! かわいい!(撮影/和田静香) 巣鴨駅の問題。ヒ、ヒントを教えてください・・・。(撮影/橋田真琴)  日曜日の朝9時半、地下鉄・丸ノ内線に座りながら私はニヤリとした。  53歳、独身、趣味・相撲観戦の女がひとり、よもや今からスタンプラリーに行くとは誰も思いやしまい。いや、53歳は見た目で分かるとして、独身、趣味・相撲観戦に関しても誰も思いやしまい、なのだが。とにもかくにも、私はスタンプラリーに行くのだ。  スタンプラリー? ほら、あれよ、子どもがノートみたいのに駅にあるスタンプを押しては、嬉しそう~にぐるぐる巡るやつ。あれ、あれをやるのだ、53歳、独身、趣味・相撲観戦の私が! どうだ、誰も思いやしないだろう?  不敵な笑みを浮かべながら、駅でピックアップしたばかりの「『科学漫画サバイバル』シリーズ 都営交通×東京メトロ サバイバル 推理&スタンプラリー」(2018年12月1日~2019年1月14日)のページをめくり、参加方法を読んだ。 1.駅に向かい、スタンプ台を探そう!~指定された6つの駅でピピの居場所の手掛かりをみつけよう。まわる順番は自由だ。駅についたら、スタンプ台を探してね。  2.スタンプ台で手がかりを手に入れよう!~問題を解こう、ピピを探そう、スタンプを集めよう。全駅でこれを繰り返して、ピピの居場所の手がかりをすべて集めてね。 3.いよいよ最終問題!  4.プレゼントに応募しよう!  なんだか頭にぜんぜん入ってこない。説明書は苦手だ。そっとスタンプラリー帳(以下ラリー帳)を閉じて目も閉じる。スタンプ台が設置してある6駅のうち、まずは新宿三丁目駅へ向かおう。それだけだ。後は出たとこ勝負。説明や計画は私にはいらない。人生ずっと、そうやって来た。行き当たりばったり。それがいいのか悪いのか? んなこたぁ、知らん。  さて、「科学漫画サバイバル」シリーズは私も初めて知ったが、韓国発の学習漫画で、世界中で3000万部を誇る「ハラハラ・ドキドキ夢中で漫画を楽しんで、しかも科学や理科の勉強になる」大ベストセラーなんだという。日本では2008年から朝日新聞出版から刊行されている。子どもの世界は、子どものいない私には知らないことだらけだ。  新宿三丁目駅に着いた。スタンプ台を探すと、あった!というより、いた! 子どもたちがすでにワラワラいてワアワアしている。まずはスタンプを押そうと推定7歳ぐらいの男の子の後ろに並ぶと、お母さんが私を見て即「ほら、邪魔だからどきなさい!」と子どもを慌てて引っ張る。53歳のおばさんが1人でヌゥ~ッと現われたのである。そりゃ、ビックリして子どもの手も引くもんだ。でも、お母さん、私、これ、仕事なんですよ。体験記事を書くよう頼まれたんですよ、怪しいもんじゃないんです。言いたいことは山ほどあるが、目礼だけしてスタンプを押す。ほぉ~。くっきり押されるもんだ。それに、可愛い。  で、問題とな? ぜんぜん分からん。すると、子どもが口々に答えを叫ぶ。「〇〇駅だ!」「ピピは〇〇駅にいるよ!」ふむふむ。カンニングで答えを埋めてから、そういう問題だったのか、と初めて知る。問題、よく読んでなかったわ。だって、問題には目を向けたくないのよ。問題から目をそらし、とりあえずその場その場をやり過ごして生きてきたの。  次はどの駅に行こう? 迷っていると、一人のお母さんが子どもに問いかけていた。「次はどこに行けばいい?」「後楽園!」「そうね、でも、こういうときは一番遠くの駅がいいかもよ。馬喰横山は一番遠いけど、ここから都営新宿線で行けるからね」  ありがとう、お母さん。私もそうする! 人生迷ったときは助言に従え、だ。都営新宿線の改札にさっそく向かった。そうそう、都営+メトロ1日乗り放題切符900円を購入したから、どう行こうと900円。今日は1日900円三昧だ。  馬喰横山駅に着いた。意外と近い。今度はカンニングしないでも、ラリー帳にある図とヒントですぐに答えが分かった。それを書き込み、次はどこに行こう?とまた迷う。ラリー帳にある路線図を眺め、(今日は帰りに豊洲に寄りたいんだ。とりあえず巣鴨駅~後楽園駅を攻めて、その後に大門駅、有楽町駅でフィニッシュがいいんじゃないか?)と考えた。すると、子どもを5人も引率して先生然として女性が「まだお腹は大丈夫ですか? それでは大門に向かいます」と言っている。ふ~ん、と聞き流したが、これが大失敗だとこのとき私はまだ知らなかった。  巣鴨駅へは都営新宿線を新宿方向へ戻り、神保町駅で都営三田線に乗り換える。隣に座った初老の男性が熱心に競馬の出走表のようなものを見て書き込みをしている。その目は真剣だ。こういう人を見ると私は「勝ってますか?」などと茶化してみたくなるのだが、大人しく自分もラリー帳を読む。  と、ん? ラリー帳の最後のページに「全6駅のスタンプを集めて賞品をゲットしよう! 引き換え場所→メトロ・エム後楽園3F丸善レジカウンター」とあるではないか! が~んっ! そうか、後楽園は最後に行かなきゃいけない駅なのか! 馬喰横山駅からは先に大門駅に向かうべきだった。仕方ない、巣鴨駅でとりあえず降り、その後に都営三田線をずっと南下して三田駅で乗り換えて大門駅へ行こう。やっぱり、ちゃんと説明を読んで計画しなきゃ。いや、人の助言は聞くものだ。  うなだれて巣鴨駅で降り、スタンプを押し、問題を解き、ホームに戻った。フーッと大きくため息をつき、鞄から家で作ったおにぎりを出し、ベンチに座って食べる。こういうときはひたすら前を見て無心で食べるしかない。もぐもぐ。もぐもぐ。  食べ終えて、また都営三田線に乗った。時計を見たら、11時57分。なんだ、まだ昼前だったのか! 焦ることはない。いいじゃないか、間違えても。乗り換えればいい。遠回りしても、やがて着くのだ。そりゃちょっと疲れるが、ゆっくり行こう。それが私の人生らしいじゃないか!  気を取り直して大門駅に到着。また子どもが答えを叫んでくれたので、そのまま書き込み、都営大江戸線に乗り、月島駅経由で有楽町駅に向かう。こういうルート、通ったことなかったなぁ、発見だなぁと思っていたら、メトロの車内吊り広告に「Find My Tokyo!」と書いてあり、その通りだよ、と思った。外に出るって、発見がある。  有楽町駅でも、また子どもが叫ぶ答えをそのまま書きこんだ。ずるい? そう、大人はずるい。子どもよ、それを本当に知るのはもう少し先だ。その時は少し痛みがあるだろう。  そうして最後の駅、後楽園を目指した。よくぞここまで来たものだと、何やら感慨深い。途中、遠回りもしたが、やはり着くのである、ゴールへと。どんな道を通っても、人はみな同じゴールへたどり着く……のか? ここでふと、気づいた。「賞品、他の日にもらったってよくなくないか?」と。しばし固まり、思い直す。いや、賞品をもらってこそ、スタンプラリーは完了だ。  最後のスタンプを押し、クイズに答え、メトロ・エム後楽園3F丸善で賞品のクリアファイルをいただいた。この時点で歩いた距離は7589歩。地下鉄に乗るだけのはずが、意外と歩いてもいた。足が棒になっていた。帰りに寄り道なんてとんでもない、となった。  すべてのクイズから答えを導く最終問題が分かった頃、出発した南阿佐ヶ谷駅に帰ってきた。時刻は2時半。5時間かかったことになる。スタンプラリー、やり始めると夢中になる。そして、あれこれ考えさせられる。何やらこれは巡礼のようだ。大人にとってのスタンプラリーって、お遍路さんだと思った。  そう思いながら悟った目をして、帰りにたこ焼きを食べた。ちなみに経路ですが、自分の最寄駅ごとに正しい順路は違うと思いますので、念のため。 ◯和田静香(わだ・しずか)/1965年、千葉県生まれ。音楽評論家/作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦が高じて最近は相撲についても書く。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』『東京ロック・バー物語』など。
鉄道
dot. 2018/12/14 17:27
中瀬ゆかり「炎上王子・古市憲寿クンが語った場を凍りつかせた結婚感とは?」
中瀬ゆかり 中瀬ゆかり
中瀬ゆかり「炎上王子・古市憲寿クンが語った場を凍りつかせた結婚感とは?」
中瀬ゆかり(なかせ・ゆかり)/和歌山県出身。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部部長。「5時に夢中!」(TOKYO MX)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「垣花正 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)などに出演中。編集者として、白洲正子、野坂昭如、北杜夫、林真理子、群ようこなどの人気作家を担当。彼らのエッセイに「ペコちゃん」「魔性の女A子」などの名前で登場する名物編集長。最愛の伴侶、作家の白川道が2015年4月に死去。ボツイチに 古市憲寿氏 (c)朝日新聞社  今年もっともブレイクした旬の人物のひとりは、社会学者の古市憲寿クンではなかろうか。『絶望の国の幸福な若者たち』『だから日本はズレている』などの著作があり、最近は『平成くん、さようなら』という小説を発表し、なにかと話題になっている。いや、それより「コメンテーターでしょっちゅう炎上している炎上王子」「デヴィ夫人を怒らせた若者」と言った方が早いか。  私と彼は、今や「とくダネ!」をはじめ、「ボクらの時代」で林真理子さんと3人で出たり、と、テレビでたまに共演してるが、ちゃんと知り合ったのは3年前のこと。「エンジン01 文化人戦略会議」という林真理子さんが幹事長を務めている集まりがあり、毎年、いろんな土地でオープンカレッジを開き、会員は手弁当で参加しているのだが、私も林さんにお誘いいただき、盟友・岩井志麻子とコンビで下ネタ専門講師(?)として参入している。古市クンもその若手会員だ。  3年前、トウチャンを喪ってまだ半年しかたっておらず失意のどん底だった頃、エンジン01文化戦略会議が宮崎で開催され、気を紛らわせる意味でも参加した。いつものように下品な講座や「夜楽」と呼ばれる地元の方々との交流会を終え、ホテルの宴会場で講師打ち上げをしているとき、生意気そうな表情をした古市クンが私たちのテーブルにやってきて、突然ちょこんと座ったのでびっくりした。もちろん、その存在は知ってはいたが、ちゃんと話したことがなかったし、どちらかといえば、若くて頭が良くて人を小馬鹿にしたような男性が苦手で、敬遠してきたのだ。この手の若者と何をしゃべったらいいのかわからないじゃないか!  意外なことに近くで見る彼はテレビの画面や遠目に見かけてきたよりよほどシャイな様子で、でしゃばらない。私と志麻子とおっさん連中は下ネタを話し続けていたが、それに参加するわけでもなく、かといって席を蹴って立つわけでもなく、ただただアルカイックスマイルを浮かべて座っているだけ。おひらきの時間に、「明日はみんなで朝から高千穂神社にツアーに行くんだよ」と私が言うと、「へぇ。ボクも行こうかな」とつぶやき、本当に、翌朝、寝癖のついた頭で観光バスに滑り込んできた。  神社では、その地方に伝わる「鬼八」の伝承を聞いた。ミケイリノミコト(神武天皇の兄)が、悪さばかりする鬼を退治し3つにわけて埋めたら、その鬼の霊が田畑に霜をふらせ作物に被害が出るようになり、困った村人たちが供養の祭りをするとそれが収まった、そこから毎年祭りがあるんですよ、という説明をガイドさんに受けていたら、古市クンが横でポツリと「へぇ、なんか、コスパ悪いっすね。最初っからひとところにまとめて祀っておけば一回で済んだのに」とか言いやがるではないか!土地の伝承をコスパの一言で片づけるその感覚は一周回って爆笑&新鮮。トウチャンもこういう変なこという若い子を面白がるタイプだったし。そこからはもう呼び捨てで、「中瀬さんの横幅が大きくすぎて山道からはみ出してるんですけど」「古市、ふーざーけーんなーっ!」などと言いあいながら仲良く散策した。  それから、時々グループで定期的にご飯を食べに行くようになった。デザート(彼は無類のスイーツ好き)を何人前もほうばりながら、「痩せたい~(ハート)」などと女子高生のようなセリフを口にするので思わず笑ったら、「だって、中瀬さんみたいに太ったら恥ずかしくて生きていけない」「ハゲは仕方ないけど、デブは自己責任だから」などと言い募る。「どうか古市が40歳になったらハゲて太りさらばえていますように」と軽く呪いをかけるのはお約束。  ある時には堂々と、「ボクはメリットのある人としか付き合わない」「結婚はステージがあがるビッグチャンス。だから、家柄がよくてお金持ちな女性としかしない」などと言い放ち、場を軽く凍りつかせた。  得意技は「お金持ちのジジババを転がすこと」のようで、「そういうおじいさんおばあさんはスマホは持っててもラインはやってない人が多いから、すぐにピってラインをインストゥールして自分とだけつなげると、2人きりのホットラインができて秘書とか通さなくていいから、すぐにご飯とか連れてってもらって仲良くなれるもん。ふふっ」。コイツ、パパ活、ママ活のプロか! ここは年上から一発説教をせねば。 「あのね、古市クン。そんなメリットとかコスパばかり考えてるとロクな人間にならないよ。人生にはもっと大事なことがだねぇ…(以下省略)」  古市は興味なさそうに聞き流しながら、「そういえば、最近中瀬さんとデートしてる男ってなにモク?中瀬さんになんの利権を見出してるんだろうね」だと。こんなやつに恋愛相談めいたことをした私が馬鹿だった…。なんかぐやじい。とはいえ、当分、この炎上王子の快進撃が続くんだろうなあ。  古市よ、物事がメリットやコスパ至上主義でうまくいっている時はキミを遠目で眺めてるけど、いつか損得抜きで好きな相手ができたりで恋に悩んだりしたときは相談にのるからねーっ。ま、一生なさそうだけど。
中瀬ゆかり
dot. 2018/12/13 16:00
「入管法」で対応問われる法務省入管局長 東大生時代はアイドルプロデューサーだった!?
