写真家・佐藤圭司さんの作品展「張碓から忍路へ-春-」が6月7日から東京・新宿御苑前のRED Photo Galleryで開催される。佐藤さんに聞いた。
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最初、作品を目にしたとき、(ずいぶん人里から離れたところだなあ)と、思ったのだが、意外にも、撮影地は北海道小樽市内の東西に広がる海沿いのエリアという。
あの小樽の街のすぐ近くに、こんな場所があるとは、まったく知らなかった。
小樽の東にある「張碓(はりうす)」と、西の「忍路(おしょろ)」という地名は、もともとアイヌ語で、それぞれ「食料・群生する」「湾」を意味するらしい。
■秘境、張碓駅
昔はニシン漁で栄えた場所で、昭和の時代までニシンの番屋が並び、漁の時期になると目の前の海に網が仕掛けられた。その名残なのだろう。古ぼけた小屋が並ぶ、なんとも寂しげな風景が続いている。
佐藤さんに撮影を始めたきっかけを聞くと、「かつて張碓にはJRの駅があったんです。時刻表に載っているんだけれど、電車が一本も止まらない駅」と、不思議なことを言う。
「えっ、それはどういうことですか?」と、たずねると、「海水浴客がそこで下りて、乗って帰る。そういう駅だったらしいです。だから周辺にまったく道がない」。
ずいぶん風変わりな駅だと思ったら、いわゆる「秘境駅」として、マニアの間では有名だったらしい。
昔は夏期のみの臨時駅だったが、乗降客がいなくなると通過駅となり、15年前、廃駅になった。
張碓駅があったという場所は、「張碓カムイコタンの断崖」と呼ばれる何キロも続く巨大な黒い崖の下にあり、「海には崖から落ちた岩がゴロゴロしているんです。冬に行くと、岩がぶつかるような音と、グォーっと、海鳴りがすごい」。
駅前にあった砂浜は、いまはもう痕跡さえも見当たらないという。
■脳裏にこびりついた景色
そんな壮絶な景色に出合ったのは十数年間。たまたま訪れた冬の北海道でのことだった。
「札幌から、ちょっと小樽でも行ってみようかと思って、電車に乗ったんです」
電車は市街地を抜け、雪に覆われた石狩平野を走っていく。