BBCの放送の後、「性被害が事実だったら許されないことだけど、まだわからない」と言った方は多かったですよね。昨年7月にTOKYO FMのご自身の番組(「山下達郎のサンデー・ソングブック」)で僕を名指しで非難された山下達郎さんをはじめ、多くの方々から「松尾は臆測でモノを言っているに過ぎない」と批判されました。ですが、その後ジャニーズ事務所のトップであり、ジャニー喜多川氏の姪でもあるジュリー藤島さんが、9月の記者会見で事実認定したわけですから、「もし事実だったら許されない」と言った方々は改めてコメントを出す責任があるでしょう。それをせず、何事もなかったかのように振る舞っているアーティストは狡猾だと感じます。誤解を恐れずに言うと、日本社会におけるポップミュージックの文化的地位の低さの理由を自ら物語っているようで、哀れきわまりない。
――確かにそうですね。これもよく言われることですが、テイラー・スウィフト、ビヨンセ、レディー・ガガ、アリアナ・グランデ、ジャスティン・ビーバーなど海外のビッグアーティストは社会的、政治的な発言を積極的に行っていますし、むしろ何も言わないことで叩かれることもある。なぜ日本の音楽シーンはそういう方向に行かないのか……。
「意見を言わないことは現状の是認になる」ということすら共有されていません。巷間言われるように作品がガラパゴスという以前に、社会的態度がガラパゴスなんでしょうね。
去年、ケイト・ブランシェット主演の映画「TAR/ター」(著名な女性指揮者のパワハラ、セクハラを扱った映画)が話題になりましたが、多くのメディアで「日本の音楽業界の問題を思い出さすにいられない」と評される一方、当のクラシック業界、音楽業界から大きな声が上がることはなかった。ラジオやテレビで、歯に衣着せぬ、タブーなき言論を売りにしているはずの方々も、ジャニーズ問題に対して発言することはほとんどない。僕なんかは「そんな仕事、もうやめたら?」と思っちゃいますね。