「入管法」で対応問われる法務省入管局長 東大生時代はアイドルプロデューサーだった!?
入管局長・和田雅樹氏の東大在学時代が掲載されていた大学受験情報史『高3コース』1981年4月号(学研)。表紙は女優・宮崎美子さんだ(写真/筆者撮影) 大学受験情報史『高3コース』1981年4月号(学研)に掲載されていた「大学サークル最前線 わしらの手でアイドルをつくるのじゃ! 東大アイドルプロデュース研究会」という記事。2代目会長として和田雅樹氏も登場している(写真/筆者撮影)  12月8日、改正出入国管理法(入管法)が成立した。これによって外国人受け入れ政策は大きく変わる。しかし、国会審議において立憲民主党など野党が強く反対した。期間、規模、分野など議論が十分に尽くされておらず、人手不足を解消するための「使い捨て」になるのではないかと懸念する。  なかでも技能実習生が低賃金で苛酷な環境での生活を強いられており失踪者が多いこと、また、法務省の技能実習生実態調査に多くのミスがあったことは、政府の姿勢に不信を募らせることになった。参議院議員の有田芳生氏は、多くの技能実習生が亡くなったことを問題視し、国会質疑で安倍首相にこう迫った。「これはただの69件の死亡事案ではない。ここには69人一人ひとりの人生がある」。改正入管法によって外国人労働者が日本で共生できるか、まだまだ課題は多い。  入管法を運用するのは法務省入国管理局であり、指揮をとるのは法務大臣だ。入管行政の責任者は法務省入国管理局長(入管局長)となる。国会では入管局長が答弁する姿がしばしば見られた。外国人労働者の受け入れ者数の上限について、「客観的なデータに基づき、政府内で慎重な検討を経ることになる」と官僚答弁に徹している。  現在、入管局長は和田雅樹氏。1985年に東京大学法学部を卒業し、東京地検検事、函館地検検事正、最高検検事を経て、2017年に入管局長に就任した。法曹畑を絵に描いたようなエリートコースを進んだ和田氏。東大時代はまじめに法律を勉強していたかと思いきや、キャンパスライフをしっかり楽しんでいた。  時代は昭和にさかのぼる。  和田氏は東京大文科I類に在学中、「東大アイドルプロデュース研究会」の会長に就任している。その名の通り、自分たちでアイドルを探して、芸能界にアイドルを売り込もうというサークルだ。  大学受験情報誌『高3コース』(1981年4月号、学研)に、現・入管局長の37年前のコメントが掲載されている。東大アイドルプロデュース研究会の活動について、和田氏の話。 「ポスト百恵となるべきアイドルを自分たちでつくり出そう、ってのがキャッチフレーズだったんですね。女性週刊誌などで募集したところ、小学生から24歳のOLまで、1723人もの応募があってビックリ」  1980年10月に行われた駒場祭では、東大アイドルコンテストを行っており、1位に音楽大学に通う女子学生が選ばれている。コンテスト会場の様子について、和田氏はこう話す。 「会場にはスカウトマンがいっぱい来てたんですが、彼女をすぐに売り出すのはやめて、しばらくのあいだ我々のイベントのアシスタント役として、手もとにいてもらったんです。プロとしては、この2月にデビューしたばかり」(『高3コース』1981年4月号)。  和田氏はしばしばメディアに登場して、東大アイドルプロデュース研究会をアピールしていた。  大学とアイドルの関係はいつ頃はじまったのだろうか。  1970年代半ば、東京大に「山口百恵を守る会」が結成され、メディアで大きな話題になったことがある。やがて、キャンパスには政治的な立て看板が減るとともに、大学祭では歌手、タレントを招いて盛り上がるというブームが起こった。  1980年代になると、学園祭の女王として、山下久美子、浜田麻里、白井貴子、森高千里、森川美穂、田中美奈子、川島なお美、杉本彩らが、キャンパスで学生を熱狂させた。東大アイドルプロデュース研究会は多岐川裕美を呼んでいる。  大学でミスコンが開かれるようになったのもこのころだが、学内では「容姿で女性を選ぶのは女性差別」と批判する声があって、いまほど盛況ではなかった。  やがて、多くの大学でイベントサークルが誕生し、広告会社と手を組みミスコンなどのイベントを仕掛けて「女子大生」を売り込む時代がやってくる。1990年前後のバブル期だ。その後、ミスコン優勝者がアナウンサーに採用されるという図式がしっかり定着し、今日にいたる。  大学祭でのタレント登場は今も盛んに行われている。大学にすれば集客力が期待できる。タレントにとっても大学生ファンを増やせる。今年11月、立教大の学園祭でアイドルの橋本環奈が出演予定だったが、集客の度が過ぎてキャンパスには収容しきれないほどの人が集まった。けが人が出るほどで、橋本の出演は中止となる。  キャンパスにアイドルを呼ぶ。和田氏率いる東大アイドルプロデュース研究会はそのさきがけとなったといっていい。現・入管局長の「功績」は大きい。  和田氏はいま、在留する外国人を「プロデュース」する責任者となった。もちろん、昔のアイドルプロデュースを、今の外国人入国管理と結びつけて語るべきではない。別個の話である。  と、わかっていながらも、入管局長として和田氏がどのような舵取りをするのかが気になる。外国人が日本人とともに楽しく働き、幸せに生きられる国をつくってほしい。  なお、東大アイドルプロデュース研究会の創設者で初代会長は、精神科医の和田秀樹氏。和田雅樹氏の実兄である。 (文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)
dot. 2018/12/13 07:00
グレイヘアでない原日出子さんの「再デビュー」
矢部万紀子 矢部万紀子
グレイヘアでない原日出子さんの「再デビュー」
原日出子さん(C)朝日新聞社 矢部万紀子(やべまきこ)1961年三重県生まれ、横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』  グレイヘア界に、近藤サトさんが参戦してきた。50歳だそうである。白が基調のまとめ髪に和服を着て、朝日新聞の「ひと」欄にも登場していた。  白髪をグレイヘアと言い換えたのは誰なのか。その人のおかげで昨今のシニア女性界は「グレイヘア特集」の花盛りだ。白髪染めをやめる=白髪を隠さない=ありのままの自分=心の自由。こういう文脈でとらえられるところがポイントだ。そこにヘアスタイルや似合う服、お化粧の仕方と情報てんこ盛りで、売れ行き好調と聞く。  けっこうなことだ。近藤さんにしたところで、声をかけられ参加しているだけのことだろう。承知しながら「参戦」などと書いてしまう57歳(もうすぐ58歳)の私。近藤サトさんで、はっきりしてしまったなーと思った。何がかと言うと。 やっぱ美人じゃなきゃダメよねー、グレイヘアも。 と。あ、すみません、不美人のひがみです。でも結局、白でも黒でもグレイでも、美人は美人ってことでは? なーんて思えて、ちょっと冷めてます、グレイヘアに。  などとブツブツ心でつぶやいていた今日この頃、映画「鈴木家の嘘」を観に行った。すると原日出子さんが出ていた。引きこもりの長男(加瀬亮)を自死で亡くす母親役だった。  重いけど明るい、つらいけど笑える、そんな映画の中で原さん、可愛いかった。ちゃんと年をとっての可愛いさ。そしてそして原さん、髪の毛が少なめだった。そこがよかった。  昨年まで、シニア女性誌の編集長を6年ほどしていた。編集長になったばかりの頃、読者の人気ナンバーワン女優が草笛光子さんだと知った。意外だったが、ある読者の言葉で理由がよくわかった。「白髪であんなにステキな人がいると、とてもうれしい」だった。グレイヘアがブームになる芽は、その頃からあったというわけだ。  だが実際、読者に「髪の毛の悩み」を尋ねると、圧倒的第一位は「薄毛」だ。髪の毛を洗うたびにどれだけ抜けたか確かめるという読者もいたし、「ママ、ハゲてる」と娘に言われたという読者もいた。  そんなわけだから、原さんの髪の毛があまり多くなさそうなこと、割とすぐに気づいた。激しく痩せている人ばかりの芸能界で、原さんはぽっちゃりめに見える。ダブルで「よいなー」と思った。だって髪の毛少なめでぽっちゃりめは、まさにシニア女性のリアル。編集長としての6年が、私にこう叫ばせる。彼女は、私たちだ、と。 「鈴木家の嘘」の冒頭、長男が自室で首を吊るシーンが映る。観客にすべてをわからせた上で、原さん演じる悠子が買い物から帰ってくるシーンになる。食卓の上のラジオをつけ、昼ご飯の支度をする。毒蝮三太夫の声。悠子は時折、フフフと笑う。  後半、悠子がその日を振り返るシーンがある。「ラジオに夢中になっていた」「いつも毒蝮さんを聞いていること、あの子(長男)は知っていた」。そう語る。確かに料理をするならテレビよりラジオだし、毒蝮さんは笑えてちょっとしんみりさせてくれる。でもこの台詞が響いたのは原さんだからであって、たとえば黒木瞳では、そうはいかない。  悠子はオムレツを食卓に並べ、2階に向かって「こういちー」と声をかける。それからトントンと階段を上がる。何もかもが、しっくりくる。  部屋のドアを開ける。首を吊った浩一を発見する。助けようとし、倒れ、意識不明になる。目を覚ましたのは浩一の四十九日の日。息子の死を忘れている。そこから家族(夫と娘。加えて悠子の弟)の嘘<浩一はアルゼンチンで働いている>が始まる。  悠子の夫(岸部一徳)と娘(木竜麻生)が浩一について告白するシーンがある。自分は彼をこうとらえていた。だからこう行動した。そう語る。なるほどそうだろうと納得し、同時に心が痛む。  悠子は違う。理屈ではなく、感情なのだ。嘘がバレてからの原さんがすごかった。喜びから一転、自分を責めに責め、挙句にある行動に出る。その行動に終止符を打つのは結局、悠子の生命力だった。圧巻のシーンだった。それがあるからラストに向け、見る側も悠子と心を一つにできた。  少なめヘアでぽっちゃり系の原さんだから、悠子が悠子になり、「鈴木家の嘘」は成功したと思う。  朝日新聞に原さんのインタビューが載っていた。実生活でも3人の子の母で、子育て優先できた。だから真面目な女優でなかったかもしれないと振り返り、こう言っていた。 「いい役をずいぶん逃してきたと思います」  すごくカッコいい台詞だ。自分に自信を持った人でないと言えない。  昨春、3人とも独立したのを機に、子どもに「女優宣言」したのだそうだ。「これからは仕事を優先します」と。「鈴木家の嘘」のことを原さんは、「久々に『代表作です』といえる作品に出会えた。再デビューしたような気持ちです」と言っていた。  子育てを終えた後、どうするか。シニア女性が抱える普遍的な悩みだ。「自分」を考える。「白髪染めをやめる」というのは自分を考え直すよいきっかけになる。シニア女性誌がグレイヘアを特集するのも道理なのだ。  わかりつつも、グレイヘアに食傷気味なのは私だけではないはず。そうだ、グレイヘアより原さんだ。みんな子育て後、再デビューしたい。  原さんのページをシニア女性誌で作りたい。きっと当たるはず。  久々に、そんなことを思った。(矢部万紀子)
dot. 2018/12/10 11:30
なぜ「朝食抜き」は太りやすい? 栄養学の新常識
なぜ「朝食抜き」は太りやすい? 栄養学の新常識
