「ののくら」の特製中華そばは一杯1250円。鶏チャーシューに豚チャーシュー、メンマ、のり、煮玉子、ワンタンの全部入りが人気だ(筆者撮影)
「ののくら」の特製中華そばは一杯1250円。鶏チャーシューに豚チャーシュー、メンマ、のり、煮玉子、ワンタンの全部入りが人気だ(筆者撮影)

■時計の営業からラーメン店へ 35歳の挑戦

 JR亀有駅から徒歩3分のところに、ミシュランガイド東京のビブグルマンを獲得した小さな店がある。「手打式超多加水麺 ののくら」だ。17年のオープン以来、店主の白岩蔵人さんがすべて手作りで作る心のこもった一杯に連日大行列ができる人気店だ。

 店主の白岩さんは東京生まれ。大学卒業後、11年のサラリーマン生活を送る。一番長く働いたのは、時計メーカーのタグホイヤーだった。ものづくりの世界に携わりたい思いから、憧れの時計業界に飛び込んだという。

 営業として時計の魅力を伝えるうちに、自分で何かを作りたい思いが強くなる。退職を決意したのは、33歳のときだった。

「ものづくりに携わるには」と考えた末、飲食の道を選んだ。白岩さんはこう振り返る

「店を大きくするのが目的ではなく、小さいことをやり続けたかった。そして、伝統ある食文化ではなく、発展途上のもので自分なりの道を作りたいと思ったんです」

 そうして頭に浮かんだのは、ラーメンだった。以来、毎日2~3軒を食べ歩き、ラーメンを研究していった。やがて、修行をしたいと感じるようになる。

 修行先選びで重視したのは、店主が毎日厨房に立ち、その腕に魅力を感じる店であること。白岩さんが食べ歩く中で特に店主の本気を感じた店は「斑鳩」「大喜」「七彩」の3店だったという。そして、修行先として選んだのは「斑鳩」だった。10年、35歳で白岩さんはラーメンの世界に飛び込んだ。

「35歳という年齢だったので、期限を決めて入りました。独立希望で、10年間働きますと言って入社させてもらいました」(白岩さん)

 ホールからスタートし、お客さんへの向き合い方から学んだ。店を出すことは、美味しいラーメンを作るだけではないということを肌で感じる日々だった。半年経つと、初めてライスを茶碗に盛らせてもらうことができた。この瞬間の喜びは今でも忘れることができないという。

「何より店主の坂井さんのカリスマ性に惚れ込みました。所作が美しく、仕事にもすべてストーリーがあって美しい。そして必ず成功まで持っていくところも本当にすごかった。とにかくプロ意識、美意識が研ぎ澄まされていて、このセンスは他の店では覚えられなかっただろうなと思います」(白岩さん)

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「坂井さんになろう」店主の挑戦