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「英国の貧困地域が『保育の砂漠』に 保守党政権で『失われた10年』」ブレイディみかこ
「英国の貧困地域が『保育の砂漠』に 保守党政権で『失われた10年』」ブレイディみかこ 作家、コラムニスト/ブレイディみかこ    英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。 *  *  *  英国で保育園の閉園が増えている。昨会計年度の閉園数は前年比50%増だ。理由は財政難である。光熱費の高騰、物価高、家賃上昇など、「生活費危機」の時代は「運営費危機」の時代でもある。特に、貧しい地域が「保育の砂漠」になっているとシンクタンクが警鐘を鳴らす。  他方で、政府は2025年秋までに、生後9カ月から小学校入学時までの保育を週30時間まで無償にすると発表した。この政策の背景は閣僚たちの言葉遣いでわかる。彼らは、もはや保育を「幼児教育」とは呼ばない。「子どものケア」である。大人が働いている間に誰かが子どもを見る。それだけでいいという考えが透けて見える。財務相は、この政策を発表したとき、「多くの女性にとってキャリアの中断がキャリアの終焉になっている」とし、「人手不足の解消」のために母親に職場復帰してもらわねばならないと言った。つまり、保育の無償化は教育政策ではない。ピュアに経済のためなのだ。  だが、まず貧しい地域の保育園を閉園から救う支援策を出さなければ、裕福な地域と貧困地域との格差は広がるばかりだろう。それに、経済政策としても、長期的には目の付け所を外しているかもしれない。米国の調査によれば、貧困層の幼児教育に1ドル使えば、成人後の効果は16倍になることがわかった。優れた幼児教育を受ければ、社会保障やメンタルヘルスケアを必要とする確率も減り、就業率が上がるという。  1997年に発足した労働党政権は、格差が経済を衰退させる要因と見極め、教育を優先課題とした。保育は単なる「ケア」ではなく「幼児教育」だという指針を打ち出し、保育の大改革を行った。貧困地域に焦点を定め、保育園併設の育児支援センターを次々と建て、就学時の子どもたちの発達格差を縮めようとした。まさに、政府が「親ガチャ」と闘おうとしたのだ。それは人手不足を母親たちで解消するという付け焼き刃的な政策ではなかったのである。  長期的視野をなくした保守党政権のもとで、英国は停滞し、貧困化した。「失われた10年」という、どこかで聞いたような表現が使われるようになったのは偶然ではない。 ブレイディみかこ(Brady Mikako)/1965年福岡県生まれ。作家、コラムニスト。96年からイギリス・ブライトンに在住。著書に『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『他者の靴を履く』『両手にトカレフ』『オンガクハ、セイジデアル』など ※AERA 2023年12月25日号
子どもの部活は全力サポート 「研究者っぽくない」女性金属学者(53)の世界初の成果とは
子どもの部活は全力サポート 「研究者っぽくない」女性金属学者(53)の世界初の成果とは   梅津理恵さん。奥にあるのは本多光太郎博士の胸像=仙台市の東北大学  大正時代に世界最強(当時)の永久磁石をつくった本多光太郎博士(1870-1954)が創設した東北大学金属材料研究所(金研)。その副所長に今年4月に就いたのが梅津理恵教授(53)だ。翌月には「日本女性科学者の会」会長にも就任した。  奈良女子大学物理学科の修士課程を終えたときは、就職に踏ん切りがつかず、悩みつつ臨床心理学の勉強を始めた。まもなく、母のがんがわかり郷里の仙台に戻る。母を見送り、東北大学の博士課程へ。博士論文の審査前に妊娠するという「想定外」を経て、今は保育園事業を展開する夫との間に3人の子に恵まれた。子どもたちのスポーツ活動を夫婦そろって全力で支援し、末っ子から「研究者っぽくない」と言われる、類例を見ない女性研究者である。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子) 女性から評価され嬉しかった ――日本女性科学者の会は、平塚らいてうさんや湯川秀樹博士らの支援のもとに1958年に設立された由緒ある団体です。その会長になったんですね。  任期は2年です。立候補しませんか、と言ってくださる方がいて、もっとキャリアを積んだ方がなるイメージを持っていたんですけど、立候補しました。会員300人弱のこぢんまりした会なので、会長といっても、事務かたの一員みたいな感じです。 ――いつから会員に?  この会が出す奨励賞があるんですが、応募するには会員であることが条件なんです。それで博士号をとって間もないころ会員になった。そのときは選に漏れたんですけど、日本金属学会や財団などから賞をいくつかいただいた後にまた応募したらいただけた。2014年の第19回です。女性同士の厳しい目でも評価されたとちょっと嬉しかったですね。 ――女性同士のほうが厳しいんですかね?  材料ってすごく女性が少ない分野で、しかも分野自体が地味なんですよ。医学系や生物系は華やかなイメージで女性も多いし、そういう分野と対抗できるのかしらって思っていましたね。  賞をとってすぐ理事になりました。会長になる前の2年間は広報担当理事として古めかしかったホームページを一新しました。若手専用のページも作った。若手会員を増やして、若手にとっても役に立つ活動をしていきたいと、会長としても思っています。 「喉から手が出るくらい」 ――優れた女性研究者に贈られる「猿橋賞」を受賞したのは2019年ですね。  実は、私、猿橋賞のことをよく知らなかったんですよ。学会の委員会か何かのときに先輩がたが「猿橋賞は誰にとっても喉から手が出るくらい欲しい賞だけど、なかなかもらえない」というような話をしていて、「そうなのか」と思った。だったら、私もそれに応募するのを目標にしようと思った。  猿橋賞は50歳未満が対象で、ふと気がつけばぎりぎりのタイミングになっていたので、自分としてはまだ基準に見合っていないような気がするけれど、応募書類を出しました。なんか、出したことすら忘れたころに受賞の知らせが来た。2019年5月に贈呈式があって、翌年2月に教授に昇任しました。 ――俗にいう「猿橋効果」ですね。 猿橋賞贈呈式での梅津理恵さんと夫の哲也さん=2019年5月、東京、梅津さん提供    はい、そうでしょうね。金研創立以来103年で初めての女性教授だと聞きました。 ――ご専門の「ハーフメタル」って、説明が難しいですよね。「半分金属」というわけではない。  違います。磁石にくっつくような磁性体の中で、その電子の状態が半分は金属で半分は半導体的、という物質なんです。研究室にあるような装置で調べても、パッとすぐにはわからない。  ちょっと専門的になりますけれど、電子には電荷のほかにスピンという性質もある。スピンには向きがあって、固体中の特定の電子の向きがそろっていると磁気モーメントというものを発生し、さらにその配列によって磁石(強磁性体)になったりする。スピンと電荷の両方をうまく操りたいというのが「スピントロニクス」という分野で、優れた電子部品を作りだすために盛んに研究されています。ハーフメタル型磁性体はどちらかの向きのスピンのみが電気的性質を担うことになるので、「スピンと電荷をうまく操る」のに大いに役立つはずで、私はとくに基礎的な性質を知るための実験に力を入れています。 ――やっぱり難しい、と読者はきっと思ったと思います。とにかく、優れた電子部品を作るための材料科学の最先端で、基礎的な研究に取り組んでおられるわけですね。最初から研究者を目指していたわけではないと聞きました。 女性だからこその仕事を  はい、私は物理が好きで地元の東北大に行きたかったんですが、受からなかったので奈良女子大の物理学科に行きました。修士を出て就職するつもりでしたけど、その割には就職活動をあまりしなくて、模索していたというか。親からは「博士課程に行ったら?」と優しい言葉をかけてもらったんですけど、就活がうまくいかないから博士課程に行くっていうのはちょっと違うな、と思って。同級生はどんどん就職が決まっていって、ちょっと焦りはありましたね。  会社説明会に行くと、男子ばかりの中にだいたい女子が1人ポツンといる。そういうのを何回か経験して、突然、女性だからこそ得意な仕事、有利な仕事をしたほうがいいのかなと思い始めて、それで臨床心理学を勉強しようと奈良県立医科大学の研修生になった。  ところが、1年たたないうちに母にがんが見つかった。5歳上の姉は看護師として働いていましたし、病状が深刻で先はもう短いと聞いて、居ても立ってもいられなくなって仙台に帰りました。母は56歳で発症して57歳で亡くなりました。 ――お若かったですね……。  ええ、私もその年に近づいてきました。母は11月に亡くなって、さてどうしようと考えたとき、大学でまた勉強できたらいいなとふっと思ったんです。私は修士まで行くのが当然だと思っていたけれど、世の中を見れば修士まで出た人はそんなに多くない。もともと東北大に入りたかったわけだし、奈良女子大の恩師に相談したら「理学部より工学部のほうが向いているんじゃないか」とアドバイスをもらえた。 ――修士課程ではどんな研究を? いつも使う実験装置について説明する梅津理恵さん  物質には、ある温度を境にガラッと構造を変えるものがある。それがなぜ起こるのかを研究しました。茨城県東海村の原子炉施設に行って中性子を使う実験をして。小さい大学の割には、すごくアカデミックなことをやらせてもらっていました。  東北大工学部の研究室をいくつか見学して、4月には間に合わなかったんですけど、10月に工学研究科の博士課程に編入しました。このときには、研究者になろうと覚悟を決めたというか、大学に残れるものなら残りたいと思っていましたね。どうすれば残れるのかのイメージは全くありませんでしたが。 女子高・女子大は悪くない ――物理が好きになったのは?  高校からです。よくある話ですが、高校の物理の先生がすごく良かった。高校は県立の女子高で、当時、県立なのに男女別学にしている県がいくつかあって、宮城県がまさにそれだった。母校はいまはもう共学化されて、しかも中高一貫校に変わったんですけど。  でも、理系の女子を増やすという意味で、女子高・女子大は案外悪くないんですよ。女子高・女子大だと、何も気にしないで、何の偏見もなく好きな教科を自分の意思で決められる。あと、学校が「あなたたちは女性だけれど、当然、社会に出て先輩がたのように活躍するんですよ」と言ってくれる。これは共学ではなかなか言ってもらえないですよね。東北大の女子学生を見ていても、いっぱいいる男子の後をそーっとついていくような子が多いように思います。 ――女子大だとロールモデルになる立派な女性の先生が何人もいらっしゃいますしね。  いるし、男の先生でも女子教育に理解がある。ただ、私自身はあまり勉強しない、不真面目な学生でした。中学からテニス部で、大学でも体育会のテニス部に入ってテニスばかりしていた。 テニススクールのコーチも ――へえ、どのくらい上手だったんですか?  え~と、バイトコーチをするぐらいですね。大学2年生から大学院卒業まで、近くにあったテニススクールでコーチをしていました。最初は習いにいったんですけど、コーチをやってと言われて。  主人と知り合ったのも、テニスが縁です。仙台でテニスの社会人サークルを立ち上げた人で、当時は医療機器を販売する会社の営業マンでした。一緒にテニスの合宿に行ったり、試合に出たり、ワイワイ週末を楽しく過ごしている社会人サークルなので、仕事は何をしているかはお互い興味もない。私は「年を取った女子大生らしいよ」(笑)とかって言われてました。  私、結婚相手はなんとな~く「同業者はイヤだなあ」って思っていたんです(笑)。主人とテニスを通して仲良くなったので、卒業したら結婚と思っていたら、卒業前の夏ごろに妊娠しているのがわかった。博士論文の審査は10月、12月、1月と3回あり、最初が一番大事な審査なんです。それが無事に終わってから指導教官に「妊娠しています」って打ち明けた。審査のたびにちょっとずつおなかが大きくなって(笑)、5月に出産しました。  3月の学位授与式のとき隣に座ったのは女子留学生だったんですけど、びっくりされた(笑)。生まれたのは女の子で、その後、ほぼ2年半おきに女、男と産みました。 左から長女、長男、次女=2022年12月、梅津さん提供   ――ポスドク(博士号取得後研究員)時代に3人産んじゃったわけですね。すごい。   考える間もなく、っていう感じですかね。姉のところも3人子どもがいるし、2人より3人いたほうがいいかなというのは夫婦で一致していました。私が1人目を産んだあと、主人は転勤を命じられて「だったら辞める」と同業他社に転職し、2人目を産んだあとにその会社でも東京転勤と言われて辞めた。東京へ行くのは栄転だと思うんですけど、彼の意思は固かった。もともと「営業は一生続ける仕事ではない」って言ってはいました。 夫は保育園を立ち上げた  うちは、両親とも愛媛県出身で、父は修士から東北大に来て金研に就職した研究者、母は私が生まれる前は小学校や中学校で英語の先生をしていて、公務員一家なんですが、主人のほうは北海道出身で、おじいちゃんはお酒をつくっていましたとか、いとこはプロゴルファーを目指していましたとか、絵描きさんがいますとか、歯医者でクリニック経営していますとか、なんか自分でことを起こすのを厭わない人たちなんです。それで、二つ目の会社を辞めたあと、保育園を始めました。 ――え、保育園?!  私も驚きましたけど、主人はコンサルタントからいろいろアドバイスも受けて、仕事として始めた。最初は個人事業主として街なかのビルの一角を借りて、やがて2カ所の経営をするようになり、今から5年くらい前にNPO法人にして、3年前に社会福祉法人にしました。社会福祉法人になってから、思い切って90人から100人規模の保育園を二つつくりました。 ――へえ、すごいですね。  最初は本当に休みなく働いていました。頼まれれば、夜でも休日でも子どもを預かって。だから、家事育児は今の言葉でいえば完全にワンオペだったんですけど、主人の保育園は割と近かったので、私が子どもを保育園に迎えにいった帰りに主人のところに寄って様子を見て、「先に家に帰って寝てるね」みたいな感じ。すごくがんばっているのはわかっていたし、かえって一家団結するっていうか。結局、自営だったので、しょっちゅう子どもを連れて出入りできましたから、私が1人で育児をしているという感じはなかったですね。  そばで見ていて、経営がだんだん良くなっていくのがわかるんです。ちょっと保育園の話になっちゃいますけど、保育園というのは親からの保育料だけではやっていけないんですよ。行政からの支援があって初めて成り立つ。だけど、支援を受けるには実績が必要だから、助成金を受けるために要る条件をそろえておいて、まず1年間実績を積む。そこで申請すると、1年ぐらいの審査期間を経て3年目ぐらいから助成金をもらえる。  それがわかっていたので、最初の2年は耐え忍んでがんばった。私も夜遅い子の食事をちょっと作りにいくとか、土日はうちの子どもも連れていって一緒に散歩するとか、手伝いました。 梅津理恵さん=東北大学金属材料研究所 ハーフメタルの原理究明を ――そんな忙しい生活をしていたころに、日本金属学会から論文賞をもらっているんですね。東北大の中の多元物質科学研究所に移ってからポンポンポンと賞を受けた。  あ~、いま思えば、指導教官によく指導していただきました。「論文数で負けるな」と言われて、学生のころから書くように仕向けられた。研究室全体がそういう雰囲気でした。 ――金研に移ったのは2010年ですね。  6年間のプロジェクトの専任研究員のような形で入りました。その間に、科学技術振興機構(JST)のさきがけ研究者になれたことで、自分のやりたい研究ができた。さきがけというのは若い人に自由な発想で自由に研究させるという趣旨のプログラムです。  私が採択された領域の総括は非常に有名なすごい先生で、チョー怖くて(笑)。すごい怒られるんです。「もっと自分の独自性を出せ」とか「もっと将来に向かったことに挑戦せい」とか。それで私は放射光(特殊な光を出す大型施設)実験をやろうと思った。いい試料をつくって、放射光実験を始めましたっていうところでさきがけの期間の3年は終わっちゃったんですけど、その後も実験を続けて、ある手法でハーフメタルの電子状態を直接観測するという世界初の成果を上げることができた。  それに、上が厳しかったおかげで、さきがけのメンバーはすごく結束が固くなって仲良くなった(笑)。私は3期生でしたけど、2期生、1期生を含めて、いま思えばすごい人が集まっていた。その後、それぞれの分野を引っ張っているような人たちがたくさんいます。 ――実験は、兵庫県にある大型放射光施設「スプリング8(SPring-8)」でやったんですね。東北大にも最新の放射光施設「ナノテラス(Nano Terasu)」ができるところですね。  はい、ここで実験できるのがすごく楽しみです。ハーフメタルをはじめとする機能性材料が、なぜそういう性質を持ちえたのかの原理をそこで証明したいと思っています。 長男は「研究者になりたい」 ――いま、お子さんたちは?  上の2人は看護師を目指しています。長く続けられる仕事がいいんじゃないと言ったら、手に職をと思ったらしくて。高校生男子は、とりあえずサッカー選手は諦めたみたいで(笑)。いまは「研究者になりたい」って言ってますね。何でって聞いたら、「一番身近に研究者っぽくない人がいる」って。 ――え、どういうこと?   インドネシアのバリで開かれた国際会議に娘2人を同行したとき空港で=2023年8月、梅津さん提供   子どもの部活をがんばった  研究者ってずっと一日中研究に向かっているかと思えば、うちのお母さんは全くそんなことはない、とか言って。私は赤ちゃん時代の子育てはそんなにがんばってないんですけど、子どもの部活や活動にはすごくかかわった。それこそテニスが好きなんで、子どものテニス部の練習場所を確保したり、コーチから合宿を企画してほしいと言われたら企画したり、送り迎えももちろんしますし、親の会をつくって運営するとか、自分で言うのもなんですけどがんばったんです。  土日はすごく忙しかったですよ。子ども全員が今日試合とかね。主人とどっちが誰を送るか、迎えにいくか相談して。子どものテニスとサッカーの試合の大部分はビデオを撮ってますね。 ――へええ。お嬢さんは2人ともテニス?  そうです。息子はサッカーを結構がんばって県で招集されるぐらいにはなったんです。4歳から18歳までずっとサッカーをしていて、出張のとき以外ほとんどの試合を主人と一緒に観にいっていました。  私の父がそうだったんですよ。テニスで国体に出場するくらいのスポーツマンで、よく一緒にテニスやスキーに連れていってくれた。私のために練習場所を確保してくれたし、試合にはすべて来てくれたし。結局、親がしてくれたことを子どもにしただけです。 ――息子さんはどういう分野の研究をしたいんですか?  生命科学に興味があるって言っています。スポーツをやってきたから、どういう仕組みで細胞や筋肉が動いて結果的にパフォーマンスを上げられるのかとか、そういうのに興味があるらしい。 ――保育園のほうの後継ぎは?  それは誰も考えていないです。うちの主人は自分の代だけでいいってはっきり言っているし。旦那のほうの家系って、継ぐっていう発想がないんじゃないかな。 ――ご自身は今年副所長になって、このあともさらに重い役職が回ってきそうですね。 「副所長に」と所長から言われたときは驚いて、自分にはやれる気がしないし、そぐわないって思いましたけど、基本、仕事は断っちゃいけないんでね。まあ、自分が思ってもいなかった仕事もやらないと伸びないっていうか、成長しないっていうか。やるしかないですよね。  東北大学金属材料研究所の入り口に立つ梅津理恵さん 梅津理恵(うめつ・りえ)/1970年仙台市生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒、同大学院修士課程修了。2000年東北大学大学院工学研究科材料物性学専攻博士課程修了、工学博士。日本学術振興会特別研究員(ポスドク)などを経て2007年東北大学多元物質科学研究所助教、2010年東北大学金属材料研究所助教、2013年同特任准教授、2016年同准教授、2020年~同教授。2023年~同副所長。
知の先端を学べる充実した10研究科を擁する国士舘大学大学院。社会人も学びやすい環境を用意!