機能性をうたった静岡の三ケ日みかん (JAみっかび提供) ビタミンDを多く含む食品 (週刊朝日 2018年12月14日号より) 間食をとった場合ととらない場合の血糖値の変化 (週刊朝日 2018年12月14日号より)  高齢者が陥る老年症候群の一つがフレイル(虚弱)。体が衰えて要介護の手前となる状態で、低栄養が原因の一つになっている。元気で長生きするため、高齢期のフレイルと中年期の生活習慣病を防ぐ食事術と栄養学を知っておきたい。 「女性は60代ごろになると、運動器の老化が顕在化します。その背景として、栄養素ではビタミンDが一番大きな問題だと思います」 「日本と韓国の女性は血中のビタミンD濃度があるべき数値より下回っていると、国際骨粗鬆症財団から警告が出ています。現在、本当に危機的な状況です」  東京都内で11月開かれた「食育健康サミット2018」で、桜美林大学老年学総合研究所の鈴木隆雄所長はこう訴えた。骨を丈夫にするため、カルシウムの重要性は長年叫ばれてきた。その吸収を助けるビタミンDの不足も、高齢者の骨折リスクを高める。そんな“新常識”が、近年データで明確になってきた。ビタミンDは、研究者が現在最も注目する栄養素の一つだ。  日本人の食事摂取基準によると、成人の摂取の目安量は1日5.5マイクログラム。ただ、これは健康な成人の目安で、骨粗鬆症財団は「高齢者はカルシウムを吸収する力が落ちており、10~20マイクログラムの摂取がよい」という。ビタミンDはきのこや魚に多く含まれており、積極的にとりたい。  食べ物だけでなく、日光浴によって皮膚でも合成される。美白意識から日焼けを気にしすぎると不足しがちで、栄養面からはマイナスと言える。それを象徴するのが、近年急増する子どもの「くる病」だ。  ビタミンD不足で骨の発育不良を招き、O脚になったり、背中が曲がったりする。戦後の栄養不足の時代に多かったが、飽食の現代の増加に研究者は注目する。  大阪大学医学系研究科の大薗恵一教授(小児科学)はこう話す。 「最近は食物アレルギーを気にする余り、子どもの食事の食材が増えず、(魚や卵に含まれる)ビタミンDが不足する危険性が高まっています。日焼けは地域や季節の紫外線量によって差がありますが、30分ほどは顔と両腕を露出して紫外線を浴びたほうがよいです」  若い母親が外出時に日焼け止めをつける際、赤ちゃんにも一緒に塗ることがある。こうした行動が乳幼児のビタミンD合成の妨げとなる恐れにも気をつけたい。  骨の丈夫さを示す骨量は幼児から思春期に急速に高まり、20代から横ばい。40~50代以降に落ちるが、女性は閉経期から急速に減る。  女子栄養大学の上西一弘教授(栄養生理学)は「骨粗鬆症を防ぐには、成長期に最大骨量を高めておき、高齢期や女性の閉経期はできるだけ減少を抑えたい。バランスよい食事に加え、骨の材料となるカルシウムやビタミンDを十分に摂取し、運動して骨に刺激を与えることが重要」と話す。  カルシウムの1日の摂取推奨量(50歳以上)は、男性700ミリグラム、女性650ミリグラム。2017年の国民健康・栄養調査によると、男女ともに未達だ。日本人の摂取量は1970年ごろと同水準にとどまる。  最近の研究では、牛乳を週1回以下しかとらない人のように、カルシウム摂取が極端に低いと大腿骨頸部骨折のリスクを上げる可能性が高いこともわかった。  上西教授は「骨折リスクだけでなく、認知症発症にも牛乳・乳製品の摂取が関係するという研究結果があります。たくさん牛乳を飲む人のほうが、認知症の発症率は少ない。高齢者にとって、牛乳は骨の健康に重要なうえ、認知症予防の効果も期待されています」と話す。  骨の健康を巡っては、旬を迎えたみかんも話題だ。  β‐クリプトキサンチンという色素成分が、骨量低下を防ぐ可能性が示されている。静岡県浜松市三ケ日(みっかび)の住民約700人が対象の疫学調査によると、みかんをよく食べてこの成分の血中濃度が高い閉経後女性は、骨密度が高かったという。  JAみっかびは地元産みかんを、「骨の健康に役立つ」との機能性表示食品として消費者庁に届け出ている。たくさん食べればよいというわけではなく、1日3個までが目安になる。  また、フレイル予防の点から不可欠なのが十分なたんぱく質摂取。体重1キログラムにつき1日1グラムが目安で、60キログラムだと60グラムになる。高齢者は心持ち多めを心がけたい。  何を食べるかだけでなく、いつどのように食べるとよいか。そんな時間栄養学の研究も進む。17年のノーベル医学生理学賞が体内時計のしくみの研究に贈られるなど話題を集めている。  時間栄養学の研究によると、体内時計のリズムは1日24.5時間で、24時間とわずかなずれがある。朝ごはんが大事と長年言われるが、朝食を食べると体内の時計遺伝子が発現し、0.5時間のずれをリセットする効果があるという。  早稲田大学先進理工学研究科の柴田重信教授は「朝食を抜くと体内時計がずれていき、『時差ボケ』を起こします。深夜に食事して朝食を抜く生活が続けば、体内時計が後ろにずれていき、肥満や糖尿病などにもつながります」と話す。  朝食は、パンやごはんなど炭水化物だけでなく、魚などのたんぱく質も加えると効果的。そんな研究結果もある。イワシやマグロなどの魚油は特に時計遺伝子をよく動かし、体内時計をリセットしやすいと考えられるという。ごはんと焼き魚、ツナサンドと牛乳などは理想的な朝食となる。  塩分をとる際は、朝昼より夕方以降のほうが体内に蓄積されず、尿として排出されやすいとの研究もある。 「女子大生が被験者となり、同じみそ汁を朝昼夜それぞれに飲んだ際の尿の塩分を調べた実験があります。一番濃い時間帯は、夜だったのです」(柴田教授)  体内に入ったナトリウムは、余分な量が腎臓の働きで尿として出る。こうしたナトリウムの吸収や排出機能も、1日のリズムがあると考えられる。とはいえ、夜は塩辛いものをたくさん食べてもOKというわけではないので、念のため。  食事摂取基準によると、食塩の1日の目標量は男性8グラム未満、女性7グラム未満。現実は男性10.8グラム、女性9.1グラムと高い(17年国民健康・栄養調査)。日本高血圧学会は1日6グラム未満を推奨し、世界保健機関(WHO)の目標は1日5グラム。「かるしお」「すこしお」など様々な減塩運動が叫ばれるが、なかなか減らない。  そこで、注目されるのがナトリウムとカリウムの比率(ナト・カリ比)。カリウムはナトリウムの排出を助ける機能がある。前出の女子栄養大の上西教授はこう話す。 「日本人の食塩摂取量は少しずつ下がっていますが、5グラム未満はまず実現できない。これ以上の減塩がどうしても難しい場合、一つの対応としてカリウムを増やす考え方があります。まだ比率の具体的な数字はないですが、ナトリウムと反対の働きのカリウム摂取を増やすということです」  カリウムの摂取目標量は男性が1日3千ミリグラム以上、女性が1日2600ミリグラム以上(食事摂取基準)。カリウムは春菊、ホウレン草、芋類などの野菜や、りんごやバナナなど果物に豊富だ。塩分を抑えることの重要性は変わらないが、カリウム摂取による「攻めの減塩」も意識したい。ただ、腎機能障害がある人は、とりすぎに要注意だ。  時間栄養学の話に戻ると、血糖値スパイク(急上昇)を抑えるための「攻めの間食」という発想もある。  柴田教授は、効果的な間食が血糖値の急上昇を抑えることを自らの体内での実験で示した。コンビニなどで売っている一口ようかん(約160キロカロリー)を食べた際の血糖値を、夕食前に摂取・夕食後に摂取・摂取しない、の3種類で比べた。 「夕食までに軽く間食をとっておくと、夕食後の血糖値上昇を抑えられます。同じものを夕食後に食べると、間食のときより血糖値は高くなります」(柴田教授)  間食が効果的だと考えると、朝食を抜く問題点もはっきりする。朝食を抜けば、体内時計をリセットできないだけでなく、昼食時の血糖値急上昇や、朝食抜きによる食べすぎも心配になる。  ダイエットのために朝ごはん抜きという人もいるが、時間栄養学の視点でみると、朝食抜きは「逆ダイエット」ということになる。(本誌・岩下明日香) ※週刊朝日  2018年12月14日号
食生活を見直す
週刊朝日 2018/12/10 06:05
5年連続ミシュランのラーメン店店主が舌を巻いた「らぁ麺フロマージュ」
井手隊長 井手隊長
5年連続ミシュランのラーメン店店主が舌を巻いた「らぁ麺フロマージュ」
中華そば(筆者撮影)  日本に数多あるラーメン店の中でも、屈指の名店というものがある。長く日本人の舌を喜ばせてきた老舗、一大ブームを作った名店の店主といえど影響を受けた店はあるはず――。名店店主が選ぶラーメン店を取材する本連載も3回目になった。今回はミシュラン掲載店が選ぶ一杯を紹介する。  11月27日、ミシュランガイド東京2019の掲載店が発表された。5000円以下で食事ができるコストパフォーマンスの高い店に与えられる評価として「ビブグルマン」があるが、ラーメン店で今年ビブグルマンを獲得したのはわずか21店舗。昨年より3店舗減り、改めて評価の厳しさを知ることとなった。  そのビブグルマンを5年連続で獲得しているお店がある。目黒の「麺や 維新」である。店主の長崎康太さんが2004年に開業したお店で、鶏ガラに昆布や秋刀魚節などを加えたスープに生醤油を合わせた「醤油らぁ麺」は淡麗系の最先端をいく旨さだ。そんな長崎さんがプライベートで愛するのは、ラーメンにどこまでも真面目だからこそ選ぶオンリーワンな一杯だった。 ■ラーメンで身を立てるつもりはなかった25歳青年が独立を決意  長崎さんがラーメンの世界に入ったのは25歳のこと。近所で美味しいと評判の本厚木「ZUND-BAR」で働き始めた。この「ZUND-BAR」、実は“近所で美味しいと評判”という表現では失礼なぐらいの有名店。七沢温泉郷という美しい自然に囲まれた場所にあるスタイリッシュなお店で、全国からファンが訪れる。スープには阿夫利山の豊富な天然水を使い、神奈川の淡麗系ラーメンの走りともいえるお店である。恵比寿や原宿にある人気店「AFURI」もこのお店から生まれた。  独立志願はなかったが名店で働き続けることで楽しさを覚え、2004年に神奈川県大和市で「麺や 維新」を開業する。当時煮干やカツオの効いたラーメンを提供していた「ZUND-BAR」とは違い、鶏を主体としたラーメンでデビューした。 ラーメンを作る店主の長崎康太さん(筆者撮影)  しかし、客足がなかなか伸びず、2006年に閉店。2年後に横浜で再出発した。開店から1年ほどするとリピーター客も増え、軌道に乗り始める。そして更なるステップアップをという思いで2013年には目黒に移転を決意。東京進出を前に、横浜の店をセカンドブランド「横浜中華そば 維新商店」に業態変更した。「麺や 維新」で厳選素材を使ったこだわりの一杯を作るのとは別に、「維新商店」ではラーメンの原点ともいえる懐かしいシンプルな一杯を提供している。  移転後、大躍進した「麺や 維新」は5年連続でミシュランガイド東京に掲載という偉業を成し遂げる。東京で勝負したいという長崎さんの思いが見事結実した。もちろんミシュランの評価が全てではないが、努力がしっかりと形になって表れている。  そんな「麺や 維新」長崎さんが選ぶラーメンは、イタリアンシェフの作るオンリーワンな一杯だった。 ■“値段の壁”の中で戦いたかったイタリアンシェフの決意 「黄金の塩らぁ麺 Due Italian」はイタリアン出身の店主・石塚和生さんが2009年に開店したお店だ。  代表メニュー「らぁ麺フロマージュ」(980円)は上に乗ったチーズが目を引くが、実はイタリアンの製法を活かした清湯スープと油の使い方がポイントだ。ラーメンイベントでも大人気。「かっぱ寿司」のラーメンもプロデュースしているので、ご存知の方も多いかもしれない。 らぁ麺生ハムフロマージュ(筆者撮影)  この9年で「Due Italian」は市ヶ谷、横浜、日比谷、三軒茶屋、吉祥寺、銀座、台湾と店舗数も拡大してきた。順調に見える石塚さんのラーメン人生だが、波乱万丈に満ちていた。  私生児で生まれ、5歳の時に母親が他界した。自費で高校に通うため、アルバイトで生計を立てる。今から40年前、高校生のアルバイトといえば新聞配達と飲食店ぐらいなもの。とにかく自分で稼がなくてはいけないと吉祥寺の商業施設「ロンロン」(現・アトレ)の洋食店で働き始めた。時給は350円、スパゲティといえばミートソースかナポリタンの時代。自分の作った料理を美味しそうに食べてくれるお客さんの顔が嬉しく、作る楽しさを知ったのと同時に自分で生きていけると自信がついた。高校を中退し、渋谷パルコの「レストラン西武」で働いていた時には渋谷公会堂でのコンサートを控えたアイドルも訪れた。たくさんのお客さんに料理を作るたびに料理人という職業への想いは強くなる一方だった。その後、店長兼料理長として招かれた西新宿NSビルのカフェで成功し、26歳で独立を決意した。  練馬にオープンしたイタリア料理「La Pasta」は石神井、江古田と広がり、別ブランドも含め6店舗を展開。弱冠27歳にして、年商4億円を超えるオーナーシェフとなった。順風満帆に思えたが、石塚さんはあくまで料理人。食材選びに夢中になりすぎたことでお店が傾いてしまう。  そんなある日、テレビ局から一本の電話がかかってくる。体当たりで職人やプロを養成する「ガチンコ!」(TBS系)のスタッフから番組内で好評を博していた「ラーメン道」シリーズに出演できるシェフを探しているという相談だった。「支那そばや」の故・佐野実さんが厳しい指導のもとラーメン店主を育成する企画に「面白そう」だと感じ、自ら出演を決意。