パリ五輪日本代表の出身大学ランキング 1位は阿部一二三、詩兄妹の日本体育大、2位は早稲田大
パリ五輪、柔道混合団体決勝後の阿部兄妹。二人は日本体育大出身
第33回オリンピック競技大会(2024/パリ)が開幕した。
世界中のトップアスリートたちはパリ五輪への出場、そしてメダル獲得をめざしてきた。われらが日本代表も血のにじむような努力を重ね厳しい練習に取り組み、少年少女時代からの夢だったオリンピック出場をかなえた。
日本代表のなかには高校、大学時代からアスリートとして活躍していた選手も少なくない。彼らはどのような大学で力をつけ、技を磨いてきたのか。日本代表選手たちの出身大学を調査、集計し、ランキングを作ってみた。
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まず、最近40年間に行われたオリンピック11大会について、日本代表の出身大学ランキング1位校を紹介しよう。
1984年ロサンゼルス大会:日本体育大(39人)
1988年ソウル大会:日本大(27人)
1992年バルセロナ大会:日本大(33人)
1996年アトランタ大会:日本大(26人)
2000年シドニー大会:日本大(18人)
2004年アテネ大会:日本体育大(22人)
2008年北京大会:日本体育大(26人)
2012年ロンドン大会:日本体育大(23人)
2016年リオデジャネイロ大会:日本体育大(28人)
2021年東京大会:日本体育大(57人)
2024年パリ大会:日本体育大(38人)
日本大、日本体育大が長くトップ争いを続けていたが、04年大会以降、日本大がふるわなくなった。5位以内にはほかに早稲田大、筑波大、明治大が入ってくる。
2024年パリ大会日本代表選手の出身大学ランキング
◎JOCが発表した代表名簿をもとに集計。出身大学や高校、所属機関、競技団体などの資料から作成した。リザーブ、補欠は含まない。パラリンピックは含まない。
24年パリ大会における日本代表の出身大学ランキング上位校を見てみよう。(※JOCが発表した代表名簿をもとに集計。出身大学や高校、所属機関、競技団体などの資料から作成した。リザーブ、補欠は含まない。パラリンピックは含まない)
1位:日本体育大(38人)
『体育スポーツの普及·発展を積極的に推進する人材の育成』を建学の精神に掲げる大学だけあり、国内の精鋭が集まっている。インターハイ上位成績者の高校生トップアスリートが、オリンピックをめざして日本体育大へ進むというケースが定着し、最近20年の6大会で出身大学ランキングのトップを守り続けている。
注目は柔道の阿部一二三、詩の兄妹だ。2人そろって2大会連続で出場し、兄・一二三は2大会連続で金メダルを獲得した。ほかには水球(男子)9人、レスリング(男女)6人を送り出しており、得意とする分野がよくわかる。
一方でトライアスロンやマウンテンバイク、飛び込み、オープンウォーターなど、競技者人口が多くない種目でも代表を出しており、大学がさまざまなスポーツに力を入れていることをよく示している。スポーツを満遍なく愛しているのだろう。ちなみにオープンウォーターとは川、湖、海、水路といった自然の水域で行われる長距離の水泳競技である。なお、日本体育大は「にっぽんたいいくだい」と読む。
◎JOCが発表した代表名簿をもとに集計。出身大学や高校、所属機関、競技団体などの資料から作成した。リザーブ、補欠は含まない。パラリンピックは含まない。
2位:早稲田大(30人)
大迫傑(陸上・マラソン)、張本智和(卓球)、瀬戸大也(競泳)など著名なアスリートがいる。在学生(学部)には、上記の張本のほかに和田彩未(アーティスティックスイミング)、松本信歩(競泳)、池田瑞紀、垣田真穂(以上、自転車)、中山楓奈(スケートボード)がいる。中山は21年大会で銅メダルを獲得している。龍谷富山高校1年の時だった。今年、早稲田大スポーツ科学部に入学した。
松本信歩は簿記、宅建、スペイン語検定など複数の資格を取得している。こう話している。「スポーツ以外の分野にも興味があり、スキルを身につけたいと考えたからです。宅地建物取引士の資格は、将来活用できればという期待から取得しました。また、スペイン語検定は、メキシコでの合宿中に英語がうまく通じず、現地の方々とコミュニケーションを取りたいという思いから、自ら勉強しました」(早稲田大競技スポーツセンターのウェブサイト 24年6月13日)
なお、柔道女子の池田海実(スポーツ科学部 4年)は韓国代表、渡邊聖未(スポーツ科学部 19年卒)はフィリピン代表としてオリンピックに臨む。大学のグローバル化を示すものだ。
3位:筑波大(19人)
21年大会から採用されたスポーツクライミング代表の森秋彩は、15歳で世界選手権に出場し銅メダル獲得した。22年に筑波大体育専門学群に入学。大学での学びについてこう話す。
「研究室は体育スポーツ哲学を選びました。教職を取っているのでまだ他の分野もたくさん学ぶんですけど、その中でも去年一番印象に残った哲学と倫理学を自分の経験と絡めて卒論にしたいと思いました」(スポーツ系ニュースサイトCLIMBERS」24年3月8日)
もっとも実績がある選手は熊谷紗希(サッカー女子)であろう。2011年の FIFA女子ワールドカップで優勝、12年大会で準優勝している。いずれも筑波大在学中だった。24年大会のサッカー女子には南萌華、清家貴子、長野風花がいる。