【PR】知の先端を学べる充実した10研究科を擁する国士舘大学大学院。社会人も学びやすい環境を用意! 国士舘大学 世田谷キャンパス  国士舘大学大学院は、1965年に政治学研究科と経済学研究科を開設以来、時代とともに高度な教育研究を推進してきた。現在では、10研究科を設置し、高度な理論探究と実践的研究との両面から真理を究明し、それぞれの分野におけるプロフェッショナルの養成を目指している。また、試験区分に社会人選考を各研究科で設けており、研究意欲の高い社会人を積極的に受け入れている。 *   *   *  国士舘大学大学院は10研究科15専攻を擁しており、学生一人ひとりの目的やライフスタイルに合わせて様々な研究に取り組むことができる。大学院に進学するきっかけや授業、今後の目標などについて在学生に話を聞いてみた。 研究を楽しむ!国士舘大学大学院生インタビュー(1)  救急救命士としての専門性を高めるために入学。 「救急隊と傷病者の性別による影響」について研究中。 救急システム研究科 救急救命システム専攻(1年コース) 1年(取材時) 樺沢 亮さん   ■医学知識や理論を学び、経験則を裏付けたかった  樺沢亮さんは、国士舘大学体育学部スポーツ医科学科を卒業後、埼玉県の消防に入職。救急救命士として救急業務に従事している。救急救命士は、急病人やけが人を医療機関に搬送するまでの間、救急救命処置を施す病院前救護を担う国家資格だ。傷病者の生命が危険な状態にあれば、医師の指示を受けながら輸液や気道確保といった特定行為を行うこともある。 「実務経験を積むなかで、まだ学びが足りていない自分に気づくことが多くなりました。例えば、医学知識が不足しているため、慣例的に行われてきた救急処置の経験則だけで本当に正しいのだろうかと疑問が生じます。また、救急救命士が行う特定行為は高度化しているため、理論面の知識を補いたいという思いがつのってきました」    そんな折、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生した。正しい知識や情報が少ない当初から、救急隊は感染の可能性がある傷病者への対応に苦慮していたことから、ますます学術的な知見の必要性を実感した。 「セミナーのインストラクターなどを務めた際に国士舘大学の先生方と接する機会が多く、卒業生全体にリモート抄読会へ参加のお誘いがあり、当たり前のように論文を読み、疑問があれば質問する光景に新鮮な驚きがありました。  国士舘大学は救急救命士養成のトップランナーであること、救急システム研究科には1年制の修士課程が設置され、社会人に門戸が開かれていることから、母校で指導を受けることを決めました。また、学び続けることができるか不安だったので、大学院の授業を科目等履修生として体験することにし、その上で自信をもって入学することにしました」   ■大学院で学んだことを職場に即した形で取り入れたい  救急隊の業務は救急搬送だけでなく、市民のための救急講習、イベント対応、病院実習や研修会などがあり、多忙を極める。それでも受講できているのは、リモートやオンデマンド形式の授業が多いからだ。これらの授業をうまく利用しながら、救急隊と傷病者の性別による影響をテーマに修士論文の作成に取り組んでいる。 「例えば、公衆浴場で女性の傷病者が発生した場合、男性の救急隊員は現場にすぐに立ち入ることができず、処置が遅れる場合があります。また、傷病者が女性の場合、AED(自動体外式除細動器)の胸部への装着や心臓マッサージの実施には配慮が必要です。わずか1秒の判断の遅れが救命率を左右するため、研究を通じて性別による問題解決の糸口を探りたいと思っています」    大学院で共に学ぶ学生の多くは、救急救命士の有資格者か救急医療に従事する社会人だ。そのため共通の体験や問題意識が参考になるほか、年齢や勤務地の違いによる多様な意見や考えに触れられることが、良い刺激になっていると話す。 「大学院では自分の経験が授業と結び付いているため、仕事を通じて生まれた疑問の解決策を主体的に考えることに充実感があります。学び得たものを職場に即した形で取り入れたり、後輩の指導に生かしたりすることで、結果として社会の一助になればと考えています」  病院前救急医療の高度化を、樺沢さんのような大学院での学びが支えている。   ■私が注目している講義科目や研究テーマ 「国際救急医療体制演習」  救急システムや救急救命士養成教育などについて、国際的な視点から比較・分析します。日本が救急救命士制度を創設する際にお手本にしたのがアメリカのパラメディック制度ですが、この授業にはアメリカでの実地研修の機会もあり、自らの目で相違点を理解できることは貴重な体験になると思っています。 「人体機能構造学特論」  解剖は医学の入口ですが、多くの医療従事者が苦手意識を持っています。学部時代は暗記するだけの解剖学でしたが、川岸先生の授業は考える解剖学です。全てになぜがあり、暗記ではなく、常に考えを持って意見を言う。現場に出ている人なら受けるべき授業です。   研究を楽しむ!国士舘大学大学院生インタビュー(2) 『文化財に関わる職業に就くために、歴史考古学を学修中。発掘された瓦の文様から、 当時のあり様を研究しています』 国士舘大学大学院 人文科学研究科 人文科学専攻 修士課程2年 (取材時) 宇髙 美友子さん ■下野国分寺創建期の瓦の生産地ごとの供給量の違いを研究  大学時代に考古学を一から学びはじめた宇髙さんは、卒業論文を執筆する中で、考古学の奥深さや面白さに気づき、大学院に進学することにした。 「将来、埋蔵文化財に関わる職業に就きたいと考えるようになり、そのために必要な専門性の高い知識を身につけたいという思いもありました」  大学時代に、学芸員資格を取得したほか、大学院で所定の科目を修得することでワンランクアップする考古調査士資格に必要な科目も修得し、埋蔵文化財に関わる職業に就くための下準備を整えた。 「人文科学専攻に入学したのは、考古学を専門に学べる考古・歴史学コースがあり、私が研究対象にしている『古代』『寺院』『瓦』などを専門にする教授から質の高い指導を受けることができ、研究内容を高められると考えたからです。また、フィールドワークが多く、現地に行き、現物に触れる機会が多いことも国士舘大学大学院を選んだ理由です」 「古瓦の考古学」の著者の一人でもある眞保昌弘教授から、現在、研究指導を受けている。 「歴史考古学という、文字が使われた時代について、遺跡・遺構の調査によって歴史的事実の裏付けを行ったり、住居など建築物の出土品から日常生活の在り様を考究したりする考古学について学んでいます。  私は下野(現在の栃木県)に建立された下野国分寺の創建期に葺かれた瓦について研究しています。  瓦は、文様や胎土、製作技法などの違いから、生産場所を特定することができ、下野国分寺創建期の瓦は、下野国内のいくつかの郡の窯跡で生産されて供給していたことが明らかになっています。私が注目しているのは、近年の発掘調査により明らかになった、郡ごとの供給量の違いについてです」   ■大学院修了後も文化財研究を続けていきたい  大学院での授業は、いずれも少人数によるゼミ形式が多く、幅広い知識を吸収するのに役立っている。宇髙さんの研究力を高めるのに役立っている科目の一つに、「考古学演習Ⅰ・Ⅱ」がある。 「先生が講演会で発表した内容について講義を受けた上で討論したり、各自が取り組んでいる研究の進み具合や成果、課題などを発表し、先生から指導を受けたり、学生間で意見を交わしたりする授業です。講義では考古学の学術的な話だけでなく、文化財行政の仕事をされていた時の経験などを聞くこともでき、とても参考になります」  現在、文化財に関わる職業に就くために、納得のいく修士論文を書き上げることを目標にしている。 「修了後も研究を続け、文化財の保護と活用に貢献できる力を常に高めていきたいと思っています」   ※宇髙美友子さんは、2023年3月修了後、正規採用として学芸員の職に就いている。   --------------------------------------------------------------    国士舘大学大学院では、実務経験豊かな教員を配置し、大学院教育の充実強化を図っている。2023年4月からは、経済学研究科で新カリキュラムがスタート。そこで、新しいカリキュラムについて研究科長に話を聞いてみた。 経済学研究科・研究科長インタビュー ~新カリキュラムがスタート!~ 『社会に貢献できる経済分野の研究者と高度専門職業人の養成を目指し、多様な選択肢を提供しています』 国士舘大学大学院 経済学研究科 許 海珠 研究科長・教授 ■経済学の「奥深さ」を理論、歴史、政策から探究  国士舘大学大学院経済学研究科では、経済学という学問の「奥深さ」について理解を深められるように、経済学の基本となる理論、歴史、政策分野から、実社会経済の激しい変化に対応できる専門研究領域をカバーする応用経済学や租税法・会計学関連の分野まで、幅広い研究領域に科目を配置し、基礎から応用まで体系的に学修することができます。   ■領域横断的な研究意欲にも応える、新しいカリキュラムがスタート  2023年4月から、将来の進路やキャリアに繋がる研究・学修ができ、多様な選択肢を提供する新カリキュラムが修士課程でスタートしました。 『セメスター制』の導入により、科目履修期間が半期になることで、自分に合った科目の選択と学修がしやすくなります。併せて、1年次は5つの研究領域から自由に科目を選択し、2年次に自分に合ったコースの選択ができる『コース制』を取り入れています。  5つの研究領域に配置している科目数は45科目にわたることから、自らの関心や将来目的に合せて各領域を深く研究することも、領域横断的な研究を進めることも可能です。現代社会のITが生み出した課題の解決策を文理融合の多面的視点で議論する「情報産業論研究」「情報社会・情報倫理研究」をはじめ、「環境経済論研究」といった社会ニーズに応じた新しい学びも提供しています。  コースには、研究者を目指す『研究コース』、専門スキルが求められる職業に就くための『特定課題研究コース』、税理士国家試験の試験科目一部免除認定申請が可能な『租税法・会計コース』を設置。本研究科は、これまでに試験科目免除認定を受けた修了生を多く輩出してきたように、指導にあたる教員陣が充実しているのも特色です。   ■社会人が学びやすい環境を整備  社会人が学びやすいように、入学試験に社会人選考を設けているほか、いずれのコースでも、平日夜間と土曜日に科目を開講しています。  授業は目的に応じて、コンピュータ教室やプレゼンテーションに適した教室を使用するなど、多様に展開しています。   経済学研究科の詳細は、こちらから> 国士舘大学 中央図書館(世田谷キャンパス) 国士舘大学大学院 10研究科の概要 ○政治学研究科 政治学専攻[修士、博士] 政治学研究科は、専門的な研究者や教育者の養成を目指し、政治の主要分野をはじめ、政治行政やアジアを取り巻く政治・文化をテーマにした問題にも取り組んでいる。また、高度な専門的知識を身につける社会人のリカレント教育の場として活況を呈するとともに、教職免許の専修免許も取得が可能。【昼間・夜間/土曜日開講】   ○経済学研究科 経済学専攻[修士、博士] 経済学研究科は、2023年度から新しいカリキュラムがスタート。修士課程では「セメスター制」と「コース制(研究コース、特定課題研究コース、租税法・会計コース)」が導入され、博士課程では研究領域・分野別に科目が配置されている。学位取得に向けた研究・学修を積極的にサポートし、社会人、留学生も積極的に受け入れている。【昼間・夜間/土曜日開講】   ○経営学研究科 経営学専攻[修士、博士] 経営学研究科は、経営・会計の高度職業人および研究者の養成を目指している。「修士論文研究コース」と「特定課題研究コース」を設け、最新の経営理論・研究成果・ケーススタディを学ぶ授業を通じて、実社会で活躍する社会人のリフレッシュ教育を行っている。経営のグローバル化に対応する教育・研究も行っている。【昼間・夜間/土曜日開講】   ○法学研究科 法学専攻[修士、博士] 法学研究科の修士課程では、「基幹法コース」「税法・ビジネス法コース」「スポーツ法コース」の3コース制を導入。社会の要請に応えて、より高度の法理論および実務理論の教授・研究を通して、高度な専門職業人の養成に取り組んでいる。社会人も積極的に受け入れ、法理論に裏付けられた事務処理能力を身につけられるように指導している。【昼間・夜間/土曜日開講】   ○総合知的財産法学研究科 総合知的財産法学専攻[修士] 法律の基礎である憲法、行政法、民法、民事訴訟法などを修得した上で、経営学や工学などを包括的に学ぶことで、知的財産法の専門家を育成している。内外で知的財産の実務に携わる専門家を教授陣に迎え、理論と実践の融合を図る指導を行っている。特許事務所における実務研修「エクスターンシップ」も取り入れている。【昼間・夜間/土曜日開講】   ○工学研究科 機械工学専攻/電気工学専攻/建設工学専攻[修士]、応用システム工学専攻[博士] 工学研究科は、応用学力を身につけ、優れた応用開発能力を有し、創造性豊かでユニークな技術者、研究者の養成を目的としている。修士課程では、機械工学専攻、電気工学専攻、建設工学専攻を設置し、各専攻に2~5コースを設けている【昼間・夜間/土曜日開講】。また博士課程は、修士3専攻を統合する形で応用システム工学専攻のみを設けている。【昼間/土曜日開講】   ○人文科学研究科 人文科学専攻/教育学専攻[修士、博士] 人文科学研究科は人文科学の諸分野研究を究められるように、修士課程および博士課程から構成されている。修士課程では研究能力開発と共に時代の要請に応える高度な知見を身につけた職業人の養成を目指し、博士課程では特に研究者養成に力を入れている。【昼間・夜間/土曜日開講】   ○スポーツ・システム研究科 スポーツ・システム専攻[修士、博士] スポーツ教育コースとスポーツ科学コースを設置し、競技スポーツから生涯スポーツまで、多種多様なスポーツ事象を研究対象とし、院生の興味や関心に応じた研究活動ができる環境が整う。世界各国・地域が抱えるスポーツの諸問題をシステム的にとらえ、それを解決できる高度職業人や研究者の育成を目指している。【昼間・夜間/土曜日開講】   ○救急救命システム研究科 救急救命システム専攻[修士、博士]、救急救命システム専攻(1年制コース)[修士] 医師や看護師、救急救命士といった病院前救急医療に携わる国家資格有資格者に対する高度な教育と研究を行う。日本のみならず、世界各国・地域が抱える病院前救急医療に関する諸問題をシステム的にとらえ、それを解決できる専門能力と豊かな学識を有する高度専門職業人の育成を目指している。【昼間・夜間/土曜日開講】   ○グローバルアジア研究科 グローバルアジア専攻[修士]、グローバルアジア研究専攻[博士] グローバルアジア研究科では、グローバル化が進むアジアを研究対象とするため、経済学、経営学、歴史学、国際関係論、言語教育、文化研究、先史学、考古学、保存科学、文化政策論といったさまざまな学問領域が連携・融合する、総合的かつ先端的な研究に取り組むことができる。【修士:昼間・夜間/土曜日開講、博士:昼間開講】   各研究科の詳細は、こちらから> 2024年度入試情報は、こちらから> 願書・資料請求は、こちらから >   【お問い合わせ】 国士舘大学 教務部 大学院課 住所/〒154-8515 東京都世田谷区世田谷4-28-1 TEL/03-5481-3140 提供:国士舘大学大学院 
あなたの運動不足度は? チェックテストと1日30秒で運動不足を解消する方法を紹介
あなたの運動不足度は? チェックテストと1日30秒で運動不足を解消する方法を紹介 (写真はイメージ/GettyImages) 「体を動かしていないな…」と自覚していても、自分がどのぐらい運動不足なのか?はわかりづらいもの。以下のチェックテストを試して、運動不足によるあなたの足腰の衰えや不調をセルフチェックしてみよう。フィットネストレーナーとしても活躍する整形外科専門医の吉原潔さんの著書『ドクターズスクワット 医者が考案した「30秒で運動不足を解消する方法」』(株式会社アスコム刊)より、「運動必要度チェックテスト」を一部引用・再編集して紹介する。 *  *  * 運動必要度チェックリスト 【筋力をチェック】 片足で5秒間立っていられない 何もないところでつまずいたり、滑ったりしたことがある 若いころより歩くスピードが遅くなった 若いころより歩幅が小さくなってきた 15分続けて歩けない 【体の不調をチェック】 肩こりや腰痛、ひざ痛のいずれかで悩んでいる 階段の上り下りをすると、ひざや足首の関節が痛む 夏でも手や足の冷えを感じることが多い 太りぎみ 横から見たときにお腹がポッコリ出ている 【食生活をチェック】 若いころに比べて、肉や魚などの動物性食品を食べなくなった 牛乳や乳製品、大豆製品が苦手 脂っこいものが大好き ごはんやパン類、麺類をよく食べたり、おかわりをしたりする 甘い物や甘い飲み物が好き 【生活習慣をチェック】 1日の睡眠時間が7時間以下の日が多い 睡眠中に何度も目が覚める 定期的に運動をしていない 生活時間が不規則で、特に起床時間がバラバラ ストレスがたまっていると感じる 11個以上 運動必要度 ★★★★★  原因不明の体調不良に見舞われることがあったり、日常生活に支障が出るような肩こりや腰痛、ひざ痛に悩まされることが多くなったりしているかもしれません。  医師が考案した1日30秒で運動不足を解消できる方法『ドクターズスクワット』を定期的に行うことに加え、【食生活】と【生活習慣】のチェックで当てはまった項目の改善にも努めましょう。 4~10個 運動必要度★★★  病院に行ったり、日常生活に支障をきたしたりするほどではないものの、なんとなく体調が悪いといった日が以前よりも増えてはいませんか?   特に【筋力】や【体の不調】チェックが1つでも当てはまった方は、今すぐドクターズスクワットをしましょう。  何も対策を講じることなく過ごしてしまうと、運動に必要な体の機能がうまく働かないロコモティブシンドロームや、全身の筋肉が減少するサルコペニアになる危険性が高まります。  また、生活習慣病に罹患するリスクが高まる可能性もあります。 3個以下 運動必要度 ★★  現状では、健康状態に問題はないと感じているかもしれません。  しかし、【筋力】や【体の不調】チェックで当てはまった項目があるなら、ドクターズスクワットを行えば、健康状態をさらにアップさせることができます。  理想は症状が出てからより、出る前に行うこと。今すぐ開始すれば、さまざまな不調を未然に防ぐことができますよ。 筋肉が減っていないか?チェックテスト  前出の【筋力をチェック】は、「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と、「サルコペニア」に関するものです。  ロコモは、骨、筋肉、関節、神経などの運動器の機能が低下して、歩くなどの移動能力が低下した状態です。  サルコペニアは、筋肉が減って筋力が衰えた状態で、いずれも進行すると日常生活に大きな支障が出て、心身の健康がむしばまれます。 「指輪っかテスト」で、筋肉の衰えをセルフチェックしてみましょう。 【指輪っかテスト】 (イラスト/藤井晶子)  両手の親指と人差し指で輪をつくります。利き足ではないほうのふくらはぎの番太い部分を軽く囲みましょう。 ※力を入れないで囲みます。 ※右利きなら、左足のふくらはぎを囲みます。 ●囲めない⇒サルコペニアの可能性は(低) (イラスト/藤井晶子) ●指先がくっつく⇒サルコペニアの可能性は(中) (イラスト/藤井晶子) ●隙間ができる⇒サルコペニアの可能性は(高) (イラスト/藤井晶子)  囲んで隙間ができるなら、若くても筋力が衰えている可能性大です。ただし、肥満ぎみの方は囲えないこともあるので、目安の一つにしてください。 1日30秒で運動不足が解消『ドクターズスクワット』のやり方  チェックテストで自分の運動不足度がわかったら、ぜひ『ドクターズスクワット』で運動不足を解消しましょう。  ドクターズスクワットは「(1)しゃがむ」「(2)立つ」の2つのポーズを30秒間くり返すだけの簡単な運動方法です。 【ドクターズスクワットのやり方】 「ポーズ(1)しゃがむ」から始めます。 「(1)しゃがむ」⇔「(2)立つ」30秒間くり返します。 ポイントは回数より時間です。30秒以上やりません。 1回30秒を守れば、1日に何回やってもOKです。 (イラスト/藤井晶子) (イラスト/藤井晶子) 吉原潔医師が考案した『ドクターズスクワット』とは? 『ドクターズスクワット』とは、フィットネストレーナーとして活躍する整形外科医・吉原潔さんが考案した運動方法。  50歳を過ぎてから筋トレでメタボ体形を脱却し、ボディコンテストでグランプリを受賞した経験から生まれたスクワットです。 『ドクターズスクワット』は、医学と運動療法の知見から生まれた、1日30秒で運動不足の解消が期待できる運動方法です。 【BEFORE】メタボ体形だった吉原先生→3カ月後→5カ月後→1年後 【AFTER】コンテストでグランプリ!        