41歳の時だった。  実はこの時、ラーメンへの興味は一切なく、食べるといえばインスタントラーメンぐらいだったという。そんな石塚さんの価値観は「ガチンコ!」に出演することで一変する。寸胴に信じられない量の食材を入れ、100人前のスープを一気に作るラーメン作りの世界、そして何より食材や製法に対する佐野さんのこだわりを目の当たりにしたことでその奥深さを知ってしまう。  イタリアンは値段の壁がない分、立地やお店の作りなど味以外の部分で悩むことも多いという。たとえば、15000円のコースを出すならばそれなりの場所でやらなくてはならない。逆にラーメンは1000円前後という値段の壁はあるが、どこでも勝負できると感じた。 「一品勝負のパスタ専門店を出そうと考えていた頃にお話をいただきました。“丼の中”だけで勝負するラーメンがとても興味深く、イタリアンとは違う制約の中で勝負したい気持ちが湧きました」(石塚さん)  そんな思いで修業を続けるうちに、番組で立ち上げた店「ラーメン道」引き継ぎの話が舞い込み、2005年「ラ チッタデッラ川崎」にて「ラーメン道Due Italian」オープンする。「Due」とはイタリア語で数字の「2」を表す言葉。イタリアンとラーメン「2」つの顔、そして自分の第「2」の人生という意味を込めた。  こうして石塚さんのラーメンシェフとしての新たな人生がスタートした。 イタリアン出身の店主・石塚和生さん(筆者撮影)  お客さんの反応に自信をつけ、2009年には市ヶ谷に「黄金の塩らぁ麺 Due Italian」をオープンする。内装はイタリア風にし、他のラーメン屋とは一線を画した。佐野さんへのリスペクトがあったのだろう、スープの取り方にはイタリアンの手法を応用したものの、当初出していたのは塩らぁ麺と醤油らぁ麺のみ。近隣に女子大があったこともあり、お客さんの5割は女性だった。  2011年頃からイタリアンラーメンに着手し、トマトラーメンやチーズラーメンを提供し始める。スープパスタを応用し、ラーメンとして食べたほうがより美味しいと感じるものだけをメニュー化した。石塚さんの舌にしか分からない感覚的なものが大きいと思うが、人気がすべての答えだろう。今や女性客が7~8割を占め、女性をラーメンに取り込んだ立役者としても「Due Italian」は有名になる。  鶏ベースの塩味が効いた清湯スープに真っ白いチーズがかかっている「らぁ麺フロマージュ」はチーズを絡ませながら麺を啜ると、そのまろやかさと美味しさの虜になる。あっという間にお店の看板メニューになった。イタリアンの風格を持たせながらも、一杯980円と「1000円の壁」を維持している。 チーズを麺に絡めて(筆者撮影) 「麺や 維新」の長崎さんが選んだ一杯もこの「らぁ麺フロマージュ」だ。 「自分にはああいう発想はありません。あの一杯には石塚さんの歴史が詰まっています。イタリアンの技法をちゃんと反映した上で、丼の中での遊び心。ただ単にチーズを乗せたラーメンとは訳が違います。一見変化球に見えますが、ちゃんと考えられて作られているんです。石塚さんでしか成し得ない世界観が大好きです。丼一杯の中だけで勝負しようという姿勢やそれを貫き通すカッコよさ。本当に憧れます」(長崎さん)  石塚さんも、異なるジャンルを追究する長崎さんのラーメンを評価する。 「長崎くんは本当に真面目で真っすぐなラーメンを作ります。そんな彼に自分らしいラーメンだと感じてもらえたことがすごく嬉しいですね。彼の考える“横浜中華そば”は今の時代では逆に新しいジャンルになるんじゃないかな。私も『維新商店』のシンプルなラーメンが大好きです」(石塚さん)  真面目で真っすぐなラーメンを作り続ける長崎さんだからこそ憧れる石塚さんの存在。全く違うジャンルの一杯を「ラーメン」と同じくくりで語れるのがラーメンの面白さだと思う。(ラーメンライター・井手隊長) ■横浜中華そば 維新商店 神奈川県横浜市西区北幸2-10-21 横浜太陽ビル 営業時間/11:00~15:00、18:00~22:00 定休日/日曜 ■黄金の塩らぁ麺 Due Italian(ドゥエイタリアン) 東京都千代田区九段南4-5-11 富士ビル1F 営業時間/【月~金】11:00~16:00、17:00~22:00 【土】11:00~22:00 【日】11:00~21:00 ※ラストオーダーはいずれも閉店30分前 定休日/なし
dot. 2018/12/09 12:00
中学生の大ベストセラー作家、周囲の期待にプレッシャー
中学生の大ベストセラー作家、周囲の期待にプレッシャー
鈴木るりか(すずき・るりか)/2003年、東京都生まれ。小学4年生から3年連続で小学館主催の「12歳の文学賞」大賞を受賞。昨年、『さよなら、田中さん』で小説家デビュー(撮影/写真部・小原雄輝) 『14歳、明日の時間割』は中学校を舞台に、時間割に見立てた7編からなる連作短編小説集だ。現役中学生が生き生きと描く、待望の2作目。著者の鈴木るりかさんに、同著に込めた思いを聞いた。 *  *  *  華々しいデビューを飾るほど言われる。「真価が問われるのは2作目だ」と。  昨年、『さよなら、田中さん』で小説家デビューを果たした鈴木るりかさん(15)も例外ではないだろう。中学2年で書いたその本は10万部のベストセラーになった。 「1作目よりも、よりいいものを書かないといけないというプレッシャーはありました。でも、『次作を期待しています』と言われると、頑張ろうという気持ちになります」  どうにか、なる──。太宰治の短編「葉」の最後の一文を何度も唱えながら書き上げた2作目が『14歳、明日の時間割』だ。中学校を舞台に、時間割に見立てた7編からなる連作短編集。あるクラスの少年少女が入れ代わり立ち代わり主人公となって、今を生きる中学生の悩みや孤独、友情などを生き生きと描く。  最初に書いたのは「体育」だ。運動神経ゼロの星野茜があることを願い、一大決心をしてマラソン大会に挑む。以前から「体育が苦手な女子を主人公にした小説を書きたいという構想はあった」が、直接のきっかけは、 「スポーツ庁の『運動、スポーツ嫌いの中学生を半減させる』というニュースを聞いた時にひらめきました」  運動音痴の茜はある日、信じられない思いでそのニュースを聞き、思う。 <好きにさせる、のではなく、半分に減らすのだという。私たちは、減らされる対象なのか。駆逐されるべき存在なのか>  彼女だけでなく、母から言葉で虐待を受けている少女や社会に抹殺されて引きこもりになった青年、友達のいない少女などを通して、生きにくい社会を軽妙な文章で鋭く見つめる。かつて子どもだった大人たちも、彼らの中に自分を重ね合わせるに違いない。  1歳半から絵本に親しみ、図書館に通い続け、文豪たちの小説を血肉にしてきた。今作も笑いも涙もたっぷり絶妙なバランスで読ませる。だが、るりかさんはプロットを書かない。日々新聞を読みニュースを見て社会ネタをインプットするが、すべて頭の中だ。 「一文を書き出すと話が自然と出てきます。キャラクターが勝手に動きだします」  唯一苦労したのが、「大人目線の話を入れたい」という編集者の課題に応えた「放課後」。「大人はいつまで夢を見られるのか」がテーマだ。 「大人の哀愁を漂わせることが難しかったです。何度も書き直しましたが、自分でも味わい深い小説になったかなと思っています」 (ライター・坂口さゆり) ■書店員さんオススメの一冊 『キッチンで読むビジネスのはなし11人の社長に聞いた仕事とお金のこと』には、自己啓発書や経営書にはないヒントが満載だ。オリオン書房ルミネ立川店の田邊水玲さんは、同著の魅力を次のように寄せる。 *  *  *  雇用形態が多様化し、仕事へのアプローチはさまざまです。ですが、あまりに無執着な姿勢を目の当たりにすると違和感を覚えますし、非常に悲しい気持ちになります。どんな立場でもビジネスなんて難しいと開き直るのはもったいないと思うのです。  本書は自己啓発書や経営書のように難しく捉えずに「ビジネスを日々の暮らしに落とし込んで生かすヒント」がたくさんつまっています。私はこれをさらに職場と置き換えて行動することで、豊かな環境が生まれ、自分自身が楽しく働けるのではと思うのです。  個人的に一番共感したのは<選んでいる自分の審美眼をわかってほしいのか、あなたの必要をわかってあげたいのかでお店のスタンスが変わる>というクラシコムの佐藤友子さんの一節。今の自分にできることはまだあるはずだと、元気をいただきました。 ※AERA 2018年12月10日号
読書
AERA 2018/12/09 11:30
「あなたは子どもをつくりますか?」 不適切入試が相次ぐ医学部の面接でトンデモ質問が飛び交う理由
「あなたは子どもをつくりますか?」 不適切入試が相次ぐ医学部の面接でトンデモ質問が飛び交う理由
女子差別問題発覚後、東京医大前では抗議活動が行われた(c)朝日新聞社 医系専門予備校メディカルラボの調査を基に作成 医学部面接で聞かれる頻度が高い質問。医系専門予備校メディカルラボの調査を基に作成  まもなく平成が終わろうとしているこの時代とは到底思えない「質問」ではなかろうか。 「あなたは子どもをつくりますか」 「なぜ看護師ではなく、医師なのですか?」 「子どもを産んでも医師を続けますか」  これらは、ある医学部の面接試験で、女子の高校生や浪人生が面接官から投げかけられた質問だ。  医系専門予備校メディカルラボは、生徒から面接試験の内容の報告である「受験レポート」を、例年収集している。過去3年間の内容を見ると、多くは将来医師を目指すにあたり「なぜ医師を目指すのか」「理想の医師像とは?」といったまっとうな質問が並んでいる。だが、こと女子への質問に注目してみると、上記のような「時代錯誤」とも「トンデモ」とも取れるような質問もあり、耳を疑う。  最難関の呼び声高い医学部入試で、「点数操作」や「多浪生排除」など次々発覚する不祥事に注目が集まっている。東京医科大などに続き、8日、さらに岩手医科大、金沢医科大、福岡大がそれぞれ会見を開き、医学部で「不適切な入試を行っている」と文部科学省から指摘されたと公表した。いずれも、特定の受験生を優遇するなどしていたという。  そもそも近年の医学部のトピックといえば、東京大が2018年入試から面接を11年ぶりに復活させたことだった。これで、全国82の医学部のなかで面接がないのは九州大だけ。それほど、医学部では「面接重視」の動きが強まっているとも言えよう。理由は、医学部の面接は単なる入試ではなく、将来の医師としての就職試験、採用試験の意味合いも強いからだ。  なお、国公立大では、面接に時間をかけるために、センター試験の点数で受験生の数の上限を決める「2段階選抜」を導入する大学が増加。また、近年では、新しい面接方法「MMI(マルチプル・ミニ・インタビュー)」を導入する大学も現れた。これは、複数の部屋が用意され、各部屋の面接官が1人の受験生に異なったテーマの質問を行い、理解力、思考力、表現力などをはかるもの。国公立の千葉大、横浜市立大、私立の東京慈恵会医科大、東邦大、藤田医科大などが実施している。また、国際医療福祉大は30分×2回、計1時間もの時間をかけて面接を行っている。 ■高校生に結婚や育児の質問をしても…  メディカルラボ本部教務統括の可児良友さんは、女子への面接での質問内容についてこう分析する。 「仕事と家事や育児の両立、女性医師のメリット、デメリットなどを質問する大学が多いですね。高校生の若い生徒たちは結婚や育児について聞かれてもまだピンと来ないでしょうが、理想とする医師像などについて考え、医師として働き続ける意思を伝えることは大切です」  また、ある医学部予備校の幹部関係者は、こう言う。 「面接の練習のとき、丁寧にアドバイスをしていますが、正直『ちょっと危ないかな』と感じた生徒が残念な結果に終わることがあるため、面接官はしっかりと受験生を見ていると思いますね。ただ、全体的に、女子は医学部に入るのが難しい感じがします」  言わずもがな、面接をするのは「人」だ。大学によって質問内容に差が生じるのは当然だ。もちろん、理不尽に思える質問も、人が行うがゆえに多少は目をつむらなければいけない状況もあるかもしれない。  しかし、だ。  まだ高校生の生徒たちに冒頭のような「子どもをつくるのか」などの質問を浴びせるのは、少なからず「女子が医師になること」へのゆがんだ意識が根底にあると受け止められても仕方ないだろう。  