牡丹江(ぼたんこう)、ハイラルといった地方都市になると、満州時代の建物の情報は非常に少なかった。
「なので、あるのかなあ、みたいな感じで探し歩きました。そういうことを繰り返していくうちに一種の宝探しみたいな感じになった。撮影のモチベーションが途切れなかったのはそういうワクワク感があったからですね。それで最終的に、あれだけの数を撮ることができた。まあコレクションみたいな感じです」
その一つに満州時代につくられたマンホールがある。
「街を歩いていてたまたま見つけたんですけれど、マンホールに『新京』っていう文字を見たときは結構、震えましたね。結局、それ一つしか見つけられなかったんですけれど」
■中国人は興味がない
街なかで三脚を建てて撮影していると、興味津々の中国人が話しかけてきた。
「片言の中国語でね、自分は日本人で、これは昔、日本がつくった建物なんですよ、みたいなことを伝えるんですけれど、それに対して、怒ったりするかというと、全然そんなことはなくて。ふーん、っていう感じだった。昔の話には興味がないみたいでした。中国の人はバス停で迷っていたら教えてくれたり、大陸的なおおらかさにずいぶん助けられました」
撮影以上に難しかったのは、調べた建物と、現地で撮影した建物が同じものであるかを確認する同定作業だった。
「これは大変面倒くさい作業でした。撮影よりもむしろそちらのほうに時間をとられたくらいです。特にやっかいなのは、建物って、所有者と使用者が同じとはかぎらないんですよ。当時の地図に何とか株式会社と書いてあったとしても、それが建物の所有者なのか、そこに入居していた会社なのか、ということまではわからない」
■わからないこともたくさん
さらに「古そうな建物なんだけど、それが果たしてオリジナルなのか」という問題も出てきた。
「戦後80年近くたって、建物がリノベーションされている。すると、果たして何パーセントがオリジナルなのか、ということになる。できるかぎり調べたんですけれど、正直わからないこともたくさんありました」
そんなわけで、写真集のあとがきには、こう記されている。
<由来が確かではないような建築も実は本書に収録してあります。この写真集を見た人が、「それは間違っていますよ。この冊子にはこういう記述がありますよ」と教えてくださるのを実は期待しているのです>(あとがきから)
「そうしていかないと、正直、とてもぼく一人の手に負えるものではないし。そういった情報が集まれば、将来、写真集の解説を改定してもいいかなと思っている。まあ、いろいろ難しいけれど、それが面白い部分でもあると、本をつくりながら感じましたね」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】船尾修写真展「満洲国の近代建築遺産」
ニコンプラザ東京 THE GALLERY 4月25日~5月8日
ニコンプラザ大阪 THE GALLERY 5月18日~5月31日