河村勇輝選手(右)とマシュー・ストラゼル選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 それでも、観る側としてはもやもやする。実際、判定を巡って柔道の専門家が異議を唱えるケースもあった。微妙な判定が相次ぐのはなぜなのか。

「柔道のルールは五輪を機にしばしば変更されます。外国人選手は次々に新しい技を編み出してきますし、そのたびに『見たことのない例』が出てきます。また、技のポイントを取るかどうかは最後は主観で、国際審判員が同じ映像を見ても、『技あり』と判定する人と『ポイントなし』と判定する人が分かれるケースはよくあります。主審とは別のセンタージュリーが判定に介入する場合、私たちが見ているのとは別の角度のスローモーション映像を確認するため、視聴者には疑問に思える裁定が下る場合もあるでしょう」

スポーツの高度化も

 こうしたケースは柔道に限らず、あらゆる競技で起きている。バスケットボール男子の日本対フランス戦では、日本が4点リードで迎えた第4クォーター残り10秒で相手の3点シュートを止めにいった河村勇輝選手がファウルを取られ、フリースローを与えて同点とされた。延長で逆転されたことも相まって、「映像では相手に触れていない」「ファウルではない」との主張がSNSなどで広く拡散された。サッカーやバレーボールなどでも議論を呼ぶ判定があった。

 バスケットボール指導者でもある帝京大学の島崎直樹教授(スポーツ科学)は、上記のケースは誤審とは言えないとの見解を示したうえで、混乱が相次ぐ背景にスポーツの高度化を挙げる。

「あらゆる競技で選手の技術や戦術、スピードが年々高まってきて、世界トップレベルのプレーを人間の目が判断することが難しくなりつつあります。ビデオ判定システムなどの進歩で人間の審判の判定が覆ることも増え、審判の権威自体も揺らいできています。審判にとって難しい時代でしょう」

 五輪の結果が選手のその後を大きく左右しかねない現代、「誤審もスポーツのうち」という論調はもはや受け入れられないだろう。「審判は絶対」という意識も薄れている。ビデオ映像や最新技術を用いて判定の正確さを追求する動きは各競技で盛んになってきた。陸上や水泳では古くから着順を写真で判定するシステムなどが取り入れられていたが、近年は多くのスポーツでビデオ判定を導入する。AIなど最新技術を活用したシステムも隆盛だ。朝日新聞によると、パリ五輪では複数のカメラが選手やボールの動きを追跡し、3D化して専用画面に映し出す審判判定支援システム「ホークアイ」が10競技で採用された。また、体操競技では19年の世界選手権以降、AIによる判定支援システムが正式採用されている。演技している選手にレーザーを照射し、関節の動きを中心に測定してAIが動作を3D化する。それをデータベースと照合して瞬時に技を識別し、Eスコアと呼ばれる出来栄え点の要素も判定するという。人間の審判のチェックを経て得点となるが、「自動採点」とも形容されるシステムだ。こうした動きを受けて、「AIの方が正確で公平」「やがて人間の審判は不要になる」という声すら聞かれるようになった。それでも、島崎教授は「人間の審判にしかできない役割がある」と指摘する。

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テクノロジーがスポーツの「流れ」を変えた