他にも“気になる”質問を列挙すると、 「熱を出した自分の子どもを迎えに行かなくてはならないが、一方で外来患者がたくさん待っていたら、どうするか」(私立大) 「子どもがいて、夫がロンドンへ留学すると言ったら、あなたはどうするか」(国立大) 「結婚して夫が『東京について来て』といったらどうするか」(私立大) 「結婚や出産で男性よりも家庭でがんばることになるが、どう思うか?」(私立大) 「女性が働く際の問題点は?」(国立大) 「小児科医になる覚悟はある?」(私立大)  現役生だとしたらまだ18歳ぐらい。このようなことを大学入試の面接の場で聞かれて返答に困る姿は想像に難くない。なかには、「ドクターX」など人気ドラマを持ち出して高校生でもわかりやすく質問をしようと試みたのかもしれないが、こんな尋ね方をした大学もあった。 「ドラマなどで女性医師が活躍しているが、失敗もする。ミスをしたときにどう対応するか」(私立大) ■患者の死亡率が低いのは男性医師より女性医師  一方で、面接では「女性医師の増加」や「女性医師の働き方」についての質問も多く、これらの問題に対する対策・解決法を問う大学も少なくない。女性医師だけではなく、将来、女性医師となる可能性を秘めた受験生にも対策案などを尋ねている。 「女性医師の働き方について具体的な対策はあるか(国立大) 「女性が働きやすい職場にするにはどうすればいいか」(私立大) 「女医の勤務についてどのようなサポートが必要だと思うか」(私立大) 「女性医師が子育てなどと両立するために職場に求めるもの」(国立大)  確かに、労働環境の改善は喫緊かつ重要な課題といえよう。そうした環境下で、近年、女性医師の活躍に注目度は、年々高まっている。  16年12月には、米国医師会の学会誌『JAMA Internal Medicine』に、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授の津川友介医師による「女性内科医が担当した入院患者は、入院日から30日以内の死亡率や退院後30日以内に再び入院する再入院率が低い」という調査結果が掲載され、SNSなどで大きな話題になった。具体的には、内科系の病気で入院した65歳以上の高齢者およそ130万人のデータを解析した結果、女性医師の担当患者の死亡率は11.1%、再入院率は15.0%。男性医師の担当患者の死亡率は11.5%、再入院率は15.6%で、統計学的に意味のある差が現れた。この論文は翌17年、論文を評価するイギリスの調査会社が発表した「世界で影響を与えた科学論文」で3位に入るほどだった。  なお、1980年代には医学部を志望する女子の割合は20%以下だったが、現在は約40%まで上昇している。最近では、地方の成績優秀な女子は「東大より地元の医学部」を目指す傾向が強くなるほど、医学部を意識する女子生徒が増えていた。 ■まさか1次試験で得点操作とは…  東京医科大に端を発する「女子差別」問題だが、そもそも予備校関係者はどう受け止めているのか。ある予備校関係者は驚きを隠さない。 「2次試験の面接で女子や多浪生が厳しい質問をされ、合格しにくい大学があることは、生徒の合格状況や進学した卒業生から聞いてある程度はわかっていました。でも、まさか1次試験で得点操作が行われていたとは……」  一連の不祥事を受けて、11月16日、全国医学部長病院長会議は、医学部入試についての規範を公表した。 (1)性別による一律の点数操作は許されない (2)浪人の年数や年齢で評価に差をつけることは不適切(地域枠では実情に応じて可) (3)内部進学や卒業生の子らの入学は、入学者の受け入れ方針で示して公平性を確保できれば容認 (4)卒業後、一定期間地元で働くことを条件に奨学金を受けられる地域枠は、社会に説明可能な範囲内で、入試要項に明記すれば容認  各大学はこれらの規範に沿った対応が求められ、違反した場合には処分の対象となる。 ■差別入試の背景には、医療が抱える「偏在」  女子や多浪生を差別する大学がある背景には、医師不足の地域がある一方で都市部に医師が集中するといった医師の偏在と、診療科による男女の偏在という問題などがある。医学部に強い家庭教師センター・名門会の久保田達哉教務本部副部長は、自分の体験をまじえてこう話す。 「私が目の手術を受けた病院、その後通院した別の病院の眼科でも、全員が女性医師でした。妻が里帰り出産をしようとした時、医師不足により、実家の近くの病院の産科が閉鎖されていました。このように、医学部入試の問題だけではなく、地域や診療科など医師の偏在の問題を、まず抜本的に解決しなくてはならないと感じますね」  AERAムック「医者・医学部がわかる2018」によれば、女性が多い診療科は、皮膚科、眼科、麻酔科、小児科、産婦人科など。出産後、1年ほどで医師を再開するケースもあれば、しばらくお休みするケースもある。麻酔科のある女性医師はこう話す。 「仕事と家庭を両立させ、子どもも産みたかったので、主治医にならなくてもいい診療科を希望。オンとオフがはっきりしていて、夜中に呼び出されることがまずない麻酔科を選びました。昨年、子どもを出産したので、現在は育児のために医師の仕事はお休みしています」  さまざまな問題の改善を望むためには、医療の“これから”を担う学生の視点も重要だ。年が明けてセンター試験も終われば、いよいよ医学部入試が本格化する。面接を含めて公平な入試であってほしい。 (文/庄村敦子)
受験
dot. 2018/12/08 14:13
“新星”紀平梨花、GPファイナルで女王ザギトワに勝利なるか【沢田聡子】
“新星”紀平梨花、GPファイナルで女王ザギトワに勝利なるか【沢田聡子】
GPファイナルに出場する紀平梨花(写真:getty Images)  今季シニアデビューを果たし、グランプリシリーズでは2戦2勝と鮮烈な印象を残した“新星”紀平梨花が、早くも女王アリーナ・ザギトワに挑む--。  11月10日に行われたNHK杯でフリーの演技を終えた紀平梨花は、熱狂の渦の中心にいた。  冒頭でコンビネーションも含むトリプルアクセルを2本決めただけでなく、他の要素や滑りも完璧といっていい演技で、衝撃的なGPシリーズデビューを果たす。ポテンシャルの高さはジュニア時代からよく知られていたが、ついにシニアで快進撃を始めたのだ。会場には、スター誕生の瞬間を目の当たりにした興奮が満ちていた。 「これからも、あとどこを直せば点数が伸びるのかまた研究しなおして、これからももっと上を目指せるように、満足せずに、明日、明後日からも気持ちを持っていたいです」  メダリスト会見でそう語った紀平は、GP2戦目のフランス杯(日本時間11月25日に開催)も制した。ファイナルに出場する選手の中で、GP2戦とも優勝しているのは平昌五輪金メダリストのザギトワと紀平だけだ。  トリプルアクセルはもちろん紀平の大きな武器だが、GPの2試合を通して見せたのは、むしろトリプルアクセルが決まらなかった時の強さだ。NHK杯のショートプログラムでは、冒頭のトリプルアクセルで転倒。初の大舞台で、思い入れのある大技をいきなり失敗したにもかかわらず、その後の演技はきっちりまとめる。トリプルアクセル以外のすべての要素に加点がつく出来栄えで滑り切ったことが、フリーでの逆転優勝につながったのだ。  またフランス杯でも、ショート冒頭のトリプルアクセルが1回転半になり得点が入らなかったにもかかわらず、その後の要素をきちんと滑ったことで2位につけた。さらに、フリーでも最初のトリプルアクセルの着氷で乱れると、2本目のトリプルアクセルを予定していた次のジャンプでは無理せずダブルアクセルを跳び、手堅く演技をまとめてGP2勝目を挙げている。  女子では限られた選手しか跳べないトリプルアクセルについて、紀平は「代名詞になるくらいしっかり跳んでいかないといけない」と語っている。しかし、大技であるだけに毎試合成功するわけではなく、失敗した時のダメージも大きいはずだが、その際の対処は16歳とは思えないほど落ち着いている。今季から演技の完成度を求める方向で改正されたルールの下で、リスクを伴う大技に挑んでいくために必要な心の保ち方を身につけているのが強みだろう。  紀平は昨季出場したジュニアグランプリファイナルでは4位となり、ロシア勢の表彰台独占を許す結果となった。しかし、現在、勢いの点では世界の女子の中でも有数の存在であり、シニアのカテゴリーで頂点をうかがえる可能性を感じさせる。五輪を制しても緩む気配すら見えないディフェンディングチャンピオンのザギトワが今季のファイナルでも優勝候補最有力であるのは間違いない。ただ、すべての面で優れる紀平が大技を決めれば、ザギトワに迫れる数少ない存在となるはずだ。(文・沢田聡子) ●プロフィール 沢田聡子 1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」
dot. 2018/12/06 17:00
「校舎がない」炎天下の青空教室 パキスタンの教育の実情
「校舎がない」炎天下の青空教室 パキスタンの教育の実情
断崖絶壁の通学路を毎日往復するビビシュケリアさん(左)と妹(撮影/フォトグラファー・清水匡) 水場まで片道1時間以上かけて行く少女もいる(撮影/フォトグラファー・清水匡) 住民がお金を出し合い作ったこの教室では、教諭1人が4クラスの生徒を受け持ち教えている(撮影/フォトグラファー・清水匡) 倒壊の恐れがあるため立ち入り禁止となっている学校で学ぶ生徒たち(撮影/フォトグラファー・清水匡)  中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」で建設ラッシュに沸くパキスタン。その陰で、子どもたちの教育がなおざりにされている現状もある。 *  *  *  パキスタン北部の町アボタバード。この町は2011年にアルカイダの指導者ウサマ・ビン・ラディンが米軍に殺害されるまで潜伏していた場所だ。パキスタン政府はここが過激派組織の聖地化することを恐れ、現在建物は取り壊されてその痕跡は見られない。10年前にはテロ発生件数が約4千件にも及んだが17年には約370件にまで減少した。テロの発生件数に反比例する形で同国のGDPは右肩上がりとなっている。  中国の「一帯一路」構想により、パキスタンから中国へ延びるカラコラム・ハイウェイはまさに建設ラッシュだ。町を歩いているとすれ違いざまに「ニーハオ」と声をかけられる。訂正するのは面倒なので、こちらも「ニーハオ」と返事する。積極的に話しかけてくる人には自分は日本人であることを明かすが「サンキュー、ジャパン・イズ・ベスト」と握手を求めて喜ばれる。中国の巨額投資に押され日本の存在感が薄くなっていると言われるが、一般人にとってはまだ身近な存在なのだろう。  アボタバードから車でさらに2時間ほど北上すると坂道が増え、カラコラム山脈の裾野マンセラ郡に入る。マンセラ郡一帯は05年の大地震で犠牲者は8万人にも及んだ。学校施設は5722校が半壊・全壊し、13年経過した現在も半数近い2418校が再建されていない。この間に放置された学校はどうなっているのだろうか。私は車1台が通れるくらいの山道を少しずつ進みながら訪問することにした。山腹には点々と民家があり、村人は徒歩で山を下りて乗り合いトラックで町まで買い物に行く。 「山崩れで道がふさがっている。この先は歩いて行こう」とドライバーに言われ、山を登ること1時間、ドライバーが「あれが学校だよ」と指さした。そこには200人ほどの女子生徒たちが炎天下、地面に座って授業を受けていた。「校舎はないのか」と村人に尋ねると、「05年の地震で倒壊してしまったよ」と遠くを見つめながら答えてくれた。地震で6人の生徒が犠牲になったという。  この青空学校は12~16歳の女子生徒270人が登録する歴とした公立学校だ。数学を教えるラビア先生(28)は都市部で4年間教壇に立ち、行政からの任命で学校に赴任した。辞令を受けた時は校舎がないことを知らされておらず、初めてこの学校を訪れた時は言葉を失ったという。女子校で男性教諭はいない。未婚女性が地方で単身生活することは文化的にはばかられるため、校長が借りている家に他の教諭と一緒に赴任生活をしている。  6年生のビビシュケリアさん(14)はほかの生徒より2学年遅れている。理由を聞くと、父親が小学校の通学手続きの時期をよくわかっておらず、1年遅れてしまったのだそうだ。さらに、5年生の時に弟が生まれ、面倒を見るために留年せざるを得なかったという。地方は教育への意識が低いと言われるが、家事や子育ての役割を担う女性は特に教育を受ける機会が少ない。民家に電気は届いているものの、ガス・水道はなく、一日に何度も湧き水を汲みに行くのはビビシュケリアさんのような女の子の日課となっている。 「校舎がないと男の人に見られるのですごく嫌です」とビビシュケリアさんは言う。 「授業の途中で雨が降ったら傘をさすか近所の家々に避難して自習です。先生が一緒に来た時だけ勉強できます」(ビビシュケリアさん)。NGO国境なき子どもたちパキスタンで現地代表を務めるジャベッド・イクバルさん(38)は「地方独特の文化に加えて、校舎がないという劣悪な環境のため、この学校の出席率は著しく低いです。女子教育には親の理解と適切な教育環境が重要となってきます」と話す。同NGOではこれまで140校以上の再建に取り組んできた。現在もこの学校のほかに11校の再建を計画中だ。 「一帯一路」政策による5兆円にも上る中国の巨額投資。高速道路で移動時間が短縮され、発電所建設などでインフラが整っていく。だが、経済優先の陰で、13年間も校舎のない学校に通わざるを得ない子どもたち、そしてその学校にさえ行けない少女たちは取り残されたままだ。(フォトグラファー・清水匡) ※AERA 2018年12月10日号