抗老化作用をもつ身近な「2つの食品」東大特任教授が教える“健康寿命”をのばす食べ物とは?
抗老化作用をもつ身近な「2つの食品」東大特任教授が教える“健康寿命”をのばす食べ物とは? ※写真はイメージ(gettyimages)   ふだんの食事をほんの少し工夫するだけで、老化を防ぐことができる?間違った情報にまどわされず、今日の食事を自分で選びとるには――。食品生化学の第一人者が、最新データと科学的エビデンスをもとに、健康に長生きするための食事をわかりやすく解説。本稿は、佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。 年齢の重ね方は一緒でも老化のペースはそれぞれ違う  最近、個人の老化ペースを評価した興味深い論文が発表されました。これは、ニュージーランド南島のダニーデン市で1972~73年に生まれた1037人の市民を、26歳から45歳までの20年間にわたって追跡した研究です。  この研究ではHbA1c値(血糖値評価指標)、心肺機能、腎機能、免疫機能など19種類の測定データから老化ペースを算出しています。その結果、一年経過すると2.44歳老化が進んだ人がいる一方で0.4歳しか老化が進まない人もいることがわかりました。また、老化速度の速い人は見た目も実年齢より老けて見え、不健康に見えるということも示されています。  たとえば小学校の同窓会に出席すると、同級生なのか先生なのか区別がつかない人がいて、老化速度が一様ではないことを感じたりします。  近年、老化についての研究は大きく進展しており、そこから新たな概念が次々と提示されています。たとえば加齢に伴い腎臓機能が低下したという場合、それは腎臓を構成する細胞が一様に老化するわけではなく、まず数個の細胞で老化が始まり、さらに周辺に老化細胞が増えていった結果であると考えられています。  生命活動に伴い、体内では活性酸素種(ROS)が産生され、細胞を傷つけます。また紫外線、化学物質などによりDNAが損傷を受けることもあります。これらの機会は年を経るにつれて積み重なっていきますので、老化細胞数は加齢とともに増えることになります。  老化細胞は活性が低下し、消滅していけばよいのですが、細胞老化関連分泌形質(SASP)と呼ばれるサイトカイン、ケモカインなどを分泌して周りの細胞に慢性炎症を引き起こし、この刺激が周辺細胞の老化を促すと考えられています。またSASPは分泌する細胞自身にも働きかけ、老化をより進行させる役割も果たします。つまりSASP分泌を介して、老化細胞が周りの正常細胞の老化を促しているということです。 老化細胞を除去することで老化の進行が抑制される  この新しい概念を支持する知見として、次のような実験結果があります。まず、ある種の細胞に放射線を照射してDNAを傷つけ、老化様細胞を人工的につくりだします。これをマウス体内に注入し、一方でコントロールマウスには放射線を照射していない正常細胞を注入します。  1カ月後、その後の変化を観察すると、老化細胞注入マウスでは歩行速度の鈍化、持久力、筋力の低下が有意に認められ、老化が進行していることがわかります。また、さらに一定期間追跡すると寿命の短縮が観察されます。  つまり組織全体の老化の火付け役となるのは散在する少数の老化細胞で、これにより老化は促進されます。さらに同様の試験で老化細胞注入マウスに高脂肪食を長期間与えると、老化速度はさらに早まり、高カロリー食は老化を早めると言えます。  また、これらの老化細胞を駆逐すれば老化の進行を遅らせることができると予想されます。老化細胞を除去することをセノリシス(senolysis)と呼び、最近の研究で、これにより老化の進行が抑制されることが明らかにされつつあります。  すべての細胞は、細胞内の種々の成分を分解するリソソームという細胞内小器官を持ちます。細胞は自身の活動・増殖のためにタンパク質・脂質を合成しますが、それと同時に不要となった成分をリソソームで消化・分解します。リソソームはいわば、分解工場として機能しています。  細胞内では通常、pHが中性付近に維持されるのに対してリソソーム内ではpHが低く、酸性になっています。リソソームには多数の分解酵素が含まれ、その大半はpHが低い環境下で分解活性が発揮されるようになっています。これは何かの拍子にリソソームから分解酵素が細胞質に漏れ出て、中性pH付近で細胞内の必要な成分を勝手に分解してしまうことを防ぐためと考えられています。  ところが細胞が老化することに伴いリソソーム膜は脆弱となり、リソソームの内容物が漏れ出て細胞質のpHが弱酸性化していきます。老化細胞内が酸性化しても大丈夫かというと、そうではありません。老化が進むにつれてリソソームからの漏出が亢進すると不必要な細胞内分解が進み、やがて老化細胞自身が死に至ります。  老化細胞は自身を保護するため、pHが下がりすぎないよう工夫をします。細胞内にはアミノ酸のグルタミンをグルタミン酸に変換させるグルタミナーゼという酵素が存在し、アンモニアを発生させます。  アンモニアはpHを上昇させるため、老化細胞内が強酸性に傾かないように働きます。こうして老化細胞は自身の生存のため、グルタミナーゼ発現を上昇させています。実際、幼若マウスと老齢マウスの組織の細胞内グルタミナーゼ発現量を比較すると、老齢マウスで高いことが知られています。  これらの知見により、グルタミナーゼ活性の阻害剤を用いると老化細胞ではpHが低下し続けて細胞死が引き起こされ、セノリシスが実現します。また正常細胞ではグルタミナーゼ活性を阻害しても重篤な影響は出ないと考えられており、グルタミナーゼ阻害剤を加齢マウスに投与すると肥満性糖尿病、動脈硬化症、および非アルコール性脂肪肝の症状改善に有効であることがわかりました。  このようにセノリシスを引き起こす成分をセノリティクスと呼び、老化細胞を除去して抗老化を引き起こすことが期待されています。 玉ねぎ、イチゴ……抗老化作用をもつ食品とは?  細胞増殖を抑制する因子として知られているp16、p21は老化細胞で発現が上昇し、これらの発現を抑制する化合物はセノリティクスとしての機能を発揮することが予想されます。また老化細胞によって分泌され、周辺細胞の老化を促す種々のSASPの発現・分泌を抑える化合物もセノリティクスの候補化合物と考えられています。  こうして見出されたのがダサチニブという薬物と玉ねぎなどに含まれるケルセチン(フラボノイド類)を混ぜた合剤、あるいはイチゴなどに含まれるフィセチン(フラボノイド類)です。これらはいずれも食品由来のフラボノイド類を含んでいるうえに、経口的に投与することで効果を発揮します。  特にケルセチンは玉ねぎなどに含まれ、日常的な食生活で摂取量の多い食品成分です。またフィセチンについては、新型コロナウイルスに感染させた加齢マウスにフィセチンを投与したところ、高い確率で死亡を抑制するという研究結果が示されました。セノリシスにより炎症反応が低下し、感染により産生された抗体がウイルス駆除能力を高め、結果的に死亡率を下げたということです。  ケルセチンとフィセチンはいずれも、細胞内で種々のタンパク質をリン酸化する複数のリン酸化酵素の活性を抑制することにより、このような機能を発揮すると理解されています。また、老化細胞を体内に注入した老化促進マウスにケルセチンを含む合剤を投与すると歩行速度、筋力が有意に改善されました。同様に20カ月齢のマウス(マウスの寿命は2年余程度ですので高齢マウスです)に4週間、ケルセチンを含む合剤を経口投与したところ歩行速度の上昇、筋力の増加が認められました。  この合剤の投与により寿命の延長も確認されています。歩行速度の上昇、筋力の増加は骨格筋機能維持による自立活動時期の延長、つまり健康寿命延伸に結びつくものです。以上の知見は食品成分の機能が侮れないものであることを示す興味深い研究成果です。  こういった最新の研究成果を紹介するとすぐにでも健康寿命が延び、100年人生をまっとうできそうな気になりますが、ことはそう簡単ではありません。私たちの体内で生じる老化細胞は必ずしも、加齢でのみ産生されるものではありません。  私たちが組織的な傷害を負ったとき、時間経過とともに治癒・快復しますが、このときにも障害部位付近では老化細胞が出現し、治癒の手助けをします。障害からの快復には老化細胞の出現が必要であり、老化細胞の出現を一様に抑えることについてはさらに精査が必要でしょう。つまりセノリティクスが諸刃の剣とならないよう、その効果が健康維持・増進へと向かうためのプロトコールを樹立する必要があります。  複数のフラボノイド類が抗老化による健康寿命の延伸に役立つということは、食の力を賢明に利用し、健康維持を図ることの重要性を示唆しています。時間経過とともに徐々に進行する老化は正常な生命現象であり、病気のように薬で治すものではなく、日常的な食生活の中で食品成分を賢く活用して、その進行を遅らせることは有効であると言えます。
"きっとあなたは目を疑う..." デタラメ社会の嘘を見抜くヒントを記した1冊
"きっとあなたは目を疑う..." デタラメ社会の嘘を見抜くヒントを記した1冊 『デタラメ データ社会の嘘を見抜く』カール・T・バーグストローム,ジェヴィン・D・ウエスト,小川 敏子 日本経済新聞出版  世の中には多くの情報が溢れており、私たちはその情報を取捨選択しながら生活している。しかし目の前の情報が真実かデタラメかをどのように判断しているかというと、明確な線引きができている人は少ないのかもしれない。 今回ご紹介する『デタラメ データ社会の嘘を見抜く』(日本経済新聞出版)には、世の中にはどれほど多くのデタラメが転がっているのかを知り、どうやってそれを見破るのかを知る手がかりが記されている。著者は進化生物学者でワシントン大学生物学部教授のカール・T・バーグストロームと、同じくワシントン大学情報学大学院准教授のジェヴィン・D・ウエスト。「デタラメは人を感心させたり納得させたりすることを目的とし、中身が本当かどうかは考慮されない」(同書より) 著者はデタラメの概念について、哲学者ハリー・フランクファートの論文の冒頭を引用してこのように要約している。 まさにわかりやすい例として、インターネット記事の見出しに関する話題だ。2017年に発表された記事1億本を調べた起業家が、広くシェアされた記事の見出しに共通するフレーズを突き止めた。 最も効果的な見出しは事実を一切含んでおらず、感情が揺さぶられると予告していたというのだ。見出しだけ読んで思わずクリックしてみたものの、あまりにも見出しとかけ離れた内容に愕然とした経験のある人もいるのではないだろうか。「フェイスブックで人気の投稿に共通していたのは、第2位に約2倍の差をつけて、『きっとあなたは......』という表現で、その後は『胸を締めつけられる』、『夢中になる』、『目を疑う』、『驚愕する』などの言葉が続く。現実に起きていることそのものよりも、自分たちの反応の方が興味をひく」(同書より) 著者は事実ではない情報は人々の判断を狂わせると言葉にしており、そんな世界に歯止めをかけたいと語る。「デタラメを暴くのに必要なエネルギーは、デタラメをつくり出すエネルギーに比して桁違いに大きい」(同書より) これはイタリアのソフトウェア・エンジニア、アルベルト・ブランドリーニの「ブランドリーニの法則」だ。デタラメをひねりだし一気に広めるのは簡単でも、それを回収するのは並大抵の苦労ではないという。陰謀論を説く投稿はそれ以外の話題に比べると広く拡散することがわかっており、デタラメ退治はデタラメをばら撒くよりも難しいそうだ。 著者が2人とも科学を専門としていることから、同書では科学と医学の研究の例が多く取り上げられている。なかでも興味を引いたのは、定量的な議論が根拠となる科学の分野にもデタラメが存在することだった。「科学の領域ではあらゆる主張に対し、事実、モデル、エビデンスをつきつけて異議を訴え、覆すことができる。こうした自己修正の仕組みが、科学がうまく機能する理由の1つと言える。こんなふうに懐疑的な態度が徹底しているのならデタラメの出番などなさそうだが、必ずしもそうではない。科学にはデタラメが絶えない。たまたま、という場合もあれば意図的なものもある」(同書より) 例えば12種類の抗うつ剤の効果を査定する目的でおこなわれた臨床試験がある。その臨床試験では51%で「薬効あり」だったものが、学術誌掲載の論文では94%で「薬効あり」とされた。なぜこんなことになるのだろうか。肯定的な結果のほぼすべては掲載され、疑わしい結果と否定的な結果は半分も掲載されなかったことが理由の1つだという。そして疑わしい結果あるいは否定的な結果だったものまで、肯定的な結果として掲載されていた。「測定値が目標になると、測定そのものに意味がなくなる」 これは同書でもたびたび出てくる「グッドハートの法則」だ(上記の言葉は、人類学者マリリン・ストラザーンの定義)。驚くべきことに科学の学術誌の分野では、かなりこの考え方が当てはまるようになっている。 論文の掲載数が科学者の評価に結びつくようになり、信頼できない論文だらけの学術誌の市場が生まれた。測定する数値が自分の利益に結びつくなら、数値をよくする方法を編み出そうとするというのだ。 しかしながら多くの問題点の指摘が、科学の価値を貶めようとするものではないと著者ははっきりと述べている。あくまでも情報を鵜呑みにすることなく、何が真実で嘘なのかを見分けるのに同書を役立ててほしいという著者の思いを受けとめたい。 また同書では最後に、具体的なデタラメを見破るポイントと、その上でデタラメを指摘する必要性にまで触れられている。指摘すべきデタラメが減れば間違いなくいい世の中になるという。科学や医学に馴染みがない人にもわかりやすく説明されているので、興味深く読み進められるだろう。同書を読めば目の前の情報に翻弄されることなく、デタラメを見破る技を身につける新たなヒントが見つかるかもしれない。
子どもが18歳になると働けない? 卒業後の居場所が見つからない「18歳の壁」に直面中
子どもが18歳になると働けない? 卒業後の居場所が見つからない「18歳の壁」に直面中 生活すべてにおいて介助が必要な長女。体も大きくなり、ケアを手伝ってもらっていた両親も年を取ってケアが難しくなってきたなかで、卒業後の居場所がなくなる「18歳の壁」問題にぶち当たっています(写真/加藤夏子撮影)   「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。 * * *  12月5日に「第48回永田町子ども未来会議」が行われ、今回はオブザーバーとして出席させていただきました。この会議は、医療的ケア児の支援を政府と民間の有識者で検討する勉強会です。  私も11月にあった前回の永田町子ども未来会議で発言の機会をいただきましたが(11月15日配信のコラムで紹介しています)、この会議は全国医療的ケア児者支援協議会が主催し、超党派の国会議員や、こども家庭庁や厚生労働省、文部科学省など関連省庁の官僚や、医療や福祉事業の関係者などが集まり、医療的ケア児に関する施策や制度を検討する場です。  今回は、関連省庁から補正予算に関する議題や、専門医から胃ろうの注入物品(経腸コネクタ)についての話題提供などとても深い内容の会議でした。その中で私の最大のトピックスは、今後の検討課題として「18歳の壁」という言葉が出てきたことでした。 共働き世帯が増えるなかで 「18歳の壁」とは、障害のある子どもが小児領域から成人領域へ移行する年齢(18歳)に、利用している制度やサービスの根拠法が変わるため、生活に支障が出ることを指します。   たとえば、児童福祉法の放課後等デイサービスは18歳以下しか利用できないため、高校や特別支援学校高等部卒業後には、障害者総合支援法に基づいて、新たな事業所との契約が必要になります。  ただ、18歳以降、常時介護を必要とする障害者が日中過ごす「生活介護事業所」の受け入れはとても少なく、学校を卒業後の日中の居場所や送迎サービス事業者を見つけられないと保護者の就労の機会が奪われることもあります。医療の進歩や共働き世帯の増加にともなって日中の生活介護のニーズが増える中、18歳の壁問題はとても深刻な状況となっているのです。 1日3時間しか働けない  医療的ケアの必要な我が家の17歳の長女も、現在、まさにこの壁にぶつかっています。現在、長女は、平日は朝7時30分に家を出て、7時45分頃に特別支援学校のスクールバスに乗って登校し、下校後には放課後等デイサービスを利用して午後5時頃にデイの送迎車に乗って自宅へ帰ってきます。私は非常勤で県の教育委員会の仕事をしているため、スクールバスによる送迎や放課後等デイサービスのおかげで、午前9時から午後4時45分までの勤務に対応できますが、卒業後の長女の受け入れ先はまだ決まっていません。いろいろと問い合わせていますが、受け入れ可能な事業所も送迎の空きはなく、通所は大半が午前10時頃から午後3時頃までになるため、片道30分の送迎時間を入れると、1日3時間程度しか時間をつくることができなくなります。  また、在宅介護の精神的・身体的負担軽減のために利用している短期入院の「レスパイト」先の大学病院も小児科の管轄のため、18歳以降の利用ができません。長女は夜間に人工呼吸器が必要なためさらに受け入れ先は減ってしまい、現状では自宅から車で2時間近くかかる国立病院が最も近い場所となりそうです。もともとの短期入院の受け入れ数が小児科よりずっと少ないため、どのくらいの頻度で利用できるのかも不透明であり、長女の卒業後の新生活の組み立てを考えると不安になることもあります。 両親も高齢になり頼れない  双子の次女も高1の長男も卒業後の進路が少しずつ定まり、「自立」という言葉が見え始めていますが、長女は赤ちゃんの頃からほぼ変わらず、生活すべてにおいて介助が必要です。ひとりで留守番をすることもできません。  子どもが大きくなれば当然両親も年を重ね、さらに長年育児に協力してくれていた祖父母も頼ることが難しい年齢になります。私の両親もほんの数年前までは私と同じように長女のケアを何でもしてくれていましたが、最近では車の運転や長女を抱っこすることや入浴介助など、さまざまなことが難しくなってきました。  我が家は夫がほぼ無休で働き、不在がちのため、サービスに頼らなければ生活が成り立ちません。それでもすぐに生活介護の事業所が増えるわけでもなく、本当にどうすれば良いのか……と、ソーシャルワーカーとして相談支援をしている立場でありながらも、自分の家庭のことで大きな壁にぶつかっています。今後、この18歳の壁問題をどう整えていくことができるのかも、この連載で書いていきたいと思っています。  ※AERAオンライン限定記事
同級生3人のLINEで送られてくる家族自慢写真が辛いと明かす未婚・子なし60歳女性に、まず鴻上尚史が分析した友人の本心とは?
