――社会的な発言によって仕事が減るという怖さもあるでしょうね。私もそうですが。
それもわかりますが、忸怩たる思いを抱えながら「はい、今日の特集は……」と喋るって苦しくないんでしょうか。本のなかでも書いた通り、僕は正義よりも生理を優先して生きていたいと思っているんです。先ほど言った「見て見ぬふりするのは気分が悪い」ということですね。
もう一つは「正しさ」よりも「公平さ」を重視したい。その物事が正しいかどうかを判断するのは難しいじゃないですか。時代や場所によって正義の在り方は変わってくるし、明確な線は引きづらいですから。そう考えると「正しいかどうか」よりも「公平かどうか」のほうが、まだ判断しやすい気がするんです。組織のローカルルールや閉鎖的コミュニティーにおける正義ではなく、フェアかアンフェアかを重視するということですね。
――それはエンタメを受け取るファンの方にとっても、大切な考え方だと思います。旧ジャニーズに関しても、好きなタレントを応援することと、事務所に対する批判は両立するはずなので。“事務所への批判=タレントへの批判”と捉えてしまう方も多いようですが……。
それも不思議ですよね。こんなことを言うと身も蓋もないですが、国語教育の問題もあるかもしれない。説明的な文章を読む力もそうだし、技巧的な文章を楽しむ能力も落ちているといいますか。「そんな難しいこと、堅苦しいことを言うなよ」と知性や教養を嫌悪する態度も広まっている気がします。
アイロニカルな表現なども伝わりづらくなっていると感じるし、同時に、言葉が足りなかったり、誤った認識のもとで発言をしたときに、それがその人の一生の過ちであるかのように責められることもある。そういうことも含めて今の日本はメロウじゃない、成熟していないなあと感じています。
(取材・文/森 朋之)
まつお・きよし/1968年、福岡市生れ。早稲田大学卒業。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。音楽ライターを経て、楽曲制作も手がけるように。SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデュースや作詞、作曲で関わったアーティストに、CHEMISTRY、平井堅、JUJUなど。これまで提供した楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。プロデュース、作詞、共作曲したEXILE「Ti Amo」が日本レコード大賞、天童よしみの「帰郷」で日本作詩大賞。NHK-FM「松尾潔のメロウな夜」は今春で放送15年目を迎える。