中国
AERA 2018/12/06 16:00
Awich、自身初のワンマンライブツアーで魅せた“二面性”と“圧倒的な風格”
Awich、自身初のワンマンライブツアーで魅せた“二面性”と“圧倒的な風格”
Awich、自身初のワンマンライブツアーで魅せた“二面性”と“圧倒的な風格”  若者を中心に絶大な支持を集めるヒップホップクルー“YENTOWN”所属のAwichが、キャリア初となるワンマンライブツアー【Double EP Release Tour 2018】を開催し、12月1日に沖縄・桜坂セントラルにてファイナル公演を迎えた。本稿では、11月23日に渋谷 WWW Xにて行われた東京公演の模様をレポートする。 Awich その他ライブ画像  Awichは沖縄出身のラッパー/シンガー。2006年にEP『Inner Research』でデビューし、2007年に1stアルバム『Asia Wish Child』を発表。結婚、出産、活動休止などを経て、2017年に約10年ぶりとなるアルバム『8』をChaki Zuluの全面プロデュースによってリリースした。また、YENTOWNの盟友・kZmとの楽曲を始め、KOJOEやSOIL&“PIMP”SESSIONSの作品への客演など、ヒップホップの枠を越え多方面からの注目を集めている存在だ。 10月10日にリリースされたEP『Beat』『Heart』は、『8』同様にChaki Zuluがトータル・プロデュースを務めており、ダブルEPという形で<二面性>が表現されている。この日のライブでも、Awichはアーティストとしても女性としても母としても実に多彩な表情を見せ、ヒップホップのヘッズからティーンの女子まで幅広く虜にしてしまうその理由が十分に伝わってきた。  YENTOWNの盟友でもあるu-leeのDJで「So What」のイントロがスタートすると、「誰に何と言われようとAwich好きって人どんだけいんのー?!」とエネルギッシュなマイクパフォーマンスでAwichが登場。「マジで皆愛してます。このライブを自分が1番楽しんでやると思ってるけど、私に負けないって人いる?」とオーディエンスに問いかけ大きな歓声を受けると「最高です。どっちの方が楽しめるか勝負しましょう!」と序盤からフロアのテンションを一気に上げる。  最新作のダブルEP『Beat』『Heart』からも「Fade Away」「Long Time」などの楽曲を披露し、さらに「Boss Run Dem」「Come Again」と息をつく暇もないほどキラー・チューンを畳みかける中、「スペシャル・ゲスト呼んでいいですか!」と自身の愛娘でもあるYomi Jahを呼び込みYomi Jahが4歳の頃に作られたという「Uptown Top Ranking」を息の合ったダンスとともにパフォーマンス。「この子(Yomi Jah)は今10歳なんですけど、波乱万丈な人生を生きてきてるんです。迷惑をかけたこともあるし危険な目に合わせたこともある。だけど私が辛い時にいつも傍にいてくれて、本当に支えられています」と母娘の強い絆を語り「Jah Love」を披露した。  その後も、Chaki ZuluやYENTOWNとともに歩むきっかけとなった「Crime」やKANDYTOWNのIOを客演に迎えた「What You Want」など、時には攻撃的なラップで、時には妖艶なフロウで曲ごとに変化する表情を見せつつ、「初ワンマンで出したばっかの曲やるのは緊張するけど、こうやってプレッシャーを乗り越えて強くなっていくんだと思います」というMCから「Pressure」、そして「私もたくさん乗り越えていくんで、皆も他の誰でもなくあなた自身でいてください」と観客にエールを送り「WHOUARE」を歌い上げた。  DJプレイを挟み、前半の真っ赤な服装から白を基調としたスタイルにチェンジして再び登場すると、EGO-WRAPPIN’の代表曲「色彩のブルース」をオフィシャルでサンプリングした「紙飛行機」を披露。そして、「皆に観てほしいものがあるんだよね」と切り出すと、Yomi Jahと海辺で会話する映像が流れ始める。「“Ashes”は遺灰という意味なんですが、私は旦那さんを亡くしていて。その時にトヨミと一緒に彼の灰を海に流したんです。それが正解だったかどうかなんて分からないけど、海に流すことで私たちを取り巻くエネルギーになればいいなと思って。」と語り、ミュージック・ビデオをバックに「Ashes」を歌い上げた。  後半には、「WHORU?」でまさかのシークレット・ゲストANARCHYが登場。大歓声とともに<お前誰?>のパンチラインがフロアからも響き渡るとANARCHYは「みんな、Awichのこと大好きだろ! だけど、皆より俺の方がAwich大好きだ!!」と高らかに叫び、会場はこの日のハイライトとの一つとも言える盛り上がりとなった。  Awichから「本当にありがとうございます。皆の事が本当に大好きです。」と感謝の気持ちが告げられ、SNSでファンがミュージック・ビデオの振付を踊る動画が話題となった「Love Me Up」で会場が一体感に包まれる中大団円を迎えると、「これからも私を愛してくれますかー!」という彼女の言葉に惜しみない歓声と拍手が贈られライブの幕が閉じた。自身の経験を糧にした芯のある強さと女性らしい美しさを持ち合わせながら、不意に弱さもさらけだす自然体なAwichのライブを一度観れば、誰もが惹かれてしまうに違いないと感じさせられた一夜だった。 Photo:KEITA SUZUKI Text:神人未稀
billboardnews 2018/12/03 00:00
加藤ミリヤとインスタグラマーが考える「インフルエンサーの未来」とは
加藤ミリヤとインスタグラマーが考える「インフルエンサーの未来」とは
 11月28日、渋谷ブリッジ1階のカフェ「NO RAILS, NO RULES.」でトークイベント「インフルエンサーの未来についてぶっちゃける」が開催され、シンガーソングライターの加藤ミリヤさんが登場しました。  同イベントは、雑誌『an・an』(マガジンハウス)で連載されていた加藤さんの人気作品が書籍化された小説『28 twenty eight』(ポプラ社)の「読書サロン」として行われ、著者である加藤さんと、ファッション動画マガジン『MINE』編集長の秦 亜衣梨さんが登壇。さらに参加者として、会場にはインスタグラムなどを中心に情報を発信するインフルエンサーの女性約10名が集まり、様々なトークが展開されました。  『28 twenty eight』は、高校の同級生でありながら、生き方も性格もまったく違う28歳の女性5人が女子会を通じてそれぞれの人生に向き合っていく姿を描いた小説。一方の秦さんが手掛ける『MINE』は、「明日の自分を提案する」をコンセプトに30歳前後の女性に向けたコンテンツを配信するオリジナル動画メディアです。  加藤さんと秦さんは、「自分自身で未来につながる旅」を計画し、その様子をシリーズで配信する『MINE』の特別企画『Future is MINE』で連載を持っていたことが縁で今回のイベントの開催に至ったそう。トークイベントはまず、本のタイトルにちなんで登壇者2人の「28歳」からスタート。  「『28 twenty eight』に出てくる5人は、どこかが自分か自分の友達に当てはまっていて、その時に感じていた苦しさを思い出しました」とまず秦さん。それに対し加藤さんは、「『28 twenty eight』は、高校を卒業して10年が経った節目に高校時代の友人たちと再会した際の会話をもとに書いた物語なんです。キャリアアップしたかったのに結婚と出産を経験し後悔していると語る子もいれば、結婚を高らかに宣言して『ミリヤはいつまで仕事するの?』と言ってきた子もいて、それにカッチンときたり(笑)。でも、人と比べるわけじゃないけど、私は自分の人生で良かったと思えています」と語りました。  この日もっとも盛り上がったテーマは、「みんなの『今』は?」。イベント参加者もそれぞれ発言し、これまでの人生経験や現在の悩み、思いなどを加藤さんと秦さんに伝えました。  「今、迷いなく生きているという方はいますか?」との秦さんからの質問に手を挙げたシングルマザーの女性は、「学生のときの方が、『周りに合わせなきゃ』と思って苦しかったです。今はいろいろな仕事の形があって楽になりました。どうしようと悩むことよりもやりたい事の方が多くて時間が足りないくらいです」と回答。  それに対し加藤さんは「『まずは私がここにある』というメッセージをすごく感じました。お母さんになると何か諦めないといけないことがありそうだと思っていたけれど、失うことじゃなくて得ることだと考えさせられました」と感心した様子でした。  その後は、イベントタイトルにもあるように「インフルエンサーの未来について」を全員でトーク。ある参加者からは「現実の自分とネット上の自分に差があって、SNSがプレッシャーになるときがあります」との悩みを吐露し、多くの参加者が頷いていました。  秦さんはこの悩みについて、「無意識に比較しちゃうんですよね。フェイクの中でフェイクの自分を比較して、その情報に縛られてしまう。インスタ上の自分とリアルの自分に差が出来て、バランスを取るのが辛いんですよね」と同調。加藤さんも「インスタが無ければいいのに、って思うときもありますよね。その時間を自分の時間に充てられていなくて、きっと失っているものもあると思うんです。120パーセント人生をエンジョイしている人なんてほんの一握りだと思います。だからこそ、こういった本や、私の曲があって、今のような語り合う時間があると思うんです」と話しました。  そして、このテーマの最後に加藤さんは「飾ることも大切だけれど、それを洗い流したときに何が残るか、それがその人の魅力だと思うんです。今回お話を聞いて、みんなインスタを見るだけでは分からない最高な人生を歩んでいるなと思いました。たとえ葛藤や悩みでも響く人は多いと思うので、そういった部分もぜひインスタグラマーには発信してもらえたらと思います。スマホとどう向き合っていくかも含めて、みなさんには頑張っていってほしいですね」と語り、参加者にエールを送っていました。  イベント参加者からは「登壇者の方が一方的にお話をするのではなく、私たちの話を聞いてくれるスタイルは初めてで、とても嬉しかった」「向き合って本音を語り合うのはいつもの女子会とも違って良かった」との声が聞かれました。加藤さんも「とても楽しかった!今後もやりたいですね。みんなまた会おうね~!」と挨拶し、大盛況のうちにイベントは幕を下ろしました。
BOOKSTAND 2018/11/30 12:00
羽生結弦  右足首負傷も“ロシア”での滑りを決断した理由
羽生結弦  右足首負傷も“ロシア”での滑りを決断した理由
