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せやま:そういったエピソードは映像として覚えているんですか?
潮井:はい。例えば、家出の荷造りに使ったリボンの素材や色、どこのケーキ屋さんのケーキについていたリボンかまで覚えています。それを思い出しながら、順を追ってスマホにパパパパパッてメモしていって、エッセイにしていく感じです。
記憶に残っているということは、強烈に心が動いたとか、ものすごく考えたということなので、鮮明に覚えているんですが、その反面、どこか他人事(ひとごと)というか、昔の私は昔の私として独立した人格を持っているような、客観的な目でも見てしまうんです。
せやま:そうですよね。お姉ちゃんが登場するところとか、4歳の潮井さんの視点だけではない描き方になっていて、物語を読んでいる感じもあるなと思いました。
潮井:姉が、「また怒られるのにばかなことやってるなー」みたいな感じでつきまとってきて、私が玄関で靴をはいて「もう帰ってこないっ」とか言っているのをニヤニヤしながら見ているのを、すごく覚えているんです。その時の映像を見ながら、今の私が書いている感じです。
せやま:作品を読んで、自由奔放でかつ繊細みたいな、不思議な印象を受けたのですが、作者である潮井さんが俯瞰の視点を持っていることが、作品を多面的にしているのかもしれないですね。
書くことで、記憶がないくらい忙しかった自分を癒やしたかった
──潮井さんは、せやまさんの作品を読まれてどう思いましたか?
潮井:これは私のよくないところなんですけど、「小説は頭のいい人が読むものだ」という先入観のもと、ほとんど読んでこなかったんです。『クリキャベ』は、そんな私が最初から最後まで一気読みしたという、自分でもびっくりした本です。
『クリキャベ』に出てくる登場人物は、みんないい人で、優しいのだけど、なんかうまくいかないという不器用さを持っていて。せやまさんが、その人たち一人ひとりにスポットライトを当てて、自然に答えに導いていくような優しさを感じました。
たぶんせやまさんは、常日頃からいろんな人にあたたかいまなざしを向けられていらっしゃるのだと思うんです。そのまなざしが登場人物にも注がれているような気がして、みんなに感情移入しながら読みました。
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