自転車競技の與那嶺恵理は、16年大会、21年大会に続いて3度目の出場となる。大学2年のときに自転車競技を始めたが、その経緯がおもしろい。こう振り返っている。
「元々自転車を始めたのは、大学のテニス部を辞めたことがきっかけだったんです。体力はあるのにセンスが無くて、先輩の球拾いとかサポートばっかりやっていたんですね。私は体育会系だから競技に出ていないと楽しめなくなって、もういいかなぁって思っちゃったんです。(略)たまたま趣味としてロードバイクに乗っていた伯父さんが『その脚は自転車に向いているから、気分転換にでも乗ってみれば?』と言ってくれました」(サイクリングファンのための情報サイト「シクロワイアード」13年12月18日)
4位:日本大(16人)
日本大の学生数(学部)は約6万7000人であり、他大学を圧倒する(2位は早稲田大の約3万7000人)。学内にはスポーツの各種目で競技者が多く、つまり数の論理で多くのアスリートを送り出してきた。
池江璃花子(競泳)は16年大会、21年大会に続いて3大会連続出場となる。池江は19年に日本大スポーツ科学部に入学したが、白血病のため療養生活を送っていた。東京大会が21年に延期となったことで、彼女は驚異的な回復をみせて同大会の代表入りを果たした。
池江は23年に大学を卒業したとき、取材に応じて次のように話している。「苦しいことの方が多かった。生きるか死ぬかを経験した4年間。多分、誰よりも充実した4年間を送れたかな」「つらくなったときは、もっとつらい時期もあったと思い出し、どんどん前に進めたら」(朝日新聞デジタル23年3月25日)
4位:明治大(16人)
射撃女子で2大会続けて在学生の代表を送り出した。21年大会の平田しおり、そして今回の野畑美咲だ。明治大は射撃の全日本大学選手権で男子総合2連覇、女子総合6連覇を達成するほどの強豪だ。野畑は大学のスポーツ新聞にこう話している。
「今回が私の五輪初出場となります。慣れないこともあり、プレッシャーも大きく感じることもあるかと思いますが、私なりの射撃ができるよう、謙虚に楽しく射撃をしていきたいと思います。また残り少ない期間ではありますが、いい調整ができるように頑張ってまいります。応援のほどよろしくお願いいたします」(「明大スポーツウェブサイト」24年7月19日)
20代前半の野畑の親世代にあたるベテランアスリートも明治大出身には健在だ。馬術の大岩義明(48歳)、戸本一真(41歳)である。
6位:東洋大(14人)
陸上競技で7人が代表に選ばれている。中島佑気ジョセフ(400メートル)、池田向希(20キロメートル競歩)、小川大輝(400メートルハードル)、桐生祥秀、栁田大輝(以上、4×100メートルリレー)、吉津拓歩(4×400メートルリレー)、川野将虎(男女混合競歩リレー)。桐生は16年大会(4×100メートルリレー)での銀メダルを獲得したとき、在学中だった。陸上部短距離部門アシスタントコーチの土江寛裕さん(法学部教授)はこう話す。
「オリンピックは4年に一度ですから、大学在学中には基本的に1度しか訪れない訳です。実力が伴う時期と開催が重なる選手には、世界選手権やアジア大会といったオリンピックにつながる大会を意識してきっちりとプランを立てながらトレーニングします。結果が出始めると選手も自信になりますが、うまくいかない場合もある。トレーニングも本人が納得した上で行わないと結果は出にくいもので、お互いにオリンピックを目指すパートナーとして対話しながら信頼関係を築くことは必須でしょうね」(東洋大広報誌「TOYO UNIVERSITY NEWS」2024年7月)
7位:中央大(13人)
24年大会の開会式はセーヌ川に浮かぶ船上で行われた。日本選手団の旗手をフェンシング女子の江村美咲が務めた。江村は世界選手権2連覇の実績を誇る。陸上競技の飯塚翔太は4度目のオリンピック出場となる。大学時代の思い出をこう話す。「総合大学特有のスポーツとは全く異なる勉強、そして部活動がありメリハリのある大学生活を過ごしました。陸上部の自分と勉強する学生の自分がそれぞれいるような感覚でいい意味でスイッチが入りました」(大学ウェブサイト)
◎JOCが発表した代表名簿をもとに集計。出身大学や高校、所属機関、競技団体などの資料から作成した。リザーブ、補欠は含まない。パラリンピックは含まない。
日本代表には私立大学出身者が圧倒的に多いが、国公立大学出身もいる。筑波大のほかに鹿屋体育大、岐阜大、東京学芸大、一橋大、大阪市立大(現大阪公立大)だ。
神戸親和女子大の名前もある。23年に男女共学化するとともに神戸親和大に校名が変わった。
世界のトップアスリートを送り出した大学を眺めると、各大学の特徴が見えてくる。また、意外性も示されるので、なかなか興味深い。
日本代表の経歴を見ることで、オリンピックの楽しみ方がひとつ増える。
<文中敬称略>
(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)
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2024/08/07 08:00