松尾潔さんの新著「おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来」(講談社)には2022年から2023年にかけて起きた様々な社会的な問題が活写されている(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

ラブソングを作る仕事を続けたいだけ

――「ジャニーズ問題とパレスチナ危機を同じ口で語ろう。政治の話をしたばかりのその声で、あまやかなラブソング歌おう」という一文ですね。しかし実際には、音楽系のメディアでジャニーズ問題が取り上げることはほとんどなく、アーティストやタレントが発信することもきわめて少ない。松尾さんの発言に対しても多くの誹謗が寄せられてしまいました。

 僕の多くの仕事のなかで、ジャニーズ関連は数えるほどしかないんですよ。にもかかわらず、「ジャニーズで食ってきたくせに」「恩知らず」と数えきれないほど言われましたから。

 これも繰り返し言ってきたことですが、旧ジャニーズ事務所に対しては「組織的に隠蔽してきたことを明らかにして、膿を出すべきだ」と思いますが、所属しているタレントの方々を誹謗する意図はまったくないんです。むしろ彼らのことを思えばこそ、「こんな組織にいたら、才能を正当に評価されないのでは?」というつもりで発言しているんですが、なぜか「松尾は恩知らずだ」ということになる。

 これは何も難しい話ではなくて、たとえば親しい友達が良くないことをしていると思ったら、一度はただしますよね? 「見て見ぬふりをするのがフレンドシップだ」と小杉周水社長(スマイルカンパニー代表取締役)には言われましたけど、僕はどう考えても賛同しかねるんですよ。

――個人の考えではなく、組織の論理だったり、それまでの人間関係が優先されるところがあるんでしょうね。

 山下達郎さんもご自身のラジオで「人生で一番大切なことはご縁とご恩」と言い切りましたからね。僕は何も人のためだけにやってるわけではなく、(社会的な問題に対する発言は)自分のセルフケアでもあるんです。自分の心を偽り、見て見ぬふりは気分が悪い。

(スマイルカンパニーからマネージメント契約を解除されてからの)この半年間、「なにがしたいの?」「政治家になりたいの?」と真顔で問われたこともありましたが、そのたびに「いやいや、ラブソングを作る仕事を続けたいだけなんですよ」と言ってるんです。別にはぐらからしているわけではなくて、偽らざる本心なんですけどね。

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