「作っている人がそのラーメンを好きならば、いいのではないかと思っています。はっきり言って前しか見ていないので、後ろは気にしていません」(山上さん)
同じ系統のラーメンだからと言って全てを一緒くたに語るのはナンセンスだと山上さんは言う。お店によってラーメンはそれぞれ違うのだから、目の前の一杯一杯を素直に楽しんでほしい――それが職人としての思いだ。
ミシュランガイドに掲載され、世界の人がラーメンに注目するようになった。「自分が選ばれるか選ばれないかではなく、世界的なガイドブックが掲載してくれたこと自体に価値がある」と山上さんは言う。一人のラーメンフリークだった山上さんだからこそ言える、ラーメン界全体を愛する一言だ。
今後は地元の横浜でもお店をやりたいと考えている。今までは自分が作りたい一杯を追求してきたが、これからはそれぞれの街に寄り添えるラーメンを研究していきたいと意気込む。研ぎ澄まされたものが全てではなく、ありふれた食材で作ったほっとする一杯があってもいい。そんな山上さんが愛するのは、同じく13年に独立した“同期”の作る醤油ラーメンだ。
■「スープが旨すぎてもダメ」 醤油にこだわる店主の思い
13年に調布市でオープンした「中華そば しば田」。業界最高権威といわれる「TRYラーメン大賞」では2014-2015で新人大賞、2015-2016で名店部門しょうゆ1位に選ばれ、その後も毎年掲載され続けている醤油ラーメンの超人気店だ。
店主の柴田貴史さん(36)は、今でこそ東京屈指の名店店主としてラーメン作りに励んでいるが、もともとは音楽で食べていくことを夢見ていた。東京ビジュアルアーツ専門学校に通いながら、ライブハウスやクラブでPAのアルバイトをしていた。このまま音楽で生計を立てていこうと軽く考えていたが、結婚をして子育てをすることを想像したとき、甘い考えであることに気づいた。
他に自分の好きなものを冷静に考えると、「ラーメンぐらいしかなかった」のだという。地元である国領(調布市)にある「熊王」のラーメンが大好きでよく食べていた。これなら仕事にできるかもしれない――。そう思って、修行先を探した。
最初の修行先に選んだのは「麺屋武蔵」だった。店内にジャズが流れるオシャレな店作り。当時はまだ見かけることの少なかった券売機を導入するなど、最先端を進むお店だった。2時間並んで食べたその味と、店作りに衝撃を受け、「ここしかない」と感じたという。24歳の時だった。はじめは青山店、その閉店を受けて新宿本店、その後渋谷や神田のお店の立ち上げも手伝った。