同級生3人のLINEで送られてくる家族自慢写真が辛いと明かす未婚・子なし60歳女性に、まず鴻上尚史が分析した友人の本心とは? 鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)  同級生3人のグループLINEで、大量の写真とともに家族自慢をしてくるメッセージへの返信が辛いと明かす60歳女性。けれど距離を置いたらひとりぼっちになると苦悩する相談者に、鴻上尚史がまず分析した、その同級生の本心とは? 【相談205】同級生3人組のラインが辛いですが、やめたらひとりぼっちで寂しいです(60歳 女性 赤福)  大学時代からの仲良し3人で10年前からグループラインをやっています。私は未婚、子無し、契約社員で年金も心配なアラ還女性です。  他の2人は配偶者もおり、子育ても終わり、悠々自適な暮らしのようです。  活発で結構きつい性格の友人Aが毎週のように「◯◯へ行ってきた」「景色最高!」「旦那が夕飯作ってくれた」「子供からプレゼント」等と盛り沢山の写真をグループラインに送って来るのですが、そのたび「いい景色だね!」「よかったね!」などとコメントを考え送るのが正直辛い。自分は家族もなく、お金もなく、病気がちで休みは家にいるから。  また、職が長く続かない私のことをAが『見下している』ともう一人の友人Bから聞いたこともあります。  現に本人Aと2人きりの時に面と向かって「『負け犬の遠吠え』って本知ってる?」と半笑いで訊かれ、「子無し独身のあなたは負け犬」と揶揄されたこともありました。  物言いのきついAだけならまだしも、もう1人のBがこんなことを告げ口するなんて……とその時はかなり落ち込みました。  こんな2人と繋がっていて意味があるのだろうか?と寂しくなることがあります。  でも私は人付き合いが苦手で、誘ってくれるのはこの2人だけ。元気?とラインくれるのはこの2人だけ。距離を置こうと思った事もありますが、そうなると本当にひとりぼっちで寂しい。  どうやったら経済格下の自分が平穏な気持ちで友人関係を続けられるか、アドバイスをお願いします。 【鴻上さんの答え】  赤福さん。大変ですね。文面から、赤福さんのひりひりとした気持ちが伝わってきます。 「どうやったら経済格下の自分が平穏な気持ちで友人関係を続けられるか」ということですね。  人間関係に悩んだ時、僕はいつも「どっちが苦しいか?」を常に考えます。  赤福さんの場合だったら、友人関係を続けた場合の苦しさと、友人関係を切った場合の苦しさですね。   【こちらも話題】 「友人に絶交されました…」 鴻上尚史が指摘する原因“無意識の優越感”とは https://dot.asahi.com/articles/-/101223 本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)  友人Aからいろんなラインを送られてきて、そのたびに辛い気持ちのまま返信を書いたり、3人で会った時も友人Aは私を「負け犬」と思っているんだなあ、それを友人Bが私に言ったんだなあと感じる時の苦しさの総量。  一方、すっぱりと関係を切ることで、2人からのラインが来なくなり、誘いもなくなる苦しさの総量。 「距離を置こうと思った事もありますが、そうなると本当にひとりぼっちで寂しい」と書かれていますから、赤福さんは、関係を切る方の苦しさの総量が多いと結論したのでしょうね。  その結論は、赤福さんが選んだことですから尊重したいのですが、そうなると、申し訳ないのですが、赤福さんが「平穏な気持ちで友人関係を続けられる」アイデアが、僕には考えられないのです。  3人だけのグループラインに毎週のように盛りだくさんの写真を送ってくる友人Aは、とても自慢したいんだと思います。それは、どんな気持ちなんでしょう。本当の友達なら、「赤福さんは、こういう写真をラインには上げない。私だけたくさん上げたら、嫌な気持ちになるんじゃないかなあ」と思うと、僕は考えます。  そんな気遣いよりも友人Aには、写真を上げたい理由があるんじゃないでしょうか。「本当に楽しかった」ことより「自慢したい」という気持ちが強いんじゃないかと思うのです。他人に「自慢したい」ということは、「今の自分を大きく見せたい」ということではないかと僕は考えます。それは、つまり、「今の自分は大きくない」ということを分かっているか、内心、怯えているからじゃないかと思っているのです。  実際、僕が会ってきた本当に素敵な人は、むやみに自慢しません。人から言われることがあっても、自分から自慢を口にしません。満足しているから、その必要がないからです。不安な人や自信がない人、中途半端な人が自慢を続けます。そうして自分を必死で維持します。そのためには、自慢できる他人が絶対に必要なのです。  赤福さん。ですから、友人Aは、僕からすると、自分に自信がなかったり、生活に不安があったりする人なんじゃないかと勝手に思ってます。  そういう人は、自慢を続けます。やめると、自分が自分でなくなるような気がしてしまうからです。  ですから、赤福さん。これからもラインの写真はたくさん送られてくるでしょうし、自慢も続くと思います。   【こちらも話題】 66歳男性が風呂場で涙… 友人もいない老後を憂う相談者に鴻上尚史が指摘した、人間関係で絶対に言ってはいけない言葉 https://dot.asahi.com/articles/-/101376 ※写真はイメージです。本文とは関係ありません(iStock / Getty Images Plus) 作家・演出家の鴻上尚史氏が、あなたのお悩みにおこたえします! 夫婦、家族、職場、学校、恋愛、友人、親戚、社会人サークル、孤独……。皆さまのお悩みをぜひ、ご投稿ください(https://publications.asahi.com/kokami/)。採用された方には、本連載にて鴻上尚史氏が心底真剣に、そしてポジティブにおこたえします  友人Aを友達でもなんでもない、関係を持ちたくないと思えば、自慢のラインをたくさん見ても「平穏に過ごす」ことは可能でしょう。でも、そうすると、友人であり続ける意味がなくなりますね。  赤福さん。  じつは、このほがらか人生相談には、毎月、たくさんの「友達ができない。どうしたらいいの?」という相談が送られてきます。それも、若者ではなく中年以上の人達からです。  みんな、一人が淋しいと書きます。だから、心から話せる相手が欲しいと。  でもね、残酷なことを書きますが、一人が淋しいという理由で友人を求める人は、友人はできないんじゃないかと僕は思っています。  友人は孤独を埋めてくれるカウンセラーではないのです。  独りでも充分満足していて、休日に独りで充実して過ごせる人が、他人と友人関係をつくれると思っているのです。  赤福さんも「私の孤独を癒やしてほしい」と顔に書いている人とは、友達になりたくないと思います。自分で自分の楽しみを知っていて、むやみに他人にすがらず、孤独となんとかつきあえている人と会話するから、楽しいのだと思うのです。  赤福さん。  僕のアドバイスは、今の関係をとりあえず続けながら、別な友人と出会う道をゆっくりと探りませんかということです。  そのためには、まず、「経済格下」なんて自分を卑下せず、いろんなチャンスを探ってみませんか。  赤福さんと同じように、独身で子供がないまま、自分なりの楽しみを見つけて暮らしている人は、大勢いると思います。「家族もなく、お金もなく、病気がちで休みは家にいる」と赤福さんは書きますが、そんなにお金をかけない生活で、散歩とか、料理とか推理小説とか刺繍が趣味なんて人がたくさんいるでしょう。  赤福さんも、自分なりの時間の過ごし方を見つけて、そこから、ゆっくりと出会いのチャンスを探ってみませんか?  えっ? それはとても無理だ?  いきなりは大変でしょう。ですから、時間をかけるために、3人のラインは残しておくのがいいと思います。  友人Aの自慢ラインを見るたびに、「いやいや、きっとどこかに、辛い思いをしなくてもラインをやりとりできる人がいるはずだ。気軽に、なんのわだかまりもなく『元気?』と言い合える人がいるはずだ。だから、そんな人と出会うために、私は私の『満足する時間の過ごし方』を見つけよう。そうすればきっと、出会うチャンスは現実にもネットにもあるはずだ」と思うのです。  赤福さん。こんなやりかた、どうでしょうか。 ■本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』が発売になりました!   【こちらも話題】 「こんな女と結婚なんてしなきゃよかった」と懊悩する46歳男性に、鴻上尚史が今すぐ実行するべきと勧めた驚きアドバイスとは? https://dot.asahi.com/articles/-/13067  
自民党パーティー券裏金問題の捜査で「安倍の呪縛」から逃れられるか 私たち国民がバカなのか問われている 古賀茂明
自民党パーティー券裏金問題の捜査で「安倍の呪縛」から逃れられるか 私たち国民がバカなのか問われている 古賀茂明 古賀茂明氏    自民党安倍派をはじめとした主要5派閥のパーティー券裏金疑惑。  安倍派はもちろん、自民党全体を揺るがせ、岸田文雄内閣崩壊につながる可能性まで出てきた。  すでに安倍派の会計担当者や議員秘書なども東京地検特捜部の任意聴取を受けたと報じられ、大物議員に司直の手が及ぶ可能性も高い。  だが、検察は、安倍晋三内閣の長期政権下で、森友学園事件、加計学園事件、桜を見る会事件など、政権が倒れてもおかしくないスキャンダルがいくつもあったのに、いつも本丸に迫ることなく敗北を続けてきた。  また、圧力と懐柔で政権に手なずけられたマスコミも、忖度報道でそうした検察の堕落に手を貸す共犯者の役割を果たした。  それを見ていた私たち国民は、何が起きてもせいぜいトカゲの尻尾切りで終わり、巨悪は何の咎めも受けずに生き延びるということを繰り返し思い知らされた。  そこで、今回も、最初は大騒ぎしても、結局大物は逃げ切るのではないかという疑心暗鬼が先に立つという人も多いだろう。  しかし、今回は違うのではないかというのが私の見立てだ。  なぜなら、安倍元首相が死去して1年半近くが経ち、「安倍の呪縛」がようやく解け始めたからだ。これは政界だけでなく、マスコミにも検察にも当てはまる。  岸田政権はもはや死に体同然。火の粉が自分たちに降りかからないように逃げ回るのが精一杯で、検察に圧力をかける余力などない。検察はこれまでより格段に自由に動くことができる。さらに、岸田政権のマスコミ管理は、安倍政権や菅義偉政権に比べてかなり弱い。岸田政権批判も自民党の派閥批判も自由にできる雰囲気がある。 「桜を見る会」であいさつする安倍首相(当時)=2019年4月13日    国民の間には、円安や資源高によるインフレと実質賃金の減少による生活苦の実感が広がり、政権への不満が蓄積されている。減税という人気取り政策でさえ、逆に「ふざけるな」という反応を誘発して支持率が下がるというのだから、その不満の強さがどれくらいなのかがよくわかる。  インボイス制度の導入で消費税の課税対象となる零細事業者たちが帳簿の記載をどうしたらよいのかと右往左往する中で、国会議員は入った金を帳簿に記載せずにネコババできるというのだから庶民の怒りが燃え盛っても当然だ。子供に食べさせるために食事を抜いているというシングルマザーや一円でも安いものを探してスーパーを梯子する庶民を尻目に夜な夜な裏金を使って高級レストランやバーで飲食する議員たちという図式も、さらに国民の怒りの火に油を注ぐ。  検事たちも国民の一人として同様の怒りを抱いているだろう。しかし、彼らにはそれよりもはるかに深い憤りの気持ちがある。恨みと言ってもよい。  3カ月ほど前のこと、私はある会食で旧知の検察幹部と会った。私が会話の中で、「安倍さんの時は酷かったですよね」と話を振ると、普段は温厚で、かつ、口が堅くて検察内部の話などしたことのないその検事は、「いや、あの時は酷かった、黒川さんも酷かった」と返してきた。  安倍氏だけでなく黒川弘務元東京高検検事長の名前をわざわざ出したのだ。黒川氏は、安倍氏の守護神と言われ、数々のスキャンダルを安倍氏本人に及ばぬように差配したという疑惑を持たれた人物だ。黒川氏が安倍氏の意を汲んで本来あるべき検察の捜査を捻じ曲げたことに対して、このような気持ちを抱いている検事は非常に多いはずだ。彼らは、安倍・黒川ラインのせいで地に堕ちた検察の威信を取り戻したいと思っている。いわば安倍・黒川へのリベンジである。   【こちらも話題】 「トリガー条項」凍結解除が解散の“口実”に 岸田首相がたくらむ起死回生のシナリオとは 古賀茂明 https://dot.asahi.com/articles/-/207981  そう考えると、今回の疑獄のターゲットは、安倍派議員、しかも大物でなければならない。安倍氏本人が死亡し、安倍派代表は不在だ。となれば、安倍派の現事務総長である高木毅党国対委員長や松野博一官房長官と西村康稔経済産業相という事務総長経験者、さらには、萩生田光一党政調会長、世耕弘成参院幹事長らの安倍派幹部に注目が集まる。彼らが裏金づくりに関与していれば、政治資金規正法違反はもちろん、横領、背任、脱税の罪に問われる可能性がある。  政治資金収支報告書に名前がなかった寄付者の中には政府から補助金を受けたり、あるいは重要な政策変更で利益を得ようとしたりする企業などが入っているだろう。贈収賄事件に発展する可能性もある。  もちろん、検察が全ての案件に手をつけるわけにはいかない。大きな問題であればあるほど、捜査に手間と時間がかかる。検察の復活を信じ、粘り強い捜査に期待したいところだ。  ところで、私たち国民は、検察が安倍派の大物を血祭りに上げるのを見れば、喝采して溜飲を下げるだろうが、それだけで満足していてはいけない。このことは今から肝に銘じておくべきだ。  一部の議員を有罪にするだけで終われば、またほとぼりが冷めた後にこれまでと同じ自民党の金権腐敗政治が復活してしまう。それに終止符を打つためには、自民党政治を終わらせるしかない。そのためには、国民の粘り強い批判の声と息の長い野党への支援が必要となる。  心配なのは、連日この事件の報道が続くうちに、徐々に飽きる人が出てくることだ。本件を取り上げても徐々に視聴率が下がるということになれば、テレビの取り上げも減り、それがさらに視聴率を下げるという縮小スパイラルに陥る。そのうち、「まだやっているのか」ということになってニュースから消えていくかもしれない。   【こちらも話題】 支持率21%「ポスト岸田」でうごめく6人 大穴の上川陽子氏の弱点は「タカ派」と「経済」 古賀茂明 https://dot.asahi.com/articles/-/207411  検察も国民の怒りが燃え盛っている中では、仮に捜査が難航しても、軽々に捜査打ち止めとはできないが、国民の関心が失われれば、その保証はない。  最近起きた数々の不祥事を思い出してほしい。  この秋以降だけでも、内閣改造から2カ月で計3人の政務官と副大臣が辞任に追い込まれた。東京地検特捜部の捜査を受けた柿沢未途議員はともかく、他の2人は説明責任を果たさず、もうニュースからは完全に消えている。  杉田水脈元総務政務官がアイヌや性的少数者に対するヘイト発言を認定されて謝罪した後に同様の発言を繰り返しても岸田首相は野放しにしたままだが、マスコミはもはや大きく取り上げなくなった。  馳浩元文部科学相がIOC関係者に1冊20万円のアルバムを官房機密費を使って配ったと堂々と発言し、安倍氏が機密費があるぞとけしかけたと暴露した大スキャンダルも、もはやマスコミの追及は終戦という雰囲気だ。  安倍氏が残した負のレガシーの一つに、「地に堕ちた倫理観」がある。「アベノリンリ」と呼んでもいいだろう。 「李下に冠を正さず」というのが、国を率いる人たちのあるべき倫理観である。悪いことをしないだけではなく、疑われるようなことも避けるという高潔さが求められるのだが、安倍氏は、これを完全に無視した。悪いことをしなければよいだろうというだけではない。これを一歩進めて、証拠さえなければ、悪いことをしてもよい、さらに、証拠があっても隠せばよいとか、もっとエスカレートして、捕まらないように検察や警察を抑えればよいという倫理観にまで堕落した。もはや倫理観とはいえないが、安倍氏はこれでモリカケサクラなどを全て乗り切った。  これを見ていた官僚も自民党政治家も右へ倣え。驚くような不祥事でも全くびくともしなくなった。これは経済界にも波及している。  安倍忖度で不祥事の本格追及をできなかったマスコミでも同様に不正義追及の力が弱まった。  そして、アベノリンリの蔓延は国民にも深刻な影響を与えている。   【こちらも話題】 パレスチナ侵略で「米国追随」は愚の骨頂 今こそ日本は「平和憲法」に立ち返るべき 古賀茂明 https://dot.asahi.com/articles/-/206896  モリカケサクラなどでも何事もなく政権が続くという異常な事態に慣れてしまい、不正義への感度が著しく弱まったのだ。岸田政権でもそれが修復されていない。 「国民は時間が経てば、どんなにおかしなことでも忘れてしまう」  岸田首相は、そう考えている。自民党の派閥のパーティーを「当面自粛」するよう指示したというが、それこそ、「そのうち国民も関心を失うから、その時にまた始めればよい」という国民を見下した態度を象徴する。安倍氏も菅氏もそうだった。こんな政治家がトップにいる限り、国民のための政治など実現できるわけがない。  安倍派の数人の議員が捕まっても、引き続き派閥政治に変化はなく、構造的な問題は何一つ解決しない。  来年の通常国会の予算委員会開催中は再び国民の関心が盛り上がるだろうが、その後どうなるか。検察は悪人を告発はできても、政治の仕組みに手をつけることまではできない。  野党は、「政治資金パーティーの禁止」「企業団体献金の禁止」「調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)や立法事務費の使途全面公開」、さらには、「国会議員の資産、関連団体全ての口座とマイナンバーの紐付け義務化」「政治資金の収支全てのキャッシュレス化とステートメントのリアルタイム公開義務化」などの法律改正を提案し、国会の争点にすべきだ。  残念ながら、岸田首相の、時間さえ経てば国民の関心は薄れるという信念は間違いだとは言えない。これまで常にそうだったからだ。  来春、岸田首相は国賓級の待遇で訪米する予定だ。「ジョー」と「フミオ」の蜜月を演出して、アメリカ・コンプレックスの強い国民を喜ばせれば、内閣支持率が上昇に転じ解散も夢ではない、などと目論んでいるのかもしれない。そんなバカなと思うかもしれないが、杞憂とは言えない気がする。  今回の大疑獄をもってしても、「アベノリンリ」に毒された政界を根本から浄化することができなければ、私たち国民は、本当にバカなのだと言われても仕方ないだろう。   【こちらも話題】 戦争放棄した「文化の日」に軍事支援をした岸田首相のズレた感性 11月3日は「軍事の日」に 古賀茂明 https://dot.asahi.com/articles/-/206265
「私がなぜ?」投資反対の荻原博子氏が投資広告に顔写真 多発するSNS広告のなりすまし被害
