松尾潔さん(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 この本に収めた文章は既に発表しているものが多いんですが、一部分を切り取られて、ネットで拡散されたことが何度もあって。本来の意図と違う捉え方をされることもありましたが、そのことを受け入れつつ、「これがフルバージョンです。ぜひ読んでみてください」という感じですね。音楽風の言い方になりますけど、たとえばTikTokでサビだけ聴いても、曲の全体像はわからない。それは文章も同じだと思うんです。せめて僕のツイート(X)をいくつか遡るくらいはやってほしいんですが(笑)。

なぜ、ジャニーズ問題について発言をするのか

――松尾さんがジャニーズ問題に対して発言を行うようになったきっかけは、2023年3月に英BBCで放送された『Predator:The Secret Scandal of J‐Pop(プレデター~Jポップの秘密のスキャンダル)』だという。いろいろな意見があるなか、今も発信を続けている理由は?

 一つは危機感ですね。若い世代や子供たちに「声を上げても無意味だ」という失望を与えたくないという気持ちが大変強くなりました。あとはジャニーズにかかわらず、同根の問題がいくつも起きていることも気になっています。

 今年に入ってからジャニーズに関する報道が減ってしまったのは、松本人志さんの問題も一因だと思いますが、そこには共通点がある。宝塚や歌舞伎もそうですが、その世界でもっとも力のある組織であり、老舗ですよね。そんな場所にはローカルルールがあって、どんなに世の中の常識とかけ離れていても、それが強く機能してしまうわけです。そういう閉鎖的なコミュニティーにおいては、しばしば権力者による犯罪も起こり得る。それぞれ別の問題として考えなくちゃいけないという大前提はありますが、共通している構造があるのだとすれば、これは広く社会の問題だと捉えるのが自然ではないでしょうか。

――誰しも無関係ではないはずだ、と。

 そうです。ロシアのウクライナ侵攻、ガザとイスラエルの戦争については熱く語るジャーナリストの方々が、「芸能界のことはわからないね」と仰る場面にも何度か直面したことがあって。面と向かって「ジャニーズのことは騒ぎすぎだよ。もっと大切な問題があるんだ」と言われたこともありますが、去年の秋に自ら命を絶った旧ジャニーズの男性と、ガザ地区の戦火で失われた命、その命の重みに差をつけてはいけないと思うんです。それはこの本のなかでも書いている「同じ口で語りましょうよ」ということにもつながっていますね。

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「恩知らず」と言われた