永山竜樹選手(右)とフランシスコ・ガリゴス選手(写真:東川哲也(朝日新聞出版)/JMPA)
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「世紀の誤審」なのか、「審判は絶対」なのか──。五輪では必ず浮上するこの問題。最新技術を用いて判定の正確さを追求する動きがある一方、審判員の役割も残るという。AERA 2024年8月26日号より。

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 11日に閉幕したパリ五輪では、選手たちの熱戦以外に審判の判定にも大きな注目が集まった。

 最も論争を呼んだのが柔道だ。男子60キロ級準々決勝では、永山竜樹選手が絞め技をかけられ、「待て」の合図の後も約6秒間絞め続けられて失神、一本負けとなった。「待て」をかけたあとも審判がすぐに止めなかったこと、「待て」の後も絞め続けたことから「誤審では」として大きな騒動になった。ほかの試合でも指導の出し方や技の判定を巡って様々な議論が起きた。日本以外の国でも論争はあり、イタリア柔道・レスリング・空手・武道連盟は複数の試合の判定について国際柔道連盟に抗議したと報じられている。

 もちろん、すべてが「誤審」なわけではない。一般の視聴者がSNSなどで声をあげ、それが拡散されているだけ、という実態もあるだろう。順天堂大学柔道部監督で国際審判員でもある竹澤稔裕さんは今回の五輪の判定について、こう説明する。

「全ての試合を細かく精査した訳ではありませんが、『指導』についてはルール通りジャッジされているように感じます。ただ、そのルール自体が複雑でわかりにくいので、見ている人にはいろいろと疑問がわくと思います」

「誤審」言い切れない

 また、永山選手のケースも「誤審」とは言い切れないという。竹澤さんは続ける。

「相手選手の『待てが聞こえなかった』という話は、検証はできないもののあり得ることでしょう。審判も『待て』をかけたあと何もしていなかったわけではなく、少し近づいて再度『待て』と言い、それで相手選手が気づいたように見える。また、永山選手は『待てが聞こえて力を緩めた』とコメントしていますが、『いつ落ちたかはわからない。落ちた以上は一本』という国際柔道連盟の見解は一応筋が通っています。ただ、問題がなかったわけではありません。永山選手がかけられた袖車絞めという技は強力で、うまく入るとたいていはかけられた選手が『まいった』するか、失神します。映像ではかなり効いているように見えるので、本来ならば技の特性を考え、『待て』をかけずにもう少し様子を見るべきだったでしょう」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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