「私がなぜ?」投資反対の荻原博子氏が投資広告に顔写真 多発するSNS広告のなりすまし被害 荻原さんの画像が無断で引用されたネット広告=本人提供    SNS上では、経済に詳しい有名人らが「利益が出る」などとうたい、投資のセミナー参加やLINE登録などを呼びかける投稿やネット広告が見られる。しかし、その多くが、画像を無断で使った「なりすまし広告」だとして問題になっている。不適切な広告を削除すべきプラットフォーム事業者の動きは鈍く、SNSの利用者側で「甘い話」にとびつかない慎重さが必要だ。 *   *   * 「本当に怒っています。無断で画像を使われて。それも1つだけじゃないんですよ」  経済ジャーナリストの荻原博子さんの言葉は切実だ。  2022年2月のある日、友人から電話がかかってきたという。 「投資を勧めているネット広告に、画像が無断で使われているよ」    荻原さんはこれまで、『投資なんか、おやめなさい』『騙されてませんか 人生を壊すお金の「落とし穴」42)』などの投資に対して批判的な本を出版してきた。 「投資反対派の私がなぜ?」  と、首をかしげる荻原さん。  友人から教えてもらったネット広告にアクセスしてみると、 「月に30〜50%の利益を上げることは実際には難しくありません。!」 「交流グループ。をクリック。正しい投資習慣を身につけ、他の人から成功の秘訣をゼロコストで学ぶことができます」(いずれも原文ママ)」  と、投資を呼びかける文言が並んでいた。   画像は無断使用されていた  ところどころにおかしな日本語があり、違和を感じた。また、広告には「荻原博子のLINEを追加すれば無料で(投資勉強会に)参加できます!」と記載されていた。  さらにほかにも複数のネット広告に、自身の画像が無断で使われていた。なかにはネットニュースと似た体裁を取り、本物の記事と間違えそうなものもあった。     【こちらも話題】 岸田首相はなぜお金を適切に使わないのか 荻原博子氏「内容のない政策で選挙へのアピール」 https://dot.asahi.com/articles/-/207049     荻原さんに無断で作成されたネット広告=本人提供    全ての広告に共通していたのは、LINEの登録を促していたことだった。荻原さんはLINEもSNSもやっていなかった。 「絶対に騙されないでください。LINEの登録なんて絶対にしてはいけません。こんな低金利の時代、1%以上儲かる話は詐欺です。月に30%など、そんな美味しい話はありません」  と訴える。    荻原さんはその後、「なりすまし」のネット広告が掲載されていたFacebookを運営するメタ社の日本法人フェイスブックジャパンに削除を要請。しかし、一向に消されないという。  掲載を見つけてまもなく2年。把握しているだけで9個のネット広告で、画像を無断使用されている。 「どうか騙される被害者が生まれることだけはないように。そう願うばかりです」   相次ぐ有名人の「被害」  画像を無断使用され、なりすましの広告に利用される被害は、荻原さんだけではない。  起業家の前澤友作さんは今年9月、X(旧ツイッター)に「拡散希望・Facebook社を責任追及します」といった内容を投稿した。  前澤さんをよく知る関係者によれば、 「なりすまし広告がFacebookやInstagramで大量に見つかり、削除要請しているにもかかわらず、一向に対応されなくて痺れを切らしていた」  と語る。  実際に前澤さんは、フェイスブックジャパンから「対応できない。問い合わせはアメリカの本社に」と回答があった旨をXに投稿。さらに9月7日にはXで、アメリカの本社に文章を送付したことを明らかにした。    前澤さんは今年6月、調査グループを自ら立ち上げ、自分の写真を無断で使用するといったなりすまし広告の調査を実施。その結果、該当する広告の数は約2000個にも上り、いずれも投資に関する内容で、LINEの友達登録を誘導するものだったという。  ネット広告に詳しい業界関係者は、 「このような広告は業界でも問題視されており、堀江貴文氏やお笑いコンビ『ロンドンブーツ1号2号』の田村淳氏なども同様の被害を受けている」  と言う。     【こちらも話題】 岸田首相の「最低賃金1500円引き上げ」発言に呆れ 「リアルな国民の生活がわかっていない」荻原博子 https://dot.asahi.com/articles/-/200821   クロスワーク株式会社の代表取締役、笠井北斗さん      いずれもLINE登録に誘導し、その後、投資の勉強などを理由に暗号資産での送金や銀行振り込みが持ちかけられるケースが多いといい、数百万円を騙し取られた被害者も出ているという。  なりすまし広告は、その9割がFacebookかInstagramに掲載されており、 「メタ社は広告の内容をチェックする機能が薄いことで有名」  と指摘する。また、 「これらの広告は海外の詐欺集団が関わっている線が濃厚と言われている。そのため、詐欺に遭っても事件化がなかなかできないのが実態」  と内情を語った。 責任はプラットフォーム側にも  なりすまし広告を作成、掲載する広告主に悪意があるのは間違いないが、「責任はSNSなどのサービスを提供するプラットフォーム側にある」と指摘する専門家もいる。  詐欺広告対策の第一人者でもあるクロスワーク株式会社代表取締役の笠井北斗さんは、10数年前から偽広告などのネット広告の問題性について言及してきた。 「プラットフォームは広告手数料で儲けているのですから、今回のようななりすまし広告などの不適切な広告を取り締まる義務があります。不適切なネット広告の排除を各社しているものの、メタ社はその取り組みをしておりません。なので、詐欺師にとっては非常にありがたい存在になっているのです」    笠井さんによれば、不適切な広告の排除はそこまで難しくないと語る。  詐欺広告を出稿するアカウントを排除するほか、被害が多発している広告で使われている語句を登録し、同じような広告が出稿されたときに自動で弾くだけでも大きな効果があるという。  笠井さんが続ける。 「メタ社が変わらない限り、被害は続いていく。私たちにできることは、InstagramやFacebookに表示される投資や仮想通貨の儲け話はタップしないこと。もしタップしてしまった場合は、絶対に広告ページ内のLINE追加をしないこと。美味しい話は存在しません。ただそれだけです」 (AERA dot.編集部・板垣聡旨)  
思い立った「今」が片づけるタイミング! ずっと後回しにしてきた片づけと真剣に向き合った結果
思い立った「今」が片づけるタイミング! ずっと後回しにしてきた片づけと真剣に向き合った結果 重なって置いていたので取り出しにくかったキッチンの棚/ビフォー    5000件に及ぶ片づけ相談の経験と心理学をもとに作り上げたオリジナルメソッドで、汚部屋に悩む女性たちの「片づけの習慣化」をサポートする西崎彩智(にしざき・さち)さん。募集のたびに満員御礼の講座「家庭力アッププロジェクト®」を主宰する彼女が、片づけられない女性たちのヨモヤマ話や奮闘記を交えながら、リバウンドしない片づけの考え方をお伝えします。 case.60 教わったことを素直に行動する大切さ 夫+子ども2人+犬1匹/会社経営  みなさんの生活の中で、「片づけ」の優先順位はどれくらいでしょうか? 人それぞれだとは思いますが、仕事や食事よりも高いという方は少ないでしょう。生活するためにお金を稼ぐ仕事、栄養を摂取するための食事など、生活に欠かせない活動の優先順位は当然高くなります。 「片づけなくても死なない」と思っていた由紀さんも、これまでずっと片づけの優先順位を低くしていました。結婚して、子ども2人を育てながら会社を経営しているので、いつも時間に余裕はありません。  今の家に引っ越してきたときは、上の子どもが3ヶ月のとき。モノの配置などを考える余裕もなく、とりあえず荷物を空いているところに押し込みました。その後も、収納場所がまだたくさんあったので、捨てるという作業に時間を費やさなくても、どんどん収納できてしまいました。気がついたら、家はモノだらけでメタボ状態。  夫はもともと片づけが得意。由紀さんは自分のモノの多さに悩み、そろそろ片づけに本気で取り組もうと考えました。 「私、本当は家を片づけるのは嫌いじゃないんです。インテリアに凝ることも好き。でも、モノの量が多すぎて片づけのやり方がわからなくなってしまったので、プロに習ってみたいと思っていました」  そんなとき、SNSで家庭力アッププロジェクト®の存在を知り、今の自分に必要な内容だと興味津々。でも、1つ問題がありました。 「経営している会社が20周年を迎えるタイミングだったので、イベントなどが重なってすごく忙しい時期だったんです。さらに、プロジェクトの期間と夏休みが重なり、家族のための時間も必要なので、どうしても時間が足りない」   フライパンがスッと取り出せて、料理の時間も短縮/アフター  少し悩んだ由紀さんでしたが、今、家庭力アッププロジェクト®を知ったのもいいタイミングだからなのだろうと思い、参加を決意します。 「やろうと思ったときにやらないと、いつまでもやらないな、と思って。幸い、スタッフに任せられる業務も多かったので、プロジェクトに参加する45日間は片づけを最優先にすると決めました」  そこから由紀さんの生活は、ガラリと変わりました。これまでの人生の中で、片づけが中心になる生活は初めてのことです。  朝の時間帯が効率的に動けるので、起きてすぐに片づけをスタート。日中の時間帯は、ほぼ片づけに費やしました。  家の中のモノの量は、家事の量と関係しています。量が多いと、片づけや管理、掃除などの家事も増えるのです。由紀さんは、モノの量を減らすうちに、そのことを実感しました。 「今は、キッチンでフライパンを並べている棚を見るのが本当に好き。ワンアクションで取れて、ワンアクションで戻せる。開けるたびに『わー、気持ちいい!』と思って、気持ちいいから片づけたくなる、という好循環です」  洗濯物も、これまで引き出しの中がいっぱいだったので、たたんだら置きっぱなし。量を減らして引き出しに余裕が生まれたら、スムーズに片づけられるようになりました。  子どもたちは、片づける由紀さんの姿を見て「ママが家のことを真剣にやってる!」と驚いたそう。さらに、子どもたちも不要なモノをどんどん手放すようになりました。 「私が子どもたちに『これ、捨ててもいい?』ときくと、けっこうアッサリと『いいよ』と言ってくれましたね」  大量にあった家の中のモノが減り、管理しやすい適度な量に落ち着きました。  由紀さんは、プロジェクトで教わったことはなんでも素直に実行してみました。1人でやってわからないのだから、プロの言うことを素直に聞く。これが、今までたくさんの講座やセミナーを受けてきた由紀さんの持論です。  そのおかげもあって、片づけは楽しく順調に進みました。プロジェクトが終わる頃には、由紀さんは自分の手が勝手に片づけるようになったと感じるように。 「子どもの友だち家族と一緒にプールに行ったときに、テントの中を自然とパパッと片づけていたんです。家の中も、ちょっとモノが散らかっているなと思うと、すぐに片づけていますよ」 物置き部屋として使っていた洋室には床にモノがいっぱい/ビフォー  片づけは「やらなきゃ」と思っていると、ものすごく大変な作業のように思えます。でも、本当は出したモノを元の場所に戻すというシンプルなこと。日常生活の中で習慣化してしまえば、由紀さんのようにストレスなく自然にできるようになるのです。  由紀さんの次の目標は、職場を片づけること。 「家がきれいになって、気持ちよく会社の20周年を迎えられたので、本当によかったです。次は職場をきれいにしたいですね。いつのまにかモノが増えてきちゃっているので。朝の時間を活用するために、朝起きてすぐに職場に向かうようにします!」 床置きをなくして夫の部屋に。さらにブラッシュアップする予定/アフター  素敵な笑顔を見せながら、そう宣言してくれました。片づけ方がわかった今の由紀さんなら、きっとすぐにきれいな職場になりますね。  優先順位が下になりがちな片づけですが、実は生活の質や満足度に大きく影響します。「すぐ疲れる」「家事が大変」と思っている方は、由紀さんのように一度しっかりと片づけの時間を確保して、環境を整えてみてはいかがでしょうか。 ●西崎彩智(にしざき・さち)/1967年生まれ。お片づけ習慣化コンサルタント、Homeport 代表取締役。片づけ・自分の人生・家族間コミュニケーションを軸に、ママたちが自分らしくご機嫌な毎日を送るための「家庭力アッププロジェクト?」や、子どもたちが片づけを通して”生きる力”を養える「親子deお片づけ」を主宰。NHKカルチャー講師。「片づけを教育に」と学校、塾等で講演・授業を展開中。テレビ、ラジオ出演ほか、メディア掲載多数。
天龍さんが語る“モテる”大横綱が口説いていた女性を落としたイケメン力士は?
天龍さんが語る“モテる”大横綱が口説いていた女性を落としたイケメン力士は? 天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ(撮影/写真部・掛祥葉子)   「環軸椎亜脱臼(かんじくつい・あだっきゅう)に伴う脊髄症・脊柱管狭窄症」と「敗血症性ショック」で長らく入院生活を続けていた天龍さん。自宅療養中のところ、今回は“モテる”をテーマに語ってもらいました。   * * *  相撲時代にモテていたといえば、一番最初に思い浮かぶのはやっぱり大鵬さんだ。相撲部屋には毎日のように段ボール2、3箱分のファンレターが届くし、6畳間を大鵬さん宛のファンレター保管場所として使っていたくらいだ。    そこに届いたファンレターを一通ずつ開封して、中身を確認して大鵬さんに届けるのが俺たち下っ端の役目だった。俺が幕内に上がったときに与えられた個室が、このファンレター部屋だったんだよ。    もちろん、ファンレターだけでなく、結婚前ということもあって訪ねてくる女性も多かった。地方巡業先で大鵬さんが女性とお話しているのを見かけると、その先はどうなるか読めるから、先回りして大鵬さんの部屋を張っているんだ。そうすると、大鵬さんと女性が帰ってきて。という場面を覗いたことがよくあった。    地方巡業では各地に大鵬さんのお気に入りの女性が来ていて、マッサージを受けながら昼寝をするのが常だった。巡業で周りにはほかの部屋の力士がいるから、さすがにそれ以上はなかったけどね(笑)。 【前回の連載記事はこちら】 天龍さんが語る“経営” 受け取れなかったジャンボ鶴田からの最後の電話連絡 https://dot.asahi.com/articles/-/207332 2月の誕生日ショットはこちら!(天龍源一郎オフィシャルInstagramより)/天龍源一郎が主峰するプロレス団体・天龍プロジェクトpresents「STILL REVOLUTION Vol.8」 @東京・新木場■日時:2023年12月10日(日)昼大会12:00 OPEN/12:30 GONG 夜大会17:00 OPEN/17:30 GONG。天龍源一郎とvs形式で行う大好評企画トークバトルが2024年に帰ってきます! 天龍源一郎の復活により、待望のトークバトルも再始動 復活第1弾は鈴木みのる選手!! 24年1月6日(土)19:00GONG /北沢タウンホール12階スカイサロンなど大会情報、チケットのお求めは天龍プロジェクト各種SNS、HPなどでご確認いただけます。◆天龍プロジェクト公式Webショップhttps://www.tenryuproject.jp/   北の富士さんと龍虎さんもモテ男    ほかにモテていたといえば、北の富士さんと龍虎さんも有名だったよ。北の富士さんは銀座で身銭を切ってきれいな飲み方をしていて、それがカッコよかったんだ。当時はスポンサーにゴチになるのが当たり前だったからね。    それも、新橋や柳橋、向島なんかで芸者をあげたお座敷にかかるというのが定番だ。そんな中で北の富士さんは、銀座で自分の金で飲んでいるんだ。相撲協会の中で銀座を開拓したのは北の富士さんが一番最初だよ。そういう姿を見た若い相撲取りたちが憧れた。その典型が輪島さんだ。彼も北の富士さんを真似て銀座でよく飲んでいたからね。    一方、龍虎さんは男前の顔でモテまくった。博多で大鵬さんが口説いていたおネエちゃんを龍虎さんが落としたってこともあったらしい。当時の大鵬さんは大横綱で、龍虎さんは全然下っ端だったということもあって、相撲界でものすごく評判になった話だ。相撲界は、誰がどのおネエちゃんとどうしたっていう話が2、3日で全ての相撲取りの耳に入ってくる世界だからね(笑)。    俺が相撲からプロレスに転向して一番戸惑ったのは、観客を見て「ガキしか来ないじゃん」って思ったこと。26歳でプロレスに転向したら、17、18歳の子どもがキャーキャー言ってるだけで、これには戸惑ったね。   アメリカのプロレスラーのモテっぷり    それで、アメリカ修行に行ったら、そこがすごいところだったんだ。アメリカの南部ではテレビで見たことがある有名人で地元に来てくれるのは、プロレスラーくらいだから、プロレスラーがモテるんだ。    プロレスラー目当てのおネエちゃんが大勢いて、レスラーが試合後に行くバーで待っている。レスラーが来たら「ハーイ」って言って近づいて、最終的にはアレするってことが常態化していたよ。 【こちらも話題】 天龍源一郎さんが語る“ケガ” アントニオ猪木にやられトンデモない方向に曲がった指 https://dot.asahi.com/articles/-/206191    向こうは「やってあげた」という感じで、まるでフィットネスみたいだった。俺も試合が終わってそういうバーに行ってはいたけど、なんていうか、やっぱり楽しかったね(笑)。    アメリカだと地元のトップのヒーロー役がやっぱり一番モテていた。マサ齋藤さんとザ・グレート・カブキさんも悪役のトップだからモテたし、バーに行くと「マサとサトだ!」ってドッと人が集まってくる。    強くて稼げる奴がモテるという分かりやすい図式だ。だから俺も二人のケツに着いていって、いろいろおこぼれにあずかったもんだよ。    もともと俺は洋画が好きでアメリカ人の女性に憧れがあったから、みんな美人に見えるんだけど、ほかのレスラーからは「天龍、お前はよくあんなカバみたいな女を相手にするよな。物好きだな」ってバカにされていたよ。俺からしたらいい女なんだけどなぁ(笑)。    慣れてくると、フィットネスが目的のおネエちゃんと、ただプロレスを見に来たいいところのお嬢さんの見分けがつくようになって、今度はいいとこのお嬢さんにアタックするようになる。    ちゃんとしたマナーと格が必要になって、レスラーもしっかりするようになるんだ。よくリック・フレアーに言われたのが「ハイクラスと付き合ってこそステータスだ」ということ。やっぱりフレアーくらいモテるようになると、言うことも違ってくるね。 【こちらも話題】 天龍さんが語る“入院生活” 突然死の宣告で重篤の中「三途の川」を見た体験とは? https://dot.asahi.com/articles/-/203249   日本のプロレスラーでモテたのは?    日本のプロレスラーでは、やっぱりタイガーマスクの佐山聡、アントニオ猪木さん、藤波辰爾、ジャンボ鶴田と、テレビで流行っている有名人がモテるという感じだったね。    新日本プロレスのレスラーは事務所に近い六本木でよく遊んでいたようで、彼らがモテているっていうのは全日本プロレスの俺たちにも漏れ聞こえてきていた。全日の事務所も乃木坂にあって六本木も近かったけど、全日はみんな堅いから新日ほど遊んでいるってことはなかったね。    渕正信の顔を見たら、みんな堅いのがわかるだろう。なによりジャイアント馬場さんが堅くて、そういう話が聞こえるのを嫌がっていたことも大きかったんじゃないか。だから、地方巡業で羽目を外していたんだ。   銀座でモテる「作法」とは    それにしても、銀座で飲んでいて、一番見かけない職業がプロレスラーだったね。みんな銀座で飲むという文化がなかったんだ。そこで俺は北の富士さんにならって、銀座で経営者の岡ちゃん、楽ちゃん(三遊亭円楽さん)と飲んでいてね。    そのメンバーでモテるのは岡ちゃんだ。銀座では岡ちゃんがいろいろ仕切ったり、支払ったりすることが多かったから、そりゃあ店もちゃんと分かっているよ! 楽ちゃんもきれいに飲むタイプ。    そこで気を付けていたのは「ゲスな話題はしない」ということ。下ネタはギリギリ、落語でしゃべれるところまでだね。それ以上いくとゲスになって「なんだ、この人?」と思われる。 【こちらも話題】 天龍さんが語る“追悼テリー・ファンク”「俺もテリーになりたい」レスラーが憧れたレスラー https://dot.asahi.com/articles/-/200905    岡ちゃんも楽ちゃんも面と向かって口説くわけじゃなく、二人ともゴルフが好きだから「今度一緒にゴルフに行くか」っておネエちゃんを誘うんだけど、俺はゴルフをやらないから「今度、地方でプロレスやるから来るか?」っていうくらい。ほとんどのおネエちゃんに「えー」って言われたよ(苦笑)。ゴルフはいい武器だ。ウッドは上にも下にも使えるから便利だね。うん(笑)。    銀座は三沢光晴も来るようになって、あいつは寡黙に飲んでいるんだ。おネエちゃんたちも誰だか分からないし「三沢っていうんだよ」って教えても、「ふーん」っていう感じ。    でも「実はタイガーマスクなんだ」って言うとみんな驚くし、あいつもポケットからタイガーマスクを取り出して、おネエちゃんたちは大騒ぎだ! そうなるとあいつが一番モテるし、それに味をしめて、毎回ポケットからマスクを取り出していたよ(笑)。   天龍さんのモテ期は?    俺が一番モテていたのは、22~26歳くらいのときと、30代後半かな。30代後半になるともう結婚もしていたが、まあ、口八丁、手八丁を覚えるからね。若いころはモテても女の扱い方が分からないし、銀座で飲んでいても女性がハイクラス過ぎて、「イモっぽいあんちゃんだなあ」と見透かされている気がして、気後れして楽しめなかったよ。    ホステスに位負けしていたんだね。ウィットに富んだ話し方と社交性と処世術を身に着けないと、何百人という男を相手にしている百戦錬磨のおネエちゃんには、太刀打ちができない。若いころは銀座の居心地が悪くて、錦糸町のキャバレーのおネエちゃんの方が性に合っていたよ。    30代後半になると、ようやく銀座のおネエちゃんと位負けしなくて対等に口きけるようになって、岡ちゃん、楽ちゃん、寿司屋の小沢のオヤジたちと同じようにやり取りして、そうなると銀座が楽しいってことに初めて気づくんだ。ホステスがきれいすぎてとっつきにくいという気持ちがあるうちは、そういうところに行っちゃダメだぞ! (構成・高橋ダイスケ)
