ところが、銭函(ぜにばこ)駅を過ぎたとたん、「いきなり、という感じで」、荒々しい日本海の景色が車窓から飛び込んできた。
「海の色や波がすごかった。そこに恵比寿島という大きな岩があるんですけど、その存在感にも圧倒された」
その景色が「どうしても気になった。それで撮り始めたんです」。
その後、何十回も北海道に通うようになるとは、思いもよらなかった。
訪れるのは主に冬から春にかけてで、「毎年、12月から3月まで、毎月撮りに行ってました。12月中旬くらいから雪が降るので、そのころから行くことが多い。3月は雪どけで、(ああ、春だな)と感じるときもあれば、ものすごくふぶいているときもある。年によってばらつきが大きいですね」。
迫力ある絵づくりには天気は悪いほうがいいそうだが、「帰るときに飛行機が飛ばないことがよくあるんです。何度か陸路で帰ったことがありました」。
■手からの水蒸気でカメラが結露
撮影は、昼食をとるタイミングで電車やバスで移動する以外、朝から夕方まで歩き続ける。そのため、しっかりとした防寒対策が欠かせないという。ダウンを着込み、足は「ずぼっと雪に入っても大丈夫」なように、膝まで覆うスパッツを身につける。
「ただ、いちばん最初に行ったころ、帽子をかぶっていなかったんです。そうしたら、歩いているうちに足が動かなくなった。(あれ?)と思って。いちばん近い駅まで1キロくらい足を引きずりながら行った。そこで、ほっとして、(ああ、別になんともないや)と、思ったんです。でも、後で聞いたら、『寒いときは脳を守るために血液が頭に集まる。それで、足が動かなくなる。頭はちゃんとしないとダメだよ』と言われて。それからは帽子をかぶるようになりました」
カメラは雪が付着しないように、あらかじめビニール袋をかぶせておく。レンズはズーミングする部分から雪が入り込まないように、プラスチックのカップを半分にカットしたものを重ねてテープでとめる。
カメラは相当冷たくなるので革の手袋をつけて操作する。
「問題は、手のひらから意外と水蒸気が出るんですよ。それで、カメラのビニール袋の内側が結露しちゃう。仕方がないので、手術用の白い手袋をして、その上に革の手袋をして、水蒸気が出ないようにしています」