SPで今季世界最高得点を更新する演技を見せた羽生。フリーもそろえられるよう頑張ると誓っていたが、突然の怪我が羽生を襲った (c)朝日新聞社  逆境から這い上がる姿に、再び世界が震えた。フィギュアスケート男子のGPシリーズロシア大会。公式練習で古傷を痛めた羽生結弦は、それでも渾身の演技を見せ、優勝を勝ち取った。 *  *  *  痛恨のアクシデントが羽生結弦(23)を襲ったのは、11月17日午前8時20分からの男子第2グループ公式練習だった。  フリーの曲「Origin」に乗せて滑りだしたが、冒頭の4回転ループで右足着氷に失敗、転倒した。氷上に伏せたまま、しばらく立ち上がれない。そして、何かを考え込むようにゆっくりとリンクを数周。まだ曲がかかる中でスタンドに頭を下げ、練習を先に切り上げた。  右足首を痛めたのだ。  直後、アイシングを施した右足を引きずって宿舎行きのバスへ。報道陣の「大丈夫ですか?」との声に、硬い表情のまま「大丈夫です」とだけ答えた。  前日にあったショートプログラム(SP)は、今季世界最高得点となる110.53点をマークして首位発進。いつも自分に厳しいはずの羽生が、こう語るほどの演技だった。 「ノーミスと胸を張って言えるくらい。この構成では実質ほぼマックス(の点数)」  さらに、「SPとフリーをそろえてなんぼ」と自分に言い聞かせた。その勝負のフリーを目前にした怪我だった。  状況は危機的と言ってよかった。右足首は昨年11月のNHK杯の公式練習でも負傷した古傷だ。医師の診断は「3週間の安静」。「いま滑れば悪化する」とまで釘をさされたという。  それでも、モスクワのリンクで滑る理由が羽生にはあった。  会場のメガスポルトには、特別な記憶が詰まっている。 「初めて来た時はシニアに上がったシーズンだったんですけど、その時にファン投票みたいなものがあって。ロシアのファンの方々に選んで頂いた記憶があって、すごくうれしかった」  シニアデビュー2年目の2011年11月、16歳だった羽生がGPシリーズ初制覇を飾ったのも、この場所だった。  だから羽生は言う。 「僕のスケートのルーツは、たどっていくとロシア」 「自分らしく」がテーマの今季。プログラムに選んだ曲は、SPもフリーもいずれもロシアと縁が深い。フリーは子どもの頃から憧れてきたロシアのエフゲニー・プルシェンコがかつて演じた「ニジンスキーに捧ぐ」のアレンジ版。だからこそ、 「ここで良い演技をしたいなっていう気持ちが強い。ロシアのファンの方々に喜んでもらえる演技がしたい」  SPは元全米王者ジョニー・ウィアーの代表プログラム「秋によせて」。元の振り付けをしたのは、会場にも訪れていたロシアのタチアナ・タラソワ氏だ。  とはいえ、右足首に無理を重ねれば長引く可能性は高い。昨季は12月の全日本選手権を欠場。今年2月の平昌五輪では金メダルをさらったが、3月の世界選手権は回避せざるを得なかった。だが、決断は早かった。 「(自分は)何がしたくて、何を削るのか」  午後1時50分すぎ、ヘアスタイルを本番モードに整えて、再び会場入り。痛み止めを服用してリンクに上がると、狙っていた構成を柔軟に変えていった。  変更後の演技プランは、転倒した直後に氷上ですでに練ってある。実は、「何かを考え込むように」リンクを数周回ったのは、ジャンプの構成のイメージを作り直すためだった。冒頭、右足に負担のかかる4回転ループをサルコーに変更。後半に組み込んでいた超高難度の4回転トーループ-3回転半(トリプルアクセル)も跳ばなかった。 「やったことのない構成もあって難しかった」  と言う通り、得意なトリプルアクセルで転倒するなど精彩は欠いた。だが、痛む右足を抱えての4分間を終え、フィニッシュの姿勢のまま羽生は、「頑張った!」と自らをたたえた。  167.89点。2位に10ポイント近い差をつけ、SPの貯金に頼ることなくリードをさらに広げて合計278.42点でGPシリーズ自身初の連勝(ファイナルを除く)と、日本男子単独最多となる通算10勝目(ファイナル含む)を勝ち取ってみせた。  ただ、納得の内容ではないことは本人が一番分かっている。 「フリーは完成形が見えている状態。ここでやりたかった」  試合後、タラソワコーチに出会った。「よく頑張りました」という言葉に、「本当にごめんなさい」と羽生。涙がこぼれた。  プルシェンコを育てたロシアのコーチ、アレクセイ・ミーシン氏も会場で見守っていた。 「男子、女子、ペア、アイスダンス。全てのフィギュア選手の中で、彼は最強のスケーターだ」  世界的名将からの最大級の賛辞だった。  古傷を再び痛めた影響は決して小さくない。 「悔しいなとすごく思うのは、去年のNHK杯以降、弱かった右足首がさらに緩くなってしまっていること。ほんのちょっとの衝撃でも捻挫になってしまう。でも、自分の中で今消化しているのは、事故みたいなものかなと考えています」  表彰式は松葉杖で出席した。12月のGPファイナルと全日本選手権への出場は、調整期間が必要なことを考えれば黄信号がともっている。それでも、日本スケート連盟を通じて「ファイナルに向けて、全力で治療します」とコメント。不屈の王者はすでに次戦を見据えている。(朝日新聞スポーツ部・吉永岳央) ※AERA 2018年12月3日号
羽生結弦
AERA 2018/11/28 11:30
「大人女子」は買い物好き? チョコチョコ買いに走る傾向か
首藤由之 首藤由之
「大人女子」は買い物好き? チョコチョコ買いに走る傾向か
2018年12月号「GLOW」 女性向けファッション誌部数ランキング(週刊朝日2018年11月30日号から)  日本の女性ファッション誌の部数ランキングで、初めて「40代向け」がトップになった。「大人女子」を世間に広めた宝島社の「GLOW」だ。50~70代の大人女子の「爆消費」はとどまるところを知らないが、これはその更なる拡大を意味するのか。 *  *  *  社内の事前調査で、ある程度「予想」はついていたようだ。宝島社の反応は速かった。数字発表のその日に、「号外」と銘打ったニュースレターが発行された。 「40代女性ファッション誌『GLOW』が初の1位!」  11月9日、日本ABC協会が2018年1~6月の「雑誌販売部数比較表」を発表、宝島社の「GLOW」が日本のファッション誌でトップになったことがわかった。  女性ファッション誌といえば、以前は若者向けがトップになるのが常識だった。それが、若者の雑誌離れはあるにせよ、40代向けが首位を奪ってしまったのだ。 「GLOW」は「ツヤっと輝く、大人女子力!」をコンセプトにしている。本誌は11月16日号で50~70代の「大人女子」たちが「爆消費」を展開していることを報じた。その流れでいけば「大人女子」がファッション誌界も制した格好だ。  宝島社はこれまで、ファッション誌を通して「女子」の対象年齢を拡大させてきた。1999年に20代向けの「sweet」、2003年に30代向けの「InRed」、そして10年に40代向けの「GLOW」を創刊、それぞれ年代と「女子」を結び付けた言葉をキャッチフレーズにしてきた。ファッション誌に詳しい甲南女子大学の米澤泉准教授が言う。 「とりわけ『GLOW』は『40代女子』『大人女子』を数多く使ってきた。これらの言葉を世間に定着させたのは『GLOW』、と言っても過言ではありません」  そんな「GLOW」がトップになれたのはなぜか。大平洋子編集長によると、理由は二つ考えられるという。  一つは実利。女性誌に「付録」はつきものだが、ヒット付録が生まれたのだ。 「6月発売の8月号に『DEAN & DELUCA』の保冷バッグを付けたところ、大きく売り伸ばせました。このブランドの付録企画は毎年行っていますが、年々充実度を増しています」  もう一つは、今年から「45歳の壁」に関連した企画を毎号、取り上げていることだ。 「女性の体は更年期障害が始まる45歳ぐらいを境に大きく変わります。体形はもちろん、それまでできていたことが心身の不調で急にできなくなったりします。そういうときに役立つポジティブな対処法を提案しています」  健康と美容がセットだが、健康法に走らないのがミソ。体の変化に合わせたファッションやスキンケア、メイクの仕方など、実践したいおしゃれと美容につなげていく。 「やっていると、45歳企画にすごく人気が集まることがわかりました。しかも、45歳をうたうことで、それよりも上の世代にも注目していただけるようになりました。アラフィフの読者が増えていると思います」  50代前後の「大人女子」の参入が部数増加の一つの要因になったというのだ。  確かに最新号の12月号にも、「45才からは、深みのある女。」というキャッチが表紙に躍っている。大平編集長は、今ではファッションも美容もすべて「45歳」にひもづけて考えるようにしているというが、これは創刊から8年経ったからこそできることだ。 「創刊当初は40代へと向かっていくアラフォーが主力ターゲットでしたが、彼女たちも時の経過で年齢を重ねています。それが企画の焦点を変えるきっかけになりました」 「GLOW」の主力読者は、実は「団塊の世代」の子供にあたる「団塊ジュニア世代」と重なる。「部数増加には、そうした世代効果も働いているはず」と見るのは、博報堂「新しい大人文化研究所」(新大人研)の阪本節郎所長だ。 「1971~74年生まれが真性団塊ジュニアで、広義でとらえると82年生まれまでが団塊ジュニアに入ります。この世代は団塊に次いで人口が多い『ボリュームゾーン』。それが次々に40代に入っていき、新しい読者になっていったのではないでしょうか。やっぱり『数は力』ですから」  となると、真性団塊ジュニアを核に、上下の世代に支持を広げたことが「GLOW」躍進の秘訣になる。  50代以上の大人女子が「爆消費」に走っているのは、子育てを終えた解放感が発端だった。団塊ジュニアになると「おひとりさま」が増えたりするが、彼女たちも子供が大きくなり、まもなく子育てを終え始める。すると、今の大人女子と同様に「爆消費」に走るのか。  一般的に団塊ジュニアは景気悪化とともに育ったため、バブル世代のようなブランド消費ではなく、無印良品やユニクロなど主張しすぎないファッションを好み、「自分らしさ」にこだわる世代といわれる。  しかし、世代・トレンド評論家の牛窪恵さんによると、数年前の調査で意外に消費好きな面があることに気づいたという。 「地味な服装をしているのに、自宅を拝見するとブランドものがゴロゴロ出てきたりするんです。普段は派手な消費はしないのに、『馬が好きだから200万円出して馬主になりました』とか『買いたいものはないんだけど、広告を見て3千万円のマンションを衝動買いしちゃいました』などと言う女子がいたりしました。『自分らしさ』に合えばお金を使うんです」  牛窪さんの調査結果に、団塊ジュニアを「隠れバブラー」と名付けたメディアもあったが、それを裏付けるかのように、大平編集長は「GLOW」読者の消費感覚についてこう言う。 「読者の約半数が世帯年収800万円以上で、お金を使わないのがいいと思っているかというと、そんなことはない。欲しいものは欲しいんです。ずっと欲しかったものを目の前に出されると買ってしまう、そういうタイプが多い」  実際、彼女たちの消費はどうなるのか。  牛窪さんは、大物買いは起こりにくいが、「チョコチョコ買い」がかなり増えると予想する。 「上の世代ほど夫が稼いでいませんから、厳しい中でのやりくりになります。ただし、中古に抵抗感がなくフリマアプリも使いこなせますから、雑貨や小物などで自分らしさをアピールするために、ネットでのチョコチョコ買いを繰り返すようになる気がします」  先の博報堂「新大人研」の阪本所長は、値段が安い「爆消費」が始まると読む。 「グルメを始めたのは団塊ですが、景気が悪くなって団塊ジュニアがグルメをやめたのかというと、そんなことはなかった。団塊ジュニアは、お金をかけないB級グルメをはやらせました。同様に今ほどではなくても、その『廉価版』をやるのではと思います」  例えば大人女子に人気の金沢なら、今は北陸新幹線の高級車両「グランクラス」で行くが、団塊ジュニアは普通車で、といったイメージという。  どちらにせよ、一人ひとりの消費額は低くなるが、人数が多い分、総額はそれなりにはなる。活発な「大人女子」消費が続きそうだ。(本誌・首藤由之) ※週刊朝日  2018年11月30日号
女子
週刊朝日 2018/11/21 11:30
“仕事嫌い仲間”の友が逝き 美しい「電照菊」の思い出
山田清機 山田清機
“仕事嫌い仲間”の友が逝き 美しい「電照菊」の思い出