タイミー代表取締役が語る失敗談 起業は「なぜ自分がやるのか」が想像以上に大切だった
タイミー代表取締役が語る失敗談 起業は「なぜ自分がやるのか」が想像以上に大切だった 小川嶺(おがわ・りょう)/2018年、「Timee(タイミー)」をリリース。23年10月時点で従業員924人、累計ワーカー数600万人、累計調達額は約403億円(撮影/小山幸佑)    社会問題への関心が強いとされるZ世代。学生時代に起業する人も少なくない。タイミー代表取締役の小川嶺さんもその一人だ。問題意識を持つだけでなく、なぜ自分がやるのか、と深く問い続ける姿勢が見えてきた。AERA 2023年12月11日号より。 *  *  *  起業を考えるようになったのは高校3年のときです。大好きだった祖父が亡くなり、初めての身内の死だったこともあって人生の時間が限りあることをはっきり実感しました。そして祖父の生い立ちを調べていると、祖父の父、つまり私の曽祖父は乳業を営む実業家だったことを知りました。福沢諭吉と二人で写った写真も残されていて、日本社会のために起業し、経営していたことがうかがえた。自分も社会に役立つ事業を起こしたいと考えるようになりました。  立教大学に入学してからはあらゆるビジネスのアイデアを考えました。そのなかでうまくいきそうだったのがファッションのマッチングサービスです。自分自身が高校までサッカー一筋でファッションに疎かったことから、自分の写真を撮ったら似合う服をバーチャルで提案してくれて簡単におしゃれできる、というサービスを考えました。  これは実現しなかったのですが、投資家へのプレゼンを繰り返すなかでいろいろなアドバイスをいただいて、最終的には「実際に来店して試着したら割引になる」仕組みを盛り込んだ、ファッション感度の高い女性向けのサービスとしてリリースしたんです。6人のメンバーで1年近く取り組み、事業として回り始めていました。ただ、500万円投資していただけることが決まり、契約書にサインする直前に続けることを断念しました。 日雇いバイトの経験で  事業化を意識するあまり当初の思いからどんどん離れてしまい、「なぜ自分がやるのか」が腑(ふ)に落ちなくなっていたんです。投資を受けるということは5年、10年と情熱を持って続けなければならない。その覚悟を持てませんでした。メンバーの時間を奪ってしまったことは今でも本当に申し訳なく思っています。ただこの経験から、起業し事業を続けるうえでは「なぜ自分なのか」が想像以上に大切だと、身をもって学びました。  タイミーのアイデアを思い付いたのは大学3年のとき。ファッション事業を断念してからは、大学で授業を受け、毎日日雇いバイトをする生活を送っていました。コンビニ、物流倉庫、引っ越し現場などいろいろなところで働きました。本当にお金がなかったから、隙間時間があったらすぐに働けて、給料もすぐにもらえるサービスが絶対に必要だと思ったんです。   【こちらも話題】 Z世代を褒める時はなぜ人前を避けるべきなのか 管理職のための「寄り添い」マネジメント術 https://dot.asahi.com/articles/-/208113 撮影/小山幸佑    これはクライアント側に立ってみても必要な仕組みでした。自分が日雇いで入ったお店の方に「もし自分が来なかったらどうしていたんですか?」と聞いてみたところ、「自分だけで何時間でもやっていたよ。来てくれて本当に助かった」と言ってもらえた。「暇だと思っていた時間が、誰かのための時間に変わってお金も稼げる」、自分にとって必要だし、社会のためにもなる事業にできると直感しました。 好きだと思える仕事を  突き詰めると社会課題の解決にもつながります。人手不足はどんな業界でも重大な問題で、そこにアプローチできることがひとつ。それに、人口減少社会の日本では今後、労働生産性を高めていくことが欠かせません。DX化は様々な企業が取り組んでいますが、プラスして必要なのは働くことを前向きにとらえ、モチベーションを持って働くことだと思っています。そのためには自分が好きだと思える仕事をすることが本当に大切です。  タイミーは様々な業界を知る入り口になります。例えば、飲食業界で働いている人が飲食しか知らないのはもったいない。横にあるいろいろな業種を気軽に体験してみれば、もっとモチベーションを持てる仕事に出合うかもしれないし、逆にやっぱり飲食に向いていると気づくかもしれない。タイミーを日本全国津々浦々に広げ、ワンクリックで好きなときに好きな業種で働ける社会をつくります。  そうやって誰かの人生を変えるきっかけになり、自分の仕事で世の中が少し変わったかもしれないと思えることは、自分のモチベーションにもなっています。タイミーを創業して約1年後に3億円の出資をいただきました。サラリーマンの生涯年収とも言われる額です。その金額を自分にかけてくれるということは、「生涯をかけて取り組みなさい」と言われたことだと理解しました。でも全く躊躇(ちゅうちょ)しませんでした。それだけ情熱を持って働けるし、自分がやるべきことだと思った。事業がうまくいくかどうかはビジネスモデルももちろんあるけれど、結局は経営者が熱い気持ちを持ち続け、ビジョンを語り、人を巻き込んでいけるかだと思っています。  よく、若くてエネルギーがあるねと言っていただきます。でも私に限らず、Z世代と言われる世代はエネルギーがあふれていますよ。一方で、そのエネルギーをどう使うか、使い道がここでいいのかと悩んでいる人も多いと感じます。上の世代の方には、あふれる力をいかにうまく使うかという視点で若い世代を見てほしい。そのエネルギーが爆発力になればイノベーションも生まれるはずです。 (編集部・川口穣) ※AERA 2023年12月11日号より抜粋   【こちらも話題】 「8時間労働」「残業当たり前」を疑問視 Z世代が従来の組織の考えにとどまらない理由とは https://dot.asahi.com/articles/-/208099
俳優・若葉竜也が語る「演じることを嫌ってきた14年間を救ってもらえた」瞬間とは
俳優・若葉竜也が語る「演じることを嫌ってきた14年間を救ってもらえた」瞬間とは 一見そっけなさそうで、常にユーモアで場を和ませる。撮影中も「『太陽にほえろ!』のポーズね」と応じてくれた(撮影/植田真紗美)    12月に公開の映画「市子」で、市子の恋人を演じる俳優、若葉竜也。失踪した恋人を捜す姿は、劇中で強烈な印象を残す。大衆演劇一座に生まれ、小さなころから「チビ玉三兄弟」として、テレビの密着取材が入るほどの人気だった。そこに若葉の居場所はなかった。それでも演じることは捨てられなかった。映画に救われたという思いが根底にある。 *  *  * 10月23日、午後4時。ミッドタウン日比谷周辺は映画ファンの熱気に覆われていた。「第36回東京国際映画祭」の開幕を告げるレッドカーペットの上を、スターたちが華やかに歩いてゆく。夕暮れの風は、コロナ禍を経てようやく本格始動した映画界を祝福するかのようにあたたかい。  ワッと歓声が聞こえ、映画「市子」の出演者たちが登場した。主人公・市子を演じる杉咲花(26)、監督の戸田彬弘(あきひろ・40)とともに、若葉竜也(わかばりゅうや・34)がフォトコールに応じている。ブラックスーツにラフなロングヘア。「手を振ってください!」のリクエストに応える杉咲と戸田の横で、後ろ手のポーズをなかなか崩さない。どこか所在なげな姿が「オレ、苦手なんだよね、こういうの……ここにいなきゃダメ?」とつぶやいているようで、思わずクスッとしてしまった。  俳優・若葉竜也の存在を認識したのは2016年の映画「葛城(かつらぎ)事件」(監督・赤堀雅秋)だ。抑圧的な父(三浦友和)のもとで「いつか何者かになってやる」と悶々(もんもん)と日々を過ごし、無差別殺人事件を起こしてしまう青年・稔(みのる)役。一見おとなしそうで、しかし自意識過剰で身勝手な持論を雄弁に語る姿は、嫌悪とともに観る人自身にも己の黒い淵(ふち)をのぞかせるような、底知れぬ恐ろしさを感じさせた。  そんな「ちょっとやばそう」な人物像は「愛がなんだ」と「街の上で」(ともに監督・今泉力哉)で一転する。前者では片思いの女性にパシリをさせられても黙々と尽くす青年ナカハラを、後者では下北沢の古着屋で働く青(あお)を、実在するとしか思えない自然な佇(たたず)まいで演じていた。 取材でも撮影でもこちらの求めるものを瞬時に理解し、提示してくれる人だと感じた。監督もする若葉には常にカメラの前と後ろの視点があり、さまざまなものが「見えている」ようだ(撮影/植田真紗美)   幼いころから公演生活 常に居心地が悪かった  そして「市子」で若葉はまた新たな「顔」を見せてくれた。市子にプロポーズした翌日、彼女に忽然(こつぜん)と姿を消されてしまう恋人・長谷川役。必死に市子を捜すうちに、長谷川は彼女の壮絶な生い立ちと、ある事件を知ってゆく。若葉は言う。 映画「市子」で共演した杉咲花(中央)と監督の戸田彬弘(右)と第36回東京国際映画祭で。「自分の関わったなかでも本当に多くの人に届けたいという思いにさせられる映画」と若葉は言う(撮影/植田真紗美)   「この映画を、軽薄に人間をカテゴライズして『自分とは関係ない』と安心したがる人に観てほしいんです。例えばテレビで流れる通り魔殺人のニュースなどと同じ。犯人を『貧困家庭に育ったから、親の愛を受けなかったから、事件を起こしたんだ』と型にはめることで『対岸の火事』だと思って安心しようとする。そういうのは気持ち悪いと僕は思っていて。そうじゃない、人間ってもっと複雑で入り組んでいる。市子を知ることで、そんな見えない部分に触れてほしいなと思います」  若葉の言葉は率直で、清々(すがすが)しいほどに明快だ。一見とっつきにくそうな風情で、実際は常に周囲を見渡し、正直さとユーモアを持って場を和ませることを忘れない。市子を演じた杉咲は言う。 「ある大切なシーンの撮影中、私の感情がとまってしまった瞬間があったんです。たいていはみなさん気にしない様子でいたり、励ましてくださったり、休憩を挟んでくださったり、あらゆる方法で心を配ってくださるのですが、若葉さんはケタケタと笑いながら『精根尽き果てたね』と言ったんです。私は拍子抜けして、でも正真正銘の事実にみるみる安らかな気持ちになり、感情を取り戻すことができました。なかなか笑えないような状況を素直に笑い、直視してくれる人がいることがなんとありがたいことか、と感謝しました」  監督の戸田は、長谷川役への若葉のアプローチ法に驚かされたと話す。 「若葉さんは『市子の過去について、あえて脚本を読まなかった』と撮影中に明かしてくれました。そのほうが市子の過去を知る人の言葉に、新鮮に反応できると考えたそうです。それってけっこう怖いことだと思うんですが、若葉さんは自分で監督もされるからか、芝居を実に多面的、多角的に捉える方なんだなと感心しました」  そう、若葉は20代から自主製作映画を何本も撮ってきた監督でもあるのだ。戸田は続ける。 「脚本に『涙を見せる』とあったシーンで若葉さんは『長谷川の気持ちとして、この人の前では涙は見せたくない』とまず涙なしの演技をしました。最終的にそちらを使ったのですが『監督、感情が出るバージョンも撮っときますか?』と次に一瞬でブワッと涙を見せる演技をした。ある種、余裕を持って演技を『遊ぶ』というのでしょうか、あの年でそこまで到達できる役者はなかなかいない。やはり子ども時代から大衆演劇に関わってきた経験値の高さ、豊富さもあるのかもしれません」  再び、そう、そうなのだ。若葉は大衆演劇の子役として1歳3カ月から舞台に立ってきた。芸歴が年齢とほぼ一致する稀有(けう)な俳優だ。だがそれゆえに、ここまでの道のりは平坦(へいたん)ではなかった。 「僕にとって俳優の仕事は生きるための手段。1年、2年で(人気を)競い合ってもしょうがない。70年間ご飯を食べられたヤツの勝ちなんだと思う」(若葉)(撮影/植田真紗美)    若葉は1989年、大衆演劇「若葉劇団」の三男として生まれた。一座を率いる父と、元バスガイドの母、2人の兄と妹弟と日本各地を転々とし公演をする生活だった。物心ついたときから芝居をするのが当たり前だったと若葉は言う。 「父は師匠であり、家に帰ってご飯を食べているときは父親。きょうだいも舞台ではライバルで、家に帰るときょうだいになる。その環境に常にへんな気持ち悪さと居心地の悪さがありました」  演目は毎日変わり、本番後に毎日違うセリフと動きを覚えなければならない。父の指導は厳しく、舞台で失敗するとご飯抜き。兄たちが座長を目指して必死で鍛錬するなかで若葉は違和感を抱いていた。覚えたセリフを一生懸命に大きな声でしゃべるなんて滑稽だ。なにがよい演技かもわからないまま、怒られるのは理不尽だ。子役を集めた大会では花束や祝儀袋の多さで競わされる。「稽古をつけてください!」と前に出ていく同世代を冷めた目で見ていた。若葉にとって俳優はあくまでも「ご飯を食べるための手段」でしかなかった。 「4TEEN」での芝居が 映画への興味のきっかけに  若葉が5歳のころ、テレビドキュメンタリーのカメラが一座を追いかけ始めた。歌舞伎俳優の坂東玉三郎の名にひっかけた「チビ玉三兄弟」としてオンエアされ、人気に火が付いた。「将来は座長になりたいんだよね」「がんばってね」と大人たちがはめてくる「型」に苛立(いらだ)ちを感じた。子どもらしい時間を奪われた若葉にとって、大人はみな自分を抑圧する敵に映った。  小3のとき両親が離婚し、母と暮らしながら大衆演劇のほかテレビドラマにも出演し始める。だが、やはり演技をおもしろいとは思えず「早く撮影が終わればいいのに」と願うばかり。そんな14歳のとき、最初の転機が訪れた。  映画「ヴァイブレータ」で知られる監督の廣木隆一(69)は、石田衣良原作の「4TEEN」の映像化にあたり、役と同じ14歳のキャストを探していた。オーディションにやってきた若葉の名前は「チビ玉三兄弟」の番組で知っていた。デビューしたての柄本時生(えもとときお)、落合モトキら同世代の役者のなかで、若葉は一番落ち着いて見えたという。 「まあ、みんな大変でしたよ。芝居しようとするから。自然なのが欲しかったんだけどね」(廣木)  若葉も振り返る。 「廣木さんがどれだけ凄(すご)い人かもわかってなかったんですが、やってみたら大衆演劇とは手触りも求められるものも全く違った。全然OKが出なくて『違う、違う』って言われ続けてたとき、廣木さんに言われたんです。『わかりやすい演技なんて必要ない。演技じゃなくて、お前の生きてきた14年間を見せてくれればいいんだよ』と」  わけがわからず、半ば「どうにでもなれ」と決められた段取りを無視して、ぷいと外に出た。するとカメラが自分についてきた。台本通りではないやりとりが自然に生まれたとき「オッケー!」の声がかかった。その瞬間、演じることを嫌ってきた14年間を救ってもらえた気がしたという。 「お前自身でいいんだよ、お前が必要なんだよ、と言われた気がして」(若葉)  以降、映画に興味が湧いてきた。自宅から自転車を飛ばし、吉祥寺バウスシアターに通い、映画を観るようになる。 (文中敬称略)(文・中村千晶) ※記事の続きはAERA 2023年12月11日号でご覧いただけます
人との食事が苦痛なのは「会食恐怖症」? 「完食指導」が発症きっかけの6割 経験者の心理カウンセラーが解説
人との食事が苦痛なのは「会食恐怖症」? 「完食指導」が発症きっかけの6割 経験者の心理カウンセラーが解説 ※写真はイメージです(写真/Getty Images)   コロナが5類感染症へ移行し、はじめて迎える年末。忘年会・新年会が増えることは想像に難くないが、意外と気乗りしない人も多いだろう。その背景には、気分や協調性の問題以外に、社会不安症の一種である「会食恐怖症」の存在も。自身も会食恐怖症を経験したことのある心理カウンセラーに、代表的な症状や原因、対処法について聞いた。 *  *  *  誰かと一緒に食事をすることに対して、強い不安感・緊張感を抱く「会食恐怖症」は、深刻化すると、社会生活に支障をきたすこともある。日本会食恐怖症克服支援協会の代表理事を務める山口健太さんが会食恐怖症を発症したのは、高校1年生の時。きっかけは部活動での食事指導だった。 日本会食恐怖症克服支援協会の代表理事で、自らも会食恐怖症経験者の山口健太さん   「体づくりの一環として、大量の食事を食べる指導がありました。でも、子どものころから小食だった僕は、食べなきゃいけないという緊張も相まって、ノルマの量が食べられず……。合宿の食事の前に、部員たちの前で指導者から注意を受け、それから『完食できなかったらどうしよう』と思うようになりました」  山口さんは、会食恐怖症に陥る根本的な原因を自己肯定感が低いことにあると分析している。その上で、食事場面での嫌な出来事がトラウマとなるケースが多い。  また、会食恐怖症などの社会不安症は10代半ばの思春期に発症することが多いと言われる。山口さんは、高校の合宿以降、食事を迎える際に「完食できなかったら」と考えるようになり、徐々に食事に対して恐怖を感じるようになったという。そして、誰かと食事をすることを考えると吐き気を催すなどの「予期不安」や、食事中に食べ物がのみ込めない嚥下(えんげ)障害などを引き起こした。 「高校時代の一番の親友とだけは不安なくお昼ごはんを食べることはできましたが、初対面の人や交流の少ない人との食事には緊張しました。家族との外食も行きたくありませんでした」  会食恐怖症からくる身体症状には、上記のほかに手の震え、動悸などがある。食事に対する恐怖心が強くなると、ビジネスシーンでの会食に参加できなくなり、同僚や上司とのコミュニケーション不足などから自身の立場に不利益が生じる可能性もあるという。一方のプライベートでは、異性との食事ができないためデートに行けず、なかなか恋人ができないという問題も発生することが考えられる。就活中の学生であれば、人と食事をしない職を選び、将来の選択肢を狭めてしまう可能性も。  会食恐怖症とは、その人の生活だけでなく将来にまで影響する病なのだ。 一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会が行ったアンケート調査では、当事者の62.5%が「学校や家庭における『完食指導』が会食恐怖症の発症のきっかけとなった」と回答している   約5年をかけて自力で改善、きっかけはバイト先の理解  山口さんが会食恐怖症克服をはじめたのは、高校3年生の時。そもそも内向的な性格が原因で、自分に自信が持てないのが悩みだったという。 「大学に入る前に、自己肯定感を鍛える必要があると感じたので、セルフ・コンパッション(他者を思いやるように自分自身を大切に扱うこと)を実践しはじめました。そのおかげもあって、人前で完食はできなくても、とりあえず大学の新入生歓迎会などの会食には参加できるようになりました」  入学後、大学の先輩に紹介された飲食店でバイトをはじめた。そこでは全員で賄いを食べる習慣があり、ふと脳裏にバイトを辞めることが浮かんだ。しかし、勇気を出して、会食が苦手なこと、小食であることを伝えると、「大勢での食事は緊張するよね。量も無理して食べなくてもいいよ」と予想外の言葉が返ってきた。 「それまでは『残してはいけない』と思いながら生活していたので、『食べなくてもいい』と言われたことに衝撃を受けました。おかげで賄いで緊張することはなく、少しずつ食べられる量も増えていきました」  山口さんは、5年ほどかけて会食恐怖症を自力で克服していったが、精神科医などを受診する場合は、薬物療法と認知行動療法のどちらかを選択する(あるいは併用する)のが一般的だ。   「薬物療法は出てしまった症状を抑えることが目的なので、根本的な改善には近づきにくいでしょう。一方の認知行動療法とは、『考え方を変える』訓練をする治療法です。具体的には、会食恐怖症に悩む多くの人が持っている『出された食事はすべて食べなければならない』等の前提を変えるのです。この食事に対する前提条件がなくなれば、『完食しなくてもいい』と思えるようになり、緊張や焦りからくる症状が出にくくなります」  治療にかかる時間は、人によって異なる上に根気も必要だが、しっかり治療したい場合は、認知行動療法を視野に入れてもいいだろう。  また、山口さんのように自力で改善したい場合は、ハードルの低い食事行動から挑戦してみるといいそう。 「緊張度30~40%くらいの行動から挑戦してみるといいと思います。例えば、『異性との一対一の食事』は緊張度100%だけど、『ひとりで定食屋さんに行く』のは30%という場合は、それほど緊張しない後者を何度か繰り返してみます。すると、そのうち慣れてきて緊張度が下がっていきます。自分で克服できたと思ったら、次に緊張する『バイト仲間との食事』などにチャレンジしていく。これを繰り返して、難易度の低い食事シーンから克服していきました」 周囲に合わせすぎないことが大切  会食恐怖症の一番の敵は、食事に対する恐怖心だ。「もしかしたら、自分も会食恐怖症なのではないかと感じたら、自分自身を追い込まずに『完食しなくてもいい』『残してもいい』と慰めて、心を落ち着かせるように心がけたい」と山口さん。  一方、まわりの友人が会食恐怖症の場合は、あまり気を使わなくていいそう。「『あなたが食べないなら私も食べない』となると、当事者は罪悪感を持ってしまいます。なので、まわりの人は自由に食事を楽しんでほしいですね。また、『無理に食べなくてもいいからね』『私はすごい食べちゃうけど、気にしないで』と付け加えると当事者は安心できるかもしれません」と続ける。  最後に、自身の子どもが会食恐怖症の場合は、「うまく担任に相談して、なるべく子どもが安心して給食が食べられるよう、お願いするのが大事です。家庭では、無理に食べることを迫らない、せかさない、不安はきちんと聞くの3原則を守りましょう。また、親の不安は子どもにも伝染するので、マイナスに捉えすぎないこともポイントです」  日本人は「出された食事はすべて食べる」ことを美徳とするが、会食の目的は決して完食することではない。「無理して食べなければ」と思いすぎず、なおかつ、自身が感じている不安をシェアすることで、会食への参加が楽しくなるかもしれない。 (文/安倍季実子)
咳だけが8週間以上治らないのは「咳ぜんそく」? 放置すると「ぜんそく」に移行も【症状チェックリスト】
咳だけが8週間以上治らないのは「咳ぜんそく」? 放置すると「ぜんそく」に移行も【症状チェックリスト】 ※写真はイメージです(写真/Getty Images)   咳(せき)は身近な症状といえるでしょう。飲み物や食べ物にむせたり、冷たい空気を吸い込んだりすると咳が出るもの。これは空気の通り道である「気道(気管支)」の粘膜が刺激を受けて起こる、防御反応の一つです。また、かぜやインフルエンザなどでは発熱やのどの痛み、頭痛とともに咳の症状が表れます。咳の多くは一過性のもので、感染症が治れば咳も治まっていきます。しかし、「咳が残っている」「咳だけ治らない」という状態が8週間以上続くなら、「咳ぜんそく」かもしれません。  この記事は、週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院」編集チームが取材する連載企画「名医に聞く 病気の予防と治し方」からお届けします。「咳ぜんそく・ぜんそく」全3回の1回目です。 *  *  *   夜間から早朝の乾いた咳が特徴  かぜやインフルエンザでは咳に悩まされることは多いもの。感染症による咳は一般的に3週間以内で治まり、これを「急性咳嗽(がいそう)」と呼んでいます。時にはそのあと、後遺症のように咳が残ってもほとんどは8週間以内に改善されます。しかし咳が8週間を超えて続く「慢性咳嗽」になると、「咳ぜんそく」が疑われます。  咳ぜんそくになると気道(気管支)が過敏になり、慢性的な炎症が起こります。そのため、ちょっとした刺激で咳が出てしまうのです。とくに夜間から早朝にかけて、痰(たん)を伴わない乾いた咳が出やすいのが特徴です。患者のなかには、「咳のために眠れない」と不眠を訴える人も多くみられます。  また、花粉やダニが増える時期などに症状が表れやすく、「毎年、この時期に咳が出る」と、季節によって変化するのも特徴的です。季節だけでなく、日々の気圧の変化、温度・湿度の変動などでも、咳が出たり、症状が強くなったりします。   アレルギーの関与が大きい  では、どのような人が咳ぜんそくにかかりやすいのでしょうか。  咳ぜんそくの気道の炎症には、アレルギー性鼻炎や花粉症などの「アレルギー性疾患」が大きく関与しています。咳ぜんそく患者の約6割が、なんらかのアレルゲン(アレルギー症状を起こす物質)に対する抗体をもっています。これを「感作」といいます。そのため、季節によって症状が強くなるという特徴がみられるのです。  一方、残りの約4割の咳ぜんそく患者は、アレルゲンへの感作がなかったり、それまでアレルギー性疾患の病歴がなかった人です。この場合の発症のきっかけとして最も頻度が高いのは、かぜやインフルエンザなどの感染症です。感染症が治ったあとも気道の炎症が治まらず、咳だけが続いてしまいます。季節による症状の変動はあまりありませんが、新たに呼吸器感染症にかかることや、天候の変化や運動、喫煙などによって症状が誘発されます。  名古屋市立大学呼吸器・免疫アレルギー内科学分野教授の新実彰男医師はこう話します。 「咳ぜんそくの発症には、患者さんのもつ『気道過敏性』が関与しています。アレルギー性疾患がなくても、気道が過敏な人では咳ぜんそくのリスクが高くなります。気道過敏性は生まれもっての体質によるところもあると考えられています」  症状の引き金として、ダニ、ハウスダスト、花粉、ペットの毛など、患者にとってのアレルゲンに触れること(曝露)、気圧や温度・湿度などの変化、感染症、過労やストレス、睡眠不足など患者の体調が挙げられています。   アレルゲンテストや呼気NO検査がおこなわれる  咳ぜんそくの診断では、問診や聴診、胸部X線検査のほかに、呼吸機能検査、「アレルゲンテスト」や、気道の炎症の程度をみる「呼気一酸化窒素(NO)検査」などがおこなわれます。 ▼問診  問診は重要で、咳の様子、息苦しさの有無、呼吸をするときにぜいぜいする(喘鳴、ぜんめい)かどうか、感染症の有無、アレルギー性疾患を中心とした病歴、家族に咳ぜんそくやぜんそく、アレルギー疾患をもった人がいるかどうか、生活環境などをくわしく聞きます。  慢性咳嗽を起こす、そのほかの原因疾患を見分けるためにも、問診は重要です。胃酸の逆流で咳が出る「胃食道逆流症」、蓄膿症に合併する気管支炎である「副鼻腔気管支症候群」などが考えられますが、咳ぜんそくにこれらの疾患を合併している場合もあります。 ▼呼吸機能検査  思い切り息を吸ったり吐いたりする「スパイロメトリー」という検査で、肺活量や、気管支がどれくらい狭くなっているか(「気流閉塞」といいます)を調べます。 ▼アレルゲンテスト  アレルゲンが不明な場合には、血液検査などでアレルゲンを調べます。 ▼呼気NO検査  気道に炎症があると、呼気(吐き出した息)の中のNOの濃度が高くなることがわかっています。呼気中のNO濃度を測定して、炎症の強さを測ります。マウスピースをくわえてゆっくり息を吐く検査なので、痛みや負担はありません。   生活の見直しと気管支拡張薬で改善  咳ぜんそくの治療では、まず症状の誘因となるアレルゲンを除去することが基本となります。そのうえで、薬物療法がおこなわれます。  薬物療法では、炎症を抑える「吸入ステロイド薬」と、炎症を起こして狭くなっている気管支を広げる「気管支拡張薬」を併用します。気管支拡張薬を用いることで咳が改善されれば、咳ぜんそくと確定診断をつけることもできます。いずれも、専用の器具を使って吸入するタイプの薬で、両者が一つの器具に入った「配合剤」もあります。  そして、生活習慣の改善も大切です。かぜやインフルエンザなどの感染症予防をしっかりする、禁煙、過労やストレスを防ぐ、規則正しい生活を送って体調を崩さないなどが、症状を悪化させないために必要となります。  合併しているアレルギー性疾患を改善すると、咳ぜんそくが軽快することも少なくありません。 「アレルギー性鼻炎は咳ぜんそく患者さんの約50%に合併しています。鼻炎や、鼻炎から起こる鼻茸(はなたけ)を治療すると、咳ぜんそくも改善されることが多いです」(新実医師) 症状のコントロールで、変わらない生活が送れる  咳ぜんそくは慢性の病気で、治ることは少ないとされています。治療によって咳が出なくなっても、気道過敏性や気道の炎症は残っているからです。しかし、適切な治療によって気道の状態をコントロールできれば、通常の生活を送り、趣味やスポーツを今まで通り楽しむことができます。長期間にわたって悪化しないようであれば、薬の中断が可能になる場合もあります。  では、コントロールがうまくいかないとどうなるのでしょうか。  咳ぜんそくは名前にもあるように、「ぜんそく」にきわめてよく似た病気です。ぜんそくでは気道の炎症は咳ぜんそくよりも重症で、気管支の内径が小さくなって、空気の通り道が狭くなっています。そのため、咳ぜんそくではみられない息苦しさや喘鳴が表れます。咳ぜんそくを放置したり、治療を中断してしまったりすると、なかにはぜんそくに移行するケースもあります。 「8週間以上咳が続くことが診断の目安となっていますが、患者さんはどれくらいの期間続いているか思い出せないことも多いでしょう。一定期間、咳に悩まされ、自然によくなる傾向がなければ、まずは内科などのかかりつけ医に相談することをおすすめします」(新実医師) (取材・文/別所文)   【取材した医師】 名古屋市立大学医学研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学分野教授 新実彰男(にいみ・あきお)医師 1985年 京都大学医学部卒。英国インペリアル・カレッジ・ロンドン留学、京都大学大学院呼吸器内科学准教授などを経て、2012年名古屋市立大学大学院腫瘍・免疫内科学教授、14年から現職。22年からは同大病院副病院長も兼任。専門は呼吸器内科学、アレルギー学。「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」「喘息予防・管理ガイドライン2021」などの作成に携わる。日本内科学会理事、日本呼吸器学会理事、日本咳嗽学会理事長。 名古屋市立大学医学研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学分野教授 新実彰男医師 名古屋市立大学病院 愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1   連載「名医に聞く 病気の予防と治し方」を含む、予防や健康・医療、介護の記事は、WEBサイト「AERAウェルネス」で、まとめてご覧いただけます。
「視聴率」70%超え!? 中国地方のローカルチャンネルはなぜ人気 「住民参加型」で成功した理由
「視聴率」70%超え!? 中国地方のローカルチャンネルはなぜ人気 「住民参加型」で成功した理由 家事や仕事に忙しいお母さんを助ける「お助け戦隊テゴスンジャー」=大山チャンネル提供   「テレビ離れ」が言われて久しい。ところが、中国地方にある小さな町では「住民の7割」が視聴するケーブルテレビのチャンネルがある。高齢者だけではない。子どもから若者までもが楽しんで見ているという。何が起きているのか。  鳥取県の西部に位置する大山町。同町が運営するケーブルテレビ局「大山チャンネル」は、町民の“視聴率”が70%強だという。  大山チャンネルでナレーションを務める入澤佳奈さん(34)は、8年前から番組を支えてきた。入澤さんが言う。 「私はケーブルテレビの局員ではなく、大山町で暮らす2児の母です。声の仕事に憧れていて、ある日突然、お誘いを受け、チャレンジしてみようと思い、今にいたっています」  大山町は人口が1万5072人、世帯数は5606(ともに2023年12月1日時点)の小さな町だ。大山チャンネルでは25分の構成で、月に3本番組が制作される。大山チャンネルの特徴は「超住民参加型」ということ。 「密着 公務員24時!!」」=大山チャンネル提供 住民トークバラエティ「まちづくり その手があったか」」=大山チャンネル提供    番組には出演者はもちろん、カメラマンから音響効果、大道具といった裏方まですべて住民が担当する。中学生が番組の指揮を執るディレクターを務めたり、シニア女性がリポーターとして住民にインタビューしたりする。 「ナレーターをやるにあたって最初は緊張しました。今では生活の一部となっています。顔はあまり出ないですが、町のイベントなどで私の名前が呼ばれると『大山チャンネルでしゃべっている人ですよね。いつも見ています』と声をかけられることもあります」(入澤さん) 「人それぞれの幸せの形を見つめます」――。そんな言葉から始まるのは、人気コーナーのひとつである「大山ワンダーライフ」。このコーナーで入澤さんはメインナレーションを務めており、あえてプレハブ小屋に住むなど、“ユニークな暮らし”をする人を紹介している。  このほかのコーナーも地域の興味関心に応えるものが多く、地元のヤンキーのその後を追った特集や、ご近所同士のトークバラエティーなどもある。なかには住民に飼っているウーパールーパーへの愛情をひたすら語ってもらったり、カラオケ好きなシニア男性に歌う機会を提供したりすることも。 リポーターとして参加する住民」=大山チャンネル提供 撮影を手伝う中学生」=大山チャンネル提供    地域の課題に取り組むコーナーもある。異物によるトイレ詰まりが多発したため町の下水担当職員に密着する内容を放送した後は、実際にトイレ詰まりの件数が少なくなったという。多くの地域住民が大山チャンネルを見ていることがうかがえる。 事故の真相に迫る  さらにはスクープも。ある日、地域住民らが同県米子市との境界にある孝霊山(標高751メートル)で70年前に墜落した米軍機のエンジンの一部とみられるものを見つけた。事故に関する資料はまったく残っていなかったが、町民の証言を頼りに現場を捜索するなどし、事故の真相に迫った。  大山町役場の総合戦略課によれば、2021年度に実施した「地域情報に関するアンケート」では、7割の住民が大山チャンネルに満足していると回答した。またこの調べでは、町民のテレビ週間接触率は74%を記録した。  この大山チャンネルを引っ張るのが、東京から大山町へ移住してきたプロデューサーの貝本正紀さん(48)だ。  早稲田大学を卒業後、東京都内に本社を置く番組制作会社へ就職。NHKや民放各局の、数多くのドキュメンタリー番組を制作してきた。取材でたまたま大山町を訪れたことがきっかけで移住を決めた。貝本さんは話す。 「被災地などを取材していると、『あなたたちは取材はするけど、地域に役立つ情報はあんまり伝えてくれないよね』と言われた経験がありました。停電はいつ回復するのか、スーパーはいつ開くのか。そんな生活に役立つ情報が知りたいと。その地域の人に喜ばれるメディアってなんだろうと考えていた時期に、大山町と出会いました。住民が地域のために奮闘する姿を見て、テレビの力で何かできないかなと思い、2015年に移住したんです」 小学生もナレーターとして参加」=大山チャンネル提供 高校生カメラマン」=大山チャンネル提供    大山町はそのころ、ケーブルテレビの運用に悩んでいたという。大山町は2006年にケーブルテレビの運営を開始し、設備に約30億円を投資した。2015年までは行政職員が制作・放送を担当。行政情報や議会中継などの放送が中心で、番組の内容の充実度は欠けていたという。 いろんな仕事がある  大山町から町営ケーブルテレビを任されることになった貝本さんは、小さな町でこそ、住民参加型のメディアができると考え、出演や制作に関わってくれる人を探したという。 「地方って、都会と異なり地域のつながりがもともと強い。みんな顔見知りだったりもします。テレビを見るきっかけとして、住民たちに出てもらったり、番組づくりに加わってもらったりするのはどうかなと思いました。普段テレビを見なくても、自分の家族や友人が出演していれば見たくなりますよね。テレビには、撮影や編集だけでなく、ナレーター、レポーター、美術、デザインなど、いろんな仕事があります。『声が綺麗だね』と言われたことがあったり、声の仕事に興味があったりして、テレビの仕事に興味がある人たちって結構いるんですよね」  大山チャンネルは1回の番組を約10日間で仕上げる。「『あんな面白い人がいるよ』など、住民とのふとした会話から企画につながることが多い」と貝本さん。自ら企画を立案するほか、住民からの提案を受けることも多いという。取材、撮影、編集の過程で気をつけていることがあるという。 「一部の人ばかりにお願いすることは絶対にしません。常連の住民も絶対につくらない。あくまでみんなに参加してもらう番組なので、そこを気をつけないとこの番組は終わってしまう」  とはいえ、番組制作や出演に慣れていない新しい人を起用し続けることは、作品として番組の不完全さにもつながる。ただ、貝本さんは「完璧じゃなくていい」と強調し、こう続ける。 「不完全さを残すことが必要。そうすることで、番組制作や出演で誰でも自分の持ち場や居場所を見つけることができるから」 番組の編集に挑戦する中学生」=大山チャンネル提供     住民による番組企画会議」=大山チャンネル提供   町長も番組に出演 「地域住民のコミュニケーション量が確実に増えていると感じます」  こう語るのは、竹口大紀大山町長(41)。2017年4月から現職を務めている。竹口町長自らも番組に出ることが多いという。2022年1月には、大山町の課題などを若者視点で議論する新成人とのトークショーで司会を務め出演した。  竹口町長によれば、「全国のケーブルテレビ局から、制作現場の研修に来る人も増えている」という。大山チャンネルの人気の理由について、竹口町長はこう語った。 「自分も出る可能性がある。自分の知り合いが出ていた。作る側と見る側の垣根がいい意味で曖昧になっているのが、高視聴率になっている一つの要因では」 個性的な番組告知ポスター」=大山チャンネル提供    これまで何度も大山町を訪れ、地域づくりの研究を行ってきた第一生命経済研究所ライフデザイン研究部の稲垣円客員研究員は、「制作出演を通して、住民はスキルを身に付けたり、自分の特技や好きなこと、日々の成果を披露して住民を楽しませたりすることができる。こうした成功体験を積む機会がどの人にもある。それが大山チャンネルの強み」と話す。 「地方創生やインバウンド需要を背景に、地方を軸としたメディアが増えてきました。地方紙やコミュニティーFM、ケーブルテレビといったコミュニティーメディアは、触れてきた人も多い。誰もが多様な方法で参加できる大山チャンネルは地域の活性化を目指すうえで、有効な方法といえます」  稲垣客員研究員が続ける。 「知っている人が番組に出ていたり、自分たちで作っていたりするため、住民同士に会話が生まれる。住民同士もどんどん顔見知りになっていく。こんな楽しみを自給しながらつながるシステムがいま地域創生の場としても求められています」 (AERA dot.編集部・板垣聡旨)  
貧困家庭でも勉強する気がない生徒には「来るな」 子どものやる気だけが“月謝”の「無料塾」の挑戦