(イラスト/阿部結)  SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回は1年ほど職場を共にしたSという友人について。 *  *  *  去る者は日々に疎しというが、友人のSが突然亡くなってからあっという間に2年の歳月が流れ去った。  Sは面倒な仕事をきれいに片づけ、懸案だった息子さんの運動部の試合の観戦も終えて、久しぶりに寛ぎながら家族と鍋を囲んでいるとき、いきなりテーブルに突っ伏してそのまま帰らぬ人となってしまったという。あまりにも唐突で、あっけない最期だった。  Sと出会ったのは、新卒で入った会社の大分事業所だった。大学時代、陸上の選手として鳴らしたSは、生き生きと軽快な足取りで歩く男だった。関西出身で話が面白く、女子社員に人気があった。大センセイとは“仕事嫌い仲間”とでもいう間柄だったが、仕事でパニックになっているときの形容がユニークだった。 「ヤマダ、ワシもうあかんわ。タコメーターは6000回転のレッドゾーンに突入してんのに、まったくスピードが出ない感じや」  神経が細く、高ぶりやすいところが大センセイとよく似ていた。  大学の陸上部の後輩を会社に引っ張ったのに、その後輩が内定を取り消されたときには、俄然、男気を見せた。 「絶対に内定の取り消しを撤回させないかん。本社行って談判してくるわ」  そう言ってスーツを羽織り颯爽と事務所を出ていった姿は、実に男前だった。  大センセイはその会社をわずか1年余りで逃げ出して東京に戻り、フリーのライターになった。そんな“過去の人間”のところにSから連絡が来たのは、30代も半ばの頃であった。  当時、大センセイは不安定な仕事と極度の貧困のせいでパニック障害という精神病を病んでいた。閉所に入ると呼吸が苦しくなるので電車すら乗れないという、奇妙な病気である。Sはそのことを聞きつけて電話をかけてきたのだ。本社勤務になったSは、鬱病を病んでいた。  ある日の早朝、Sから切迫した電話がかかってきた。 「今日は何としても出社しなくてはいけないんだが、どうしても会社の中に入れないんや。頼む、いまから本社に来てくれ」  よく事情をのみ込めないまま本社の正面玄関に出向くと、むくんで蒼白な顔をしたSが立っていた。ふたりで本社の周囲を何周かした後、玄関に入ろうとしたが入れない。また本社の周囲を回る。入れない。回る。入れない。これを何度か繰り返したあげく、Sは涙を浮かべながらなんとか本社の玄関を潜っていった。  なぜ、ああまでして会社に行かねばならなかったのか。一流国立大学の出身だったSには、大センセイのように「逃げる」という選択肢はなかったのだろうか。  大分時代、Sとは専ら日曜日の夕方にドライブに出かけた。カーステレオをかけながら、どこだかわからない山中を走り回るのだ。束の間の逃避行だった。  その日は大分からひたすら南下して、延岡の方まで足を延ばしたのだった。  真っ暗になるまでやみくもに走り回って小さな峠を越えたとき、突如、目の前に異様な風景が広がった。赤く発光する何十棟ものビニールハウスが闇の中にぼっと浮かび上がったのだ。 「ヤマちゃん、見てくれよ」  幻のような光景に、ふたりとも息をのんだ。 「すごいなぁ、きれいやなぁ。会社、行きたないな」  それは、電照菊のビニールハウスだった。  あの電照菊の里はいったいどこだったのか、いまとなっては確かめる術がない。 ※週刊朝日  2018年11月23日号
山田清機
週刊朝日 2018/11/19 16:00
TV番組で話題の女子高生SSW“琴音”、即完売の初ワンマンでメジャーデビュー発表&ミスチルカバー他セットリスト公開
TV番組で話題の女子高生SSW“琴音”、即完売の初ワンマンでメジャーデビュー発表&ミスチルカバー他セットリスト公開
TV番組で話題の女子高生SSW“琴音”、即完売の初ワンマンでメジャーデビュー発表&ミスチルカバー他セットリスト公開 圧倒的な歌声とその歌う姿に惹きつけられる女子高生シンガーソングライター琴音(ことね)が、自身初のワンマンライブを渋谷・duo MUSICEXCHANGEで行った。  今年7月に初のミニアルバム『願い』をインディーズレーベルEggsからリリース。そのCD封入で今回のレコ発ライブが発表され、チケットは発売と同時に完売。まさに期待と注目が集まる中、初ワンマンライブでは全12曲をバンドメンバーとともに披露した。  バンドメンバーにつづいて琴音がステージセンターに登場すると、ミニアルバム『願い』に収録された「記憶」の重厚なオルガンサウンドからライブがスタート。満員のフロアが息を呑むように彼女の歌声に集中し、釘付けになった。  今年1月に突如テレビに登場し、毎週歌う彼女の歌声に虜になる人が続出。番組が終了した後も彼女が歌唱する動画の再生回数は伸び続け、今や500万回を超える。全身を使いながら歌う姿は力強くもあり繊細でもあり、16歳のまだどこかあどけなさの残る表情からは想像できない目力は、鋭さとその奥にある気迫が迫ってくる。まさにこれがテレビ視聴者を釘付けにした彼女の真骨頂だ。  3曲続けて披露後に最初のMCで挨拶。「みなさんこんばんは 琴音です。緊張しています。最後まで楽しんでください。」  ギターを手に取り彼女の弾き語りで「last word」、「僕にだけ教えてよ」。そして、バンドメンバーが再びステージに登場し小田和正さんのカバー「たしかなこと」そして、彼女自身も大ファンというMr.Childrenのカバー「HANABI」を歌い上げた。  ライブのクライマックスではミニアルバム『願い』にも収録の「大切なあなたへ」、「音色」もライブアレンジで初披露。本編最後は、今の彼女の代表曲でもある「願い」を大きなスケールで歌い上げた。  そして、この日のステージでは2019年春にメジャーデビューすることを発表。アンコールでステージに再度登場した琴音は、「突然ですが、重大発表があります。私 琴音は来年春にメジャーデビューします」と宣言。「まだ未知のことなので、不安もたくさんあるのですが、より多くの方に自分の音楽を聴いていただけるように、いつでも自分らしく頑張りたいと思います。」とコメントした。  CDリリース詳細は今後発表するとのこと。先立って初の全国ツアーを東京、大阪、名古屋、そして地元の新潟・長岡で開催すること、さらにオフィシャルホームページとSNS、オフィシャルInstagramも開設したことも発表した。 ◎公演情報 【琴音1stミニアルバム「願い」レコ発ライブ】 公演日:2018年11月17日 会場:duo MUSICEXCHANGE 開場:15:15 開演:16:00 ■セットリスト M1.記憶 <MINI AL「願い」収録> M2.Glorious M3.戯言~ひとりごと~ M4.last word  <MINI AL「願い」収録> M5.僕にだけ教えてよ M6.たしかなこと(小田和正 cover) M7.HANABI(Mr.Children cover) M8.成長記 M9.大切なあなたへ <MINI AL「願い」収録> M10.音色 <MINI AL「願い」収録> M11.願い <MINI AL「願い」収録> EN1.夢物語 ◎クレジット
billboardnews 2018/11/19 00:00
米ツアー出場決定の18歳・山口すず夏 丸山茂樹「頼もしい」
丸山茂樹 丸山茂樹
米ツアー出場決定の18歳・山口すず夏 丸山茂樹「頼もしい」
丸山茂樹(まるやま・しげき)/1969年9月12日、千葉県市川市生まれ。日大で活躍、アマ37冠で92年にプロ入り。日本ツアー通算10賞。2000年から米ツアーに本格参戦し、3勝。02年に伊澤利光プロとのコンビでEMCゴルフワールドカップを制している すず夏ちゃん、やりましたね (c)Getty Images  丸山茂樹氏はアメリカツアーの出場権を手にしたアマチュアゴルファー・山口すず夏を称賛する。 *  *  *  テレビ解説の仕事で、秋の沖縄へ行ってきました。国内男子ツアー「平和PGM選手権」(11月1~4日、沖縄・PGMゴルフリゾート沖縄)です。3日目が雨で中止になって54ホールに短縮して争われました。そりゃもう、ビックリするような台風みたいな雨でしたねえ。  南アフリカのショーン・ノリス(36)が鮮やかすぎる逆転優勝を飾りました。トップの片岡大育(30)を1打差で追って迎えた最終18番ホール。セカンドショットで6メートルにつけ、イーグルパットを決めました。あのイーグルは絵に描いたような「スリーグッドショット」でしたね。完璧なイーグルでした。  逆転での今シーズン初勝利に涙を流したノリス。10月に息子が生まれたばかりで、お父さんは闘病中。「息子と父のために勝ちたかった」とインタビューに答えてました。いろんな思いがありながらの優勝だったから、感極まったんでしょうね。それにしてもほんとに素晴らしい、劇的な優勝でした。  女子では日米共催の「TOTOジャパンクラシック」(11月2~4日、滋賀・瀬田GC北C)で、19歳の畑岡奈紗ちゃんが米ツアー2勝目を挙げました。強いですねえ、彼女は。スコアのつくりかたを見てるとね、最終日にああいうビッグナンバーで回ってこられるってのは、メンタルが相当に強いんだなと思いますね。  彼女のコメントにグリーン周りの技術に関して、「アメリカで覚えました」って言葉がありました。いろんなことが勉強になってるんでしょうね。アメリカの難しいゴルフ場で苦しみながら、得るものも大きいはずなんです。  同じく女子の話です。来シーズンのアメリカツアー出場権をかけた最終予選会で、アマチュアで18歳の山口すず夏ちゃん(共立女二高3年)が見事に出場権をゲットしました。すごいですね。  2020年の東京オリンピックに出たくて、より効率的にポイントを手にするために米ツアー進出を狙ったみたいですね。頼もしいじゃないですか。彼女はマルジュニアにも何回か出てくれて、そのあとも会うとしっかり話をしてくれる子です。マルジュニアを経験した人に、こうやってどんどん世界へ羽ばたいてほしいですよね。  ニュースで見ましたけど、11月4日に全日本大学駅伝があって、青山学院が出雲駅伝に続いて優勝したんですね。取材なんかで話を聞かれるからニュースでは見ますけど、僕はほんとに駅伝とかマラソンに興味がないんですよね。ウチの奥さんの家はみんな青学だから、めちゃくちゃ熱入ってますけどね。めっちゃ応援してますよ。まあ、箱根駅伝は完全に正月の風物詩になりましたからね。  なんでかなあ。駅伝って個人戦じゃないけど個人の区間賞なんかもあって。難しいなあ、なんて思っちゃうんですよね。  えっ、駅伝って基本的に日本でしかやってないんですか? 初めて聞きました。京都に「駅伝発祥の地」って記念碑があるんですってね。最初は京都~東京間で争ったんですか。そんなの新幹線で行きゃあいいのに。こんなこと言ったら怒られちゃいますね。ハハハ。 ※週刊朝日  2018年11月23日号
丸山茂樹
週刊朝日 2018/11/18 07:00
学校現場の大問題

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クレーム対応や夜間見回りなど、雑務で疲弊する先生たち。休職や早期退職も増え、現場は常に綱渡り状態です。一方、PTAは過渡期にあり、従来型の活動を行う”保守派”と改革を推進する”改革派”がぶつかることもあるようです。現場での新たな取り組みを取材しました。AERAとAERA dot.の合同企画。AERAでは9月24日発売号(9月30日号)で特集します。

学校の大問題
働く価値観格差

働く価値観格差

職場にはびこる世代間ギャップ。上司世代からすると、なんでもハラスメントになる時代、若手は職場の飲み会なんていやだろうし……と、若者と距離を取りがちですが、実は若手たちは「もっと上司や先輩とコミュニケーションを取りたい」と思っている(!) AERA9月23日号では、コミュニケーション不足が招く誤解の実態と、世代間ギャップを解消するための職場の工夫を取材。「置かれた場所で咲きなさい」という言葉に対する世代間の感じ方の違いも取り上げています。

職場の価値観格差
ロシアから見える世界

ロシアから見える世界

プーチン大統領の出現は世界の様相を一変させた。 ウクライナ侵攻、子どもの拉致と洗脳、核攻撃による脅し…世界の常識を覆し、蛮行を働くロシアの背景には何があるのか。 ロシア国民、ロシア社会はなぜそれを許しているのか。その驚きの内情を解き明かす。

ロシアから見える世界
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