貧困家庭でも勉強する気がない生徒には「来るな」 子どものやる気だけが“月謝”の「無料塾」の挑戦 「八王子つばめ塾」を運営する小宮位之氏   「無料塾」とは、読んで字のごとく、子どもたちから授業料を一切取らず、ボランティア講師が無料で勉強を教える塾だ。八王子にある無料塾「八王子つばめ塾」を運営する小宮位之氏は、これまで300人以上の貧困家庭の子どもたちの学習を支援してきた。子どもに求めるのは勉強へのやる気のみ――それだけが「月謝」の代わりとなる。無料だからといって質が低いわけではない。むしろ、有料塾以上の価値を得られる可能性もあるが、やる気のない生徒には厳しさもある。小宮氏が追求する「無料塾」の理想形とは。『「無料塾」という生き方』(ソシム)より一部を抜粋、編集して掲載する。 *  *  * 入塾できる3つの条件  私が運営する八王子つばめ塾の講師は、全員がボランティアで構成されています。交通費は自己負担で、アルバイト代も受け取らないボランティアの講師が、子どもたちを無料で導いてくれています。教室は、八王子市の公民館や病院、市内の寺院が地元市民のために活動場所として提供するビルの1室などを使わせていただいています。  講師だけでなく運営や事務も、すべてボランティアスタッフのサポートと寄付金によってまかなわれています。2012年のスタート以来、資金や物品を含めるとのべ200人以上の方から寄付をいただきましたが、初めての寄付は八王子つばめ塾の卒業生からでした。この2千円は今でも私の心の中に、温かいものをもたらしてくれています。  八王子つばめ塾に生徒が入塾するには、次に掲げる3つの条件があります。 ・ご家庭が経済的に困難であること ・ほかの有料塾、家庭教師に習っていないこと ・本人に勉強をする気があること  この3つの条件をすべて満たさないと、入塾はできません。 「八王子つばめ塾」の教室風景   入塾面談で「やる気」を確認  勉強へのやる気は、入塾面談の際に「今、八王子つばめ塾の説明を聞いて、見学もしてもらいましたが、ここで、頑張ってみようと思いますか?」と必ず確認します。大半の生徒はここで、「うん」とうなずくので、入塾許可を出しますが、中には「うーん」と渋る子もいます。  そうしたら、「分かりました。無理に入塾してもらうことはありません。お母さんとよく話しあって、連絡をください」と返します。あくまでも本人に「勉強しよう!」というやる気がなければ、決して長続きしないからです。  また、年に一度、生徒たちにはこう話しています。 「いいかい、君たちに『勉強したい』という熱意があるから、私や大勢の講師がここにいるのであって、君たちが勉強しないのであれば、今すぐこの塾をやめてもらってかまわない。君たちからは1円ももらっていないし、君たちのほかにもここで勉強をしたい子どもたちが待っているんだから。やる気のない生徒が席を埋めているのであれば、待っている生徒に申し訳ない。だから、もしここで寝るのであれば、家で寝てくれ」  すると、生徒も表情が変わります。「小宮先生が怒っている。これは勉強しないとヤバい」と思っているかもしれません。もし、生徒の保護者からお金をもらっている有料塾ならば、授業中に居眠りをしていてもむやみに追い出されることはないでしょう。八王子つばめ塾は「やる気」だけが、生徒からもらうもの、いわば「月謝」です。やる気という「月謝」を持ってこない生徒は来てくれるな、とはっきり言えるのです。 寺院から提供されている教室の様子   「無料」が秘める可能性 「無料で運営することの難しさ」についてよく聞かれますが、強いて言えば、ボランティア講師や会場の数が限られているために授業のコマ数を増やせないことくらいで、無料だから難しいとは感じていません。むしろ無料でやっているからこそ、有料塾にはない可能性が秘められているのです。  市場経済の理屈で考えれば、無料塾で提供している0円の教育には、価値がないように見えるかもしれません。確かに世間では1万円を出せば1万円相当の、5千円を出せば5千円相当のサービスやものが手に入ります。支払った費用に相応する価値があると思ってお金を出すのが当たり前です。  しかし、八王子つばめ塾で教えてくれている講師には、普通の有料塾で教えを受けたら、いくら必要になるか分からないほどの経歴を持つ方もいます。例えば、大手の自動車メーカーや総合IT企業で管理職向けのTOEIC講座を担当するプロの英語講師の方もいます。必ずその講師に当たるかは、くじ引きみたいなもので分かりませんが、有料塾で教えてくれる講師よりも、ともするとポテンシャルの高い先生に教えてもらえる可能性があるということです。少なくとも、無料であるがゆえに、有料の塾以上の価値を得られる可能性があるのです。  つまりハイリスク・ローリターンの可能性はゼロで、ノーリスク・ハイリターンの可能性さえあるのです。 ※【中編】<貧困家庭を救う「無料塾」をつくった37歳会社員がまさかの“貧困”に…立ち上げ1年の壮絶なバイト生活>に続く(12月4日公開) ●小宮位之(こみや・たかゆき)/認定NPO法人八王子つばめ塾理事長。1977年東京都生まれ。貧困家庭に育つ。都立南多摩高校、國學院大學文学部史学科卒業。私立高校の非常勤講師や映像制作の仕事を経て、2012年に無料塾である「八王子つばめ塾」を設立。翌年、NPO法人化。塾創設以来11年間で、300名を超える卒業生を高校や大学に送り出す。無料塾を立ち上げたいという個人への助言活動も精力的に行い、全国で50か所以上の無料塾の立ち上げをサポート。現在は、NPO法人東京つばめ無料塾の理事長を兼任し、東京薬科大学と私立高校で非常勤講師を務める。
これがなければ自動運転車は超危険! GPSを脇役にしたベイズ統計学とは
これがなければ自動運転車は超危険! GPSを脇役にしたベイズ統計学とは ※写真はイメージです(Getty Images)    近年、ビジネスのさまざまなシーンで統計学が使われるようになった。特に、人工知能の分野で注目されているのが「ベイズ統計学」だ。これは18世紀にイギリスの牧師トーマス・ベイズによって作られた統計学だが、なかなか応用される機会がなく、21世紀になりコンピューターの発展と共に一気に実用化が進んだ。インターネットの検索エンジンや迷惑メールフィルタ、AIによる自動運転、お客さんが商品を買う確率の予測、がん検査など、多くの分野で応用されている。冨島佑允氏の新著『東大・京大生が基礎として学ぶ 世界を変えたすごい数式』(朝日新聞出版)では、この「ベイズ統計学」について記されている。一部を抜粋、再編集し、紹介する。 *  *  * 【連載を読む】 #1 人々の「儲けたい」に応える数式「利益÷株主資本」の秘密とは #2 コンピューターが単語の意味を理解する基礎はこれだ #3 なぜ人は「損切り」ができないのか 人間の不合理さの中にある法則“プロスペクト理論” #4 “キリストの復活”が起きる確率は 奇跡を立証するために牧師が導き出した「ベイズ統計学」 #5 これがなければ自動運転車は超危険! GPSを脇役にしたベイズ統計学とは 事前確立と事後確率  迷惑メールフィルタにはベイズ統計学が応用されていて、「このメールが迷惑メールである確率は〇〇%である」というふうに分析結果を確率として出力します。このようにベイズ統計学では、分析した結果を確率として出力します。  ベイズ統計学は、新しいデータを学習することで今までの分析をアップデートしていくのが特徴です。ですので、新しいデータを読み込む前の分析結果(=確率)を「事前確率」、新しいデータを学習した後の分析結果(=確率)を「事後確率」と呼んで区別しています。 【こちらも話題】 “キリストの復活”が起きる確率は 奇跡を立証するために牧師が導き出した「ベイズ統計学」 https://dot.asahi.com/articles/-/207324  新しいデータを読み込む前(事前)か後(事後)かで、分析結果を明確に区別しているということですね。  このベイズ統計学は、絶え間なく追加される膨大なデータを次々と処理・判断していく現代のAIを支える重要なテクノロジーになっています。  というと何やら複雑な数式が出てくるのかと警戒してしまいますが、何のことはありません。数式を見ていただくと、単なる掛け算になっています。 ベイズの定理 事後確率=新しいデータの影響×事前確率  この式は「ベイズの定理」と呼ばれていて、ベイズ統計学の根幹を成す重要な数式です。新しいデータの影響を掛け算するだけで確率をアップデートできてしまいますよということです。  この定理の便利なところは、事後確率を計算してしまったあとは、計算のもとになったデータはもう不要になるという点です。  従来の統計学では新しいデータがくると、それをもともとあったデータに加えて計算をやり直す必要がありました。  それはつまり、もともとあったデータを全てとっておかないといけないということです。  そのデータ量が少なければ何も問題はないのですが、今はビッグデータ時代で、膨大なデータが際限なく生み出されています。新しいデータがやってきたときのためにそれらを全部とっておけと言われてしまったら、コンピューターの記憶容量がいくらあっても足りません。 【こちらも話題】 なぜ人は「損切り」ができないのか 人間の不合理さの中にある法則“プロスペクト理論” https://dot.asahi.com/articles/-/206554  しかし、ベイズの定理では、新しいデータを使って事後確率を計算してしまえば、そのデータはもう捨ててかまわないのです。  このため、コンピューターの記憶容量を節約できます。  さらに、このベイズの定理は繰り返し使えます。  つまり、新しいデータに基づいて事後確率を計算したあと、さらに新しいデータが入ってきたら、その事後確率を事前確率とみなしてベイズの定理をもう一度当てはめればOKです。  そうやって、新しいデータが入ってくる度に予測をアップデートしていくことが可能です。そして計算後は、そのデータをどんどん消していけばいいのです。  新しい経験(=データ)から学んでいくという点は、人間の学習とも似ていますね。  受験対策は教科書を読むだけでは不十分で、模試や過去問を解く経験を積むことで力をつけていきます。スポーツだって、ルールを学んだだけで上手にプレーできるわけではなく、試合の経験を重ねることで上達していくでしょう。  ベイズの定理は、このような経験の重要性を伝えています。ベイズの定理が捉えている本質は、“経験から学べば賢くなれる”ということです。 GPSを脇役にしたベイズ推定  ここで応用例を紹介しましょう。日常生活で素早い判断が要求される状況といえば、車の運転が最たるものとして挙げられます。 【こちらも話題】 生成AIはなぜ言葉を理解できるのか? コンピューターが単語の意味を理解する基礎はこれだ https://dot.asahi.com/articles/-/206077  時速数十キロというスピードで移動しながら、周囲の状況を見て的確に判断していかなければたちまち事故につながってしまいます。  こうした「運転」というタスクは、従来は人間にしか行えないものでしたが、近年になってAIが代わりに運転してくれる自動運転車の研究開発が進んでいます。この、自動運転車に搭載されているAIにはベイズ統計学が応用されています。  自動運転は、車間距離や歩行者の動きなど次々と入ってくる新しいデータを学習しながら判断(=運転)していく必要があるので、ベイズ統計学と相性がよい分野なのです。  車間距離を保ちつつ、対向車線にはみ出さないよう安全に走行するために必要なのは、車体の現在位置の正確な把握です。  自動運転車には、ビデオカメラやレーザー・レーダー(レーザーを使って障害物を検知する機器)など、周囲の状況を感知できるいろいろな種類のセンサーが搭載されていて、車に内蔵されているAIがそれらのセンサーから届けられる情報をもとに車体の現在位置を把握しています。  GPS(全地球測位システム)の位置情報も利用していますが、あくまでセンサーからの情報が主役でGPSは脇役です。 【こちらも話題】 人々の行動を変える“数式”の力 「儲けたい」に応える数式「利益÷株主資本」の秘密とは https://dot.asahi.com/articles/-/205354  というのも、はるか上空のGPS衛星から得られる位置情報は誤差もそれなりに大きく、自動車の運転というタスクに用いるには精度が粗いからです。そのため、GPSでは大まかな位置の把握を、センサーで細かい位置の把握を行っています。  ただし、センサーから送られてくるデータにはノイズ(ブレや乱れ)が含まれているので、この情報だけでは細かい位置の把握を十分な精度で行うことはできません。  そこで、自動運転車のAIは、自分自身が出した運転の命令に基づいて位置の推論(先ほど右に30cm移動するように命じたから、今は30cm動いているはずだ、といったように)を行い、それをセンサーのデータと照合することで精度を上げています。  車が動くと、すべてのセンサーから、どんどん新しいデータが入ってくるので、AIはこれらを使って、随時新しい現在位置を推定し、それが“本当の現在位置”に一致する確率をはじき出していきます。ここで使われているのがベイズ統計学なのです。 【連載を読む】 #1 人々の「儲けたい」に応える数式「利益÷株主資本」の秘密とは #2 コンピューターが単語の意味を理解する基礎はこれだ #3 なぜ人は「損切り」ができないのか 人間の不合理さの中にある法則“プロスペクト理論” #4 “キリストの復活”が起きる確率は 奇跡を立証するために牧師が導き出した「ベイズ統計学」 #5 これがなければ自動運転車は超危険! GPSを脇役にしたベイズ統計学とは ●冨島佑允(とみしま・ゆうすけ) 1982年福岡県生まれ。京都大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修了(素粒子物理学専攻)。MBA in Finance(一橋大学大学院)、CFA協会認定証券アナリスト。大学院時代は欧州原子核研究機構(CERN)で研究員として世界最大の素粒子実験プロジェクトに参加。修了後はメガバンクでクオンツ(金融に関する数理分析の専門職)として各種デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当、ニューヨークのヘッジファンドを経て、2016年より保険会社の運用部門に勤務。2023年より多摩大学大学院客員教授。著書に『日常にひそむ うつくしい数学』(朝日新聞出版)、『数学独習法』(講談社現代新書)、『物理学の野望――「万物の理論」を探し求めて』(光文社新書)などがある。
秋篠宮さま58歳 なぜ歯切れが悪い宮邸改修問題「全体像を隠していると思われても仕方ない」と元宮内庁OB
秋篠宮さま58歳 なぜ歯切れが悪い宮邸改修問題「全体像を隠していると思われても仕方ない」と元宮内庁OB 水産功績者表彰式であいさつする秋篠宮さま=2023年11月    約30億円をかけた秋篠宮邸の改修工事をめぐる批判は、おさまる気配がない。秋篠宮さまは11月30日に58歳を迎え、その会見での説明の内容が注目された。しかし、これまでの説明をほぼ踏襲し、説得力に乏しい内容だった。元宮内庁職員も「意図的にわかりづらくしているのでは」と指摘する。 *   *   * 「私自身がかなりぐずぐずしていた。非常にタイミングとして遅くなったなというのが反省点」  11月30日に誕生日を迎えた、秋篠宮さまの記者会見。宮内記者会の最初の質問が、秋篠宮邸の改修をめぐる「問題」についてだった。  また、秋篠宮さまは、次女の佳子さまが改修工事中の仮住まい先だった「分室」(旧御仮寓所)で「ひとり暮らし」をしていることを公表するまでに時間がかかったことにも触れ、 「この家のどこに誰が住んでいるということは、もともと公表していない」 「やはりセキュリティ上のこともある」  と述べた。  その一方、改修工事にあたって「経費削減」がどれだけできたか、具体的な金額が示されることはなかった。   「削減額」もナゾのまま  問題の経緯を振り返る。   改修を終えた赤坂御用地にある秋篠宮邸=2022年11月、東京都港区元赤坂    秋篠宮邸は老朽化が進んでいた一方、国内外の賓客を接遇する機会も多いことから、30億円をかけて増改築工事することになった。ご一家は、9億8千万円をかけて新築した「御仮寓所(ごかぐうしょ)」に、2019年2月から仮住まいをしていた。  結婚前の長女・小室眞子さんを含めたご一家で話し合った結果、家族5人分の私室を造ると予算が増えると判断。「経費削減」のために眞子さんと佳子さまの私室は造らず、佳子さまは「御仮寓所」でそのまま「ひとり暮らし」を始めることになった。     【こちらも話題】 なぜ佳子さまの一人暮らしの理由が「税金節約」なのか 女性皇族が住む昭和な世界 https://dot.asahi.com/articles/-/196053     改修を終えた赤坂御用地にある秋篠宮邸の大食堂=2022年11月、東京都港区元赤坂    しかし、佳子さまの「ひとり暮らし」は当初公表されておらず、女性週刊誌などの報道が先行。宮内庁は旧御仮寓所に「私室部分の機能も一部残す」と説明していたが、6月末に秋篠宮家の側近である加地隆治・皇嗣職大夫が、 「増改築工事にあたり、もともと秋篠宮邸に佳子さまの私室は造られていなかった」  と、佳子さまの「ひとり暮らし」を認めることになった。  また、眞子さまや佳子さまの私室を作らないことで「経費削減」になるとの説明だったが、実際にどれだけ削減できたのか、具体的な額は明らかにされてこなかった。  宮邸の工事はすでに終わり、「御仮寓所」は「旧御仮寓所」もしくは「分室」と呼ばれている。鉄筋コンクリート造りの3階建てで、延べ床面積は約1378平方メートル。居間や食堂のほか、応接室や執務室、職員の事務室などがある。皇嗣職職員の一部が事務室として使うほか、佳子さまが私室部分に住んでいる。  どれだけ「経費削減」できたのか、そして佳子さまが「ひとり暮らし」を始めた理由についての説明はないまま、今回の秋篠宮さまの誕生日会見に注目が集まることになった。   「国民は、ごまかされたという思い」  そんななか、秋篠宮さまの誕生日会見の直前の11月22日、宮内庁の西村泰彦長官は定例会見で、唐突に宮邸の改修工事についての説明をした。  増築された部分の約66%が事務部分であり、私室部分はほとんど増加していないという内容で、 「宮内庁の判断で整備した部分の工事費が結果的に高額になってしまい、工事費用を抑えたいという両殿下のお気持ちに十分お応えできなかった」  と、秋篠宮ご夫妻を擁護した。しかし、事情に詳しい関係者も、 「本来であれば、皇嗣職大夫が行うべき話だが、皇嗣職では用をなさなかったということでしょう。いずれにせよも、中身はゼロに等しい内容だった」  と手厳しく評価する内容だった。   会見する秋篠宮さま=宮内庁提供    そして秋篠宮さまも、記者会見で「反省」を口にしたものの、新たに示された事実はほぼない内容で終わった。     【こちらも話題】 佳子さまの「ひとり暮らし」問題は、「女性皇族独立」への布石なのか https://dot.asahi.com/articles/-/195871     改修を終えた赤坂御用地にある秋篠宮邸、第三応接室=2022年11月、東京都港区元赤坂    秋篠宮さまは、佳子さまの「ひとり暮らし」を公表しなかった理由について「セキュリティ」を挙げた。しかし、どの皇族がどの宮邸や施設に住んでいるかは、理由とともに公表されている。  たとえば寛仁親王妃の信子さまは、三笠宮邸ではなく、東京・千鳥ケ淵にある旧宮内庁長官公邸だった宮内庁分庁舎で2008年から暮らしている。宮内庁は主治医の見解とともに、「直接宮邸にお戻りになると、ストレス性ぜんそくの再発の恐れがある」と理由を公表している。  佳子さまは、改修工事中の仮住まいであった分室(旧御仮寓所)に暮らし続けていた。  秋篠宮さまは「「この家のどこに誰が住んでいるということは、もともと公表していない」と主張した。しかし、佳子さまについては、宮邸ではなく別の建物で「ひとり暮らし」を続けていたことを指摘されているのだ。  前出の関係者もため息をつく。 「秋篠宮さまとしては、佳子さまが暮らす旧御仮寓所も宮邸の一部というお考えなのでしょう。だから『分室』という名称にしているのでしょうが……。抽象的な内容に終始し、消化不良の会見に終わった感は否めない。国民は、ごまかされたという思いを抱いたのではないか」   隠していると思われても仕方ない  元宮内庁職員で皇室解説者の山下晋司さんは、この問題をめぐって不可解な点が多いと首をかしげる。  「宮内庁の概算要求書でも、皇嗣職の事務棟などの新築工事が『赤坂御用地東地区周辺整備』となっており、秋篠宮家に関連する施設とはわからないような名称を用いています。意図的にわかりづらくして、全体像を隠そうとしていると思われても仕方がありません」     会見する秋篠宮さま=宮内庁提供  また、西村長官と秋篠宮さまの説明についても、煙に巻かれた感があると話す。  それぞれが宮邸の改修について、増築部分の約66%が皇嗣職職員の事務部分、約29%が老朽化した公室部分であり、住まいとなる私室部分で広がったのは約5%の72平方メートルだと説明した。72平方メートルが「ほとんど増加していない」面積かどうかは別として、山下さんは肝心な点を説明していないと指摘する。 「これは秋篠宮家の本邸に限っての話のようです。分室に佳子内親王殿下の私室部分があるわけですから、本来そこの面積もプラスしないと、増えた私室部分の面積はわかりません」    また、西村長官が、誕生日会見に先立つ定例会見で宮邸の改修工事について触れたのは、記者会見にあたって事前に提出された質問項目に含まれていたために「火消し」を狙ったものであり、質問項目に入っていなければそのまま説明されなかった、と見られる。   必要ならば説明すればいい  だが、山下さんは気になることがある。  秋篠宮さまはこれまで、皇室の慣例・慣習にとらわれない発言をしてきた。  小室眞子さんの結婚問題でもそうだった。「国民の祝福を得られない」として結婚の儀式などは行わず、眞子さんに対して皇族として結婚することを許さなかった。眞子さんと小室さんが都内のホテルで開いた結婚会見についても、 「一方向のものではなくて双方向での会見という形にしてほしかった」  と述べている。 「秋篠宮殿下のご性格を考えると、意図的に隠すようなことはなさらないと思っています。ひょっとすると殿下ご自身も周辺施設を含めた工事の全体像を把握なさっていないのかもしれません」(山下さん)  今回の改修工事は、海外の賓客を失礼なく接遇するための整備も目的のひとつだ。改修工事のやり取りは、家のことを取り仕切らなければならない紀子さまに自然と集中してしまったという声もある。  それでも山下さんは、 「皇嗣という重い立場にいらっしゃるわけですから、国として必要だと判断するなら、国民にきちんと説明をした上で工事をするべきです」  と指摘する。    いまだ着地点が見えない、宮邸の改修工事問題。歯切れの悪い説明が続く様子は、眞子さんの結婚をめぐる問題を思い起こさせる。国民が納得いく形で「決着」するのはいつだろうか。 (AERA dot.編集部・永井貴子)   【こちらも話題】 佳子さま「食事や生活は宮邸?」「不仲ではない」 秋篠宮家と親交があるジャーナリストらの「反論」 https://dot.asahi.com/articles/-/196501

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